俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第百話 クロウの目的とアウロラへの疑惑
「グ、ガ……!」
ブオン! フォ!
「そのような剣筋では俺は倒せませんよ!」
「ガアアアアアア! ヤ、ヤレ……」
「……! たああ!」
シャキン……!
「ガ……!」
ドサリ……
俺達が近づいた時、国王が前のめりに倒れるところだった。ファライディに横づけしてもらい俺は声をかける。
「終わったみたいだなクリューゲル」
「カケルか! ああ、おかげでお前に言われたとおりこいつを始末したよ」
グチャ、と、緑の体液を出しながらぴくぴくとしていた蜘蛛のような魔物がやがて動かなくなると、クリューゲルは俺の後ろにいるクロウに気付き槍を構える。
「そいつは……! カケル、何故トドメを刺さなかった!」
「や、確かに言う通りなんだが、事情があってな。城まで戻るのは時間がかかるからバウムさんの所でこいつの話を聞きたいと思う」
「……? 何かあるのか……?」
「……」
「できれば国王やお前にも聞いて欲しい所だけど、国王は無理かな」
俺がそう言うと、倒れていた国王がむくりと起き上がった。
「……う、うう……だ、大丈夫だ……私も連れて行ってくれ……」
「国王! 正気に戻られたのですね!」
「クリューゲルか、すまぬ不甲斐ないばかりに……それと光翼の魔王様、ご無礼をお許しください……」
ティリアに向かって頭を下げると、ティリアは気にした風も無く手を振る。
「問題ありませんよ。悪いのはこの人達ですから!」
「……ふん……」
クロウがそっぽを向いて鼻を鳴らすので俺は拳骨をくれてやる。
「ぐあ……!? な、何をするんだ……!」
「やかましい。では国王、ひとまずエルフとの戦いを終わらせてください」
「あ、ああ……そうだな……」
俺の言葉ですぐに戦いは停止。俺やティリア達が落とすよりも、エルフとの小競り合いの方が激しかったようで、双方ダメージが大きかった。ただ、弓での攻撃が主だったエルフの方が被害は小さく、幸いなことに重傷者はいたものの死者はいなかった……一人を除いて。
「カケル、ウェスティリアさん。よくやってくれた、これ以上ない幕切れだ。結界が破れた時は焦ったが、森に入ってから騎士達の動きはそれほどでも無かったので拘束するだけで何とかなった」
「私も頑張ったんですよ~♪ 褒めてくださいカケルさん!」
「また今度な」
結界が壊れてからバウムさんはあちこちで遊撃をしていたらしい。風斬の魔王というだけあり、素早さは飛んでもない、とユリムがでかい胸を張って説明してくれた。
「……だけど……」
俺の足元には黒い水晶と、倒れた騎士、それと首の無いワイバーンが横たわっていた。
「お前がやったんだな」
「あはは! そうさ、この抑止の秘宝は血が必要だったからね! 死んでもらった……がぶふ!?」
「やかましい! 死んだんだぞこの人は! お前のせいで! お前等のくだらない計画のせいで! ……家族や親がいたろうに」
「……ふ、ふん……理想のためには僅かな犠牲は必要だよ……」
「なら、平和のために、神託とやらを受ける聖女を俺が殺しても文句はない、そういうことだな? 俺は俺の理想のために聖女を殺すぞ?」
「ば、馬鹿な!? 聖女様と騎士が同じなわけが……」
「同じだ。お前も俺も一人の人間だ、その命の重さに上下は無い」
「う……」
俺の剣幕に押されて俯くクロウ。騎士が目に入ったのか、目を逸らす様に顔をそむけた。こいつ自身も問題はあるが、こういう風に育てたやつらが一番頭に来るな。
「カケルさん、行きましょう」
「ああ、すまない」
「この騎士は王都へ連れて帰りましょう。辛い報告になりますが……この水晶はどうしますか?」
「俺が持っていてもいいか? 俺のカバンなら魔法で他の人が取り出すことができないから安全だと思う」
クリューゲルが国王を見ると、国王は頷き、バウムさんもそれでいいと承諾してくれたので、抑止の秘宝とやらを受け取ってカバンにしまい、エルフの集落へと歩き出した。
……俺はケガ人を治しながらだけどな!
