俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第百十六話 航海、二日目のルルカ
ミャー……ミャー……
「んあ……? 眩しいな……カーテン締め忘れたっけ……? なんか鳴き声がするな……」
俺は眩しさで目を覚まし、うっすらと目を開ける。すると、船の縁に白い鳥が羽を休めており、慌てて身を起こす。
「やべ!? 甲板でそのまま寝ちまったのか!?」
削夜……もとい昨夜レヴナントと話した後、寝転がって星を見ていたのだが、そのまま寝てしまったらしい。特に冷え込むといったこともなく快適だったせいだろう。
「よっと……!」
「おう、兄ちゃん起きたか。よー寝てたな」
起き上がって部屋に戻ろうとすると、小柄な爺さんに話しかけられた。赤と白の縞模様をしたシャツに赤いバンダナと、海賊って感じの服を着ていた。
「ああ、あんまり気持ちよくて……爺さんは? そういや、いつの間にか人が増えているな」
「カッカッカ! 全員で休んでおったのが一気に出て来たから驚いたろ? ワシはロウベじゃよろしくな兄ちゃん」
爺さん、ロウベさんが俺に握手を求めてきたので、握り返しながら自己紹介をする。
「俺はカケルだ。好きに呼んでくれ」
「そうか、ならカケルと呼ばせてもらうわい。さて、今から全力で飛ばすから酔わんようにな! カッカッカ、またのー」
ロウベさんは手を振りながらマスト付近へと歩いて行った。せわしなく人が動いているので、ここに立っていたら邪魔になりそうだ。予定通り、俺は部屋へと戻るため階段を降りていく。
すると今度は娯楽室でルルカに会った。
「あー! カケルさん見っけ! どこ行ってたの? 部屋に行ったらいないし、探してたんだよ」
「ちょっと甲板にな。俺を探していたってどうして?」
うっかり寝てしまったことは伏せ、俺はルルカに探していた理由を尋ねると、今まで保留にしていたことを言ってきた。
「三日、いや、もう二日かな。船の上だし、魔物もそう出て来るとも思えないからね。異世界のお話を聞かせてもらおうと思って!」
「そういやそんな話をしていたな。いいぞ、暇だし。ティリアとリファは?」
「むー。ボクとだけじゃ嫌なのかな? ……というのは冗談で、お嬢様はぐっすり気持ち良さそうに寝てて、リファは食べすぎでダウン、ってとこ」
あはは、と困り顔で笑うルルカは元気そうだった。
「ルルカは元気なんだな? 酒は飲んでたろ?」
「ボクは実験と称して色々やってるからね。お酒なんかも飲むからあの二人より全然耐性があるよ。というわけでカケルさんの部屋へゴー♪」
「俺の部屋でいいのか……?」
ルルカは俺の腕を引っ張り、上機嫌で廊下を歩き、すぐに部屋へと辿り着いた。
「……そういや教徒達の姿も見えないな」
レオッタは自業自得なので気にしないが、クロウの様子がおかしかった(面白いと言う意味で)ので部屋を覗いておく。
「……いるか、クロウ……?」
部屋に入ると、ベッドでクロウが寝ているのが見えた。
「この様子だとしばらく起きないか、ま、ベッドにいるならいいかな」
ただ、気持ち悪いくらいまっすぐ不動で寝ているので、息はしているものの不安になる寝方だった。まあ何かあったら言ってくるだろうとルルカと共に俺の部屋に入る。
「で、何を聞きたいんだ?」
「んー、そうだねえ。カケルさんの世界ってどんなところだったか聞きたいかな!」
ルルカがボフっとベッドへダイブしパンツが見える。無防備だ……襲われるとか思わないのだろうか……。それはそれとして、ルルカに日本のことを話す。
人口や、食べ物、仕事のことや、動物はいるけど魔物はいないといった違いに、電気やガス、通信といったインフラ関連など様々な話を。特に自動車や自転車、テレビの食いつきは凄かった。そして唯一持ち込んでいた電化製品、スマホをポケットから取り出す。
「……これが電話だ」
「へえー。これがあれば遠くの人と話すことができるんだ? あの時誰かと話していなかった?」
「そうだな。あの時は……いや、音がしただけだった。もう一つ必要だけど、例えばバウムさんに持ってもらっていたら、遠いエリアランドにいても話ができるんだよ」
アウロラのことは伏せておき、スマホの説明をする。一応、写真を見たり、音楽は聞けるので色々操作をしてやると、目を輝かせて見ていた。そういえば電池が減らないな? 電池マーク、こんなんだったっけ?
