その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第45話 先天性免疫不全骨障害



「……要するに生まれ持った免疫の異常によって起こる骨の異常を治せるって事だろう?もしそうなら特許レベルだけどな……」



「シン……君は」


「そうさっ!そこだ、特許を知っているのか!?ワシの開発した案をワシが薬師館に所属してないからといって奴等は勝手に……あんな高値にすれば需要などあるものか。全く奴等は人を救う気など更々無いんだ……そう言う所が――――おっと、いかんいかん……しかしよく知っているなお前さん。薬師にも通じているのか……こやつ、シグエーよりよっぽど優秀かもしれん」



呆気に取られるシグエーを余所に男は一人興奮したように言葉を並び立てるが、シグエーより真をそう評価した事で若干不満そうな表情で真を見詰めるシグエー。



「……ってそれよりハイライトさん、その調合とやらを僕に教えてくれると言ってませんでしたか?」


シグエーは不満そうな顔をしながらも男へそう言葉を投げ掛ける。
だが男はにやけた顔で椅子にもたれ掛かると真を一瞥した後シグエーを見て鼻で笑った。



「そうだったか?調合を教えるとは言っておらんかったような……そうさな、教えるならやはり優秀な弟子でなくてはなぁ……のう、シンとやら?」


「……ん、え?」


「ハイライトさんっ!僕よりシンの方が優秀だと言いたいんですか。いや、わかりますよ。その先天性……めん、きふぜしょ――」
「先天性免疫不全骨障害、だろ?」



真のシグエーに対する言葉の訂正、シグエーはそれを聞いて悔しそうに歯噛みするのだった。



「ほれ、お前より腕も立って薬師への理解もある……弟子を変えようかのぅ?シグエー」
「……そん、な」


「言葉の意味を考えれば大体理解出来るだろ、先天性、即ち生まれつき。免疫不全、体にある抗体が何かしらの異常、骨障害、骨の異常……繋げればそのままだ。俺じゃなくても解る」


「……ほぅ」



真はシグエーを励ますつもりでそう言ったのだが、それは分からない人間からすれば最大の嫌味、皮肉となって降り注ぐ。
シグエーの顔は最早、悔しさを通り越して青ざめていた。



「シンとやら……何処でその知識を得た?」



男はそう尋ねると興味深そうに真をまじまじと観察する。


真にしてみれば地球で聞いた事のある言葉をただ言ったに過ぎず、フォースハッカー医療メンバー程の知識がある訳ではない。
意味は何となく理解出来ても深く原因を突っ込まれて聞かれれば答えられはしないだろう。


その上それを何処で知ったと聞かれても、それはそれでまた何とも答えづらい質問でもあった。



「いや……何と、なくで――――」


「何となくでわかるものか!僕がどれだけハイライトさんと一緒にいて薬師の事を学んだと思う?!君はあれか、薬師館の息子だったんだな……それなら説明がつく。何処の薬師館だ、リヴァイバル王国出身だったな。ほら言え、そろそろ身元を白状しろ!」



シグエーはいつになくその冷静さを欠き、真へと詰め寄った。
それだけこのハイライトと言う男への思い入れが強いのだろう、真はそんなシグエーに若干気圧されたがその姿は何とも滑稽に見えた。



「お前より頭の出来がいいだけだ、気にするな」
「なっ!何ぃっ!?」



真は少しの嫌みを込めてシグエーをそう茶化すが、当のシグエーは顔を真っ赤にして今にも真へと掴みかからんばかりの勢い。
そんな二人を見かねてか、男はついにそこへ割って入った。



「あぁもういい!止めんかシグエー、冗談だ。そう言う所がまだまだ浅いと言うんだ。こう言う軽口も言えん内は昇進も遠いぞ?……しかし主はリヴァイバル出身だったか。本当に薬師館の育ちじゃあるまいな?」