――そしてエルフの集落に到着し、バウムさんの屋敷で話が始まった。
「改めて会うのは二度目か、エルフの長であり、風斬の魔王バウム殿」
「ああ、ハインツ国王。今回はお互い嫌な目にあったな」
フッと笑い、バウムさんは言う。
「まったくだ。こちらは裏切り者がいたようで、そやつに薬を盛られたようだ」
「私もだ。まあ、そこにいるカケルに治療してもらったが、正直危なかった。いや、今はその話は置いておこう。それで、カケル話と言うのは?」
国王とエルフの話はまた後日、ということで俺に注目が集まる。俺は一旦深呼吸をしてからクロウへと尋ねた。
「俺の聞きたいことは一つ。封印とやらのことだ。それを解くとどうなるのか? それに今、それを解きに行っている別働隊がいるらしい。場所を教えてくれ」
俯いたままクロウはしばらく黙っていたが、口元をニヤリとさせて笑いだす。
「あははは! それを馬鹿正直に言うとでも思っていたのかい? 僕達はアウロラ様のために命を捨てる覚悟があるんだ、死んでも言えないね。ああ、死んだら口を聞けないか! あはは……ばばばば!?」
「喋らないと死んだ方がマシだ、と思えることをしてやろうか?」
俺がこめかみをぐりぐりして聞くと、クロウは俺の腕を掴みながら抵抗する。
「しゃ、喋る、もん、か……」
「よし、ナルレア『力』」
<はい♪>
『力』を上げた後、俺は力いっぱいこめかみをぐりぐりした。骨にひびが入ってもおかしくないかもしれない。
「ぎゃあああ!? い、言うもんかあ!?」
「≪ハイヒール≫」
「な、治った……ぐわ!? い、痛いぃぃ!? わ、分かった! 喋る! 喋るからやめてくれぇ!?」
「一分半か、粘ったな」
「……カケルさん目が怖いです……」
ティリアが引いていた。
だが、人を殺しておいて悪態をつくこいつを許すわけにはいかないのだ。例えば国王が仕掛けた戦争で死んだなら俺も国のために戦って死んだといくらかは納得できるが、今回はこいつらの我儘だったから許せないのだ。
「よし、話せ!」
「……いてて……わ、わかったよ……オルカンから少し東にベリーって村がある。そこから北西に山があるんだけど、そこに封印があるらしいんだ。……封印を解くと、アウロラ様の力が復活するって聖女様が神託を受けたから僕達がここに来た、そういうことさ」
「嘘だったらまたぐりぐりするからな?」
「う、嘘じゃない! 行ってみればいい……城にあった文献によると、神殿みたいな建物がどこかにあるってさ」
その話を聞いたクリューゲルが顎に手を当てて
「ベリーは山の麓にあるが、そこまではそれなりにかかるな。ドラゴンならすぐだが……」
「ファライディを貸してもらえないか?」
俺の言葉に今度は国王が答えてくれた。
「それは構わないんだが、ドラゴンではあの山に到着することはできんから山には徒歩で行くことになる」
「どういうことですか?」
ティリアが首を傾げて尋ねると、国王は話を続けてくれる。
「その黒ローブが言っていた山は『パサート』と言って、年中凄まじい風が吹いている特殊な山なのだ。バウム殿の『風斬りの魔王』示すようにエリアランドは風の国。パサートはそれを象徴する大きな山なのだ」
「風が強いだけなら何とかなりそうだけど……」
「いや、行けば分かるが殆ど竜巻のようなのだ。山の空は特に酷くて、俺もサンデイと言ったことがあるがとてもじゃないけど飛ぶのは不可能だった」
乱気流が常にあるみたいな感じだろうか? となると、ファライディで一気に近づくのは難しいか……。
「ただ、麓までなら馬車と一緒にドラゴンで運ぶことはできるからそれで良ければ喜んで協力させてもらう。もちろん騎士達も向かわせる」
「助かる。とりあえず俺はファライディと意思疎通ができるからあいつを貸してくれると助かるよ」
俺がそう言うと、国王は目を見開いて口を開いた。
「ドラゴンと意思疎通だと!? そ、そんなことができるのか!?」
「まあ、俺のスキルでな。とりあえず今の話なら、こいつの仲間もすぐに到着するとは思えない。封印とやらが本当にアウロラの力を封じたものか分からないし、早速向かおう」
俺の言葉に全員が頷き、一旦王都へと戻る準備をする。
……気になるのはアウロラのことだ。クロウの話が本当だとしても、ヘルーガ教徒に見せかけて混乱を起こす必要があるとは思えない。聖女がアウロラから神託を受けたのなら、それを各国へ伝えて解くように協力を仰げばいいはずなのだ。
こそこそと無駄に犠牲を出すやり方をアウロラがするはずが……あ、いや、気絶した俺を叩き落とそうとしたくらいだから有り得なくはないか……ともあれ。もう少しクロウに詳しい話を聞いた方がいい気がする。
「(あいつらと合流したら逃げ切れるかな? しばらくは大人しくしておくか……人の命は同じ、か……僕は……僕達は……)」
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