俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第百二十一話 怪しげな洞窟へ!



 「ガアガア(やれやれ助かったわい……持つべきものは愛すべき弟子じゃな)」

 「ガア(あ、初めまして。カケルさんの奥さんのルルカです)」

 「ガ……?(何……?)」

 「グエ(嘘はやめたほうがいいと思うけどね……僕はクロウ。カケルに倒されてついてきたデヴァイン教の神官だ)」

 「ガア!?(何と!? 聞きたいことはあるが、今はその時ではないか……)」


 「……何と言っているんですか?」

 「気にするな、ただの自己紹介だ」

 村長達の話を聞いた後、俺達はアヒルを檻から解放するように指示し、今ようやくメリーヌ師匠と合流を果たした。檻は二つあり、一つの檻に冒険者をおしこめていたようで、ぞろぞろとアヒルが俺達の足元に集まり、ガアガア鳴いていた。

 「さて、それじゃどうする? 全員で乗り込むかい?」

 レヴナントがそう言うが、俺は顎に手を当てて返す。

 「流石にアヒル状態のルルカや師匠を連れて行くわけにはと思っているんだ。村に置いておけないかな?」

 「一応、村長は味方になったがまだ信用するには難しいんじゃないか? 誰かがここに残るというなら話は別だが……」

 「正体が気になりますし、私は行きたいですね」

 リファとティリアがそれぞれ口を開くと、レヴナントが分かったと言い放つ。

 「ならわたしが残ろう。これでも大盗賊だ、戦闘力はカケルの知っての通りだし、メリーヌ女史をここに連れてきたのは私だ。だから彼女達を守るのは役目だろうさ」

 「悪いが頼めるか? できるだけ早く戻ってくる」

 「グエ(無理をするんじゃないぞ。カケルにはアヒル化が効くかもしれないし)」

 クロウが俺の足を羽で叩きながらそんなことを言う。ルルカ程ショックを受けていなかったのか、結構冷静だった。

 「分かってるよ。お前も夕飯にされないよう気を付けるんだぞ」

 「グエ……(嫌なことを言うなよ……)」

 「ガア(ごめんねボク達のせいで)」

 「まあ成り行きだ。ここで馬脚を現してくれたから、というのもあるしな」

 「ガ(すまんがこの体では魔法もロクに使えん。わしと別れた後、どうしていたかをこやつらに聞きながら待つわい)」

 がっくりしているルルカに俺の姿を見て少し安堵したのか、余裕が出てきた師匠。今はまだ夜だけど、奇襲をかけるなら今だ。

 「そうしてくれ。ティリア、リファ、行こう」

 「ああ!」

 「ええ!」




 ◆ ◇ ◆



 レヴナントとルルカ、クロウ、師匠と冒険者(であろう)アヒルたちは万が一と安全のため宿へ入ったのを見届け、俺達三人は夜の草原を歩いていた。

 「月は出ていますからそれほど暗くないですね」

 「ああ、ランタンをつけたら魔物が寄ってきそうだし助かるな」

 雨でも降ったら厄介だろうが、この空模様なら問題は無さそうだ。しかし、魔物が多くなっているという言葉をすぐに実感することになる。



 「またか!? 洞窟に到着するまで体力が残るか?」

 「せい! ……これで終わりのようだな。死体はそのままでいいな、他の魔物の餌にしておこう」

 「そうですね。少し空から探ってみます」

 蛇型の魔物の群れを一掃した俺達。

 村から出て一時間ほどだが、これでもう五回は襲われている。この草原、見わたしが良いのと同時に、身を隠す場所があまりないのも悪影響を及ぼしている。そんな中、ティリアが空を飛び偵察を買って出てくれた。
  
 「カケルさん、もう少し歩くと山のようになっている場所があります。暗くてここからじゃ見えませんが、恐らく入り口があるみたいですよ」

 「ありがとうティリア。そのまま飛んで案内してくれるか? 魔物がいたら教えてくれれば先制する」

 「分かりました!」

 と、三人になって心もとない戦力を(魔王は二人いるけど)誤魔化しながら突き進むと、ティリアの言っていた場所へ辿り着いた。

 「……ランタンを、と」

 「カケルはそのまま持っていてくれるか? 洞窟内なら槍より剣がいいと思う。だから戦闘は私に任せてくれ! お嬢様は私達の後ろに」

 何となく出番になったのが嬉しいのか、ふんすと鼻息を出しながらリファが俺の横に立つ。少し降りたところで俺は周囲を見て呟いた。

 「ここは……鍾乳洞か。水が多いな、気をつけろ足を滑らせたら落ちるぞ」

 つらら状になっている岩が見え、足元には小さい水たまりやちょっと深めだと思われる池もあった。魔物が潜んでいてもおかしくないからここは慎重に行きたい。しばらく歩くとティリアが口を開いた。

 「……そういえば、アヒルにされる条件が食事か水をかけられてなった、と言っていましたね。もしかしてここの水は危ないんじゃないでしょうか?」

 「さすがにそれは無いと思いたいが……だけど用心はした方がいいか。足元、気をつけろよ」

 「ああ、アヒルは勘弁――」

 リファが言いかけたところで剣を抜き、一歩先へ進んで横に振るう!

 ザシュ!

 ギャァァァァ!?

 「手ごたえあり! こいつは……ゴブリン? まだいるのか」

 ゲゲゲゲ……!

 ゴアアアアア!


 「リファ!」

 「大丈夫だ!」

 バサバサと斬り、さらにゴブリン二体の死体ができあがる。ユリム達が捕まっていたのも洞窟だったし、ゴブリンの巣になっているのかもしれないな。

 「お、さすがだなリファ」

 「ははは! もっと褒めてくれ! 父や兄上以外に褒められることは滅多にないから嬉しいぞ!」

 剣は鞘に納めず、俺に笑いかけたあと進み始める。それを追って俺達も歩き出すと、ティリアが俺の手を引っ張って言う。

 「村長の話は罠だったのでしょうか? ゴブリンの巣窟で薬を作るとは思えないのですが……」

 「たまたまかもしれないし、これだけじゃ分からん。奥へ行ってみよう」


 さらに奥へ進むと、だんだん天井が広くなっていった。

 道中はやはりゴブリンが徘徊しており、リファがバッタバッタとなぎ倒す様子を後ろで見ていたが、道が複数に分かれているドーム状の部屋で俺はあることに気付く。

 「この辺の壁……人工的に加工されているな、やっぱりここに魔法使いとやらが潜伏しているのは間違いなさそうだ」

 「良かったです……ルルカ達を元に戻してもらわないと」

 壁は削った後があり、明らかに人の手によって拡張されている。床は変わっていないので、相変わらず水たまりがちらほら見えた。

 「よし、この調子で悪い魔法使いを懲らしめよう! どの道から探す?」

 と、先に進んでいたリファが俺達を振り返ったその時だ!

 ギャギャギャ!

 「リファ、後ろです!」

 「え!? ……この! あ!?」

 ギャァァァ……

 ザブン!

 ティリアの言葉でゴブリンを倒すことに成功したリファ。だが、その身体は水たまりへと落ちたようで、水しぶきの音が鳴った!

 「リファ!」

 「だ、大丈夫ですか!」

 俺達が水たまりに駆けよると……

 プカリ……

 「ガ」

 アヒルが一羽、浮いて来たのだった。

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