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氷室レキヤ&仁科架世

天宮春兎の実力

「って、女子じゃねえか!」
しかも、襟元のピンバッチが三日月型ってことは新入生かよ。
「何を驚いている? さっきちゃんと言っただろう」
確かに凛さんからしたら女子同性だけどさ。
「あの……」
「あぁ、すまないアリシア嬢。とりあえず、かけたまえ」
「はい」
凛さんに促された彼女は俺の対面側に座った。
「天宮君には、軽く説明しているが。今日から二人で共同生活を送ってもらう」
「異議あり」
「却下する」
ダメだ、取りつく島もない。
救いはこの子が反対してくれることだが……無理そうだな。
「〈パートナー制度〉βテストを導入するにあたって、今年からタッグ形式のランキング戦も導入する。君たちにはそのランキング戦で一位を目指してもらいたい」
「学園長」
「何かね、アリシア嬢?」
もしかして、この制度に反対して……。
「パートナーを変えて頂けますか?」
おっと、反対なのはパートナーが俺に対してか。
「天宮先輩の成績を拝見しましたが、筆記は満点ですが実技であるランキング戦の戦績は八十戦八十敗。これでは一位どころか勝ち上がることが出来ません」
成る程、もっともな意見だ。
「確かに彼の実技の成績は酷いものだ」
いや、あんたが『出るな』って言ったんだろうが。
「しかし、クリムゾン家側から出された条件をクリアできるのは彼しかいないんだよ」
「……わかりました」
不服そうなのを一切隠そうとしないお嬢様は視線をこちらに向けてくる。
「何かな?」
「せいぜい足を引っ張らないでくださいね」
「……凛さん。この子、ボコっていい?」
「天宮君。本音が漏れているぞ。あと、学園長と呼びなさい」
高飛車とまではいかないが、上からの物言い。
ただただムカつくな。
「詳しいことは後で連絡する。天宮君、彼女に学園を案内してあげなさい。それとこれを」
凛さんから投げ渡されたのはカードキー。
学園から支給されているデバイスに差し込むもののようだ。
「何ですか、これ?」
「今後、必要になるものだから目を通しておくように。それと君たちが住む寮だが学園都市の住宅地の一軒家だ。場所は各々のデバイスに位置情報を送っておく」
「そうですか、お茶ごちそうさまでした。失礼します」
「失礼いたしました」
 今度から凛さんのお茶の誘いを受けるときは慎重に行動しよう。


 一応、言われた通り学園を案内するために外に出ると、彼女の希望で個別室のある演習場にやってきた。
「着きましたよ」
「ありがとうございます。……あの、学園長室から気になっていたのですが」
「何でしょうか?」
「何故、敬語なのですか?」
「皇族に敬意を払うのは普通かと」
「先程、私をボコってよいか? と学園長に確認していた人の物言いと思えませんね」
「……確かにそうだな。あんたが気にしないなら普通に喋らせてもらおう」
「あんたでなたく、アリシアとお呼びください」
女子を下の名前で呼ぶのは慣れてないんだけどな。
何せ、ボッチだからな。
「アリシア……様?」
「アリシアです」
「……アリシア」
「わかっていただけたようですね。では、参りましょうか」
 アリシアが先導して中に入っていき、部屋を選択。
これ、案内いらなくないか?
 室内に入るとアリシアはコントロールルームに。
俺は演習ルームに入れられた。
『では、始めましょうか』
「ちょっと待て」
『何でしょうか?』
 何の疑問も持たずに促されるままスタンバイしたがどう考えてもおかしい。
「一応聞こう。今から何をするんだ?」
『簡単な戦闘テストです。何故か、先輩の戦闘ログがなかったのでランキング戦が始まる前に知っておこうかと』
そりゃあ、あるわけがない。
入学して一度も戦ってないからな。
「《紅眼》と《蒼眼》の戦闘スタイルはまったく違うのに見てもわからないだろ?」
俺たちはマナと呼ばれる特殊エネルギーを体内で生成し、それを様々な形で使う、旧人類とは全く異なる新人類だ。
《紅眼》はマナの体外コントロールが上手く、《蒼眼》は逆に体内コントロールが上手い。
そうなるとマナの使用方法が大きく異なる。
《紅眼》は魔法を使用するものが多く、《蒼眼》は身体能力を向上させて武術と組み合わせることが多い。
『見るだけですから問題ありません。それと武器は何にしますか?』
やるのは決定事項か。
「素手でいい。やるなら早くしてくれ」
『わかりました。では、まずはこれを』
アリシアがディスプレイをタッチすると演習ルームに岩でできた巨人。
ゴーレムが現れた。


 この部屋で受けたダメージは反映されないと説明会の時に言っていましたが、それでもゴーレムは少々やり過ぎですね。
攻撃速度は落ちるものの、岩の耐久力と攻撃力は並の者なら手も足もでません。
『これを倒せばいいのか?』
「はい」
出来るものならですけど。
 ゴーレムが丸太よりも太い腕を大きく振り上げる。
対して先輩は戦闘態勢に入るどころか、マナすら纏わない。
 口ではああいうもののその実、怖れているのかもしれません。
しかし、あの余裕は侮れません。
  ゴーレムの拳が先輩目掛けて真っ直ぐ向かっていく。
さぁ、その実力しっかりと見せてもらいます。
『ぐっはっ……!』
そんな私の期待は避けることも受け止めることもしなかった先輩のように吹き飛ばされた。


『先輩の実力はよくわかりました。私は先に寮へ戻っています』
 壁に激突して軽い脳震盪になっていたところに聞こえてきた第一声は何とも辛辣なものだった。
 演出のためとはいえ、勢いをつけすぎたな。
「最後まで見ていけよな」
ゴーレムは拳を突き出したポーズから動かずに固まっている。
起き上がりゴーレムを軽くつつくと粉々に砕け散った。
「これでもやり過ぎか。ランキング戦までにはもう少し抑えないとな」
 去年、凛さんがランキング戦に出るなと言った理由がよくわかる。
 ここでのダメージは現実に反映されないが、さっきみたいに痛みは普通にある。
ゴーレムだからいいものの酷いやつはショック死するレベルだ。
 遺伝子的にしかたないが、このハイスペックな体は今の俺ではもて余すな。
 時間もあるし少し制御の練習でもしておくか。

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