「いえ……まぁ、そう言うのに詳しい奴がいて……ちょっと聞いた事があっただけで。俺自身はそこまで……」



「うむ……そうか、詳しい奴が……リヴァイバルでなぁ……まぁいい。で、何の話だったか」



男の質問に対し何とか濁らせる事に成功した真はほんの少しほっとした。
そしてこう言った軽口が交わし会えるフレイの存在を有り難く感じ、同時にフレイの弟と言う存在が病気であった事を思い出していた。



「調合を僕に教えると言う話ですよっ」
「ん、あぁそうだったな……まぁこの眼球には他にも使い道があるからそれだけに使ってしまうには少々気が引けるが……まぁ眼球を熱い湯に浸けてそれが溶けきった所で、その湯に異常を起こした部分を浸らせるのが一番効果があるな」


「……眼球が、湯に溶けるんですか?」



「あぁ、そうだ」



ふと真はその言葉の意味を考えた。
バジリスクの眼球を湯に溶かす、逆に言えばバジリスク討伐の際にそれはかなり重要な情報となるのでないか。



「……と言う事はバジリスクを捕獲するのに湯をかければ簡単と言う事ですか、ハイライトさん」
「ん?まぁ、そうとも言うがそれをやったら肝心な眼球が取れないだろうが馬鹿めが」



シグエーの考える事と同じ様な事を頭に思い浮かべていた真は、そんな男のシグエーに対する責めるような口調に自分は発言を控えて良かったと安堵したのだった。


ならばと別の事を男に尋ねる事にする真。



「あの、ハイライトさん……でいいんでしたっけ?」
「ん?……あぁ、まぁハイライトの名はこやつにやったも同然だからの。ソーサリーと呼んでくれて構わん、で何だ?弟子入りしたいか?」



そんなソーサリーの軽口にシグエーはキッと真を睨み付けるが、敢えてそれには気付かない振りをして真はフレイの弟の事をソーサリーに尋ねたのだった。

話ではバジリスクの眼球がその病気を治せるらしいとの事。
この男ならそれが解るかも知れないと考えての質問だ。





「生まれつき手足がのぅ……確かに先天性免疫不全骨障害の可能性は高いな、見てみらん事には何ともだが。ただその場合なら手足がおかしな方向へ曲がっていて硬く動かないのが特徴だ、もしそれがなく痩せ細っていれば原因は頭の方にあるかもしれん」


「……頭?ハイライトさん、痩せ細っているなら筋肉萎縮なのでは?」


「ふぅ……シグエー、負けじと知識をひけらかすのは生療法と言う物だ。シン、お主は解るか?」



「……いや、俺にも何とも」


突然のソーサリーによる対象変更とシグエーの鋭い視線を受けた真であったが、真にもその理由に検討はつかなかった。



「まぁシグエーの言う通り筋肉萎縮による手足不自由が考えられる、だがその原因の大半はほぼ頭……脳と言ってな、そっちの神経がやられている可能性がある。ましてや毒でもなく先天性なら尚更その可能性は高いだろうな」




「……くっ、駄目だ……話についていけない」



シグエーはソーサリーの用語の羅列に遂に全てを諦めた様だったが、真には大体の事が理解できていた。


詰まる所フレイの弟の病気、その原因は今の所二つに一つ。
脳か骨か。
兎にも角にも先ずはその弟の状態を見なければ分からないと言った所だろう。



「ただ……もし脳の方なら数年と生きられまい。今の主の話からするにもう随分な時を元気に生きているのだろう?だとすればワシは前者が濃厚と思うがな」




前者、つまりはやはりフレイの弟は先天性免疫不全骨障害の可能性が高いと言うことだ。
それならばバジリスクの眼球を持っている今、先程ソーサリーの言っていた方法でフレイの弟の病気を治せるかもしれない。


真はその眼球の扱い方について、ソーサリーから詳しく聞いておく事にしたのだった。










その後ぶつぶつと文句を言いながらもイルネを連れて宿まで案内してやると言うシグエーと共に、真は半日振りの宿へと戻る事になったのだが、その頃には夕闇が辺りを支配する様な時間となっていたのは言うまでもない事である。

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