琥珀の魔女
17.
ボーイをケヴィンがベッドに運び、エイミーに付き添ってサファイアも同じ部屋に入った。
エイミーをソファに座らせ、サファイアはボーイの状態を確認した。身体は特に問題ないと判断し、エイミーの方に行こうとした。
やっと全員の客を帰したマダムと、何故かロバートまで部屋に来た。
サファイアはまずマダムや皆に、身分を偽っていたことを謝罪した。
「ずっと、アンバーを捜していました。サファイアとして動けばまた彼女に逃げられてしまうかもしれないと思ったので、誰にも言えませんでした。再会してからも、3年前に突然姿を消した理由を未だに話してくれません。これから時間をかけて和解して、お互い納得した上で、王都に帰るつもりでいました。」
「そういうことだったのかい。」
マダムは気の毒そうに言った。
エイミーは穴があったら入りたいくらい、いっそ消えたいくらい恥ずかしくて、自分の浅はかな行いを激しく後悔した。
「本当にお騒がせしてしまい、ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。」
再び頭を下げるサファイアに、マダムは「もういいから、やめとくれ。みんな無事だし、何も壊れちゃいないよ!」と、笑って見せた。
サファイアはまだすまなそうな表情をしていたが、エイミーに声をかけた。
「大丈夫?怖い思いをさせてごめんね。どこか打ったりして痛むところはない?」
「そんな…。私の方こそ、ごめんなさい。全部、私のせいです。」
エイミーが珍しく泣きそうになっていた。
「いや。君は何も悪くないよ。誰だって、あんな風にいつも帽子で顔を隠してる怪しげな魔女がいたら、不安になるさ。」
「ドクター…」
その優しさにとうとう涙が溢れた。
「ただね、」
抱きつきそうな勢いのエイミーを牽制するようにサファイアが言葉を続けた。
「一つ、知っておいて欲しい。アンバーは自分の顔がコンプレックスだ。特に瞳のせいで、化け物扱いされたり怖がられたりすることが、幼い頃から常にあったみたいだから、好きになれないんだ。自分の顔も、能力も、全てに自信が持てない。僕の知ってる彼女はそういう人だったんだ。今は少しだけマシになったようだけどね。」
どこか寂しそうなサファイアの様子から、エイミーは告白もしていないのに、玉砕した気分だった。もう望みなどほとんどないとわかっていたが、これはトドメだった。
今でもドクターは、彼女を深く愛している。
それをこれでもかと思い知らされたのだった。
日の暮れる頃、アンバーと黒曜は揃って帰ってきた。
アンバーは、ボーイの様子を見に行き、二言三言交わして、安心したようだった。
エイミーは合わせる顔がないので厨房に隠れていた。アンバーもそちらのことはサファイアに任せておけばいいと思っていた。
「お食事の用意を致しますね。」
皆に向けて発したケヴィンの言葉にアンバーは、「私は帰るからいらないわ。」と言った。
「何故?しばらく滞在するって約束したよね?」
サファイアがつかさず歩み寄った。
「弟は無関係だった。魔術師崩れの小者だわ。もう罠を仕掛けてある。深夜になれば勝手にかかるから。」
サファイアは「本当?」と黒曜を見た。
「さぁ、私は全く気が付きませんでした。ずっと一緒にいたのに、いつの間にそんなことを?」
「向こうだってこちらをずっと監視しているのだから、あなたにも悟られないようにやったわ。」
アンバーはそのまま帰りかけた。
「ねぇ。僕は絶対に君をオトリに使うような真似はしないって何度も言ったよね?」
「それが何?私だってオトリになんてなるつもりはないわよ。」
アンバーは黒曜の方に数歩近づいた。
「今日はお疲れ様。また夜中に大きな音がするだろうけど、朝になってから確認に行けばいいわ。」
「あの、そう言われましても…」
困惑した黒曜の話を遮って、サファイアがアンバーの手をそっと握って引き寄せた。
「自分の置かれている立場がわかっていないね。万が一ここで君に逃げられたら、黒曜も僕もただでは済まないんだよ。民間人を巻き込むことを恐れているなら、3人で君の家に行っても良いけど?」
