俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第百五十六話 出発の時

 

 ファライディの襲撃を受け、町は騒然としていた。だが、幸い人的被害はなく、建物が一部吹き飛んだ程度で済んでいた。それでも怪我人はそれなりにいたのだが、俺の回復魔法で全員全快させておいた。

 「エリアランドのドラゴンがどうしてここに……」

 後から来たティリア達が俺と合流し、戦闘の経緯を話すとレヴナントが眉をひそめて口を開く。ちなみに大盗賊のマスク姿である。

 「エリアランドで何があったのか分からないけど、ドラゴンを戦力に組み込んできているとなると厄介かもしれないね。一匹だけとは限らないし」

 「ワイバーンもいたからなあ、あの国。空からの攻撃は流石に厳しい。ティリアしか飛べないしな」

 「私なら、と言いたい所ですがブリーズドラゴンとはいえ、人が乗っていない自由な動きにはついていけないと思います」

 ティリアがすみませんと、肩を落とす。

 「いいさ、あいつがまた出たら声をかけてみる。相変わらず女好きみたいだし、近づいた所をぶん殴ったら治るだろ」

 「操られているならそれもいいかもね。僕が正気に戻れたのも、カケルの一撃と話を聞いてからだったし」

 「ま、今は話していても仕方がない。一旦宿へ戻ろう。明日から忙しくなるよ」

 レヴナントが俺の腕に自分の腕を絡ませ、歩き出す。それを見たルルカが憤慨してレヴナントを引きはがそうとしていた。

 「落ち着けお前等……というかレヴナントは別に俺に興味ないだろうに」

 「そんなことはないよ? 魔王様♪」

 「はーなれーてーよー!」

 俺達がわいわいと歩いていると、被害を逃れてクロウの肩に乗ったチャーさんがボソリと呟いた。

 「……いつもこんなに賑やかなのか……?」

 「ああ、毎日だね。慣れつつある僕も似たようなものなのかもしれないけど……」

 「なるほどクロウ少年は苦労していそうだな」

 「元のところに捨ててやろうか?」

 

 ◆ ◇ ◆



 そんなこんなで翌日――


 「では、お気をつけて! 本来なら数名護衛もつける予定でしたがドラゴンの襲撃で町の修復に手を取られそうで……」

 ミリティアさんが頭を下げるのを俺は制止して

 「大丈夫ですよ。全員腕が立つのでよほどの相手じゃない限りは勝てるかと。それよりも町の修復、頑張ってください」

 「ありがとうございます! それでは!」

 ミリティアさんが離れていくのを確認し、もはや何でも屋と化したレヴナントが馬車を走らせる。

 「それじゃ行くよ」

 「ああ、頼むよ」



 ゴトゴト……

 ミリティアさんから借りた馬車で山村へ続く道を進む。

 馬車は荷台にちょっとした屋根がついていて、雨はしのげるようになっているけど、ティリアがエルニーの港町へ置いて来た豪華なものとは雲泥の差だった。
 なお、道は広く取られていて、馬車がすれ違うことが出来る程度はあった。緩やかとはいえ傾斜があるので逸る気持ちを抑えてのんびりと進んでいる。

 「チャーさんの村までどれくらいかかるんだ?」

 「吾輩はボロボロになりながら何とかあそこまで歩いたからどれくらいかまでは分からない。すまぬ」

 「そっか……危なかったもんねチャーさん」

 ルルカが荷台に寝そべっているチャーさんの背中を撫でながら表情を曇らせていた。するとレヴナントが俺の疑問に答えてくれた。

 「えーっと出発したのが9時で、次の村に到着するのが15時前後さ。で、だいたいの村と村の距離はそれくらい離れているから、猫君の村までは三日もあれば到着すると思う」

 「……やけに詳しいのうレヴナントよ?」

 すらすらと言葉が出てくるレヴナントに師匠がポツリと呟く。

 「……ユニオンで聞いておいたからね。情報収集は盗賊の基本だと思うけど?」

 「なるほど。そういうことにしておこうか。さて、それはとりあえずいいとしてカケルよ、お主レベルは上がったのか?」

 「え? あー、師匠と別れてから一つか二つ上がっているな」

 「となると今は13くらいか。道中、魔物が出たらきっちり倒しておけ。この国の魔物は山の動物を模した魔物が多いらしくてな、見たことが無いドラゴンが飛んでいることもあって、魔物が少し凶暴化しておるらしいわ。デブリンほどではないが″デッドリー熊さん”という魔物が強いそうじゃ。倒しておけばレベルも上がるのではないか?」