微妙に電池マークが違う気がするけど暇つぶしにはなるから使えなくなるまでいいか。そんなことを考えているとルルカがスマホに手を伸ばした。
「すごい……! ちょっと持ってもいい?」
「ああ」
俺はスマホを手渡すとしげしげと見つめながらぶつぶつ言う。
「……なるほど、鉄、もしくはもっと軽い金属ね……この世界だとセフィロトが近い? なら、セフィロトの通信装置を小型化すれば……」
顎に手を当てて呟くルルカは賢者の顔をしていた。キリっとしていると恐らくかなりモテそうである。
「……? どうしたの? ……ははあ、ボクにみとれていたのかな?」
「んー、まあそんな感じだ」
ニヤリと笑うルルカにそう言うと、顔を真っ赤にして俯いた。
「うーん……カケルさんってずるいよね……急にそういうこと言うんだから」
「ははは、からかわれたお返しだ。というかまたパンツ見えてるぞ……お前無防備だから気をつけろよ?」
「別にカケルさんならいいけどね。というか、ちゃんとそういうの見ている割には襲ってきたりしないから、信用してるんだよ?」
「そりゃ、どうも。ま、好きな相手にとっとけって」
何と返したもんかと、話を終わらせる感じの言葉を言いながら俺は椅子に背を預けた。しかし、ルルカはじっと俺を見ながら何かを思案しているようだった。
しばらく見つめ合っていると、ルルカが口を開いた。
「ボクはね、好きとか嫌い……恋愛感情っていうのが良く分からないんだよ。この人がダメ、とかそういうのはあるんだけど、いくらみんながカッコいいっていう人を見てもボクは何の興味も湧かない。それよりも面白い知識の方が全然いいね」
「そういう人もいるからそれはそれでいいんじゃないか?」
しかし以外にもルルカは首を振った。
「そういうわけにいかないよ! 恋愛感情がどういうものか、是非知りたい! ボクの知識に加えたいね。でもこればかりはねえ……」
「こればっかりはルルカ次第だもんな」
「ううん、そうじゃないんだ。多分、ボクの両親が関係している。ボクの両親は仲があまりよろしくなくてさ。小さい頃はいっつも喧嘩ばっかりしているのを見ていたよ。そんなに嫌いあっているなら何でボクを産んだのかって思ってた。そういうのを見ているから、もしかしたらどこかで恋愛をしたくないと思ってるのかもしれないね」
で、ルルカは実家から逃げるように学校へ入ったそうだ。魔力が高かったから。特待生として授業料も安くなったのがきっかけだったとか。
「学校は楽しかったよ。リファとはそこで知り合って、城で働けるようになったって訳。賢者は少数だからそれなりに優遇されてきたんだよ♪」
「へえ……」
「言い寄ってきた男の人もいたけど、一緒にいて楽しく無かったね。ボク、恋愛は分からないけど、子供は欲しいんだよね。ボクの記憶と技術を後世まで継いでいきたい。でも頭のいい人じゃないと嫌かなあ」
チラリと俺を見てほくそ笑むルルカ。またからかっているようだ。
「俺は頭が良くないからな、残念だ」
「んふふー、これが好きってことなのかどうかは分からないけど、今はカケルさんならいいかなって思ってるよ? ……試してみる……?」
何だか熱っぽい視線を投げかけてくるルルカだが、俺は俺で思う所がある。
「……風呂での話を聞いていたと思うけど、ウチはウチで最悪だったからな。子供をつくりたいと思わないんだよ」
「……そっか。んー残念! ボクと逆かあ!」
ベッドから降りて背伸びをするルルカの顔は妙に晴れやかだった。
「悪いな」
「悪くは無いよ! や、でもそう考えたら、カケルさんに子供が欲しいと思わせるのも面白い実験かもしれない……!」
何やら不穏なことをぶつぶつと言い始めるルルカ。
「おい……」
「あはは、なんてね! でも、気が向いたらボクはいつでもいいからね?」
「はあ……考え無しに言うな。それでも賢者か?」
「もちろん! それじゃ、そろそろお昼だし、二人を起こしてくるよ。それから、リファとも話してあげてね!」
「あ、おい」
「また後でね!」
何故か慌てて外へ出ていった。そんなに急がなくてもいいだろうに……何だってんだ……?
◆ ◇ ◆
「はあー……」
ルルカは少し廊下を走った所で息を吐いた。その表情は嬉しいような、悲しいような複雑な表情だった。
「カケルさんに拒否された時、胸が痛いって感じた……もしかしてボク、意外とショックだった? やっぱりカケルさんは面白いね。ボクの恋愛感情……手伝ってもらおうかな……?」
にまっと笑い、頭で色々と策を考える。
「向こうに着いたら夫婦の設定だし、楽しくなるかも……あ、その前にスマホを考えようっと。レヴナントさん、ガラクタとか持ってないかなあ。ユニオンに行って調達を……その前にセフィロトの仕組みを見せてもらいたい……」
ぶつぶつと呟きながらルルカは廊下を歩く。やはりまだまだ恋愛よりも研究の方が勝っているようであったとさ。
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