その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第10話 フレイ=フォーレス



土竜団。
それはこの集団を取りまとめる元女冒険者、フレイ=フォーレスの扱う魔力結石から放たれる技の特徴から来ている。
土の魔力結石マナマイトを用い、大地を利用し行う技は地面を這うように石土が盛り上がり標的に無数の礫を向ける。

それはまるで土竜が大地から沸き出た様にも見えるのだ。


フレイはその技と自らの類い稀なる剣術の才を生かし、ギルド員でも優秀と言われるB級クラスまで上り詰めた。
その頃のフレイは自分でも向上心の塊だったと思う。それだけに世間を知らず、皆が皆強くなるために努力を積み重ねているのだとそう信じて疑わなかった。


だが、上に上がるにつれ一人での魔物討伐には限界があると感じたフレイはパーティでの依頼遂行を行う事にした。
パーティに階級は関係なく、ギルドに幾らかを支払いパーティを組織したそのリーダーが許可すれば誰でも問題なく入る事が出来たのだ。


魅力的な女でありながら実力も兼ね備えるフレイ。そんなフレイが何処かのパーティに入る事は容易かった。



だがそこでフレイはギルドの現状を否応なく理解する事になる。


初めて入ったパーティではフレイと同じB級の実力者がいるものの、他の数人はC、Dと実績の少ない者達ばかりで構成されていた。
実力者が魔物を倒すものの、荷物持ちや部位採取などの汚れ仕事は全て階級の低い者の仕事であった。
ギルドの報酬はパーティ任意で決められるが、下の階級に分けられる報酬は微々たる物である。
そんな現状にフレイは自らもっと努力して階級を上げないのかとそんな者達に尋ねた事もあったが、彼等は一様にしてこれでそこそこ安定も出来るならこのままでいいと言ってのけたのだ。


フレイは自分が努力と実力で一人成り上がった身としてそんな彼等を蔑んだ。
上も上なら下も下だと。


途中度々パーティを変えたりもしたが、殆どのパーティは同じ様な物であった。
中にはフレイの体を狙いパーティ全員から襲われそうになった過去もある。


そんなギルドに嫌気がさし、一人冒険者としてやっていく事にしたフレイは旅先で様々な人間を見た。

その中には強くなりたくて努力しているにも関わらず上手く行かずに燻る者も多くいた。
自分がいかに才覚に恵まれていたのか、その時初めて理解した。そして同時にそんな人間を腐らせてしまうのは勿体無いのではないかとも考える様になっていた。



そんなフレイはいつしか旅先で出会うそんな者達に稽古を付ける様になっていた。
魔力機マナコアの扱い方から自ら学び洗練された剣術まで。そうしている内、中にはフレイに付いて行きたいと言う人間まで出てくるようになり、フレイは多くの仲間を得ていった。
中には盗賊紛いな事をして生計を立てるような輩もいたがフレイはそんな彼らにも情を与えた。


人数はいつの間にか数十人と言う大所帯になり、彼等はフレイの得意技が魔物の土竜の様だと賛嘆し自らを土竜団だと名乗り旅を重ねる様になっていった。



大所帯となったフレイ一行。
フレイはいつしか拠点を得て彼等を育てながらいつかは自身で新たなギルドを設立したいとまでの大きな野望を持つ様になっていた。



そんな折にファンデル王国の南端、リヴァイバル王国の境界近くにまだ発展途上である小さな街を見つける。

それがこのワイドの街であった。


ワイドの街は水の魔力結石を採掘し、それ自身、又はそれを加工した物を都に出荷して細々と生計を立てているような辺境の街だ。
ワイドの街の人々は、土竜団がそれを手伝うと言う事で街に居座る事を快く了承してくれた。
近くの森には魔物も多く出る為、力のある者達が大勢いると言うのは街の人々にとっても快かったのだ。



