その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第56話 二つの組織

――デスデバッカー施設内




「もう少し警備は手薄で良かったんじゃないか?通信妨害するのも分からん」
「……まぁ余興と言う事で、それらしく見えるじゃないですか。それに霧崎と言う男の改造度も試して見たかったですし、フォースハッカーの柴本さんも自信作と豪語していましたからね」


「ふん、成功率1%のBPP等最早まぐれとしか言えんな。此方のアンドロイドキルラーの方が余程優秀だろう」
「ですがそのアンドロイドキルラーも平然と倒して行きましたよ、彼。最後のVer.3は僕の自信作だったんです」




デスデバッカー開発部門のトップであり、かのアンドロイドキルラー開発の第一人者である結城は、数ある電子中空モニターの一つを眺めながらそう言い薄ら笑いを浮かべていた。


そしてもう一人、体格の良い五十代も半ばを過ぎた男はそんな結城の言葉に何処か不満げな表情を向けながら不機嫌にも話題を戻す。



「まぁいい、で結局の所粒子分解移転装置は使えたんだろうな?」
「そんなに焦らないで下さいよ芹川統括、此方も銀河系全てからあのPS衛星搬送波を区別しなきゃいけないんですよ。全員で作業に当たってはいますがまだ第一銀河系すら処理が終わっていないんです、それから銀河系外惑星まで一つ一つ処理して……宇宙速で届くのでPS衛星のデータが此方に届くのはまだ少し先かもしれませんね……そもそもフォースハッカーは何故PS衛星の搬送波にSSを起用したのか、私だったらGTSSを採用しますがね。その辺りも後で聞くことにしましょうか」


「……何を言っているかさっぱりだ。結局使えるかどうかまだ結果は出ないと言う事か?」


「はぁ……つまり芹川統括の様な人間ばかりだから業務が捗らないと言っているんですよ。全く……兵器の開発、人間の兵器化は良いですがどうせならまともな脳をもったプログラマー兵器を先に量産するべきでしたね」



このデスデバッカーを統率する芹川は、そんな結城の言葉を流石に嫌味だと理解し奥歯を噛んだ。だがいくら自分がトップとは言え、実際に実務とも言えるこのデスデバッカーの脳は結城である。
芹川はそんな結城をこれ以上不機嫌にさせる訳にはいかないとそれ以上何かを言うのを諦め、腹立たしい気持ちをカプセルマシンで癒そうとその場を後にしようとした。




「芹川統括」
「……何だ、嫌味ならもういらんぞ。結果が分かったら教えてくれ」



芹川は改めて声を掛けてくる結城にそう返す。


「一台では厳しくなると思うので粒子分解移転装置、増やしておいて下さいね」
「っ……そうか。お前が言うならそうしよう、頼んだぞ」



結城の言葉の意味、それはつまり粒子分解移転装置はほぼ完成していると結城自身が確信している何よりの証であった。
だがそれをはっきりと言わないのは科学者としての再現性、データ収集が確実でないから。そんな状況の中でも優秀な科学者である結城がそう言うならば間違いなく粒子分解移転装置は完成しているのだろうと芹川は口元を弛ませずにはいられなくなった。


















粒子分解移転、それは日本が世界から閉鎖隔離される前より研究開発されていた技術である。


デスデバッカー、フォースハッカーがまだ共に日本、延いては地球から他の星々までを自らの手中に収めようと画策していた頃まで話は遡る。それは研究者の意見不一致によって組織を二等分する事態にまで発展させた物であった。




粒子分解、宇宙速粒子移動、粒子再構築、これにより人類は銀河内外間を自由に往来出来る事になるはずの技術。
それは今までデータとしてしか手に入れる事の出来なかった情報ではなく、未開拓惑星への容易な乗り込みが可能になると言う事だ。


過去に人類は乗り物等により惑星間を移動しようと言う馬鹿げた事をやって来た。
そんな事態を呼んだのは地球上での移動方法の概念を取り払えなかったのも理由の一つだろうが、それではあまりにも時間がかかりすぎると近代の科学者達は考えた。
惑星組成分析に関しては過去にも十分に発達していたが、実際そこへ赴くとなると話はとても厄介になると言う矛盾にも近い事態。


だが宇宙速で粒子の移動が可能な今、そして規定のプログラムによって行われた粒子分解であればその分解した順序の逆算によって再構築が出来る今ならば、他惑星への移動も不可能ではないと…………最早この日本に集結する科学者達の目は世界などではなく、銀河へと目標を向けるに至っていた。



ではそんな科学者達が何故粒子分解移転装置を巡って二等分したのか、つまる所デスデバッカーとフォースハッカーと言う二つの組織に分かれたのは何故か。
それはほんの些細な理由、だが彼等にとっては完全に意見相違の大いなる不一致である事に違いない。



そう、分解した素粒子の強制宇宙速移動による時間情報の矛盾における定義についてどう説明するかと言うそんな話の食い違いだ。


全ての星の一刻一情報を宇宙速で記憶し、膨張し続ける宇宙と言う名のストレージメディア。
それと同速で物質、又は情報を動かす事に於いて宇宙のプロセスをどう説明するのかと言う事である。
真空場に置いて宇宙速での物質移動は実際に実現している。
つまりは出てしまった結果に対してどういったこじつけを生み出すか、それが科学者達には必須であり争いの焦点になった。


二分した科学者、今で言う組織デスデバッカーの人間はその結果の理由付けを無視して粒子分解移転装置の開発を推し進めようとした。
対して組織フォースハッカーはその理由付けによっては更なる発見があると宇宙膨張の解析に注力したがったのである。



