その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第2話 現れし科学の英雄



「早くっ!皆、逃げて!」
「ルナっ!」


「大丈夫よ、お母さん。安心して、この村は私が守って見せる。私は、魔導士なんだから」


「マーゼよ、ここはルナだけが頼りなんじゃ……理解してくれ」


ルナ=ランフォートは村中の皆を村はずれの丘上ふに避難させると、自らはその丘への道を塞ぐように立ち止まった。


だがルナの母マーゼは自分の娘がいくら類い稀なる魔導士だったからと言って自らその矢面に立とうとする娘の後ろ姿を見てそれを止めさせたい気持ちは隠せないのだ。
しかし村長とて村の民を守る義務がある、昔から続く生け贄の儀。



十数年に一度、この村にはギルド員ですら手を焼くブルーオーガがやって来て村を襲っていた。
その度にこの村では一人の娘を献上する事で存続すると言うような状態が続いていたのだった。


だがしかし、今回ばかりは事情が異なっていた。
世界でも類い稀なる魔力を自在に操る事が出来る人間、魔導士がこの村に生まれた事である。



そもそも魔力とはこの世界に無数存在するエネルギーであるが、それは時に結晶と化し、人間はその結晶を使い文化を発展させてきた。
それは時に料理を作る際の火として、生物が生きる為の飲み水として、また時には物を動かす動力として、また獣を狩る武器として……無くてはならない物であった。


だがそれは全て自然に作られた魔力の結晶を利用し得られる物であり力である。
対してその魔力と言うエネルギーを体内に取り込み自在に操る事が可能な種族も存在する。
エルフと言われる種族だ、人間以外にも多々種族は存在したがそれが可能なのはその種族だけと言われ世界ではそんな力を使えるエルフはとても貴重な存在だった。


そして稀にそんなエルフと同様な力を持つ人間がいた、それを人は魔導士と呼んで敬った。



ルナはそんな類い稀なる力を持つ魔導士の一人として幼い頃からその才力を発揮した。


村中は歓喜した、そんな人間がこんな辺鄙な場所に生まれた事事態とても名誉だと。そしてそれ以上にもうあの儀をしなくて済むと。



そしてルナが齢17になるそんな時、この村をブルーオーガが襲った。
だが村長はルナがいればあの化け物も敵ではないと考えていた。
全てをその少女に託した。


ルナもその気になっていた、自分が皆を、村を守れる、敬われるべき特別な存在なのだと。




村を襲うブルーオーガの群れを見るまでは。




「そん、な。こんなに……一匹じゃ、なかったの」



例年村を襲うブルーオーガは一頭だけであった。
だが丘に村人達を逃がした後、ルナの眼前に飛び込んできたのは異様な程に淀んだオーラを纏い、青黒く強靭な体躯の化け物の群れであったのだ。
その数は優に十を越える。
ブルーオーガ一頭ですら腕に自信のあるギルド員が数人で相手になるレベルだと言われている。
いくら世界に有数の魔導士とは言え、実戦経験にも乏しい17の少女が一人でどうにかなる範疇を越えていた。



丘の上に逃げた村の民もそれを眺め途方に暮れる。
腹を痛めて産んだ娘を置き去りにしてしまった母マーゼも泣き崩れ、だが同時に自分だけ生き長らえる事が無いのだと言う事を理解し安堵していた。


