俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第二百十八話 ヘルーガ教、消滅する?



 
 「派手にやったなあ」

 「えっと、カケルさんがやったことなんですけどね……」

 俺がエリンのツッコミが冴え、グランツが困った顔で笑いながら俺に尋ねてくる。

 「あまりお役に立てなくてすみませんでした。早速城へ戻ってトレーネ達を救出しましょう」

 「そうだな。あまり待たせるのも良くないし」

 するとチャーさんが俺の頭をぽんぽんと叩きながら何かを思い出したように口を開いた。

 「そうだ、フェアレイターの御仁たちを助けねば! カケルより早くこの地に着いたのだが、影人に敗北をしてしまい、怪我をしたままどこかに幽閉されているとかすかに聞いた」

 「マジか!? それを早く言え!」

 「そうだ! ファライディも表で瀕死なんだ! 助けないと!」

 「クロウ、大事なことはちゃんと言えよ!?」

 俺達は急いで屋敷から出て、まず所在が判明しているファライディから回復することにした。外に出るとすぐにファライディの姿を見ることができた。が、尻尾のあたりに人だかりができている……?

 「こら! お前達、僕が許さないって言っただろう!」

 クロウが凄い剣幕で人だかりに突っ込むと、少しびっくりして人だかりが霧散する。そこには、無惨にも皮を剥がれまくった尻尾があった。

 「うおお!? めちゃくちゃ痛そう……」

 【ガウ!? (その声は旦那!? 無事だったんですね!)】

 「おお、生きていてくれたか! 尻尾がめちゃくちゃになっているから心配したぞ!」

 【ガウガウ……(ごほ……この村、ですかね? どうも病気の人が多いみたいでして……あっしの爪は毒ですが、尻尾の皮は病気に効くんでさ……だからあっしが一回剥ぎ取って渡しました。もうあっしは持ちそうにありませんから……はは……)】

 「死にそうなのに、その辺の人間よりいいやつだなお前……まあ、俺が戻ったからにはもう大丈夫だ『還元の光』」

 パァァァァ

 いつものエフェクトが入り、ファライディが光に包まれると、どんより薄目だったファライディの瞳に光が戻る。

 【ガ、ガオオオン! (お、おお! 元通りだ! 全然痛くないし、死ぬとか考えられねぇ!)】

 「はっはっは、良かったな! 尻尾も元通りだ」

 「相変わらずガウガウしか聞こえませんね」

 「ケガどころか尻尾も治ってる……流石カケルさんだ!」

 「う、嘘……あんなドラゴンの大ケガも治るの……」

 ファライディが立ち上がって咆哮をあげるのを満足して見ていると、後ろでティリアが呆れたように笑い、グランツが暑苦しい視線を投げかけてきていた。後、知らない女の子が驚愕している。そこにクロウがハニワを持って近づいてきた。

