神無日ーかんなにちー

アルナ

暇な日の一騒動



いつもの日常。今日はミズガルズ、とある田舎町の河川敷。
暇だったのでミズガルズへと来てみたが、やることもなく河川敷で日が暮れるのをただ待っていた。
ゼウスが水切りをし、オーディンとマスターは日向ぼっこ。なんとも平和な日常だ。
・・・・・この二柱と一匹には似合わない。
そんな時だった。ゼウスの投げた石が水面で何かにカツンッと当たった。


「??」


二柱と一匹は互いに顔を見合わせる。すると、水面からブクブクと気泡が生じた。


「イテぇな・・・・」


水面から飛び出してきた河童(らしきもの?)はそう一言つぶやいた。二柱と一匹が唖然としていると、河童はそっと頭の皿を触った。
みるみる間に顔が青ざめていく。そりゃあそうだろう。河童の頭より二柱と一匹の目線が高いので、その有様がよく見えるのだが、オーディンの投げた石が河童の頭の皿を割っていた。
唖然としていたのも、河童の皿を割っちゃたからだ。


「そこの、そこのお前らか!俺の皿を割ったのはっ!」


涙目で怒りに震わせ、河童はこちらを指さし叫ぶ。
なんか、初っ端登場からかわいそうだな、と他人事のように思う二柱と一匹であった。




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「よお、よお。お前らこの落とし前はどうやってつけてくれるんだぁ?あぁん?」


「どうする?これ」


「そこの白髭爺、聞こえてるぞ」


川から上がった河童はまるで地上げ屋のようにがんをつけ始めた。
だが、涙目なので怖くはない。どちらかと言えば、めんどくさそうなやつに捕まったなぁと思っている。


「これ、あげるから許して下さい、お願いします」


「ん、なんだこれ?」


早急に帰れるように、オーディンはダンボールに梱包されたあるものを差し出した。河童は訝しげにダンボールを見て取り、やがてそっと手に取った。バリバリとダンボールを引き裂いていく。
中に入っていたのは有り余るほどのキュウリだった。


「って、キュウリやないかい!全国すべての河童がキュウリ好きと思うなよ!」


二柱と一匹はその言葉に絶句した。


「えぇ⁉か、河童なのに・・・・・・?」


「な、何だよ文句あんのか!」


河童は驚きように気後れし、一歩後ずさった。あやうく踏み外し、川へと落ちそうになった。
ちなみに誰もその様子を見ていない。


「キュウリが好きじゃない河童、なんて、ねぇ・・・」


「そうですよねぇ」


「そこっ!ひそひそと五月蠅いぞッ!河童がキュウリ好きだなんて偏見だ。嫌いな河童だっている」


「じゃあ、お前は何が好きなんだよ」


マスターが河童へ尋ねた。


「俺の好物は、油揚げだッッ!!」


「「「お前は稲荷狐かッッ!!」」」




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「お前ら今度ふざけたら、マジで尻子玉抜くからな。覚悟しとけよ。尻子玉なくなったら死ぬんだからな。しりこだ_______」


「「「尻子玉尻子玉うるせェな」」」


今日は仲良しな二柱と一匹である。


「そんなに取りたいならとってもいいぞ。ただし、取れるもんならな!」


ゼウスは河童に挑発をする。河童の目に炯炯たる眼光が宿った。
びゅんと一陣の風がゼウスの股間へと向かう河童の手によって生まれる。そのみずかきのついたてが股間のそれを、つかまなかった・・・・・・・


「なぜだ!なぜコイツにはあれがないんだ」


河童は片膝をつく。対照的にゼウスの顔は自慢げだ。今にもガハハハと笑いだしそうな雰囲気だ。


「残念だったな、河童ぁ!私には男のそれが、ないのだよ!完全なる事故だったけどな」(第6話参照)


「・・・それって、前話していた記憶の犠牲にした話の事ですか、オーディン様?」


「そうだけど・・・・・あいつは何を自慢げに話しているんだ。誇れることではないだろ・・・・」


はぁ、とオーディンとマスターはため息をつく。


「ま、尻子玉って男のそれとは関係ないんだけどね」


「へ?」


途端、再び河童の手がゼウスを襲う。


「知らないのか?尻子玉とは尻の中にある臓器のことだぞ」


その刹那、ゼウスの背後へと河童は回り込んだ。尻の辺りから神々しく光輝く球体系の物体が出現した。
その球を河童はギシと固く握りしめる。
その光景にオーディンとマスターは感嘆した。


「あばばばばばばばばば________」


ゼウスは体を痙攣させ、まともに言葉も話せない。アースガルズで今までやってきたことに比べたら、正直物足りなさも感じ、誰も助けようとしない。その反応飽きたぞ。


「まぁ、尻子玉もらったので、それじゃあこれで失礼します」


そういって帰っていく河童は、どこか弱弱しく感じた。




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その後のこと。


「逃げろッ!できるだけ遠くに、河童に、見つからない場所に!!」


「どうしてっ、僕たち逃げてるんですかッ」


オーディンとマスター、一柱と一匹は全力で走っていた。


「あの河童が何故大人しく帰ったのかは知らねぇが、本来河童は皿の水が乾くと弱るんだ。そんな生命線の皿が割れたんだ。どうなるかぐらいマスターでもわかるだろう!?」


「なんッで、最初に言わないんですか!そんな大事なこと!」


マスターの顔が青ざめる。殺河童未遂というか、殺河童一歩手前である。


「だから逃げてんだよ。めんどくさいことはゼウスに任せてさっさとずらかるぞ!」


「完全に犯人のセリフじゃないですか!」


マスターの叫びが河川敷に声高に響いた。


そんな今日とて、日常の一日だった。







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