その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第46話 異世界の仲間



宿の近くまで来た辺りでシグエーはイルネをニーナの所まで連れていくと言うので、真はここでいいと別れる事にした。



明け方前の暗がりに宿を出た時は本当に軽い気持ちであった。
それが大変な事態に首を突っ込み、ひいては自分の体の異常を考えさせられる様な事にまでなったのは結局の所誰のせいでもない自分で引き起こした事である。


真はフレイとルナにきちんと謝罪しなければいけないなと脳内にフレイの怒声を想像しながら、ソーサリーの薬が効いたのか幾分落ち着いた心持ちで宿への扉を開いたのであった。




「らっしゃ……おぉ?兄さんっ!?」


「……ど、うも」


宿に入ると早速慌ただしく料理を運ぶ熊のような店主が目敏くも真を見つけ声を上げた。



「おいおいおいおい、おい!兄さんっ、何処まで行ってたんだえぇ?!大変だったんだぞこっちは。ちょっと、ちょっと待ってくんろぃ!」



店主は何故か慌てた様子で手に持った料理を他の客の元へと運び終えると、前垂れで手を拭きながら再び真に近寄ってくる。



「明け方に出ていったきり戻って来ないからよぉ、兄さんの連れには伝えて置いたが……流石に遅すぎるってんで、もう大変だったんだぞ、えぇ?」



大変とは一体何が大変だったと言うのか。
確かに散歩にしては時間が掛かりすぎたし、フレイとルナに心配をさせてしまったかもしれない。
だがそこまで慌てる事でもないだろうにと、真は困惑しながらもとりあえず非は自分にあると理解していたので店主にも謝罪を入れておく事にした。




「――おいルナ、そんなに落ち込むな。シンも男だ、たまには一人になりたい事もあるだろう?」
「そんなっ、フレイさんはシン様が心配じゃないんですかっ!?もしかしたら何処かで魔物に襲われたかも……」


「魔物なんて街中に出たりしない、それにシンに限ってそれでどうにかなる事も無いと思うんだがな……まぁしかし私も心配はしているだろう?だからこそ今は待つべきだと言っている」


「もう我慢できませんっ……それに、それにもしかしたら私が足手まといだからシン様は…………うぅ、村長さんに会わせる顔も無いです……」



店主に謝罪を入れていたそんな刹那、階段上から聞き慣れた二つの声が降りて来ていた。
真はふと顔を上げて二階へと続く階段へ視線を走らせる。



「おぉっ!お二人さんっ!兄さんが戻って来たぞっ!」


「――へっ!?」
「っ!」



店主が階下へ降りてくる人間に真の事を伝える。
そんな事態に驚きの声を上げて階段を転げる様に降りてくる二人の女。

懐かしい栗色の長髪に実用性皆無にも見える銀のプレートを着けたフレイ=フォーレスと、肩口まである青色の髪を揺らす魔導士ルナ=ランフォートだ。



二人は真の顔を見付けるなり大袈裟な声を上げて真の元へと駆け寄った。


「シン様っ!戻ってきてくれたんですかっ、私……足手まといだからその、置いていかれたとばかり……うぅ」


「……え、いや……何故そうなる」
「シンッッ!」



フレイのいつかに聞いた怒声にも近いその声に真ははっと顔を上げる。
ゆっくりとフレイに視線を合わせるがその表情に怒りは見られず、何処か安堵した様子で一つ息を吐くと顔を背け軽く笑った。


「……何て言うか……その、悪い」



真は所在なさげにただそう言うしかなかった。
理由も言うべきなのだろうが、その理由は突然思い立った散歩による迷子が原因だとはとても言う気になれず、ただ俯き首を掻く。
そんな姿にルナはいいんです、私が悪いんですといい続けていたがそれに関しては流すことにした真である。



「まぁ、何があったのかはおいおい説明してもらうとして……とりあえず食事にしないか?シンはどうだか知らないが私達は朝から何も口にしていないのでな、私の自慢の体が痩せ細ったら責任を取ってもらうぞ?」


「…………すまない」




フレイの言葉がいやに突き刺さったが、こう言う時の女にはただ謝るのが最良の選択だと判断した真はただ項垂れ謝罪の言葉を口にするのだった。













どうやらフレイとルナは予想通り昼近くに起き、店主から真が散歩に出掛けた事を聞いたらしい。
昼頃には戻ると言う伝言により真を待って一緒に昼を食べようと考えていたらしいが、一向に戻らない真をルナが過剰に心配した為二人は街を駆け回って真を探した様であった。


だが真を見付ける事は出来ず、一度宿に戻って待機した方がいいと言うフレイの判断により二人は宿で待機していたらしい。
その間のルナの動揺は異常で、抑えるのに一苦労だったとの事。
そんなルナを安易に想像できた真は、心からフレイに申し訳無いと感じ再三の謝罪を並べていた。



「……で、シン。明け方前から一人で何をしていたんだ?散歩にしては随分と長かった様だが……そっちの方面なら別に、頼まれれば……私も、そこまで、嫌と言う訳でもその、無かったが……」


「そっちの方面って…………お前な」
「え、え?何ですかっ!そっちの方面!?え、フレイさん!何ですか、そっちの方面って!?」



真はもしやと、フレイの言いたい事を察して何だかおかしな気持ちにさせられた。


「いや、そのな……その、あれだ。シンも男だからな、色々と体が辛くなるんだろうから……その多少力になろうかと言う話だ……」


「えっ!そうなんですかっ!?それなら私も、私もシン様を助けます!それはもう当たり前ですっ」



フレイは自分で発した言葉に今更恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤に染め上げ真から視線を外した。
一方のルナは恐らく全く検討違いな方向で素直に真の力になろうと必死である。


「ふっ……」
「なっ、何がおかしいっ!?」


真はそんな二人を見てやどうにも愛おしい気持ちになる。
やはり自分はおかしく等無い、普通の人間なのだと思い直した。
すると何故なのか不思議なもので自然と笑いが込み上げて来ていた。



「いや……悪かった。少し……自分探しに出ていた、そんな所だ」
「……自分探しか。お前程の奴がな、まぁでもその分だと何か見つかったんだろう?シン、私達は仲間だ。お前にとっては微々たる物かもしれないが……それでも何か辛い事があるなら話せ、どうにも口数が少ない所があるからな」


「はっ、そ、そうです!シン様、私、私ももっとちゃんとしますから!」



仲間、それは今まで考えた事も経験した事もない物であった。

過去の地球でもこんな気持ちになれた事があっただろうか、一人でただ力にのみ支配され過ごす日々。
フォースハッカーの一員となってからもそれは変わらなかった。
中にはそこそこに話す人間もいたが、皆それこそ自分の事しか頭に無かっただろうと真は常々心の底では軽蔑していた。 

夏樹、初めて心が開けそうな相手も失い自分には全てがどうでもよくなっていたのだ。



時空転移プログラム等正直な所どうでもよかったし、それで世界がどうこう等尚更興味も無かった。
ただそれが自分のその時やるべき事だったから、ただ体の意思に従ってそうしただけ。



しかしここに来て真のそんな無機質な気持ちは何処かへ吹き飛んでいた。
そう、これだけは少し、ほんの少しだがフォースハッカーのメンバーに礼を言ってもいいと今なら思える気がした。



仲間、そんな存在に巡り会えたこの運命と言う今に。

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