俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第二百二十四話 破壊の女神



 「おさまった……だけど、この暗さは一体何だ?」

 「私、見てきますね」

 がら空きになった天井を見上げて言うと、ティリアが空を飛んで様子を見に行く。ふむ、ピンクか……痛っ!?

 「どこみてるのかな?」

 「もう十分みたじゃろうに」

 ルルカとメリーヌにつねられて飛び上がるが、すぐに平静を取り戻す。

 「そういうことは言わなくていい……それにしてもまだ昼前なのにこの暗さだ。こういうことってあるのか?」

 「ないわ。というより『無かった』というべきね。ただ、300年前に一度だけあったわ」

 「それってまさか……」

 険しい顔をして俺に解説する芙蓉はコクリと頷き、続ける。俺の予想が確かなら――

 「そう、エアモルベーゼが出現していた空そのものよ」

 「やはりか……」

 俺がため息をついて呟くと、フェルゼン師匠がこっちに近づいてくるのが見えた。

 「でもよぉ、エアモルベーゼのやつは女神と成り代わっているんじゃなかったか? これがフエーゴの封印を解いたからだってんならおかしくないか?」

 確かに師匠の言うとおり、天界? にいたアウロラはエアモルベーゼとはっきり公言した今、復活するのはアウロラ本人のはず。そう思って封印を解いて回ったのだが……俺が考えていると、シュラムとクリーレン、ネーベルがこちらに来て衝撃なことを口走り始めた。

 【……土刻の、それは違うようだ、全ての封印が解けた今、私は、いや恐らく我等破壊神の力全員が感じたことだが、復活したのは間違いなくエアモルベーゼ様だ】

 「真面目に言うとアタシ達にも意味が分からない。ただ、間違いなくエアモルベーゼはこの世界のどこかに復活した」

 「どこか?」

 「そうよぉ。どこに居るのかは私達にも分からない、けどどういったらいいかしらねぇ……世界は今、エアモルベーゼ様に『包み込まれている』ような感じなのぉ。だから気配はあるけど居場所は分からないのよぉ」

 「フエーゴの封印を解いたらそこに出て来るのでは?」

 グランツがもっともな疑問を口にすると、シュラムは首を振って答える。

 【それは我々には分からぬよ。そもそも女神アウロラがエアモルベーゼ様を封印した、とそこにいる光の勇者が言っているのだろう? 我等は先に封印されたからな。だからお前達の方がくわし…――!?】

 「シュラム? ――!?」

 「これは……!?」

 話をしている途中でシュラムが突然膝をつき、ネーベルが支えようとしたところでネーベルが胸を押させて苦しみ始めた。クリーレンが頭を押さえて驚愕した声をあげた途端、声が響き渡る――


 『私の名はアウロラ……この世界の創造主……』

 「アウロラ!? やっぱり復活したのはアウロラなのね! 空が暗くなったりしているけど、どうなっているの? で、今はどこに居るの?」

 芙蓉がどこからともなく聞こえてくる声に質問を投げかける。だが、アウロラと名乗った声はそれには答えず、淡々と話を続けていた。
 
 『私はエアモルベーゼに魂を入れかえられ、破壊神として封印をされました。私は体を取り戻さねばなりません……そのために、破壊神の力を持つ者達よ、その力、回収させてもらいます』

 【うぬ……!? そういうことか……入れ替わったのは魂だけで、身体はそのままなのか……だから、天界にいるエアモルベーゼ様は我等を取りこむことができなかった……!?】

 「ぐ、うう……か、体が千切れそうだ……!? と、取りこまれたらどうなるんだい!?」

 「わ、私達人間ベースは、一気に老いて朽ちるわぁ……シュラムやグラオザムは、消滅するでしょうねぇ……ううう……」

 破壊神の力をもつ三人は苦しみのた打ち回りながら、予測と結果を口にする。確かにその通りなのだろうが、他に方法は無いのか?

 「おい、アウロラ! エアモルベーゼ相手なら俺も借りがある、こいつらを吸収しなくても協力すれば戦えるんじゃないか!」

 『……人の子……異世界からの魔王よ、エアモルベーゼを倒すには『それ』も必要です。世界の中心で待っています。勇者の子孫、そして私が最初に召喚した月島芙蓉……全ては私の元へ』

 「待ちなさいアウロラ!」

 芙蓉が叫ぶも声は聞こえなくなり、床でもがいていたシュラムが断末魔の声をあげた。

 【う、うおおお!? エアモルベーゼ様ぁぁ!】

 「おい! シュラム!?」

 フェルゼン師匠が駆けつけるが、一瞬遅くシュラムはローブだけを残し消滅してしまう。続けてネーベルがどんどん皺だらけになり床に突っ伏してボソボソと何か呟いていた。

 「そんな……さ、逆らえない……!? エアモルベーゼであってアウロラだから、なのかい……? ……アタシは……死ぬんだね……でも、妹ちゃんに似た子に会えてまんぞ――」

