俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第百十話 また会う日まで
【ガウガウ(降りますぜー)】
出発よりも帰宅の方が早く感じるのは何故なのだろう? とか思いながらワイバーンの宿舎へと辿り着き、無事に城へ帰る事ができた。
俺達の帰還にいち早く気付いたらしいクリューゲルが厩舎で待っていた。
「戻ったか! 無事で何よりだ……そいつらが?」
「ああ、デヴァイン教の教徒だ。まあ、被害者でもあるかもしれない。国王とクリューゲルに伝えておきたいことがあるんだが会えるかな?」
「この国を救ってくれた魔王殿と会えないことなどあろうか! すぐ伝えてこよう、とりあえず謁見の間へ行こう」
クリューゲルが歩き出し、それい俺達もついていく。横に並んできたティリアが声をかけてきた。
「話した後は出発を?」
「ああ、ティリア達はどうする? リファを連れて国へ戻るか?」
「そうですね……ことがことだけに知らせておいた方がいいかもしれません。ルルカとリファだけでも帰ってもらい、報告してもらうのがいいかと思っています」
「オッケー、ティリア達のことは任せるよ。後は俺のお願いを聞いてもらえるかどうかだな……」
「お願いですか?」
「移動手段のことさ」
そうこうしている内に謁見の間へ到着し、クリューゲルはハインツ国王を呼びに行き、程なくして国王を連れて戻ってきた。
「やあ、待たせたかね」
「いえ、それよりも封印について話しておきたいことがあります――」
俺はクロウ達デヴァイン教のこと、アウロラの封印のこと、そして解かれてしまった封印から破壊神の力の一部が化身として復活し、逃げられたことを告げる。俺達の帰還に破顔していたハインツ国王とクリューゲルの顔が曇るのがハッキリと分かった。
「う、うーむ……これは世界の存続に関わるレベルの話ではないか……」
「ま、魔王様達が勝てないとなるとどうしようもない!?」
「レベル差はあるけど勝てない相手じゃないんだ。現に追い払うことはできたからな」
いつもならここでツッコミを入れてくるであるナルレアは出てこない。話しかけてみたがまったく反応が無かったので、消耗は激しかったに違いない。そこでリファが口を開く。
「バウム殿も修行をするようなことをおっしゃっていたし、カケルが居れば一時的にでも五分かそれ以上で戦えます。他力というのが悔しいですが、まだ諦めるには早いと思います」
「リファル王女……そうだな、嘆いていても始まらん。我々もできることをやろう。報告、感謝しますぞ。この後はどちらへ?」
「俺達はこのデヴァイン教徒と一緒にアウグゼストへ行こうと思っています。聖女に神託についてと、封印、それとこの城の地下にあった文献について確認したいことがあって」
俺はハインツ国王に文献を手渡すと、パラパラとめくり俺に返してくれた。
「……確かに城にあったものだ。私も若い頃見たことがあるが、気にも止めていなかったな……いつからあるのかも知らない。これは君が持っていた方が良さそうだ、持って行ってくれ。すぐに出発するかね?」
「ありがとうございます。できればそうしたいところですが……」
「何かお礼をしたい、と思っておるのだ。パーティでも、といきたいところだが、私が操られていてこのような状態になってしまったのでそれは自粛してくれとクリューゲルに怒られてしまったところだ」
はっはっはと笑うハインツ国王へ、俺はお礼について進言する。さっきティリアにも話したことだが移動手段について、ドラゴンかワイバーンを借りれないかを聞きたかったのだ。
「ハインツ王、でしたらファライディをお借りすることはできますか? もしくはワイバーンでもいいんですが……」
するとクリューゲルが俺に答えてくれた。
「……すまない、ドラゴンとワイバーンはこの国から出ることができない。故に貸すことができないのだ……」
あ、そうなのか。何か事情があるのかと思っていたらハインツ国王が理由について話しだした。
「ワイバーンとドラゴンは我が国が唯一、飼育と数を増やすことに成功した国なのだ。特にドラゴンは人に慣れることが滅多にない。他国で捕獲される恐れもあるし、他国を飛び回るのはその国にとっても安心はできまい。攻めて来たのかと思われてしまうからな」
なるほどな、まあ機密情報みたいなものと考えれば難しいか……。
「分かりました。すいません無理なお願いごとを」
「いや、こちらこそ恩人に報いることができず申し訳ない……お金なら用意できる。それで構わないだろうか?」
「それでも助かりますよ。であれば船でいど……あ!?」
「どうしたのカケルさん?」
ルルカが急に立ち上がった俺にびっくりしながら聞いてくる。俺は船で一つ思い出したことがあったからだ。
「船! フエーゴ行きの船! 一週間後に出発じゃなかったっけ!?」
「あ!? う、うーん、でもアウグゼストに行くならフエーゴ経由じゃなくてボク達の国から経由する必要があるし、もういいんじゃないかな?」
「ちょっと勿体ない気もするが……フエーゴから行けないんじゃ仕方ないか……」
「そういえばすっかり忘れていました。バウムさんに会うだけのつもりでしたから」
ティリアがお茶を飲みながら仕方ありませんと言い、リファもまあ船の運賃くらいいいじゃないかと軽い感じだった。日本人はこういうのを勿体ないと思うんだよ……セレブ達め……。