アンバーは手を振り払い、睨みつけた。
「私は弟の名を騙って人間に危害を加えようとした愚か者を捕らえずに逃げたりしない。でも、黒曜にうちの外で見張りをさせるわけにもいかないし、ここに泊まるわ。」
そして、予定されていた部屋に入って行った。
食事に降りて来ないので、ケヴィンが部屋までトレーに載せて持って行ったが、「食べたくない。」と拒否されたそうだ。
食後にサファイアは、黒曜の部屋を訪れた。
今日アンバーとどこで何をしたか詳しく話して欲しいと。
「私もお伝えしに伺うつもりでした。ただ、森の奥の泉に行っただけです。」
罠を仕掛けるような場所は通ってもいないし、夜に備えて休憩しようと言ったと。
やはり、アンバーは今夜一人で戦うつもりのようだ。
しかし、サファイアが気になったのはそちらではなかった。
「ところで、アンバーと何もなかっただろうね?彼女に触れたりしていないよね?」
「はい?」
黒曜は、一瞬何を問われているのか意味がわからなかったが、なんとなく感じ取った。
「サファイア様、誤解されては困ります。私にとってアンバー様は雲の上の存在です。そのようなご心配は無用ですよ。」
実は黒曜は女性なのだが、それはごく一部の者にしか知られていない秘密なのだ。サファイアに打ち明けるのは、なんとなく躊躇われた。
「まぁそれもそうだよね。」と暗に見下しながら、サファイアは納得することにした。
「では、話を戻そう。今からアンバーの部屋に行って、作戦会議だ。」
サファイアの提案に、黒曜は同意しかねた。
「恐れながら、私はアンバー様の行動を密かに観察するべきだと思います。」
サファイアは怪訝そうに、理由を問うた。
「アンバー様は昼間、ユシリスはかけがえのない大切な弟だとおっしゃっていましたし、ギルドは彼をどう考えているのかと気にされていました。ユシリスと通じている可能性があります。逃亡を手助けするか、ご一緒に逃げるおつもりかもしれません。」
「わかってないね、
エイミーをソファに座らせ、サファイアはボーイの状態を確認した。身体は特に問題ないと判断し、エイミーの方に行こうとした。
やっと全員の客を帰したマダムと、何故かロバートまで部屋に来た。
サファイアはまずマダムや皆に、身分を偽っていたことを謝罪した。
「ずっと、アンバーを捜していました。サファイアとして動けばまた彼女に逃げられてしまうかもしれないと思ったので、誰にも言えませんでした。再会してからも、3年前に突然姿を消した理由を未だに話してくれません。これから時間をかけて和解して、お互い納得した上で、王都に帰るつもりでいました。」
「そういうことだったのかい。」
マダムは気の毒そうに言った。
エイミーは穴があったら入りたいくらい、いっそ消えたいくらい恥ずかしくて、自分の浅はかな行いを激しく後悔した。
「本当にお騒がせしてしまい、ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。」
再び頭を下げるサファイアに、マダムは「もういいから、やめとくれ。みんな無事だし、何も壊れちゃいないよ!」と、笑って見せた。
サファイアはまだすまなそうな表情をしていたが、エイミーに声をかけた。
「大丈夫?怖い思いをさせてごめんね。どこか打ったりして痛むところはない?」
「そんな…。私の方こそ、ごめんなさい。全部、私のせいです。」
エイミーが珍しく泣きそうになっていた。
「いや。君は何も悪くないよ。誰だって、あんな風にいつも帽子で顔を隠してる怪しげな魔女がいたら、不安になるさ。」
「ドクター…」
その優しさにとうとう涙が溢れた。
「ただね、」
抱きつきそうな勢いのエイミーを牽制するようにサファイアが言葉を続けた。
「一つ、知っておいて欲しい。アンバーは自分の顔がコンプレックスだ。特に瞳のせいで、化け物扱いされたり怖がられたりすることが、幼い頃から常にあったみたいだから、好きになれないんだ。自分の顔も、能力も、全てに自信が持てない。僕の知ってる彼女はそういう人だったんだ。今は少しだけマシになったようだけどね。」
