俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第百五十九話 村から村へ
解体ショーを見てから、俺は一人調理場へと足を運んで料理を作る。ブラックボアール一頭から取れる肉はかなりのものだったので、チャーハンとは別にもう一品作り、すっかり陽も暮れた後、夕飯の時間となった。
「うおお……これは!」
「パラッと仕上げたお米に、ふんわり卵……!」
「ブラックボアールのお肉がにんにくの香ばしい香りと共に味を引き締めている、完璧な混ぜご飯……!」
クロウ、ティリア、師匠が順番に言葉を放ち、俺特製『ブラックボアールの焦がしにんにくチャーハン』を食べ絶賛していた。
「おお、ティリアやルルカ達には迷惑かけたからな。そのお詫びだと思ってくれ、こんなもんしか用意できないのは申し訳ないが……」
「大丈夫だ! こんな美味しい料理を味わえるなら、国に帰らなくてもいい……この『しゃぶしゃぶ』という料理、気に入った! モグモグ♪」
チャーハンと一緒に作ったのは『しゃぶしゃぶ』だった。薄く切った肩ロースと白菜、キノコ類が湯の中で踊る。リファはシンプルなこっちが好きなようだった。
「それは色々とダメな発言だからな? ん? どうしたレヴナント」
「……」
ふと次はすき焼きでも……などと考えているとレヴナントの手が止まっていることに気付く。俺が声をかけると、ハッとしてしゃぶしゃぶとチャーハンをかきこむがマスク越しの目は懐かしいものを見るという感じだった。
「……なんでもないよ?」
「……」
まあ怪しいというのは元からなので気にしないが、正体について薄々感じたことがある。気付いているのは向こうもだろうが、言いださないところをみるとまだその時ではないのかもしれない。
「はあー……食べました……! お腹いっぱいです……ふにゅう……」
「ボクも美味しくいただいたよ! 仕方ないから許してあげるね♪」
テーブルに突っ伏して幸せそうな顔をするティリアと軽くウインクしてくるルルカであった。美味しく食べてくれたのなら嬉しいことは無いと思う。だが、すぐに師匠の言葉で場が凍りついた。
「確かに美味いのう。一緒に逃避行して一緒に暮らしていた時に作ってもらえばよかったかもしれんな。わしがずっと世話をしてやっていたがこれは失敗じゃったか」
「お、おい、勘違いされるようなことを言うんじゃない」
すると案の定ティリア達の耳が大きくなった。
「……ちょっとその話詳しく……昨日、抜け駆けはしないようにって言ったじゃないですか!」
「ふふん、かなり前の話じゃしそれは無理な話じゃー」
「くう……一緒に生活だと……羨ましい!」
もくもくと食べるレヴナントを除いた全員がぎゃあぎゃあと騒ぎ出したので、俺はため息をつきながら食器を片づけに入る。
「……風呂行くか」
「そうだね……」
「ふあ……吾輩は先に休ませてもらうぞ。風呂は好きじゃないからな」
「まあ猫はそういうもんだよな」
とりあえず俺とクロウは風呂へと向かった。
――ちゃぷん……
「ふう……疲れが取れるな……」
「だね……それにしてもカケルはみんなに好かれすぎてないかい?」
クロウがしみじみと俺に言う。今更ではあるが、さっきの様相と『抜け駆けしない』という言葉で色々考えるところはあったからなあ。
「そうなんだよな……でも何でだか俺にも分からないんだよ。向こうに居た時はそんなことなかったし。最初に着いた町の女の子とかもだな。あれは助けたから惚れられたってのはあるけど」
「ルルカはカケルの異世界知識が好きなだけな気もするけどね。アウロラ様がこっちの世界に送る時、彼女がいないで死んだのを不憫に思ってそういう体質にしたのかも……」
「うるさいな!? もう今はいいけど、お前くらいの歳くらいから意識し始めるんだよ女の子を」
「ふん、僕は女の子と付き合うなんてまだ考えられないよ」
「はは、そういうやつに限って、一目ぼれとかするんだぞ?」
