二律背反のドッペルゲンガー

紅染 ナナキ

二人の私

いつからだろう。
自分の記憶に空白がある事に気付いた。
それは物心ついた頃だっただろうか。
「お前とはもう遊んでやらない!」
突然、よく遊んでいた近所の男の子に言われた。
わたしが驚いて
「なんで?どうしてそんな事を言うの?」
と聞けば、男の子は頬を抑えてわたしが殴ったと言うのだ。
わたしはしばらくキョトンとして、ややあってジッと自分の手を見つめた。
何かを叩いたヒリヒリ感を探して、ああ、殴ったのかもしれないと小さく頷いた。
けれど、殴った事を認めたところで、殴る理由にとんとたどり着かない。
何せ、わたしはその男の子の事を嫌いではなかった。
年上の近所のお友達が多い中、男の子は数少ない同じ年で、仲良くしたいと特別に見ていた。それは恋というにはあまりに無邪気な、幼い感情で。
ならば、悪ふざけでもしたのかと考えてみたものの、そこまで親しい関係でもないなと小首を傾げた。
隣にいるより、少し距離を置いて眺めていたい。一度満面の笑みで遊びに誘って、相手が母親の陰に隠れた事があって、急激に距離を詰めることに子供ながらに戸惑いを感じたものだ。
あんまり急じゃ、逃げられて嫌われてしまう。だから、ゆっくり時間をかけて仲良くなろう。ーーそう決めていたのだ。
わたしは。
「本当にわたしかな?」
繋がらない記憶に誰にともなく呟くと、
「お前だよ!」
と男の子と周りにいた人たちが口を揃えて怒鳴り散らした。
これは大変と思い、わたしは深々頭を下げた。
「わたしが、酷いことしてごめんなさい」
けれど、記憶がない。
後味の悪い疑問を抱え、わたしはわたしの記憶に疑問を抱いた。

それが始まり。
繋がらない記憶。
他者とすれ違う証言。
それは、わたしの知らないもう一人のわたしの存在を、くっきりと証明していくことになるのである。

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