 「次は師匠達だ。そこの人達、見慣れないおっさん三人組を見てないかな?」

 「そいつらは地下に……って、あんたら教祖様はどうした!」

 おっと、そういやヘルーガ教徒だったか、黒ローブじゃないやつらもいるからつい普通に話してしまった。すると、芙蓉が一歩前へ出てヘルーガ教徒へ話だす。

 「みなさん! 私は教祖……月島影人の妹です。彼はここに居る魔王に逆らったため、身を滅ぼしました。もうヘルーガ教に未来はありません!」

 「おいおいマジかよ……」

 「いや、そんなことを言って私達を処分するつもりね!」

 「違います! 私は――」

 と、芙蓉が言いかけたところで前へ出たのは……出たのは……あれ、この人名前なんだっけ……知らない子を庇ってた人が注目を浴びる。

 「この人は教祖の妹で間違いない! 俺が一部始終を見ていた。教祖は……ただの復讐の鬼だった。このまま一緒にいても利用されるだけで終わったと思う」

 「イヨルド! お前命惜しさに魔王についたんじゃあるまいな!」

 「俺達を見捨てたやつらに仕返しをしないと気が済まない。それが俺達が集まった理由のはずだぞイヨルド……それを否定するのか?」

 「見ろ、ウチの子を……病気で片腕を失くしまったのに、連中は私達を追いだしたんだ……」

 「俺は仕事で目が見えなくなったらお払い箱……教徒に入れてもらってなんとか食いつないでるんだ、今更裏切れるか」

 「そうだ! ちょっと食い物を盗んだだけでリンチされちゃたまんねぇよ!」

 最後のヤツは自業自得だろうが。

 さて、イヨルド(覚えた)と、芙蓉が詰め寄られたので、俺は落ち着かせようと前へ出る。

 「まあまあ、こっちも殺されかけたんでな。それと個人的に恨みがあったから……悪い」

 頭を下げると、一瞬静まり返った後に怒号が飛んだ。

 「悪いがあるかー!? 悪いよ! マジで!?」

 「お詫びと言っては何だが……あ、そこのお母さん、少しいいかな?」

 「な、何だい……」

 「なるほど、病気で腕を失くしたのか……可哀相に……」

 「そうだよ。奇妙な病気じゃないかって……みんながさ……」

 「お母さん……」

 「ああ、気持ちは分かる。だから俺が治してやる」

 「は?」

 母親が変な声をあげたが、俺は構わず男の子に『還元の光』をかけてやる。元々あった腕ならこれで治るはずだ!
  
 さっきファライディで見たエフェクトが男の子にかかり、あっという間に腕が現れた。

 「え、ええー!?」

 「動く……動くよお母さん!」

 「俺は回復の魔王カケル。制限はあるけど、ある程度なら見ての通り回復ができる。迫害されたあんた達の気持ちは分かる。だけどこれで溜飲を下げてくれないだろうか?」

 「お……おお……ま、魔王……様……!」

 「ありがとうお兄ちゃん!」

 「お、俺の目はど、どうだ!?」

 杖をついていた男が付き添いと一緒に来たのでかけてあげると、やはり目が見えるようになり、飛び上がって喜んだ。

 「うひょぉう! 魔王様ばんざーい!」

 現金な奴である。

 そうしているとあれよあれよと、押しかけてきたので俺は一旦元の目的を尋ねる。すると、先程の母親が答えてくれた。

 「おっさん連中ならその硬い建物の地下にいるわ! 本当にありがとう、魔王様」

 「マジか、みんなちょっとだけ待っててくれ。すぐに戻る! ティリア、何かあったら頼むぞ!」

 「はい!」

 元気のいい声を背中に受けながら、俺はプレハブ小屋みたいな建物へ突撃していく。簡素な建物で、まだ未完成感が漂う中、鉄格子の向こうに三人は居た。

 「おい、師匠! 爺さん! 生きてるか! ≪風刃≫」

 返事が無いのでさっさと牢を破壊し、駆け寄り『還元の光』を使う

 「う、ふあ……よく寝たな……お、カケルじゃねぇか! 元に戻ったんだな!」

 「フェルゼン師匠……無事で良かったぜ……爺さん、平気か?」

 「うぬ……正気に戻ったのか、とするとヤツは?」

 「ああ、倒した。もう帰ってくることはないと思う」

 「そうか……ごほ……」

 立ち上がろうとする爺さんが片膝をついて血を吐いた。

 「どうしたんだ!?」

 「なに、気にするな。ちょっとばかり無理をしたせいじゃろう。それよりクロウは来ておるのか?」

 「あ、ああ……大丈夫ならいいんだが……肩を貸すぞ」

 「す、すまんな……」

 「ヘルーガ教徒を待たせているんだ、すぐ戻るよ」

 俺達は地下牢を出ようと移動を始めると、後ろから声がかかった。

 【ふむ!? 私は置き去りか!?】

 「……いたの?」

 【居たわ! お前のスキルで目が覚めたのだ! ……倒したのか、あの男を】

 「さっきも言ったけど……倒したぞ。ここに居るってことは敵対したのか、悪いな」

 【ふむ、構わん。真実を確かめるために必要だったまで。これで封印をと――】

 ドゴォン!

 「なんだ!?」

 グラオザム(だっけ?)が言い終わる前に地上から爆発音が聞こえてくる。月島は確かに倒した。ヘルーガ教徒の誰かが攻撃を仕掛けてきたのか? それでもティリアや芙蓉、グランツ達が抑えられないはずもないが……
 
 「急ごうぜ、大して面白くなさそうだがな」

 フェルゼン師匠が俺に言い、それに頷いてから地下室を後にした―― 

「俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く