僕の中の死んだ英雄

キムチ

みんな死んだ。

――家が燃えている。

円満に運ばれていた日常を誰かが放ったビームが襲った。

家は倒壊し、先程まで誰かが生活していたとは思えない位の観るに堪えない瓦礫の藻屑となっていた。

少し口うるさい母さんと頭が良く何でも教えてくれた父さん、甘えん坊の可愛い妹、皆死んだ。

遠くから聞こえる淡い歓声と住宅街の異常な静けさが孤独を煽る。

少年の家だった何かの周りにはすぐにマスコミが押し寄せた。

齢7歳の少年にズケズケとマイクを向けて来る。『家族のいなくなった少年』新聞記事の見開きにはうってつけなのだろう。

後に語るであろう、彼等の言動は怪人のそれであった。

「あなたの家族を殺した怪人をどう思いますか?」と差し出されたマイク。

別にどうも思わなかった。それは余りにも唐突過ぎて。

「やめないか。」とヒーローがマスコミを割いてやって来た。

少年はその姿を見た時ある事を思った。そしてそれは考えを巡らせる事無くすんなりと言葉に出た。

「どうして僕の家族を助けてくれなかったの?」

ヒーローはすんなりと答えた。

「大多数を守る為には多少の犠牲が伴うのだ。」

それは何の当たり障りの無い、単調で簡潔、マニュアルに書かれた様な答え。

颯爽と背を向けてその場を去っていく。

世界が歪んで見えた。それが大粒の涙かそれ以外の何かによる物なのかは分からない。


そして、その日少年の心の中にいた英雄ヒーローは死んだ。


コメント

  • 黒沢  百合

    面白いです!
    ヒーローがどうしてそうなった経緯とか、ヴィランがなぜ匿うようになったのか楽しみです!
    頑張ってください!

    0
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