 「しっかりせんか! あれだけ迷惑をかけておいて死ぬなど許さぬぞ!」

 ラヴィーネが抱き起すが、ネーベルはすでに目を瞑って動かなくなっていた。クリーレンも美貌が消え、完全にお婆さんのような容姿になってため息を吐く。

 「……大人しく朽ちるしかないわねぇ……気をつけなさいねぇ……アウロラは……」

 「クリーレン! 確かに破壊神の体があれば吸収できるけど、アウロラがそれを使ったら本末転倒じゃない!?」

 膝から崩れ落ちるクリーレンを芙蓉が支えるが、崩れ去るのも時間の問題のようだった。

 「くそ、何とかならないか!?」

 <カケル様! 後30秒でエアモルベーゼの力が二人から抜けます! その直後に『魔王の慈悲』を!>

 「! そうか! 二人を並べて寝かせてくれ!」

 俺はすぐにネーベルとクリーレンの腹に手を当てその時を待つ。

 <10……9……今です!>

 「おう! 『魔王の慈悲』!」

 ブワン、と俺の両手が光り寿命を注入! あの冒険者やメリーヌに使った時と同じ感覚が伝わってくる。見た目の年齢分を使うと、二人はたちまち元の姿に戻っていった。

 「わしの時と同じじゃな。シュラムは消えてしまったが、二人は元人間だから助かったのう」

 メリーヌが感慨深く言い、俺はスキルを使うのを止める。これで二人は大丈夫――

 「二人がこれならマズイ!?」

 俺は別行動をしている爺さんを思い出す。しかし、全ての封印が解けた時点で、この運命は決まっていたのかもしれない……もしくは、これが分かっていてわざと分けたのか……





 ◆ ◇ ◆




 「やれやれ、やっと帰れるよ……」

 「ふっふ、頑張ったなクロウよ。アニスにいい土産話が出来るじゃないか」

 「まあね。カケルにも自慢してやらないと」

 村にヘルーガ教徒を案内した後、クロウ達はようやく城へ帰還するめどが出来ていた。教徒達は非戦闘員も多いため、村を荒らしたりという心配は無さそうということと、イヨルドがリンデと共に祖先して世話をするということで話がまとまっていたのが大きかった。本来なら、合流組の教徒達をユニオンがある港町まで引率する予定だったが、イヨルドがこれ以上迷惑はかけられないと早々に帰路についたと言う訳だ。

 「そろそろかのう」

 「……」

 その言葉の意味が分かるクロウは何も返さず前を歩く。アニスに何て言おう、そんなことを考えていると――

 フッ――

 【ふむ。急に空が……】

 グラオザムが言うとおり、急に空が暗くなったのだ。だが今は昼前、そんなことがあるはずもなく、夜であれば月明かりがあるはずだが文字通り漆黒の空へと変化していた。

 「これは、いかん……! クロウ、こっちへ来るのじゃ!」

 「どうしたんだいそんなに慌てて? え!?」

 【これは……エアモルベーゼ様が復活されたのか!? ち、力が……吸収される……!】

 クロウがグラオザムを見ると、四つん這いになり、何かに耐えているような感じだった。フェアレイターも片膝をつき歯を食いしばる。

 「どういうこと……師匠!」

 「むう、封印が全て解かれたようじゃ……! どういうつもりか分からんが、エアモルベーゼが我等の力を吸収しようとしている! わしでは抗えん、その前に力を!」

 フェアレイターが手を出すと、クロウは首を振って一歩下がった。

 「い、いやだ……それをしたら師匠は消えちゃうんだろ……!」

 「急ぐのじゃ! ……わしは消えてもお前の中に力は残る。良いか、まずは自分で正しいと思ったことをやれ。間違っていたなら正せばいい……」

 動かないクロウに、フェアレイターが一歩ずつクロウへ近づき――

 「泣くな。わしは元から死んでおるようなものじゃからな」

 ぽんと、クロウの頭に手を置いて撫でた。

 「う、うう……ぼ、僕は……」

 「アニスを守るのじゃろう? 男がそんなことでどうする。シャキッとせんか!」

 バン!

 「いったぁ!? ぐす……なんてことするんだ、この爺さん……」

 「ふっふ、調子が出たようじゃな。では……」

 「うん」

 フェアレイターが差し出した手を握り返すと、クロウの中に闇の力が流れ込んでくるのが分かった。同時に、デアレイターの体温が無くなっていくのも。

 「ではな――」

 「あ……」

 全ての力がクロウへ受け継がれた後、フェアレイターの体が白くなり崩れ去った。だが、その表情は穏やかだった。

 「師匠……」

 クロウがぎゅっと拳を握ると、横で苦悶の表情を浮かべるグラオザムがクロウへ声をかける。

 【く……逝ったか……人間の中ではできる男だった……私もここまでのようだな……】

 「お前も消えるのか……」

 【ふむ……! その通りだ……どうやらアウロラがエアモルベーゼ様を倒す為、我等の力を吸収するつもりらしい……天界にいるエアモルベーゼ様も助けてはくれんようだ……み、みすみす死ぬのも口惜しい……小僧、手を出せ……】

 「こ、こうかい……?」

 【そうだ。翁の闇の力となら干渉はすまい……! 我が黒き風、お前に――】

 「うわ!?」

 ブワッ!

 グラオザムが叫ぶと当時突風が巻き起こりクロウが目を瞑る。次に目を開けた時、グラオザムはマントだけを残し消えていた――

 「……勝手なことを言うなよな……なあ師匠……?」

 呟くクロウに返す言葉は無く、クロウは黙って涙を流しながら最後に一言――

 「さよなら……師匠……グラオザム」

 クロウはグラオザムのマントを肩にかけ、城へと歩きはじめるのだった。

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