琥珀の魔女

琥珀@蝶々

12.

二人が部屋から出てきたのは朝方だった。

店のソファでうたた寝をしていたマダム達はすぐに目を覚まして、状況を訊いた。

「なんとか一命は取り留めましたが、しばらくは絶対安静です。」
ドクターが冷静に答える。

「あんたも疲れたろう。部屋空いてるから、少し休んでいったら?」

マダムが親切に魔女に言ったが、
「いいえ、帰ります。」
と、大きな薬箱を下げて出て行った。



一夜が明けた日の夕刻、店に魔女が姿を現した。

「おや、いらっしゃい。」
マダムが挨拶する。

「例の方、具合はどうですか?」
小声で魔女が訊ねる。

「ドクターが診てくれてるよ。心配ないって。」

ドクターもいつもの席に座っているのだが、魔女はそちらをチラリとも見ようとしない。

「これ、薬です。必要があれば、使うように置いといてください。」

ドクターに渡せば良いのに、と思いながら、マダムは薄々二人には何かあることに勘付いているので、黙って受け取る。

「ロイヤルミルクティー、いただけます?」
カウンター席に座って、ケヴィンに注文する。

「蜂蜜は多めですか?」
「ええ。」


ガランガラン!
乱暴に戸が開かれ、この村では見慣れない、柄の悪い三人組の男が入ってきた。

「昨日ここに怪我人がきたよなあ?」

唐突に一人が言う。

「なんの話だい?怪我人なんか来ちゃいないよ。」
マダムは臆せず平静に答える。

「匿ってんのはわかってんだ!妙な真似すると痛い目見るぜ!」

別な男が言いながら、近くにあった椅子を取り上げて振りかぶる。
投げつけようとしたその瞬間、
ドンッという音がして、
「ううっ!」

呻きながら椅子を手にしていた男はもんどり打って倒れた。

魔女が攻撃したのだ。
普通、魔術師は魔法を使う場合、杖かステッキを媒介とし、呪文を唱えるものだが、彼女にはそんなもの必要ない。

「おい!どうした?」
慌てている男たちのところへ、魔女がゆっくりと近づく。

「てめぇ、この魔女!何しやがった!」
殴りかかってくる男も、拳が彼女に届く寸前で倒れた。

「どうなってやがるんだ。しっかりしろ!」

魔女はしゃがみ込み、黒緑に光る液体の入った小瓶の蓋を開ける。蒸気のような煙が上がり、男たちの目は虚ろになった。

魔女が諭すような口調で言う。
「探していた男は、路地裏で死んでいるのを確認した。上にはそう報告しなさい。」

「あの野郎は、路地裏で死んでいた。」
男たちが反復する。

「そうよ。いい子ね。この店に来たことは忘れて、ボスのところに帰りなさい。」

魔女に言われると男たちはふらふらと立ち上がり、操り人形のように店から出て行った。

その光景を見ていたのは、マダムとケヴィンとボーイと、エイミー、ロバート。もちろんドクターも。

「すごい!なに今の!?」
ボーイがはしゃいだ声を上げる。

「ちょっとした催眠術よ。」

魔女はこともなげに言って、カウンター席に戻る。

ドクター以外は皆、今見たことが理解できず、言葉を失っていた。

ロイヤルミルクティーを飲み終えると、彼女は代金を置いて帰ろうとした。

「今日はおごりでいいよ!助けてもらったから!」
マダムはそう言ったが、魔女も譲らなかった。

「口止め料です。私がおかしな催眠術を使うことを、他の人には言わないでくださいね。」

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