やがてその二つの組織は別々の研究を推し進める事になり、デスデバッカーは粒子分解移転装置を使い他の星々を支配する為の兵器を平行して開発して行った。
所謂アンドロイドキルラーである。


だが地球に存在しうる最大限の資源と錬金によって作られたその兵器は、しかしその製作者をも上回り危険な物となってしまった。
水面下で援助を行っていた国はその事態に自らの囲う別の研究によってそれを排除しようと試みたが、それは叶わず瞬く間に日本はその兵器の支配下に置かれる事になる。
不名誉にも悪の組織と世界に認識される様になったデスデバッカーは、元同胞であり人体研究に長けるフォースハッカーに助けを求めた。


宇宙膨張速に過去の相対性理論、ワームホール理論を打ち付けたものの確固たる時空転移への研究に頓挫していたフォースハッカーは、デスデバッカーの開発した空間移転装置を共通研究すると言う条件で失敗作のアンドロイドキルラーの駆逐に力を貸したと言う状態である。

そう、それが現在アンドロイドキルラーの能力をも上回る程の兵器、フォースハッカー戦闘要員とも言われる新たなる生物兵器、通称人口人格式生物兵器バイオキルヒューマンを生み出す切っ掛けとなったのだ。















「…………真のデバイス搬送派が補足出来ない、成功……したの?」


月華本 陽花はあっさりと看破できた通信妨害に多少の違和感を抱きながらも、既に通信対象のいない事態に真の時間転移が成功したのかと誰となくそう呟いていた。


「ふふふん……異世界、異世界……僕も早く行きたいのぉ……のぉぉっっ!!」
「なっ、何よもう……山本君、いい加減その発狂止めてくれる?」


「え、あ、あぁ……ご、ごめんなさい月華本陽花さん」
「はぁ……」


山本猛。この時空転移プログラムを開発し、デスデバッカーの開発した粒子分解移転装置を用いて時空転移を目論んだ当人。
少し頭のネジが飛んでいる所はあるものの、どんな物事も全て数式化し完成した理論を展開させる物理学者でもある。


趣味で何やら怪しげなプログラムを今は亡きフォースハッカーの一人、生物学者であり医師の資格も持っていた多喜川と共同開発していたがそれがどうなったかは月華本の知る所ではない。


だが月華本はここで一つの疑念が浮かんでいた。



「……ねぇ山本君、まだ私には今までの記憶が残っているし真の事も覚えているのだけれど……これってどういう事?タイムパラドックス現象は既に起こっているの?」
「異世界、異世界っ……僕も行きたい、いっ世界ィっと……え、タイムパラドックス現象?∇α重力定数iのα乗の発散ではそうだね、有り得るね。でも宇宙量子論は他にも概説は多いんだ拡散展開式なら他の平行世界では既に真君が世界を救ってるかもよぉ、ふふふん」



山本が何を言っているのか、月華本には辛うじてしか解らなかった。
だだ、ならば真が転移したのはこの世界でなく他の世界の平行時間軸、助かるのは自分達ではなく別の自分達なのか。この男はそれが分かっていながら今回のプログラムを組んだのか、あまりにも他人事な発言に月華本は山本へ対する嫌悪感を増していた。


だがこの男がやたら異世界と呟いていたのはそう言った事を踏まえて言っていたと考えればその発言に早く気付けなかった自分の落ち度も否めない。



「まるで他人事ね、異世界異世界って……そもそも時空転移なんだから異世界じゃないでしょ?あぁ、平行世界なら異世界とも言えるか」


仮にも科学者ならばそう言った発言の違いには拘りを持つべきであると月華本は考えたが、平行世界の時間軸を逆戻ったのならそれもまた異世界と言える。
だが山本が日々願っていたのは何やら地球の科学とやらの概念も越えた物が存在しうる世界だった筈である、それは時間を逆行する理論よりも移転理論の方が近い。
デスデバッカーの開発した粒子分解移転装置をそのまま使えば、そんな世界が銀河にあったとして行く事は可能なのだから。



「山本君はどちらかと言えばあっちの組織寄りよね、どうして時空転移なんて考えたのよ。デスデバッカーに潰される前にそれくらい聞きたいわ」


救われないこの世界、デスデバッカーが日本を完全に支配し世界をもその手に入れるのは時間の問題だ。
月華本は既に全てを諦めていた。
自分もただ消えていった他のメンバーの様になるのだろうと。



「いっ世界……?ん、え?月華本陽花さん、デスデバッカーに潰されるって言うのはどういう方程式から算出されたの?潰される?ん?ん……」
「は?何言ってるのよ……日本がこうなったのは誰のせいだと思ってるの。私達はそれをどうにかする為に集められたんでしょ?真みたいな戦闘要員だってどれだけ犠牲になったか……」



フォースハッカーのメンバーは皆個々に秀でた知識を持ち研究に携わってはいるが、互いにあまり深入りする関係性にはない上自分の興味のある事以外にはまるで無頓着な人間も多い。



「んー、んー、あぁ……あ、そうだった、そうだった、僕は尊から聞いているから、そうか、なるほど。月華本陽花さん、芹川務率いるデスデバッカー?と僕達の所属するここフォースハッカーと言う組織は別物なんかじゃない。少し派閥が違うだけの同じ組織でしかないんだ、だから潰すとか潰されるとか?そんな話にはならないと思うんだけどな」
「…………なっ、な!?ちょ、っと……それって、どういう……事よ」


「え?どういう……って……だからそのままの意味だよ?1×1=1って事、これ以上噛み砕き様が無いんだけどなぁ……」




月華本は自分の記憶の中に存在する知識を総動員しても尚、今の山本の言葉を脳内処理する事が出来ないでいたのだった。

          

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