そもそも女の子が居ないじゃないか、と、クロウは口を尖らせながらざばっと風呂から出て風呂を出てしまった。
「……いい湯だ……」
俺は一人、湯船で目を閉じた。
◆ ◇ ◆
翌日、特に村人が襲撃をしてくる! ということもなく、無事シャッテンの村を後にする。そこからさらに山へ入り、急こう配な山道を馬車が走っていく。
「≪火炎の渦≫じゃ!」
「≪大地の牙≫!」
山道で馬の足が遅く、餓えて馬を襲おうとする魔狼やロック鳥とかいう大型の怪鳥に襲われたりした。まあ、デッドリー熊さんクラスの魔物が出てこなかったのは幸いで、ルルカや師匠、俺の魔法で近づけさせる前に倒していく。
ともあれ、馬に無理をさせるわけにもいかないので、ちょくちょく休憩を挟みつつ移動していると、朝出発したにも関わらず二つ目の村へ辿り着いたのは、そろそろ日が暮れるであろうというころだった。
「遅くなりましたね。でも、この子達頑張ってくれました!」
「だな、できればこの村を通過してそのままチャーさんの村へ行きたかったが……あの魔物の猛攻を考えると山で野宿は避けた方がいいし、仕方ないか」
ティリアが餌をやりながらぶるるんと鼻を鳴らす馬の首を撫でていた。そこへ師匠がやってきて俺に話しかけてくる。
「とりあえずチャーの故郷の村は壊滅しておるのじゃろ? ミリティアに一度報告しておいたらどうじゃ?」
「そうだな、村長に聞いてみるか」
村に招き入れてくれた村長の(狐耳のおじさん)家へ行き、セフィロト装置を使わせてもらう。初めてみたけどガラスのような魔法板に、見慣れない魔法文字が書かれていて、その文字が各拠点の名前らしい。それをなぞると魔法板が輝き、シュピーゲルの町のユニオンへと接続された。
「はい! こちらアドベンチャラーズユニオン、シュピーゲル支店です! フェアの村、どうぞー」
「お、繋がった! こほん……えっと、俺はカケル。ミリティアさんは居るかな? 名前を出せば分かると思う」
「あ、お話は聞いております! マスターですね、少々お待ちください!」
これだけしか聞こえないが、元気のいい受付の女の子がミリティアさんを呼びに行き、ほどなくして戻ってくる。
「カケルさん、もうフェアの村まで行ったのですね。魔物は大丈夫でしたか?」
「ここまでは――」
と、道中のことを話しつつ、明日にはピルツ村に到着することを告げた。
「何名か人をそちらへ寄越そうかと思ったのですが、思いのほか復旧に手間取っていまして……」
「そうか……まあこっちの戦力が高いし、大丈夫だと思う。ピルツ村に到着して、装置が生きていたらまた連絡するよ」
「承知しました。お気をつけて!」
「余計な人がいるよりは安心かもね。この大盗賊レブナントちゃんに任せてください!」
「……前々から思ってたけど、お前の口調って安定しないよな」
「え、そこ!?」
そしてさらに翌日、雲行きが怪しかったので、早めに出発。チャーさんがそわそわし始めたその時、御者台に座っていた俺の鼻先にポツリと水が落ちてきた。
「……雨か。一旦休ませるか」
俺がレヴナントに止めるよう指示をしようとしたが、チャーさんに止められる。
「いや、もう少しで吾輩の村に到着するはずだ。馬には悪いがこのまま進んだ方が家で休めるぞ」
「了解、猫君を信じて進んでみよう」
雨足が強くなってきたが、前へ進む。雨が降り始めて30分ほど経ったところで、村の入り口が見えてきた。
「あれがチャーさんの村かい?」
「うむ。残念だがみな殺されているだろう……」
クロウが御者台に来て前を見る。チャーさんが項垂れるが、クロウが声をあげる。
「……誰か立ってる……?」
「ほ、本当か!? ご、ご主人……」
チャーさんがクロウの頭に乗り、同じく前を見る。俺もクロウの目線を追ってみるとそこには、黒いローブを羽織った、白い髪の少女が立っていた。
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