その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第42話 i'm lost



「シン……消すって、コイツらを殺すつもりか?君は……そこまでする必要があるのか」


「何言ってる、面倒事は御免だろ?お前も立場が危うくなるんじゃないのか、ならここで全て無かった事にすればいい」


「待て、シン、だからと言って何も殺す事は……君の事を買い被り過ぎていたのはやはり間違いなかったのか。いいかシン、人を殺して何も無かった事にだと、そんな事があっていい訳無いだろ?!」



何故だろうか、真にはハイライトの言っている事が理解出来なかった。


人を殺してはいけない?
動物は容易く殺すのに?


そこにどれ程の違いがあると言うのか、知人友人ならまだしも何も知らない他人に、しかも人拐い等している様な連中に何故そこまで情が入るのと言うのか。

真は自分の頭の方がおかしくなっているのかとそんな思考に混乱した。



「確かにさっきまでの僕もどうかしてた。僕は人を、皆を守りたくて今こうしている。それを思い出させてくれた事には感謝するが、だからと言って簡単に人を殺す様な行為は認められない。それじゃあ獣や魔物と一緒だ、こんな奴等と同じだぞ?君は人間だろ!」


「人間……たかがタンパク質の塊にそこまでの価値があるのか?コイツらが俺達にとって何のメリットがある……寧ろ消えてもらった方がメリットが――――」



「シンっ!しっかりしろ、君は仲間の危機に怒り、助けられる人間だろ?僕の突然の人探しを手伝える様な人間だろ?違うのかっ、君は怒り、憎み、喜び、悲しめる人間だろうっ!?こんな奴等と一緒になるな」




分からなかった。
自分がどんな人間だったのか、そもそも今の自分は人間か?

