琥珀の魔女

琥珀@蝶々

3.

「もう大丈夫よ。」
夜中に突然呼び出されたにも関わらず、魔女はいつも通りだった。
ただ手には大きな薬箱を抱えていた。部屋に入り、マダムやケヴィンたちが見守る中、脈を計ったり、服を脱がせて身体の斑点を確認した後、不思議な色をした薬を注射した。紫にも緑にも見える色だった。

「本当に、これで大丈夫なんですか?」
「何の病気だったんですか?」
ケヴィンとロバートが質問する。

「あとは、よく寝て、目覚めたらこの薬を飲ませて。できたら栄養のあるものを食べさせて。明日の朝、また来るわ。」

魔女はそう言い置いて帰った。
男の子の呼吸は先ほどまでに比べて随分ラクそうになっている。

皆 半信半疑だったが、他にどうする術もない。

ケヴィンは一晩中付き添った。母親が戻って来ることを祈って。

夜中に男の子がうっすらと目を開けた。
「大丈夫かい?これ、お薬飲めるかな?」
ケヴィンは男の子の上体を少し起こして、小瓶に入った液体を口に流し込んだ。

「お母さんは?」
返答に詰まる。
「お医者さんを呼びに、町に行っているんだ。もうすぐ帰ってくるよ。」
なんとか取り繕った。
「そう。」
また男の子は眠った。

スヤスヤと寝息をたて、額ももう先ほどまでのように熱くもなかった。


翌朝、男の子の身体にあった斑点は消えていた。まだ怠そうだが、昨夜よりはずっと良い。ケヴィンが作ったお粥を食べさせていると、魔女が来た。

男の子は魔女を見て硬直した。明らかに怖がっている。ケヴィンが取りなすように言った。

「悪い魔女じゃないよ。君に薬を持ってきてくれたんだ。」

魔女はベッドに近づき、男の子を観察した。それから脈などを確認して、毎食後に飲むようにと、いくつかの薬を置いていった。

階下に降りた魔女に、マダムは礼を言った。
「ほんとに助かったよ。もしものことがあったら、あの部屋使えなくなっちまうからね。まったく、こんな時に限ってドクターはいないんだから!」

「あの、お話があります。」
「なんだい?」

「あの子の母親、帰ってきませんでしたね。考えられることは二つ。医者を呼びに行く途中で何らかの事故か事件に遭ったか、それとも、あの子を捨てたのか。」
マダムは言葉に詰まる。
階段の途中でケヴィンも聞いていた。

「母親の居場所を捜す方法がなくもないです。もし必要があれば、見つけ出しますけど、どうします?」

事件か事故なら無事ではない。
捨てたのであれば、見つけたところで、男の子が傷つく。

親子の宿代は前金で貰っているが、マダムは捜させることにした。病気で苦しむ我が子を捨てて逃げる母親がいるとは信じられなかったし、何らかのアクシデントに遭ったのであれば、見つけて弔ってやらなければと思ったのだ。

魔女は部屋に落ちていた長い髪の毛を持ち帰り、魔法ですぐに居場所を突き止めた。彼女にはこの程度のことは朝飯前だったが、すぐには報告に行けなかった。占いが得意ではないと言ったのは嘘で、母親がどうなっているかも一緒にわかってしまったからだ。

男の子は順調に回復していった。

マダムとケヴィンは魔女に教えてもらった所に行き、生きている母親と話した。若い男と暮らしていた。子どもはいらなくなったのだと言った。

話しても無駄だと思ったし、男の子をこの女のところに返すのも可哀想だと思った。

マダムは全てを包み隠さず男の子に話した。その上で、これからはここで暮らすかと訊ねた。店の仕事を手伝いながら、学校にも行かせると言った。
男の子はすぐには状況を受け入れられないようだった。しかし、最終的にマダムの申し出を受けることにした。

男の子は母親にもらった名前を捨て、ボーイと名乗るようになった。

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