もしかしたらルナならば、と言う希望とこの村はもうダメかもしれないと絶望が皆の心を支配した。



「っく、大丈夫!私は、魔導士。お願い、魔力マナよ力を貸して!水の光矢ウォーターレイ



それでもルナは諦めてはいない。
自ら操れる水の魔力、その最大を持ってブルーオーガの軍勢に放った。


ブルーオーガ達の頭上に水の矢が幾千本も降り注ぎ、その光景は圧巻だ。
丘の上でその戦場を見守る民もそんな魔力に見惚れ、同時に魔導士の力を改めて驚異だと感じていた。



「……そ、んな」


だが魔力の奔流が止んだ頃、そこにあったのは水の矢に切り刻まれた標的ではなく、何事も無かったように此方へ進行を進めようとするブルーオーガの集団であった。


腕利きの、実戦経験に長けたギルド員の中でも一部にしか知られていない事だがブルーオーガは火や水の魔力に耐性を持っている。


だがそんな事を辺境の村で育ったギルド員でもない齢17の少女が知る由もない。
ルナは自らが放った全力の魔力がそのブルーオーガ達には何の効果も無いと言う事態に他の魔力を放つ事すら頭から抜け落ちていた。
と言うより自らの魔力を大量に一度に消費した為、体が思うように動かなかった。



――ブルーオーガ達の鼓舞にも思える叫びがルナを絶望の淵へと誘った。
















「……おぃ、おいおいおい」



目の前に存在する光景に嘘だろと、内心動揺する真。
何処の国に来たのか、何時の時代なのかと思考を巡らせながら声の聞こえる所に来て視界に入るは青黒い体の大軍。


鬼とは違うがそう思えたのは目の前のその生物の異様さからだろう。
腰に鎖帷子の様な物を巻き付け、強靭なそうなその手には太剣を持ち青黒い肌色と大木の幹と見間違う程のその体躯は正常な人間が見ればそれだけで卒倒する外見だった。



真はそんな化物を前に、過去の生物兵器バイオメタトロンを脳裏に思い起こしていた。
だがその軍勢の先、林の奥に続く道を阻むように立ちふさがる少女が一人その化物と対峙するのを見てこれが危険な状態だと言う事を瞬時に理解する。


真は咄嗟に手にデバイスを持っている事を思いだし反射的にそれを起動させた。


端末起動デバイスオン戦闘状態バトルフィールド展開オープン


これでも真はアンドロイドキルラーに生身で立ち向かえる程の訓練と素質を持った数少ないフォースハッカーの実動部隊員であった。
政府が一時期アンドロイドキルラーに対抗するべく秘密裏に進めていた研究成果である生物兵器バイオメタトロンすらも相手にならなかったアンドロイドキルラーとどれだけの攻防戦を繰り返してきたか分からない。


ただ分かるのは目の前にいる化物は真にとってただ馬鹿デカイだけの生物である事に違いはないと言う事だ。



戦闘状態バトルフィールドから存在元素を瞬時に携帯端末デバイスが捕捉する。


元素一覧……N、H、O、C、Arと見慣れた元素が並ぶ。
そして、unknown1、unknown2、unknown……と端末がいくつも同じ文字列を並べフリーズした様な状態となった事に真は少しの焦りを見せた。



「おい……何だこれは」


今まで数年荒廃した日本でこのデバイスを使い戦場を潜り抜けてきたがこんな事は初めてだった。
無理な時空転移でコンピューターがイカれたか、そう思ったが悠長にそんな事を考えている余裕は無さそうだった。


気付けば眼前に迫る青黒い化物、その半数が真に気付き咆哮した。


反射的に幾度となく繰り返してきた操作を素早く行う。
元素番号6、濃度の高い中でも一番強固、そして一番素早く収束するCをいつも通りに選択。


「粒子結合……安定、カーボナイズドエッヂ」



真は収束した黒い刃を構え、加速システムを起動させた。
直後、真の姿はそこから消え失せ、再び現れた時には先程化物の軍勢と対峙していた少女の元まで飛んでいた。

真と少女、その二人を繋ぐ直線上にいた軍勢はその身を縦割りに二等分されその場に崩れ落ちる。
わずかコンマ数秒の出来事、その間に青黒い軍勢は半数にまでその数を減少させられていた。



「どうなってる。加速システムがおかしい」


真はそんな化物を切り飛ばした事よりも加速システムの異常に疑問を抱かざる負えないでいた。


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