 そうか、最近レベリングに関してはまったく考えてなかったな。なし崩しに戦いが起こってたからな……フォレストボアで死にかけたあのころが懐かしい。するとリファが真面目な顔で師匠へ質問をする。

 「そこはデッドリーベアでいいと思うのですが……」

 「いや、倒せば内臓以外の素材は殆ど使えるらしくてな、肉も高級食材らしい。現地民は親しみを込めてデッドリー熊さんと呼んでおるそうじゃ」

 「はあ……しかし、これは実力をつけるチャンス。カケル、私も一緒に戦わせてくれ!」

 「おお、最近強敵も増えて来たし少し鍛えておくか。ガリウスのヤツも逃したし、被害が広がる可能性を少しでも潰しておきたいしな!」

 俺とリファは荷台から左右を確認して、魔物を探す。とりあえずデッドリー熊さんでなくても魔物が出れば戦おう、そう決めていた。



 ◆ ◇ ◆



 <ゼンゼの城>


 ここは闇狼の魔王の城。

 ドラゴンが帰還し、斥候として町に入りこんでいた騎士が報告を行っていた。


 「で、なんだ? 町を攻撃しないで帰って来たってのか?」

 「いえ、冒険者共の抵抗が激しく、家屋を壊すのみに終わりました」

 「チッ、女も無しか?」

 「残念ながら。しっかり狙っていたようですが、手練れが居たようで、追い返されていました」

 「ドラゴンを追い返すような奴が町にいるのか……なら、町は止めておくぞ、村を襲え。最初に襲った村はやりすぎたから、手加減しろよ? 酒の奪取、それと人間の女は必ず連れてこい。獣人は抱きたくねえ」

 「了解です。ファライディをもう少し休ませたら向かいます。それより、イグニスタ様、あの連中は信用できますかね……?」

 城を乗っ取った人間は、エリアランドからファライディを駆って脱獄した、元副団長のイグニスタとその部下たちであった。
 報告中の騎士が言う『あの連中』とは、もちろんヘルーガ教徒。脱獄からこの国の乗っ取りまでをサポートしてくれていたのだ。

 「大丈夫だろう。あいつらは国に興味は無いみたいだし、他にやることがあるらしい。俺達は獣人共の復讐に気をつければいい。ま、それもこの城の兵士は全員操り人形にしているし、同士討ちが見物だぜ?」

 ひっひ、と嫌な笑い声を出しながらそんなことを言うイグニスタ。

 「分かりました。ヘルーガ教徒はイグニスタ様にお任せしましょう」

 騎士は一礼をして下がるのを見届けたイグニスタは玉座に座りなおす。

 「獣人共が反乱したとしてもこの力があれば……ん?」

 独り言を呟いていたイグニスタが、騎士と入れ替わりに入ってきたローブの男に気が付く。すると、男が声をかけてきた。

 「ご満悦のようですな」

 「おお、ギルドラ殿か。おかげさまでこの通りだ。そっちはどうなんだ?」

 「まだ探索は始まったばかりですからな、しばらくかかりそうです。女をご所望であれば、ウチの巫女を使いますか?」

 イグニスタはギルドラの言葉を聞いて目を細める。

 「……あの子供か? まさか子供を薦めてくるとは流石は邪教徒だな。それに巫女を差し出すとはな」

 「これは手厳しい……見る角度によってモノの見方は変わります。邪教に見えるかもしれませんが、我等は正しいことをしているのですよ。我が巫女は絶望が力の源となりますので、お好きに……」

 「ふん、まあ俺には関係ないがな。しかし暇をつぶすにはこの際構わんか……?」

 と、イグニスタが呟いた時、別の黒ローブが慌てて入ってくる。

 「騒がしいぞ」

 「ギルドラ様……」

 黒ローブが耳打ちをすると、ギルドラが怒声を浴びせていた。

 「姿が見えないだと!? ええい、探せ! 封印を解くために必要な体だぞ」

 「すでに捜索を始めています。取り急ぎお耳に入れておきたかったのです」

 「……そうか。すまぬイグニスタ殿、我が巫女が城を抜け出したようです。先程の話は保留で……」

 するとイグニスタは面白くなさそうにギルドラに言った。

 「まあいい、子供を抱くのは少し抵抗があるしな。俺は部屋に戻る」

 「ごゆっくり……」

 イグニスタが部屋へ戻るのを見届け、ギルドラが呟いた。

 「我らのおかげで力を手に入れたというのに横柄な男よ。いざとなれば生贄にするか……行くぞ、巫女を探さねば」

 「は」

 ギルドラは黒ローブを連れて外へ出て行くのだった。

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