どこか寂しそうなサファイアの様子から、エイミーは告白もしていないのに、玉砕した気分だった。もう望みなどほとんどないとわかっていたが、これはトドメだった。
今でもドクターは、彼女を深く愛している。
それをこれでもかと思い知らされたのだった。
日の暮れる頃、アンバーと黒曜は揃って帰ってきた。
アンバーは、ボーイの様子を見に行き、二言三言交わして、安心したようだった。
エイミーは合わせる顔がないので厨房に隠れていた。アンバーもそちらのことはサファイアに任せておけばいいと思っていた。
「お食事の用意を致しますね。」
皆に向けて発したケヴィンの言葉にアンバーは、「私は帰るからいらないわ。」と言った。
「何故?しばらく滞在するって約束したよね?」
サファイアがつかさず歩み寄った。
「弟は無関係だった。魔術師崩れの小者だわ。もう罠を仕掛けてある。深夜になれば勝手にかかるから。」
サファイアは「本当?」と黒曜を見た。
「さぁ、私は全く気が付きませんでした。ずっと一緒にいたのに、いつの間にそんなことを?」
「向こうだってこちらをずっと監視しているのだから、あなたにも悟られないようにやったわ。」
アンバーはそのまま帰りかけた。
「ねぇ。僕は絶対に君をオトリに使うような真似はしないって何度も言ったよね?」
「それが何?私だってオトリになんてなるつもりはないわよ。」
アンバーは黒曜の方に数歩近づいた。
「今日はお疲れ様。また夜中に大きな音がするだろうけど、朝になってから確認に行けばいいわ。」
「あの、そう言われましても…」
困惑した黒曜の話を遮って、サファイアがアンバーの手をそっと握って引き寄せた。
「自分の置かれている立場がわかっていないね。万が一ここで君に逃げられたら、黒曜も僕もただでは済まないんだよ。民間人を巻き込むことを恐れているなら、3人で君の家に行っても良いけど?」
アンバーは手を振り払い、睨みつけた。
「私は弟の名を騙って人間に危害を加えようとした愚か者を捕らえずに逃げたりしない。でも、黒曜にうちの外で見張りをさせるわけにもいかないし、ここに泊まるわ。」
そして、予定されていた部屋に入って行った。
食事に降りて来ないので、ケヴィンが部屋までトレーに載せて持って行ったが、「食べたくない。」と拒否されたそうだ。
食後にサファイアは、黒曜の部屋を訪れた。
今日アンバーとどこで何をしたか詳しく話して欲しいと。
「私もお伝えしに伺うつもりでした。ただ、森の奥の泉に行っただけです。」
罠を仕掛けるような場所は通ってもいないし、夜に備えて休憩しようと言ったと。
やはり、アンバーは今夜一人で戦うつもりのようだ。
しかし、サファイアが気になったのはそちらではなかった。
「ところで、アンバーと何もなかっただろうね?彼女に触れたりしていないよね?」
「はい?」
黒曜は、一瞬何を問われているのか意味がわからなかったが、なんとなく感じ取った。
「サファイア様、誤解されては困ります。私にとってアンバー様は雲の上の存在です。そのようなご心配は無用ですよ。」
実は黒曜は女性なのだが、それはごく一部の者にしか知られていない秘密なのだ。サファイアに打ち明けるのは、なんとなく躊躇われた。
「まぁそれもそうだよね。」と暗に見下しながら、サファイアは納得することにした。
「では、話を戻そう。今からアンバーの部屋に行って、作戦会議だ。」
サファイアの提案に、黒曜は同意しかねた。
「恐れながら、私はアンバー様の行動を密かに観察するべきだと思います。」
サファイアは怪訝そうに、理由を問うた。
「アンバー様は昼間、ユシリスはかけがえのない大切な弟だとおっしゃっていましたし、ギルドは彼をどう考えているのかと気にされていました。ユシリスと通じている可能性があります。逃亡を手助けするか、ご一緒に逃げるおつもりかもしれません。」
「わかってないね、
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