その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第18話 D級の英雄



「今度は僕から行ってみようか、無手で渡り合うのは久し振りだから……ねっ!」


「っふ!」



突如その場から消えたように見えるハイライト、だが真はその動きを的確に視界に捉え次にとるべき行動を脳内で処理し終えていた。


視力を司る網膜細胞のシナプス群、真の脳内はデータチップの他にタンパク質によって密に結合されている。

それにより動体視力、基い視力の向上と脳内での高速処理を可能にしている。



ハイライトは消えたように見えて、ただ利き脚による反射運動で死角へと一端跳びそこから真へと肉薄したのだ。
右足を高く上げて繰り出されるスピードの乗った上段回し蹴り、それを真は意図も容易くもしゃがんで躱すとその体勢のまま左手を基軸に中段蹴りをお見舞いする。


今や重いだけの手荷物も合金製ブーツも履いていない真の体はただ鍛えられたプロの格闘家そのもの。
否、元より優れた運動神経と才覚、それに加え脳内処理の底上げと数々の格闘技術がインプットされている真はむしろそれすらも凌駕していた。


ハイライトは反射的に腕をクロスさせて身体を丸めながら真の蹴りをその身に受けた。
一瞬体が浮いたがそれは自ら衝撃を逃す為軽く跳んだのだろう。


あの一瞬の環境でそれが反射的に行えるハイライトも相当な鍛練を積んでいることが真にも分かった。


そのまま真は蹴り出した足を素早く戻し、追撃の足払いを床につく手前のハイライトの両足目掛け放った。


それによりバランスを崩されたハイライトだが、受け身を取りながら床を転がり再び一直線に真へと肉薄する。



「んのぉ、炎舞蹴撃!!」
「!?」


突如ハイライトの履くグリーブからだろうか、火炎を纏った蹴りの応酬。
それはまるで炎が線上になって踊り狂うかの様。


真のメッシュアーマーは炎などもろともしないが、それにより真の視界は遮られる。
かと思えば背後に気配を感じ、真は慌ててそちらへ身体を向けた刹那。ハイライトの炎を纏った踵落としが迫っていた。


(早いっ!最初のは陽動か)


避けられない、そう感じた真はハイライトの軸となっている体に思わず飛び掛かった。


「んなっ!」


ハイライトの炎纏う足を背に受けながら、首と股に腕を絡めそのまま押し倒す。


組技である。
打撃、蹴撃は一撃必殺であるが当たらなければ意味がない。

それに対し組技はそこまで丈夫に出来ていない関節を狙う。特に対人間戦では最も有効に相手を無力化出来る技。


押し倒す寸前に一気に力を込めて押し倒せばそのまま脛椎を折って絶命させる事も出来たが、真は敢えてそれをせずにハイライトを組伏せる事だけに注力した。



「ぷぐっ!」


顔に似合わない呻き声を漏らしながらハイライトは真の身体を何度か叩いた。
ハイライトも自らの敗北を理解していたのだろう、真はそれが降参の合図だと理解し腕を解いた。



「っか……はぁ、はぁ。何だよそれ……反則だ」


若干涙目になりながらゆらりと立ち上がるハイライトから視線を外さず真も立ち上がって数歩距離を取る。



「……これも立派な武術だ」


「はぁ、全く。あの瞬間殺されるかと思った、久し振りだよ……人間相手に死ぬと思わされたのは……僕の敗けだ」



真はその言葉に構えを解いて、揃えて置いたブーツの元へ歩み寄った。


「ふぅ……全く、これでもA級なんだけどな。こんな所で飼い殺しにされて鈍ったかな」


「それは合格ってことでいいのか?」



独り言の様にそう呟くハイライトにブーツを履き直しながらそう返す真。



「合格も何も……これは階級を判断するテストだよ、まぁ先にちょっと本気に成りかけたのは僕だけどさ」


「で、どうなんだ?俺の階級は」
「まあ、本当ならそのままCか……下手したらB階級……と言いたい所だけどね。武器の扱いもまだまだみたいだし、魔力結石も扱えないとなると此方としてはDかEと判断するしかないね、譲歩してDの三級って事で。僕も今や雇われの身なんでね」



その言葉に真は特に不服とは感じなかった。
A級であると言うハイライトを打ち負かしたからと言うよりも、それほど階級とやらには興味がなかったのだ。
報酬は魅力的だろうが、生きていくのに困らない程度に金が稼げればいい。


