その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第40話 ハイライトの職務



「ぇはぁ……はぁ……ぐっ、君は……魔力結石が使えないんじゃなか、ったのか……はぁ、はぁ……」


「気にするなと言ったろ、で?この辺りか?」



流石は地球でも唯一残った戦闘要員の真を武術で押し込めるだけの力量ある試験官、ハイライトは突然の水面疾走の中でも何とか冷静さを取り戻し真に向かうべき陸地を指し示した。


真が初めて王都へ入った城壁入り口から恐らく西側に位置する場所。
疾走の勢いに任せて上陸した草地に二人は盛大にダイブしていた。



「はぁ……はぁ……どうだかな、推測でしかないから……いや、これは」



ふとハイライトは地面に手を着いたまま、ある一点に顔を近付ける。
何かを見つけたのだろうか、ハイライトの様子は真剣そのものと言った雰囲気を醸し出していた。


「まさか馬の足跡でも見つかったってのか、それはいくらなんでも都合が良すぎるだろ?」



真は一人その場に立ち上がり、転んだ際衣服についた砂と草を手で払いながらハイライトへと視線を向ける。



「車輪の跡だ、荷馬車か……予想通りならまだそこまで遠くには行けない筈だ!」
「おい、本当か……ちょっと待て」



あまりに都合のいい事態だが、そう言った運をどうするかは人生において重要なファクターとなる事を真は戦いに身を置く中で理解していた。
運がいい事を素直に認め、それを不審に思う事無く受け入れる。ただそれだけで事態は迅速に好転していく物なのだ。


ハイライトへ一声かけ少し待つ様に伝えると、真は今更あまり隠す気にもならなくなっていた科学技術ももって空中へと飛び上がった。

上空十メートル程上がった辺りだろうか、真は辺り一面に広がる平野を見回す。
海へと続くファンデル河川、巨大な城壁に囲まれる王都中心部の城と塔。そしてフレイと共に抜けた深緑に繁る大森林、その手前に広がる広大な平野に一つの白とも黒とも言える点が見えた。


淡緑一色な一帯だけにそれはある意味何かがいると言う証明にもなっている。


(この高さが十メートルだとして……二十キロって所か)



真は視界の高さから見える範囲、焦点とするその白い点までの距離を推測しながら重力操作によって足に負担が掛からない程度の落下速度でハイライトの横へと着地した。




「シン……君は一体……そんな魔力結石の使い方、聞いた事も無いぞ」
「今その話は無しだ。ここから二十キロ先、その辺りで何かが見えた。もしかしたら例の馬かもしれない」



呆然と真を見てそう発するハイライトを余所に、真はただ今やるべき事を淡々と述べていく。


「にじゅっ……きろ?何だ、それは距離の事か?」
「ん…………はぁ」



此処に来て真は距離の単位が地球とは違う事を理解させられた。
距離と言っている辺り、そこまで言語は一緒なのに何故キロメートルが通じないのか。他にも突っ込みたい所は多くあったが、今はそんな事を訳の分からないこの世界でこんな時に論じている場合でもない。


「その距離の事を言っている、多分。徒歩で四時間弱……あぁ……もういい、行くぞ!」
「なっ、ちょ、ちょっと待てまた――」



時間の概念も通じない事をフレイとの会話で思い出した真は、説明するのも面倒だとハイライトを再び肩に掛け目的の方角へと平野を疾走したのだった。














加速システムは設定を2倍のまま、人を一人余分に持っていたとしてもそのスピードは地球上でいう時速100㎞程の速度は出ている。
つまりは目標地点までこのスピードで走り続ければ十五分程度で追い付く事が出来る筈なのである。


風切り音が耳を遮り、担ぐハイライトが空気抵抗によって持っていかれそうになるのを必死で堪えながら平野を疾走する。
真もハイライトも最早出せる言葉一つも無かった。



やがて目標物が視界に近付くにつれ、それが馬に大きな箱の様な物を引かせている荷馬車だと言うのが分かった。
あと数百メートル先、活性酵素によって乳酸が分解されていなければ痺れて力も入らないであろうハイライトを支える腕に一層力を込め、真はその馬の前へと躍り出たのだった。