「ははは、私達を助けてくれたんだ、船賃以上の金額は用意するよ。すぐ出発するのかな?」
ハインツ国王が俺のガッカリ具合を気にしてくれたのかウインクをして笑いながらそんなことを言ってくれる。すいません、貧乏性なもので……。
その後、すぐに資金が用意され(50万セラも!)俺達は旅立つことに。その前に、と俺はドラゴンの宿舎へやってきていた。
「よう、ファライディ」
【ガオウ(あ、旦那。どうしました? またどこかへ行きますか! 旦那の傍にはキレイどころが多いから大歓迎ですぜ!)】
うん、欲望に忠実なドラゴンだ。ラノベとかで人化するドラゴンとかいるけど、こいつが人化したらチャラ男になることうけあいだな。
「はは、まあまたいつかだな。俺達はこのまま出発するよ、お前には色々世話になったから礼だけ言いにきたんだ」
【ガ、ガウウ!?(な、何ですって!? このままこの国いるとばかり……旦那なら話も分かるし……)】
「俺は冒険者だしな。お前を借りれないか頼んだけどダメだった。また遊びに来るよ、元気でな」
【ガオウオオン!(寂しいっす! ……でも仕方ないですね……旦那を乗せて国王を助けた話はドラゴンやワイバーンに聞かせて語り草にさせてもらいます!)】
「ほどほどにな? あまり美化させるんじゃないぞー」
【ガウ!(っす! 短い間でしたけど楽しかったです! またこの国に来たときは顔を見せてくださいよ! 女の子と一緒に!)】
結局そこかよ、と俺は苦笑しながら手を振って厩舎を後にした。後ろからガオオン! と、ドラゴン達が見送ってくれたようだ。
厩舎から出ると、今度はシエラが待っていた。
「行くの?」
「ああ、良かったな国王とクリューゲルが帰ってきて」
「……そうね、廊下で会った時はどうなるかと思ったけど、流石は魔王様ってところかしら?」
「そこはあまり関係ないって。クリューゲルと仲良くな」
「い、言われなくたってそうするわよ! お父様から聞いたけど、気を付けてよね? 破壊神なんておとぎ話かと思ってたけど本当にいたなんてね」
腕を組みながらそんなことを言うシエラに肩を竦めて俺は言う。
「……シエラはおとぎ話、そう思っていたんだな?」
「え? ええ、破壊神ってそれほど有名じゃないわよ? ヘルーガ教が勝手に作り出した偶像神だって話もあったくらいだし」
やっぱり妙だな……破壊神についての情報がバラバラすぎる。これは偶然か? いずれにせよ聖女に話を聞くのが早そうだ。
「それじゃまたな。クリューゲルとの結婚式は呼んでくれよ!」
「あ、あんたねぇ……分かったわ、そっちも死ぬんじゃないわよ!」
そして城を後にした俺はクリューゲルの屋敷へと向かった。ティリアの馬車を置いているので、そこでみんなが待っているからだ。
「あ、戻ってきたよ、カケルさーんこっちこっち!」
「……やっと帰ってきた……」
何故か疲れた顔をしたルルカとクロウが屋敷で出迎えてくれた。その後ろにネコミミが見える。あれは……
「あれ? チェル?」
「ご主人様! 奥様に聞きましたよ、この国を出ていくんですか!?」
お、奥様……? なんだそれと思っていると、チェルの後ろで手を合わせてペコペコしているティリアとリファが見えた。
……そういえばそんな設定を作ったな……
「お、おう。もう異種族狩りも無くなったし、安心して暮らせるだろ? お母さんと元気でな」
「ううう……助けてくれたお礼もできていないのに……」
目に涙を溜めて俺の服を掴んでくるチェルに困りつつ、俺はやんわりと頭を撫でる。
「気にするな。お前を助けたのはたまたまだ。別にお礼が欲しくてやったわけじゃない」
「で、でも……」
それでも手を離さないチェルに俺は言った。
「ならまた来たときに、お母さんと何か御馳走をしてくれよ。それでいいさ」
「……また帰ってきますか……?」
「ああ」
「……分かりました……美味しいご飯を作れるように頑張ります……!」
ぐっと拳を握り、泣き笑いの顔で俺を見る。
「カケルさん、そろそろ……」
ティリアが声をかけてくれ、その後からクリューゲルも話しかけてくる。
「お前には本当に世話になったな。最初見た時から只者ではないと思っていたがまさか国を救ってくれるとは……俺にできることがあれば何でも協力する。また会おう」
「またな。バウムさん達とも仲良くやってくれよ?」
「ああ、色々迷惑をかけたことをエルフ達とは話しあう予定だ。他の獣人に対しての補填もしないとな……」
奴隷にされた者もいるらしいので、必ず救出するとクリューゲルは意気込んでいた。
「それじゃ、またな」
「また必ず来てくれ!」
クリューゲルと握手を交わし、俺も馬車へ乗り込むと、リファが馬の歩を進め出した。
「また来てくださいご主人様ー! その時はわたしを妾にしてくださいー!」
「あいつなんて事言うんだ!?」
チェルがここぞとばかりにとんでもないことを言いだす。馬車でティリアやルルカがクスクスと笑っていた。重い雰囲気のデヴァイン教徒達(まだ気絶している人を含む)も少し雰囲気が和らいだように思う。
さあ、まずは港町へ戻ろう。来た道を俺達はゆっくりと戻りはじめるのだった。
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