その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第54話 ルナの姉御肌



無事に敷地内に入り、何やら懐かし話と十年の経緯話に花を咲かせるフレイとサンジに連れられ真とルナは屋敷を案内された。


庭園も一見では見切れないほど広かったが中の方も負けじと広く、カーペットが敷かれた階段を上がればまた幾つもの部屋が分かれそれを三回程繰り返された。
一体この屋敷にはどれだけの部屋があるのか、その割りには静かですれ違った人間と言えばメイドの様な人間二人程度であった。
そんな不思議な空気感が漂っている屋敷で、フレイとサンジは特に何も感じていないのか相変わらず会話に花を咲かせている。



「しかしサンジが警備長とはな……昇進したじゃないか?」
「どうでしょうか……私としては降格にしか思えませんな。お嬢に剣術を叩き込んでいた時の方がよっぽど生き甲斐があった……今ではそれをする必要も殆ど無く、若造の纏め役を押し付けられた様な物ですわ」


「ははは、そうか?中々様になっていたぞ。だが人を纏めるとは難しい事だな……私も旅の中でそれを嫌と言う程感じさせられたよ、やはり私は器じゃない」
「何を仰います、このサンジお嬢こそがその器と昔から確信して……ブランタ殿が今のお嬢を見られれば考えもまた変わるかも……」



ふとそんなサンジの話題にフレイの表情が一瞬険しく変わった様に見えた。


真は緊張して歩き方がおかしくなっているルナを横目に、サンジとフレイの会話に耳を傾ける。



「父がどうかしたのか……?そう言えば幾分屋敷が静かだが」


「えぇ、気付かれましたか。お嬢がここを出てからブランタ殿も殆ど出ずっぱりでしてね、十人以上いたメイドも今では半分。その分若い警備兵の類いを何故か雇い入れて連れ回している様です。まぁここ数日は催しの件で出ている様ですので夜には戻られるかと思いますが」
「警備兵をか……一体何をしているんだ父は」


「それよりお嬢っ!今回急にお戻りになったと言う事はまさか……とは思いますまいな、あれは……あの薬師はレスマリア殿の息が掛かっていた様です。あの後、私が薬師を吐かせましてな……お嬢をここから出す為レスマリア殿から頼まれたと言って退けました」



真は二人の会話を必死で理解しようと努めては見たものの、細かい事情までは分からなかった。
ただフレイがこの家の中でレスマリアと言う人物にとって邪魔であったのは明白だ。

つまりは薬師に適当な事を言わせて、弟の為にフレイを旅へ赴かせる事が目的だったと言う事だ。
だが実際にバジリスクの眼球は手に入り、ソーサリーと言う薬師の話ではそれで弟の病気は治る筈との事であるから、そのレスマリアが雇った薬師の話もあながち嘘ではないと言う事になる。



「そうか……母君がな。まあ分かってはいたさ、それに実際私もレスタがここを継ぐべきだと思っている。それになサンジ……薬師の話はどうやら本当だ」



フレイはそう言って口元を綻ばせると、手に持っていた麻袋をサンジの顔に掲げて見せた。


「お嬢……まさか……それは」
「ふ、あぁ。ついに手に入れたんだ……バジリスクの眼球をな」

















その後何かと慌ただしくなったのは言うまでもない。
本来の用件、バジリスクの眼球を見せながら用途を伝えた途端、警備長のサンジは大袈裟に驚いていた。



バジリスクの眼球はソーサリーによって瓶詰めされている。
瓶の中には眼球とその溶媒が入っており、溶媒にはカフェインの実を粉にし水で溶いた物の様でそこにバジリスクの眼球から出る特殊な体液が溶け込んでいる。
使用方法はそのバジリスクの眼球から出た体液が濃縮された液体を湯に溶かし入れ希釈、その湯に患部を浸けて良く動かすとの使用方法だ。



サンジは湯の用意をさせると言う事で、フレイへ先に弟の部屋へと行ってくれと言い残し大慌てで走り去っていったのだった。




真達は言われた通り先に弟の元へ行くことにし、フレイ先導の中屋敷三階の南側、廊下の最も奥まった場所にある扉の前にいた。フレイはそこで立ち止まり深呼吸をする。


「…………ふぅ」


十年振りの再開にフレイは何処か緊張している様子であったが、真はそれにわざわざ声を掛けるつもりもなかった。
ルナもフレイの緊張が移ったのかやはりそわそわしているのが安易に見て取れた。



