俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第百五十五話 強襲
俺達はユニオンへ入り、受付にミリティアさんを呼んでもらうと、即座に来てくれた。何かさっきと様子が違うみたいだけど……?
「ああ! カケル様、先程はありがとうございます依頼を受けて頂いて。それとカケル様が出られた後にセフィロト通信で『女神の封印』について通達がありました」
「あ、今届いたのか?」
ニド達がアウグゼストに送ってきたことを考えると、かなりのタイムラグだ。距離が遠いと通信速度も遅い、そういうことだろう。
「ええ、セフィロトの調子があまり良くないので、遠い国へは通達が遅れるみたいです。極北のような場所だとさらにかかるかと……」
「まあ、話を聞いたなら楽に聞けるな、封印について何か知らないか?
するとミリティアさんは首を振って困ったように答えた。
「……女神様が封印されていることを知ったのはあの通信が初めてです。申し訳ありませんが、私には分かりかねます……」
なるほど、この国には女神の封印が伝わっていないのか……となると、破壊神との戦いも知っているか怪しい。とはいえ、俺達も文献や資料、そして口コミの情報しか知らないので正しいものがどれなのかはアウロラに聞くしかわからないのも事実だが。
「それは別にいいよ。でも一応調べておいてくれると助かる。魔王なら知っているだろうけど、行方不明じゃな……」
「そうですね。冒険者達にもないか怪しい建物や洞窟がないか依頼がてら探すよう伝えておきますね」
「頼む。それじゃ明日から城を目指すよ」
「分かりました……おや、その猫は?」
ミリティアさんがクロウの肩に乗っているチャーさんに気付き、首を傾げる。おっぱいも揺れる。
「宿へ向かう途中拾ったんだ」
「にゃー」
「そうですか! 猫を連れて歩いていれば、少し町や村の人の印象が良くなるかもしれないのでいいかもしれません。その猫は『プラチナキャット』と言って、この国以外だと高額になるくらい人気の種類なんですよ。懐くことがあまりないから珍しいですね。それでは明日、出発前にユニオンへお願いします」
「ああ……ちなみに売るといくらくらいになるんだ……?」
「そうですね。外国だと100万セラは行くんじゃないでしょうか? 昔、その猫の密輸をしようとした冒険者が相当摘発されましたしね。もしかしたら盗賊何かに狙われるかもしれませんけど、魔王様なら大丈夫ですよね」
そうだね。と、適当な相槌をしながら、俺達はユニオンの外へ出る。するとクロウがぎゅっとチャーさんを抱きしめた。
「……どうしたのだ少年」
「僕はクロウだ。あんな話を聞いて、ほいほいと晒すわけにはいかないだろ? お金の話だけにおっかねー……」
100万セラという金額に恐怖したのか、急に大事に扱いだす。それが不服なのか、クロウの手を抜けて師匠の元へ飛んだ。
「まあ子供には100万セラは大金じゃからな、無理もない」
「大人でも大金だからな? これだから貴族は……」
俺がチャーさんの首をごろごろしている師匠にツッコミを入れていると、空が一瞬翳った。
「何だ……?」
「あれは……! フー!」
上空を旋回していたのは……ドラゴンだった! もしかしてあれが城や村を襲ったってやつか!? こっちに来るか! 俺が槍を取り出して構えると、ユニオンから冒険者が、町の人は一斉に家の中へと入っていく。
「ゴォァァァァ!!」
空高くいたと思ったらあっというまに急降下し、建物の屋根がいくつか吹き飛に、再びドラゴンは空へと戻りホバリングを始めた。空中相手は分が悪いか……! でも何か見たことがあるような……?
「ナルレア!」
<出番ですね! 何を上げますか?>
「『速』と『魔』で頼む! 魔法で撃ち落してから地上で叩く」
<はいはーい>
「わしも加勢しよう。冒険者も臨戦態勢に入ったぞ」
師匠が空を見ながら呟くと、弓を構えた冒険者が一斉に射落としにかかる。俺とクロウ、そして師匠は散開してドラゴンの攻撃に備えた。
「わしを狙ってきたか!」
「師匠!」
「問題ないわい≪嵐牙斬≫」
ッガァァァァ!!
師匠の魔法でドラゴンは後退。再び空へ戻ると、犬耳獣人の女の子へ襲いかかる!
「おっと! 簡単には当たらないわよ!」
「斬れ斬れ! うわ!?」
ゴァァァ!
地上に降りたところを冒険者達が攻撃を仕掛けるも、ブワっと体全体を回し、翼を叩きつけて冒険者を吹き飛ばした。そしてまた女の子や師匠へ向かっていく。
「……あのドラゴン、女の子ばかり狙ってないか……?」
「そうだね。こっちにはまったく来ないんだけど……」
「何をしている! 早く倒さねばみなが危ないぞ!」
チャーさんが俺の背中で叫ぶ。
「ま、その通りだな。来ないならこっちから行くまで! ≪炎弾≫!」
ギャァァァォ!?
師匠を狙って降下して来た所で、師匠の前に立ちはだかり、顔面に炎の塊をぶつける。俺の魔力ならかなり痛いはずだ! そのまま槍で追撃しようとしたところで気付く。
「その顔……!? お前、もしかしてファライディか!?」
「それって僕達が乗ってたドラゴン……!? そう言われればあの顔はそんな気がする……」
クロウが驚いて俺を見るが、ファライディの攻撃でクロウに答える余裕が無かった。
ギャォォォォ!!
「くっ……!?」
俺の叫びには応えず、咆哮を上げて爪で攻撃を仕掛けてくる。ドラゴンだけあって一撃が重い……!
「今よ! かかれぇ!!」
ミリティアさんが号令をかけ、俺と戦うファライディに襲いかかる冒険者達。しばらく地上で暴れまわっていたが、分が悪いと踏んだのか急上昇して俺達を睨みつけていた。
「グルゥゥゥ……」
「やっぱりそうだ! おい、ファライディ! 一体どうしたってんだ!?」
俺が叫ぶも威嚇してくるばかりで話にならない。前は声が聞こえていたのに!
ピュルルルルル……
するとどこかから笛のような音が聞こえ、ファライディはいずこかへ飛び去った。
「あ、こら待て! ……あっちは……」
「吾輩の村がある方角……城もあるな」
チャーさんが見上げながら呟く。そこに師匠とクロウがやってきた。
「大丈夫かカケルよ。それとあのドラゴン、知っておるのか?」
それにはクロウが答えてくれた。
「エリアランドで、封印のある山まで乗せてもらったことがあるドラゴンなんだ。あんなに凶暴じゃなかったんだけど……」
「声も聞こえなかったから偽物だと言われてもそんな気はするが……あれは間違いなくファライディだった。笛の音……何か操られているんじゃないか?」
「……かもしれん。魔物を操る術の一つや二つ、あってもおかしくないからのう」
「一体何が起きてるんだ……」
俺はファライディが去って行った空を見上げながら呟いた。
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