琥珀の魔女
8.
サファイアが帰った後、アンバーは思案していた。
この村から逃げればギルドに通報するとサファイアは言った。
ギルドとは魔術師協会のことで、かつて二人も所属し、将来の幹部候補生として期待されていた。
アンバーは正規の手続きをせずに逃亡しているので、お尋ね者になっている。
見つかれば厄介なことになる。
いや、サファイアに遭遇してしまったことで既に厄介なのだが。
この村は居心地が良い。
ボーイを助けて以来、村人から病気の相談も受け、マダムの店を通して薬も売っている。
生活にも困らないし、人々の待遇も悪くない。できることならこのままの生活を続けたいが、サファイアはどう出てくるつもりなのか。
何故まだあんなことを言うのだろう。どうして昔と変わらないキスをしてきたんだろう。
考えてもわからない。
一方のサファイアは、マダムの店でささやかな歓迎パーティーを受けていた。
エイミーをはじめ、村の若い娘たちは皆、ドクターと呼ばれるサファイアに夢中だ。
サファイアとアンバーというペアは王国中で名の知られた魔術師だが、この村の人々はドクターの素性を知らない。各地を放浪する、腕の良い医者だという認識なのだ。
娘たちは代わる代わるドクターの隣に座り、上目遣いで今回の旅の話などを聞きたがる。
いつものことだ。
サファイアは今回、とある地方の領主の館に滞在していた。
「老衰はどうすることもできない。痛みを取って、なるべく普通の生活をさせてあげるのが精一杯だったよ。最期は穏やかに息を引き取った。」
俯き加減で話すドクターに、娘たちは同情する。
「もし僕の昔の相棒がいたら、もう少し何かしてあげられることがあったかもしれないけど。」
ドクターはたまに昔の相棒の話をする。あまり多くを語らないが、口ぶりから絶対的な信頼を置いていたことがわかる。
エイミーはその度に少なからず嫉妬を感じるが、今はいない人だし、男性だと思い込んでいる。
「ところで、昨日来た魔女さんはどんな人なんだい?」
ドクターの質問に、エイミーは不快感を隠せずに言い返す。
「どんなも何も、マダム以外とは口をきかないからわからないわ。」
ドクターがマダムを見る。
「悪い魔女じゃないよ。村人の役に立ってくれてる。ドクターがいない間に、何人もの病気や怪我に効く薬をだしてくれたんだ。」
「へえ、そう。」
ドクターはしばらく考えるような素振りをして、
「僕の新しい相棒になってくれないかな。」
と呟いた。
「ダメよ!顔も見せないし、人付き合いなんて出来っこないわ!」
エイミーが即座に言う。
まわりの娘たちも、うんうんと同意を示す。
「そうかな。でも欲しい薬があってね、なかなか手に入らないものなんだけど、彼女なら何か手掛かりでも持っているかもしれないし、明日会いに行ってみよう。」
ドクターの言葉に反論しかける娘たちを制して、マダムが言った。
「この村に来て三ヶ月も経つのに、未だに謎が多い人でね、友達になってあげるのもいいんかもしれないね。」
マダムは何か勘付いているようだった。
「手懐けるのはそう簡単じゃないだろうけどね。」
そう言って微笑するドクターを見て、エイミーは嫌な予感がしていた。
この村から逃げればギルドに通報するとサファイアは言った。
ギルドとは魔術師協会のことで、かつて二人も所属し、将来の幹部候補生として期待されていた。
アンバーは正規の手続きをせずに逃亡しているので、お尋ね者になっている。
見つかれば厄介なことになる。
いや、サファイアに遭遇してしまったことで既に厄介なのだが。
この村は居心地が良い。
ボーイを助けて以来、村人から病気の相談も受け、マダムの店を通して薬も売っている。
生活にも困らないし、人々の待遇も悪くない。できることならこのままの生活を続けたいが、サファイアはどう出てくるつもりなのか。
何故まだあんなことを言うのだろう。どうして昔と変わらないキスをしてきたんだろう。
考えてもわからない。
一方のサファイアは、マダムの店でささやかな歓迎パーティーを受けていた。
エイミーをはじめ、村の若い娘たちは皆、ドクターと呼ばれるサファイアに夢中だ。
サファイアとアンバーというペアは王国中で名の知られた魔術師だが、この村の人々はドクターの素性を知らない。各地を放浪する、腕の良い医者だという認識なのだ。
娘たちは代わる代わるドクターの隣に座り、上目遣いで今回の旅の話などを聞きたがる。
いつものことだ。
サファイアは今回、とある地方の領主の館に滞在していた。
「老衰はどうすることもできない。痛みを取って、なるべく普通の生活をさせてあげるのが精一杯だったよ。最期は穏やかに息を引き取った。」
俯き加減で話すドクターに、娘たちは同情する。
「もし僕の昔の相棒がいたら、もう少し何かしてあげられることがあったかもしれないけど。」
ドクターはたまに昔の相棒の話をする。あまり多くを語らないが、口ぶりから絶対的な信頼を置いていたことがわかる。
エイミーはその度に少なからず嫉妬を感じるが、今はいない人だし、男性だと思い込んでいる。
「ところで、昨日来た魔女さんはどんな人なんだい?」
ドクターの質問に、エイミーは不快感を隠せずに言い返す。
「どんなも何も、マダム以外とは口をきかないからわからないわ。」
ドクターがマダムを見る。
「悪い魔女じゃないよ。村人の役に立ってくれてる。ドクターがいない間に、何人もの病気や怪我に効く薬をだしてくれたんだ。」
「へえ、そう。」
ドクターはしばらく考えるような素振りをして、
「僕の新しい相棒になってくれないかな。」
と呟いた。
「ダメよ!顔も見せないし、人付き合いなんて出来っこないわ!」
エイミーが即座に言う。
まわりの娘たちも、うんうんと同意を示す。
「そうかな。でも欲しい薬があってね、なかなか手に入らないものなんだけど、彼女なら何か手掛かりでも持っているかもしれないし、明日会いに行ってみよう。」
ドクターの言葉に反論しかける娘たちを制して、マダムが言った。
「この村に来て三ヶ月も経つのに、未だに謎が多い人でね、友達になってあげるのもいいんかもしれないね。」
マダムは何か勘付いているようだった。
「手懐けるのはそう簡単じゃないだろうけどね。」
そう言って微笑するドクターを見て、エイミーは嫌な予感がしていた。
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