その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第50話 魔性の男




明くる朝、真達三人は王都の宿「熊の巣」の店主に一旦ここを出ると伝え城下町で必要な物資の調達へと向かう事にした。


先ずはザイールへ向かうに当たって一番重要となる荷馬車の借り入れ。
馬舎の敷地内にとりあえずは停めさせて貰い、買い込んだ物資を積んでから王都を出ると言った算段になる。



物資は馬舎のあるここノルト地区で全て揃える予定だ。
この地区は他の場所に比べて幾分道幅も広く、中には荷馬車をそのまま転がしながら悠然と歩く商人らしき人間の姿もちらほら見られた。
一瞬リトアニア商会の人間ならば自分の顔は割れているのだろうかと言う不安が頭を過ったが、特に反応される様子もなく真達は順調に必要物資の調達を終えていった。


最後に安い天幕もあれば買ってみようと言う話になった三人は二往復目の商店街巡りに繰り出す。



「魔力機屋か……久しく行ってないな」



ふとフレイがある石造りの店舗の一角に目を向け、一人そうぼやく。
真もその言葉に少しの興味を惹かれ、フレイに行ってみるかと声を掛けた。



特に今更急ぐ旅でもない、そんな気持ちの余裕から三人は観光と言う名目でその魔力機屋を覗くことにしたのだった。




店内は何処か薄暗く、昼間の外の明るさとのギャップに目の光量調節を少しばかり要した。
十段程の階段下には所狭しと何処かで見たような剣に甲冑と言った物が無造作に陳列されている。


ルナは目が慣れたのか、少しの間を置いてそんな光景に嘆声を漏らしていた。



「ここにあるのが魔力機ってやつなのか、ただの武器屋みたいのとは……違うんだろうな?」


真は剣や甲冑以外にも見たことの無い道具達が棚上等に置かれているのを見て、そんな言葉をフレイに投げ掛ける。



「……まぁ、武器屋と言えばそうかもしれないがな。武器屋は基本的に鍛冶場がある場所を言う、素材などを持ち込んで武器を生成、鍛錬してもらう店だ。まぁ既存の武器を売っている場所もあるがな、基本的に装備品を揃える時には皆こうして先ずは魔力機屋に行くのが定石だ」
「なるほどな」


「……見たことの無いのが一杯です」



フレイのそんな説明を受けながら三人は階段を降り、陳列された武器や道具などを散り散りに触れながら値踏みしていた。



「……買い換えかい?」



そんな中、一人の老女が奥のカウンターから顔を出す。
誰かいるだろう事は分かっていたが、流石に突然カウンターからにょっと顔を出すそんな老人に驚きを隠せない。
ルナに至っては驚きのあまりに声を上げて尻を着いた位だ。



「あ、ああ。ちょっと掘り出し物がないかと思ってな、中を見させて貰っている」



店主であろう老女の対応をフレイに委ね、真は物珍しそうにその辺りの物を手に取りながら物色していく。


ギルドの試験部屋で見た様な剣に槍など、フレイや例の男が身に付けていた銀やら灰色やらのプレートは皆どれも重く実用性に欠ける物ばかりである。
段々と興味を失って来た真は手に取った剣を乱雑にその辺に軽く捨て置くと、店主の老女が曲がった腰からは想像もつかない早さでこちらに歩みより声を荒げた。



「小童っ!お前魔力機を雑に扱うでない!それがいくらするか分かっておるのかっ。全く……最近の冒険者は質が落ちて困る」
「え、あ、すっ、すまない。こいつはまだ成り立ててで……シン、売り物は大切に扱ってくれ」


「あ、あぁ……そうだな、すまない」



フレイと老女の剣幕に真は謝罪を入れる。
並んでいる物がついガラクタに見えてしまい、売り物だと言う事を忘れていた。


老女は全く全くプラチナムカつく等と訳のわからない事を一人ぶつぶつと呟きながらカウンターに戻ろうとした所で、ふとルナが手に持つ杖を食い入る様に見詰めていた。



「……え、へっ?な、なんですか……これは私のですよ!盗んでませんからねっ!」
「これは……ふぅむ……何処で手に入れなすった」



老女は真剣な面持ちでルナの杖を舐めるように見定めていた。
そんな老女に動揺しながらも必死でこれは私のだと自分の杖を胸に抱き抱え反論するルナ。


その光景に真とフレイもただ呆然とするばかりであった。



「一体何で作られて……ややっ、これは……魔力結石とは違う……何か邪悪な……むぅ……お前さんよ、これは主の様な小娘が扱える物ではないぞ……直ぐに手放すべきじゃ」
「へっ!?い、嫌ですよ!これは村を出る時に村長さんが餞別でくれた村の宝なんですからっ、適当な事を言ってそっちこそこれを盗もうとしてますね!私は騙されません、さっきもシン様に対してあの態度!もう行きましょう、フレイさん。シン様も!」