「よしっ……レスタ、姉さんだ、入るぞ!」



フレイは意を決したのか重厚な木扉をノックし、そう声を発しながら扉を開けた。





「……レスタっ」


「…………へ…………姉、さん」



十㎡程の部屋にはカーテン付きのベッドにアンティークな棚とあまり飾り気は感じない。
窓際には仕組みは簡素ながらも銀色で清潔感の漂う車椅子に座った青髪の青年が此方を向いて静止していた。



「レスタ!見ない間に大人になったな」
「姉さん……フレイ姉さんなのっ!?本当に……」


駆け寄るフレイに動揺しながらもその細い腕を必死に動かし車椅子を前へと進める青年。
それは十年振りに再会を果たす姉弟のそれだった。


真とルナはそんな二人をただ後ろから眺め、真はそんな光景に家族と言うものを少し思い出させられていた。



「姉さん、姉さん!僕の為にずっと……もう、会えないと……」
「はは、泣くなレスタ!もう子供じゃないんだぞ、しかしもう立派に男だな」


「姉さん、だって…………」



レスタと言う青年、病気のせいかそれとも長く動いていないせいもあるのだろう、顔立ちこそ整ってはいるものの装飾された翡翠色の服から伸びる腕はその身体が脆弱であることを如実に語っていた。


フレイはそれでもそんな弟を立派な男だと言い、弟も今や立派な女性としての魅力を十二分に発揮する姉を見て表情を緩めていた。
正にそれは兄弟愛、二人は抱き合いながら暫し空白の時間を埋めるかのように語り合っていたのだった。





「所で姉さん、そちらの御二人は?」
「あぁ、紹介がまだだったな。こっちの無愛想な方がシン、私の命の恩人でもあり仲間だ。青髪の子はルナ、魔導士で獣使いテイマー。そう言えばルナは確か17だったな?」


「え、へっ!?あ、そ、そうです」
「レスタ、お前と同い年だ。ルナ、仲良くしてやってくれ。こいつは友達が少なくてな」


「姉さん……ごめんなさい、紹介が遅れた上お見苦しい所を見せてしまって。僕は弟のレスタ=フォーレスです。見てお分かりの通り……昔から体がこの通りで友人もいません。良かったら旅の話でも聞かせて貰えれば嬉しいです」


フレイに突然そんな紹介を受けたレスタだったが、落ち着いた様子でそう自己紹介をするその所作には何処か品の様な物を感じさせた。


「……あぁ、短い時間かもしれないが俺で良ければフレイの武勇伝を話すよ。宜しくな」
「おい、シン!」


「はは、それは楽しみです。宜しくお願いします」


真はフレイの突っ込み等気にせずそう茶化しながらレスタと軽い握手を交わす。


「わ、私はルナです、ルナ=ランフォート」


「……ルナさん、宜しく。僕と同い年で魔導士で獣使いなんて凄いね、是非話が聞きたいな」
「え、あ、う、うん……ま、まぁ、私の話で良ければ?」



ルナは何故か同い年と聞いたレスタに対し自分の弟分でも出来たかの様な口振りで、腰に手を当てながら無い胸を突き出していた。


「お前は何でそんな偉そうなんだ?」
「へあっ!?え、あ、いえ……す、すみません」


真はとりあえず今までに見た事の無いルナのそんな態度に突っ込みを入れる。


「あっ、シンさん!気にしないで下さい……その、僕も同い年の友達とか……今まで皆坊っちゃんとか、親しく話してくれる人もいなかったし。だからそのままで」
「まぁそれもそうだ。レスタは箱入りだからな、人生経験も浅い。一人でシンを追って来たルナの方がよっぽど大人だ、ルナ、色々聞かせてやってくれ」


「は、はい!お任せ下さい、えと……じゃあまずは私が魔力を扱えた時の話からね――」




またもやいつものルナマシンガントーク暴走が始まった様だったが、そんなルナの話を楽しそうに聞き入るレスタを見て微笑ましそうにするにフレイには安堵の表情があった。


「ありがとう、ルナさん」
「あっ、え、えっ!こ、こほんっ!気にしないで宜しい、それより今日来たのはスッゴいものを持ってきたんだから!」


「凄い………物?」


ルナの言葉に真は此処へ来た目的を再び思い出し、フレイへ目配せする。
まるで自分が例の薬を取ってきたかの様な口振りのルナであるが、真は折角先輩風を吹かせている所に敢えて水を差す様な事は言わないと決めていた。



「フレイ、本題に入るか?」
「あぁ……そうだな」



フレイは腰に提げた麻袋を外し中の瓶をレスタへと見せると、十年ぶりに此処へ訪れた理由を話したのだった。
そう、これだけの時を経て、今更でありながら、フレイにとって今や敷居の高いこの家に戻ってきた理由は唯一つなのだ。

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