人との約束に遅れるのって、その相手をそこまで大切に思って無いとか、何とかって話だったはず?

tomimato404

2言 それが夢だと、誰が言った?

 
 ゾロゾロと席を立つ同志達を眺め、今日の楽しみの大半が、終わってしまった事に気づいた。
 ランチには早い10時過ぎ。ペンケースにしまいながら、ノートを畳んだ。バックに全てを仕舞おうとして、スマホがオフだった事に気づく。
 電源を入れたら、鳴り出して、出る前に暗くなった。

「昨日の夜かぁ……はぁああっ」

 思った以上に彼への連絡で消耗していたようで、暇つぶし策が一つ消えた事に嘆く。
 そして、心配事が膨れ、重くなる。

「気にしても、しょうがない」

 私は誰に言い訳するでも無く、声にした。
 さっきのはきっと彼からだと思うけど、心配させた罰だと思って開き直った。
 私は、彼のお母ちゃんじゃない。もう午前も終わるのだから、寝坊なら間に合わない、起きてるなら──。

「感謝の言葉かな? ならいっか」

 私の中で一つの希望的解決を見つけて、人のまばらになった講堂を眺めた。

「……暇だ」

 彼を待つ以外で、持て余す時間。
 彼を待ってる時はどうしていたのか思い出そうとして、やめた。駅前とは違う暖かな空間。程なく聞こえる話し声。BGMは無く、時折静寂が訪れる。
 私は、立ち上がる事も無く、気持ちをきり変えた。
 鳴らないスマホを仕舞い、ノートを開く。ペンケースをつかんで、思い出した。

「あれっ、義理チョコ何にするんだっけ?」

 私は、帰りに寄り道を決めてから、講義メモの整理を始めた。

 ────午後の人が、集まるまで。

「こんな処かな、学食よりも効率良かったかも、あっ電源切れてるんだった」

 何時もの癖で、片付けながらのスマホチェック、無駄と気づいて一緒に仕舞った。
 彼から怒涛の用なメッセージが残っていた事を知ったのは、夜寝る前になってからだった。

『ごめん、俺が悪かった、だから、捨てないでくれ……お願いします』
「ちょっと、何があったの? ついにバイトで……アイスの模型を川に投げ込んだのが見つかって、事情聴取を受けたの?」
『ちげえよ』
「じゃあ、やっぱりバイトで窓ガラスを割ったの?」
『何でだよ!?』
「なんか、昭和最高とか言って……あっ、そっか、今日親分さんとこにかち込みに──」
『行かねぇよ!! むしろ、そっちがナンだよ! 何度掛けても出ねぇって! 激オコかと思ったら、ナンだよ!?』

 とても沈んだ泣き声で始めた彼は、何故かすぐに元気に騒がしくなった。だから、私も、特に意味もなくのっておいた。静な抑えた声で──。

「ねぇ……何で、怒られ無いと思ってたの?」
『ぅ、ごめん、なさい』

 おかしい。
 今日の彼は、私の知らない凹みようで謝ってきた。こうして私は、降りるタイミングを失った。

「反省してるって事で、良いのかな?」
『ぅっ、あぁ、めちゃ、反省し……てます』

 おかしい。
 日頃聞き慣れない人からの、微妙な敬語。も、おかしい、けど、何でこんなになってるのかわからない。

「じゃあ、もう一人で起きれるね?」
『はい』
「家を出る時も、一人で出れるね?」
『はい』
「電車に乗るときも、電話しなくても良いよね?」
『はい』
「待ち合わせ場所は、改札じゃなくても良いよね?」
『はい』
「さっきから、はい、しか言ってないけど、本当に反省してるのかな?」
『はい、あっ、反省、してます』
「じゃあ、もう遅刻しないよね?」
『はい、もう遅刻しないで、約束を守ります。すみませんでした』

 おかしい。
 原因は、わからずじまい。それでも反省しているのか、うわ言のように答え、要望を全部飲み込んでいってくれた。

「もう分かったから、今日はこれでお終い。早く寝るんだよ。おやすみ」
『はい、おやすみ』

 私は、終始淡々と話しかけた。彼も終始、凹んだまま応えた。少し釈然としないものがあったけど、彼が心を入れ替えてくれると、信じていたから特に追求もしなかった。
 それに、彼の寝坊がこんな事で治るとは、思えなかった。きっと、寝て起きたら忘れている。

「でも、改札で待ち合わせしなくて良いのかぁ〜、良いんだ」

 私は、『待ち合わせ場所を変える』、スマホのメモ機能に刻んでから眠った。
 翌日、彼のお母さんになっていた事に、1日遅れで辿り着いた思考に、私も結構動揺していた事に気づいた。

 だから、本当に驚いた。

『おはようございます。明日お暇でしょうか? 11時に駅でお会いしたいのですが?』
「えっ? はいっ、ってなんの冗談??」

 私は、朝のテンションの低さと困惑のまま二度寝の誘惑に囚われながら、返した。

『あのっ、まだ、やはり、怒こっていらっしゃいますよね?』
「はぅわっっふっ、怒ってナイ。でも、改札じゃ無くても良いんだよね?」
『はっはい、因みにどちらで?』
「むにゅぅ〜、じゃあショッピングモールの──」

 眠い眼をしたまま、冷やかしルートを話した。服を見て、アクセを見て、小物と生活雑貨、最後に本屋で立読み。30分では回れないルートで、1時間は暇は潰せる筈。彼が居るとゆっくり回れないけど、居ないならじっくりと見れる。

「あっ、これ、夢か。じゃあ今言ったルートで回ってるから、探してねっ、おやすみ」
『えっ、ちょ──────』

 ────5時58分。
 スマホの時計が誤作動を起こす。夢だった。

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