Azurelytone【2】~アズレリイトオン~

羽兼

007 忠告

建物全体に神経を張り巡らせるためか、痩せ細った身体は扉と壁に同化し、手足は形を残していない。

その身体には肋に貼り付いた皮ごしに、心臓が脈動を生々しく打ち続けている。


「俺が………まもる……」

「外は……なかに居れば」

「……だい丈夫だから……」 


意識も保てないのか、辛うじて吐き出すように、呟きをくりかえしている。


f は、おぞましさのあまり、後ずさる……

ドン!

ビクッ!!!

背中に何か……誰かがいる………。

ミヅキは戦っている……レヴィンは、傷だらけで、立ち上がれないはず。

…………誰?



「その娘を抑制するのは
    不可能と教えた筈よ……」


「まさか、身体(館)に
    隠していたとはね……」 



いつの間にか、誰かが
f の肩を抑えてる………
優しく…………
でも、氷のように冷たく……。 


耳許で囁きが聴こえる。


「この部屋は、このコの世界………」

「このままでは、体力が尽きた者から
とりこまれるわよ…………」

「あなたも…………お友だちも」

「皆を助けるには、
    彼を殺すしかないの………」

「簡単よ……このむき出しの心臓を
    少し傷つければ…………」

「全ては終わる。」

「……………………
    ……………………
     …………さぁ 」


今なら、非力な僕の力でもこの人を殺せる………レヴィンを苦しめたこの人を…………無防備なこの命を………。


「まも……れ………あ…………ず……
    …れぇ……………り
    ぃ……………………とぉ
    …………… 」

「え?」


「なに………? 」

「さようなら」


バシュ ! 




ブチンっ 


彼女はなんの躊躇もなく、
男の心臓をもぎ取った。

「ガッ……………」

「……………ぁ…………………」

「………………………」

「…………………」


f は、反り血を浴びながら、呆然とたちつくすしかなかった。
千切りとった心臓を f にもたせると、顔に血を擦り付けながら、首筋に指先をあてた。


「………あなた
    余計な事を聴いたわね………」


f の首筋に当てた彼女の手に
力が籠る…………。 

「まちな! 」

「そいつは、俺たちのツレだ」


レヴィンに肩を貸しながら、ミヅキが近づいてくる。

その姿は、戦闘体勢のまま、深紅の瞳は瞬きすらしない。


「あら?」

「あのダーザインに勝ったの?」

「……………成長したわね」


ミヅキは、黙ってサオリと犬を睨み付ける。
その表情には、化け物と戦っていたときの余裕は微塵もない。


「ミヅキ………
    今日はここまでにするわ………」


「ひとつ、忠告よ
   その先の部屋の中のモノは
   危険よ………」

「そして、そのコも……」




「あなたでは、扱えない」




「準備が出来たら回収にくるわ」



彼女は、静かに闇に溶けていった。

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