「え……あぁ、どうするフレイ?」



真は先程自分が怒られたのは自身のせいだと理解していたが、流石にルナの物に対しての老女の態度は異常であった事からこの店は如何わしいのではないかとフレイに目で合図を送る。
フレイもそれを理解したのか、老女に謝罪を入れて店を出る事にした。


老女は後ろで再びぶつぶつと何かを呟いていたが、それが何を言っていたのかは聞き取れなかった。
















結局魔力機屋で何か目ぼしい物を見つける事もままならず、文句を言い続けるルナを宥めながら三人は物資を積んだ荷馬車で昼前には王都を出立していた。



馬一頭で荷車と物資、そして背にフレイと二人の人間を引いて進むのは中々に遅い。
それでも普通に走れているのはそれだけの力がこの馬にはあると言う事なのだろう。


真は実際の所馬と言う純粋な生き物を見たのはこの世界に来てからが初めてなのでその実態はよく知らない。
馬二頭なら早く走れると言う馬舎屋の言葉をただの釣り文句だと思っていたが、こうして自分が体験してみるとその言葉の意味が初めて理解出来た気がした。




「しかし遅いな、この早さで本当に二日で着くのか?」


真は馬の手綱を持つフレイに荷車からそう問いかけた。


「まぁ、三人乗っているしな……しょうがないさ。それに馬二頭は流石にな……普通は大体こんな物だ、歩くよりは良いだろう?」



真は自分は歩いた方が早いとも思ったが、そもそも一人で行くと言っていたフレイの言葉の意味を今更ながら理解しそれ以上何か言うのは止める事にした。




荷車に設置された木製のベンチシート、その上に申し訳程度に敷かれたクッションが馬の走る振動を吸収しきれていない中、ルナは真の横で胸に抱えた杖をじっとただ見つめていた。


王都のおかしな魔力機屋で言われた事を今だに気にしているのだろう、その目には疑心と不安が入り交じっている様にも思えた。


「ルナ、あまり気にする事はないぞ。広い王都だ、ああいうおかしな店もたまにはある、今回は私の選択ミスだったな。すまない」
「へぇぁっ!?あ、え、何ですかフレイさん!?」


「……お前の杖の話だ、不安なのか?」



フレイはやけに大人しいルナに何かを感じ取ったのだろう、振り返り様に荷車の中にいるルナにそう声をかける。

だがフレイの投げ掛けた言葉がまるで聞こえていなかったのか、ルナは素頓狂な声を上げて慌てふためいた。



「あ、いえ……何となく……」


不安感が表情にはっきりと出ているルナ。
真はそんなルナを遂に見かねた。
普段は喧しくじゃじゃ馬の様なルナだが、こう汐らしい雰囲気を見せられるとどうにもこちらの調子まで狂ってしまう気にさせられる。



「お前の事ならちゃんと守ってやるから、変な心配はしなくていい」
「ひぐぅッ!?」



真の何気無い一言にルナは荷車内で飛び上がり、その後潤んだ瞳を真へと向けて静止した。


「シン、様……はわわわぁ……そ、それは、つ、つまり……私と生涯を……とっ、共にぃぃっ!」



ルナの言わんとする事が何となく解ってしまった真は、反射的にルナの頭上に軽く手刀をかまして黙らせる。
ルナの事であるから、持ち上げれば直ぐに調子が戻るであろうと言う真の目論見はつまり成功したのだった。



「シン……お前は、意外と……魔男だな」
「……ん、なんだよそれは」



「いや……知らないなら、いいんだ。だがあまり女を弄ぶなよ、後が怖いぞ」




真はフレイの言わんとする事に魔男と言う意味を理解した気がしたが、言われてみるとそこまで嫌な気もしないと考えていたのだった。

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