人との約束に遅れるのって、その相手をそこまで大切に思って無いとか、何とかって話だったはず?
2言 それが夢だと、誰が言った?
ゾロゾロと席を立つ同志達を眺め、今日の楽しみの大半が、終わってしまった事に気づいた。
ランチには早い10時過ぎ。ペンケースにしまいながら、ノートを畳んだ。バックに全てを仕舞おうとして、スマホがオフだった事に気づく。
電源を入れたら、鳴り出して、出る前に暗くなった。
「昨日の夜かぁ……はぁああっ」
思った以上に彼への連絡で消耗していたようで、暇つぶし策が一つ消えた事に嘆く。
そして、心配事が膨れ、重くなる。
「気にしても、しょうがない」
私は誰に言い訳するでも無く、声にした。
さっきのはきっと彼からだと思うけど、心配させた罰だと思って開き直った。
私は、彼のお母ちゃんじゃない。もう午前も終わるのだから、寝坊なら間に合わない、起きてるなら──。
「感謝の言葉かな? ならいっか」
私の中で一つの希望的解決を見つけて、人のまばらになった講堂を眺めた。
「……暇だ」
彼を待つ以外で、持て余す時間。
彼を待ってる時はどうしていたのか思い出そうとして、やめた。駅前とは違う暖かな空間。程なく聞こえる話し声。BGMは無く、時折静寂が訪れる。
私は、立ち上がる事も無く、気持ちをきり変えた。
鳴らないスマホを仕舞い、ノートを開く。ペンケースをつかんで、思い出した。
「あれっ、義理チョコ何にするんだっけ?」
私は、帰りに寄り道を決めてから、講義メモの整理を始めた。
────午後の人が、集まるまで。
「こんな処かな、学食よりも効率良かったかも、あっ電源切れてるんだった」
何時もの癖で、片付けながらのスマホチェック、無駄と気づいて一緒に仕舞った。
彼から怒涛の用なメッセージが残っていた事を知ったのは、夜寝る前になってからだった。
『ごめん、俺が悪かった、だから、捨てないでくれ……お願いします』
「ちょっと、何があったの? ついにバイトで……アイスの模型を川に投げ込んだのが見つかって、事情聴取を受けたの?」
『ちげえよ』
「じゃあ、やっぱりバイトで窓ガラスを割ったの?」
『何でだよ!?』
「なんか、昭和最高とか言って……あっ、そっか、今日親分さんとこにかち込みに──」
『行かねぇよ!! むしろ、そっちがナンだよ! 何度掛けても出ねぇって! 激オコかと思ったら、ナンだよ!?』
とても沈んだ泣き声で始めた彼は、何故かすぐに元気に騒がしくなった。だから、私も、特に意味もなくのっておいた。静な抑えた声で──。
「ねぇ……何で、怒られ無いと思ってたの?」
『ぅ、ごめん、なさい』
おかしい。
今日の彼は、私の知らない凹みようで謝ってきた。こうして私は、降りるタイミングを失った。
「反省してるって事で、良いのかな?」
『ぅっ、あぁ、めちゃ、反省し……てます』
おかしい。
日頃聞き慣れない人からの、微妙な敬語。も、おかしい、けど、何でこんなになってるのかわからない。
「じゃあ、もう一人で起きれるね?」
『はい』
「家を出る時も、一人で出れるね?」
『はい』
「電車に乗るときも、電話しなくても良いよね?」
『はい』
「待ち合わせ場所は、改札じゃなくても良いよね?」
『はい』
「さっきから、はい、しか言ってないけど、本当に反省してるのかな?」
『はい、あっ、反省、してます』
「じゃあ、もう遅刻しないよね?」
『はい、もう遅刻しないで、約束を守ります。すみませんでした』
おかしい。
原因は、わからずじまい。それでも反省しているのか、うわ言のように答え、要望を全部飲み込んでいってくれた。
「もう分かったから、今日はこれでお終い。早く寝るんだよ。おやすみ」
『はい、おやすみ』
私は、終始淡々と話しかけた。彼も終始、凹んだまま応えた。少し釈然としないものがあったけど、彼が心を入れ替えてくれると、信じていたから特に追求もしなかった。
それに、彼の寝坊がこんな事で治るとは、思えなかった。きっと、寝て起きたら忘れている。
「でも、改札で待ち合わせしなくて良いのかぁ〜、良いんだ」
私は、『待ち合わせ場所を変える』、スマホのメモ機能に刻んでから眠った。
翌日、彼のお母さんになっていた事に、1日遅れで辿り着いた思考に、私も結構動揺していた事に気づいた。
だから、本当に驚いた。
『おはようございます。明日お暇でしょうか? 11時に駅でお会いしたいのですが?』
「えっ? はいっ、ってなんの冗談??」
私は、朝のテンションの低さと困惑のまま二度寝の誘惑に囚われながら、返した。
『あのっ、まだ、やはり、怒こっていらっしゃいますよね?』
「はぅわっっふっ、怒ってナイ。でも、改札じゃ無くても良いんだよね?」
『はっはい、因みにどちらで?』
「むにゅぅ〜、じゃあショッピングモールの──」
眠い眼をしたまま、冷やかしルートを話した。服を見て、アクセを見て、小物と生活雑貨、最後に本屋で立読み。30分では回れないルートで、1時間は暇は潰せる筈。彼が居るとゆっくり回れないけど、居ないならじっくりと見れる。
「あっ、これ、夢か。じゃあ今言ったルートで回ってるから、探してねっ、おやすみ」
『えっ、ちょ──────』
────5時58分。
スマホの時計が誤作動を起こす。夢だった。
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