真のこの世界での思いは今やその程度でしかない。
地球の歴史も変える事の出来ないまま、訳のわからない星に来てしまった真にとって最早生きる目的はただ本当にその身を死ぬまで保つと言う程度の物だったからだ。




「ふう……さて、試験はこれで終了っと。二人は今日から我がファンデル王国が誇るギルドのメンバーだ、まぁ他の国に渡るも良し、この国に貢献してくれるのも良し、後は自分達次第だ。とりあえず資格証が出来るまで待っててね」



以上、と言いながら颯爽と奥の扉から出ていく試験官ハイライト。


どうやら試験はこれで終了の様だった。
真もそれを見て一息つくと体に少しばかりの疲労感を感じた。知らずの内に多少緊張していたのかも知れない。
でもこれで一つ働き口は手に入れたのだ、後は住む場所の確保といった所だろうか。



「あ、あの……」
「ん……」


真は入って来た扉へと踵を返した所で、今まで真とハイライトの戦いを後ろで見ていただろうルナが恐る恐ると言った様子で真へ駆け寄って来た。


「えと……君は」
「あの、本当に……あの時の、シン様……ですよね?」



それがどう言った意味なのか、そもそもあの時のと言うのが真自身理解出来ていなかった。
真は必死で転移してから今までの出来事を思い返す。


「……あの、ブルーオーガに村が襲われて……その私ではどうにもならなかった時に突然現れて……あの時は何か剣の様な物でこう……バババッっと!私、憧れてその……」


「あぁっ!」
「ひぅっ」



突如真は弾けた様に声を上げた。
必死で自らの英雄シンについて語っていたルナは真のその声に思わず驚き、体が跳ねる。



「あの時の、子か」
「へ…………や、やっぱりシン様!思い出してくれたんですねっ……私てっきり人違いかと」


「あ、いや……ごめん」



真は初めて転移した時に生物兵器バイオメタトロンの様な化物と対峙していた一人の少女の事をようやく記憶の片隅から引きずり出す事に成功した。
ただ何となく、その場の流れで、地球での戦闘の癖で、真は目の前にいる少女が危ないと感じその化物の軍勢を切り捨てたのだ。

その時の少女が今目の前にいる。



そう言えばあの時、真が村を出る寸前に少女は言っていたのだ。

いつか都へ参りますと。
真はそこまで思い出した所でなんたる不遇かとも運命を呪いそうにすらなった。

何故なら真は適当な嘘でギルド員だと名乗りあの場を去ったのだ、それが今その発言を聞いていた少女と同じ時に、同じ場所でギルド員になるための試験を受けているのだからどう弁解するべきかと。

しかも出来うる限り地球での科学技術は人前に出したくない現状で、この少女ルナは真の科学技術力を目の当たりにしている存在だ。
あの時の事は忘れて貰いたいと思う真にとってこの少女は今厄介な存在に成りつつあった。



「……何て言うかその」


真には返す言葉が何も出てこなかった。
と言うより言うべき事が有りすぎて、と言うのが正しい。
何故自分がここでギルド員になるための試験を受けているのか、あの時の様な剣技を何故使わなかったのか……上げればきりがない。


「っは!私……大丈夫です、シン様はあれなんですね。これは世を忍ぶ仮の姿、ギルド員でも無いのにあれだけのブルーオーガの軍勢を一瞬で殲滅した方ですから何か理由があるに違いありません。さっきの試験も手加減して……なるほど、それでも素手でギルドの試験官を組伏せるなんてやっぱりシン様は英雄なんですね。私、口は固い方ですから!」


「え……っと……?」


「私の村に古来からの言い伝えがあって、そこにはこうあるんです……『世界滅びんとすれどもそれ革新の時である、導かれし英雄の光りがその世界の時をまた導くであろう』……私の村は昔からあのブルーオーガに襲われ続け数々の犠牲を出して来ました。そんな時に私と言う魔導士が生まれ、皆私を言い伝えの英雄だと言って希望を持ったんです……でも……あの時、ブルーオーガに何一つ出来なかった私は突然現れてそんな魔物を倒した貴方を、シン様を見て気付きました。言い伝えの英雄とはシン様の事だったんだって!」


「…………」


「だから、あのっ――――」



矢継ぎ早にそう言葉を列ねるルナに真はどうすべきが考えあぐねていた。
しかも何やら勘違いが酷い方向へと大きく広がっている事に今後も一抹の不安は拭えない。


「――――私もシン様の旅路にお供させて頂けませんかッ!」




……そう、不安は拭えないのだ。

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