「っんな、何だぁっ!?」



突如眼前に姿を現した真とハイライトの姿に馬の手綱を引き上げながらそう叫ぶ男。


嘶く馬を無理矢理に押さえ付けながら慌ただしく体勢を整えようとする男は、灰色のローブに収まりきらない恰幅がその品性の無さを如実に現している様だった。



「てっ、テメェはなんだ!どっから現れやがった!?」


「ちょっと用がある、荷車を見せてくれるか?おい、ハイライト」
「はぁ、はぁ……あ、あぁ」



馬に跨がったまま何が起こったのか理解できていない男を余所に、真はハイライトに早く確認しろと顎で指示する。
ハイライトはあり得ないスピードで引き摺るように平野を連れられたせいかよろよろとしながらも冷静に現状でやるべき事を遂行しようと荷車へ足を向けていた。



「おっ、おいおいおい!何なんだ、盗賊かっ!?おいユグドラシルッ、とっ、盗賊だっ!」
「……そんなに騒ぐな、すぐに終わる」


手綱を持っていた男が漸く事態を把握してきたのか、動揺しながらも荷車に乗っているのであろう連れに大声でそう叫ぶ。
すると荷車を覆う厚手の白い布の一ヶ所が持ち上げられ中からもう一人、灰色のローブに身を包む線の細い男が顔を出した。


荷車に足を向けるハイライトとその男が視線を交わす。
真は馬から降りる男に身を寄せながらハイライトとその男の成り行きを見守った。




「おっと……これは旦那、私らはしがない商人でしてね。今しがたファンデル王都に荷を卸して来てしまったもので大した物はないんですよ、いや本当。精々売り上げの金貨が数枚と言った所でしてね、それでなんとか――――」
「中を見せて貰おうかな?」



自らを商人と名乗る華奢な男は荷車から降りて手揉みをしながらハイライトへそう捲し立てるが、ハイライトの目は真剣そのものだった。


「い、やっ、中はっ……」
「イルネっ!」


ハイライトを押さえようとする男はあっさりとその身を押し退けられ、荷車を覆う布が捲り上げられる。



「おっ、おい!あ、あんたら盗賊だろ?か、勘弁してくれ……今日は小さい娘を乗せてるんだ、金ならある!なっ?」


「ん、盗賊……か。そうだな、欲しいものはこっちが決めさせて貰う」



真が恰幅の良い男とそんなやり取りをしていると、ハイライトが突如おかしな声を上げていた。
何か予想に反した事態でも起きたのかと真も馬を引いていた男を無視してハイライトの元へと歩み寄る。



「イルネ……じゃない!?」
「………んん、ンンッ」



「どうした?間違った…………って訳でも無さそうだが」



荷車の中には口に布を詰められ、手足をロープで結ばれた少女の姿があった。
鮮やかなオレンジ色の生地に赤色の刺繍が施された民俗衣装の様なローブ、それは今朝方城下町で真が一瞬見た物と相違無い様にも見える。
そしてそんな少女の頭部には絶滅種で丁度地球の狐の様な茶色い耳が二つ項垂れて生えていたのだった。



「君は…………」
「だっ、旦那、これには訳がありましてね。こいつは奴隷としてリヴァイバル王国へ売るんですが、まぁ安く叩かれるんですよ!なんであんまり価値も無いんで……しがない商売ですわ」



そんな少女を目に入れ動きを止めるハイライトと、お構い無しに自分の商売を大した物じゃないから見逃してくれと必死に請う男。


真は黙り混むハイライトにたまらず声を掛けた。



「ハイライト、そのイルネって子じゃないのか?……だとしても見逃すには、あれだろ?」
「あぁ……見逃すつもりはない。お前達はリヴァイバル王国の人間か?僕はファンデル王都管轄のギルド官、国務官の職権に於いて他国狼藉の罪名によりお前達の身柄を一旦預かる」


「っ!?」




昂然たる態度でそう言ってのけるハイライトの姿には、先ほどまで真に引き摺られて憔悴しきった様子等微塵も見られなかった。

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