そんな疑問が頭の中を駆け巡る。


初めてこの世界に来た時に切り捨てた生き物、殺した理由は特にない。ただそこにいたから、地球の癖でそうしただけだ。

ワイドの街で盗賊にデバイスを取られた、盗賊からデバイスを取り替えそうとして反抗してきたから無力化した。
何故殺さなかったか、理由は無い、それで十分だったから。


フレイを仲間と思い、フレイを危険に晒したあの男に怒りを感じた。

殺したくなったのに何故殺さなかった?
分からない、急いでいたから?
既にこいつは放っておけば死ぬだろうと頭の片隅で感じていたからか。

ならば何故フレイを仲間と思うのか、自分を道案内出来る人間だから? ならばルナは何だ、ただの邪魔者じゃないのか。
何故殺さないのか。



真は考えれば考えるほどに全てが分からなくなっていった。
思考回路が絡まったかのように自分の今までとって来た行動に理論的な説明が付けられない。


自分は、人間なのか。
気づけば真は頭痛と吐き気を感じてただその場に疼くまっていた。



「お、おいシン!」


「……はっ、な、何だ仲間割れか!おいユグドラシル、急げ、とっとと獣族を馬に乗せろっ!」



突然踞る真とそれを介抱するようにしゃがみこむハイライト、二人の姿を隙だと見るや男達は大慌てで荷車から獣族の少女を運び出していた。



「……お、おい待てっ!」


「へっ!この事は商会元に報告させて貰うっ、ファンデル王都の一介のギルド官風情がリトアニア商会に歯向かったとな、早くしろユグドラシル!とっとと行くぞッッ!!」



ハイライトの怒声に捨て台詞を残した男達は、獣族の少女を無理やりに載せた馬をその場から走らせようとしていた。





「じゃあな――――」



と、男が最後にそんな台詞を言ったその刹那だった。


気付けば地面に広がる血溜まりと、そこに落ちる馬の首。
そして下卑た笑みを浮かべたまま目を見開く男の首がそこには転がっていたのだ。



その場にいる誰もが時間が止まった様に動かない。
やがてその場から最初に動いたのは、滑り落ちる手綱を持ったままその首を失った恰幅の良い体だった。




「シンッッ!?」



真はいつの間にか手に収束させたCの刃によって馬の首もろとも商人の一人を切り捨てていたのだ。



「……………その、女は、おいて行け」


「いっ、ぃひぃぁぁ!?」



何処か視点のはっきりしないそんな真の呟きに、馬の尻側へ股がっていた男はそこから転げ落ちる様にして地面に尻餅をついた。



「ひっ、ひっ……た、たしゅけ……ひっぁぁ、あぁぁ!!」



その場から刃を振り切ったままの状態で動かない真を見ながら、商人の男は抜けた腰を必死で引き摺りやがて何処へ向かうのか平野を転がる様に走り去って行った。



「シ、ン……」


「ンンッ!ンンンンッッ!!」



首を失ったにも関わらずその屈強な脚で体勢を崩さない馬の上で獣族の少女が涙を浮かべながら悶える。
ハイライトは真の行動に動揺を隠せなかったが、今やるべき最優先事項を思い出し馬の上から少女を下ろしてロープと口に詰められた布を取り去ってやった。



「っいや!いやぁっ!ころ、さないでっ!!」
「大丈夫だっ!君、もう大丈夫だから落ち着け、落ち着くんだ!」


「……いやっ、や、やめて……お願い、します……」



泣き喚きながら暴れ回るその獣族の少女を抱き締め必死で介抱するハイライトを余所に、真は手元に収束させた刃を解除させてその場にただ立ち竦むのだった。















広がる平野、延びる大河と海原、遥か向こうへ聳える山々に情緒等感じはしない。
真は先を進むハイライトと獣族の少女から距離を空けて一人ただ呆然と脳の指示に従って足を進めるだけだった。



考えるのは過去の地球での戦の日々。
デスデバッカーの開発したアンドロイドキルラーを片っ端から破壊した。
政府がそれに対抗するべく開発したバイオメタトロン、それが暴走した時も真はそれを迷わず殲滅させた。
だが人間を殺した事はあっただろうか、それは否かと聞かれれば応と答えるだろう。



真はかつて人も殺した。
それはフォースハッカーに入る前の格闘技大会、事故だったのだ。
いや、それはやりすぎだったのかもしれない。
真は自らのアドレナリンを抑える事が出来ずに最終試合で相手を殺してしまったのだ。
結果は反則敗けだったが、見る人間によってはそれを優勝と見る者もいた。


その後治験に参加し、夏樹を失い、フォースハッカーの一員となってからその過剰な性格は悪化したかの様に思えた。
デスデバッカーの組織の人間を見つけては殺すと言う半ば暴走的な行動を取っていた。
それは怒りからか、憎しみからか、分からないが真のそう言った暴走は時折起こる。



だがこんな気持ちになった事は過去にあっただろうか。
頭が混乱し、落ち着かない様なふわふわとした自分が自分で無いような感覚。
さっきまでの自分と今の自分がまるで別々にも思える。


今でも胸の、脳の興奮が収まらない。
少しでも油断すれば、ふとしたきっかけで誰かを怒りまかせに殺してしまいそうなそんな不安が真の中では燻っていた。





やがて日が真上から傾きかけた頃、王都の入り口で獣族の少女を解放したハイライトが未だ平野をポツポツと歩く真へと歩み寄ってくる。



「……シン、無闇に人を殺めるのはあまり誉められた行動じゃない。中にはそう言う人間も多くいるし、そうせざるを得ない事もあるだろう……ただ僕はそう言うのが好きじゃないと言う話だ……それを君に強制するつもりはないが――――」
「分からないんだ……さっきは何であんな事をしたのか……気が付いたら……そうしていた。今も……何か気分が悪い」




真にも自分が分からなくなっていた。
だがハイライトはそんな真を責めなかった。


この世界ではそう言った事はよくある事だと言う。
ただハイライト自身がそう言う事を嫌うだけでどちらが正しいかは自分も分からないと俯きながら真にそう伝えた。



「……着いてくるといい。それにまだイルネが何処へ行ったのかも分からない、ここまで来たなら最後まで付き合って貰うぞ」


「…………あぁ」



イルネと言う獣族の少女を探す事。
それが目的でありこうしているが、結局見つかったのは別の獣族の少女であった。


ハイライトはギルドへ捜索依頼を出すしかないと言っていたが、当のギルドとは違う方向へと歩き出す。
真はそれを疑問にも思ったが、とりあえず着いて来いと言うハイライトの言葉に今は反論する気も起こらなかった。

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