だがここにいても資金は貯まらない。
フレイは仲間を街に残し、一人都へと出稼ぎに出ていた。


大きな依頼を幾度とこなしている内に気付けば数ヵ月と言う時が経ち、フレイは大金を持って久し振りの仲間の元へ戻って来たのだ。



だが街に戻ればそこにかつての活気はなく、人気も無い。


盗賊にでも襲われてしまったのか、そう危惧しながら街に入ったが生気を失った僅かな街人は口を閉ざし、フレイに憎しみの籠った視線を投げ掛けた。


見付けた仲間達に状況を聞くも皆狼狽えるように口ごもりはっきりとしなかった。
そんな中、たまたま宿屋に戻ろうとするグレンを見つけたフレイは事の顛末の全てを吐かせた。



そこに待っていた現状は、今までのフレイの努力と情を裏切るのに十分な物であった。












「グレンから大体の状況は聞かせて貰った。お前達は……私を、裏切ったんだな」




俯くその女はどこか寂しげに、そして怒りを必死で抑える様にそう声を絞り出した。




「お、お頭……帰ってたんで?」



一人の男がヘラヘラと笑いながらそう声を上げるが、その声はどこか上ずっており脅えさえ含んでいる様にも思える。



「ザック。お前の口から聞きたい、お前にここを任せたのは、間違いだったのか?」



ザックと呼ばれた男は先程妙な物から真に火弾を放ったリーダー格の男だ。
ザックは拳を震わせながら下を向いている。



「答えろッッ!ザック!」



緊迫した空気を切り裂く様に響き渡る女の金切り声。
その声に周りの男達も、疲れきった労働者達も一同に静止し状況を見守った。
ただ一人、覚悟を決めた様に顔を上げ女を睨み付ける。ザックと呼ばれたリーダー格の男だ。



「あんたに俺達の気持ちなんか分かるかよ……あんたはいい。才能があって一人でもやって行ける!俺達ゃ無理なんだよ、てめぇより弱い奴を支配して何が悪いッ!それにあんたも一人で都に行っちまったじゃねぇか、ここを任されたのは俺だ、俺のやり方でやらせて貰った、それだけだ!」


「私は!ここにギルドを作るために、稼ぎに行っていたんだ、そこでお前達と共に、一から頑張ろうと――」
「ギルドだぁっ!笑わせんなっ!国にどれだけの金積んで独自に設立するってんだ、それに俺達みたいな才能もくそも無いような人間がまともにギルド運営なんて出来るもんかっ!足下みろっつんだよこの甘ちゃんが!大体てめぇに付いたのだって殆どの奴がてめえといれば美味い汁が吸えると思ったからだ、お前の正義感ぶった稽古なんて端っから興味ねぇんだよ!」


「……っ!」



ザックを睨み付ける女の顔に陰りが浮かぶ。
周りの男達も皆黙ったまま一同に俯くばかりだった。


暫しの沈黙。
真も所在無くただその場を傍観するしかなかった。



「…………解散する」
「……あぁ?」



ふと、俯きながら女がそう呟いた。



「お前達の言い分は分かった。土竜団は今この場を持って解散だ!すぐにお前らはこの街から出ていけ、そして二度とこの地を踏むなっ!」



女のその迫力に気圧され、口をつぐむザック。だがやがて意識を戻したかのように反抗の意を唱えた。



「ざっ、ざけんな!ここは――」
「今までの謝礼だ、この金はお前らで分けると良い、いいからこの街から今、すぐに――出ていけ!」



女は背負ったバックから巾着を幾つも放り投げる。
地面には重力に逆らえずに叩きつけられた巾着がその中身を散乱させる。

中からは金、金、金。
金色に輝く硬貨が何十枚と溢れだす。



「……こっ、これは」
「金だっ!」


「す、すげぇ……」



周りの労働者達すらもため息を上げ、散らばったそれに釘付けとなっていた。



「これはギルド設立の為に貯めた。だがもういい……お前らにくれてやる。今まで付き合わせて、悪かったな。その謝礼と、思ってくれ」



「……っく」



男達はその散らばる金貨に群がる。
だがザックは所在無さげに女と金貨を見比べながら言葉を出しかねている様子だった。



「だから、今すぐ街から出ていけッッ!」


女の悲痛な叫び。
それは何かしらの事情がこの男達と女の間で起こったのだろうと推測させた。

そして真は場違いにも自分が未だ裸足でいることを思い出していた。

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