神無日ーかんなにちー
カフェ『ラグナロク』
いつもの日常。今日も今日とてそんな話。
開店初日。白ウサギはより一層気を引き締めるため、頬を叩く。
今日は白ウサギの店、『ラグナロク』の開店初日だ。夢にまで見た自分の店。
今でも夢ではないかと疑ってしまう。
(ついに、ついにこの時が来たんだ!)
待ちに待ったこの日。開店時刻が迫っている。あと、一分。・・・・・三十秒。
そして午前八時、カフェ『ラグナロク』開店開始。
同時に店内にドアベルがカランコロンと響き渡った。
「いらっしゃいませ!」
///////////////////////////////////////////////
話はそこでゼウスへと変わる。
「いらっしゃいませ!」
店内を眺めるように入ったゼウスに店主であろう人物が声をかけた。
ん?ていうかあの影は・・・・・。
「よお、白ウサギ。何、店始めたの?」
そこにいたのは白ウサギだ。服装もいつもの裸ではない。
昔ながらの給仕の服装、サロンエプロンを身に着けている。
「いらっしゃいませ、ゼウス様。そうです、念願の店、ついに開店したんです!」
「おめでとう白ウサギ!どれ、私も一つ注文しようかな」
「店では白ウサギではなくマスターと呼んで下さい」
いつもよりテンションの高い白ウサギに、思わず笑みが生まれる。
「じゃあ、マスター。メニュー表頂戴」
///////////////////////////////////////////////
「へぇー、喫茶店なのに結構メニュー多いんだな!」
「私が作れる範囲であれば、メニューにないリクエストも受け付けますよ」
定番メニューから聞いたこともない異国の料理までかなりの品数がある。
この中から選ぶだけでもかなりの時間がかかりそうだ。
「・・・・・ん?」
ゼウスはあるメニューを見つけた。
「マスター、この『マスターの今日のおすすめ』って何?」
「文字通りおすすめですね。毎日メニューが違って、出てくるまでどんなメニューか分かりません」
「面白そうだな・・・・・よし、じゃあ『マスターの今日のおすすめ』を頂こうかな」
「分かりました。少々お待ちください」
その言葉の通り、ものの数分で再び現れたマスターの手には真っ白なお皿が乗せられていた。マスターはそのお皿を静かにゼウスの目の前へと置く。
「どうぞ、召し上がれ」
マスターがにっこりと笑う。
「・・・・・おお」
ゼウスは思わず感嘆の声を上げた。目の前に置かれたのは黄金に輝くオムライスだ。紡錘形のオムライスにケチャップがかかり、その上からグリーンピースがパラパラとかかっていて、彩りも実にいい。
「どうぞ」
さらにオムライスの隣に置かれたのはコンソメスープ。匂いだけで美味しいということがわかる。先ずは、一口。ゼウスはスプーンを手に取り、ゆっくりと手前から崩していく。
「・・・・・!?」
瞬間、玉子で隠されていたケチャップの酸味を含んだ匂いがたちまちに広がった。
「美味しい!美味しいよ!このオムライス」
具は鳥の肉と細かい玉ねぎだ。見た目もさることながら、味は想像の何倍と美味しい。ゼウスはただがむしゃらに食べる。そしてものの数分で食べ尽くしてしまった。
///////////////////////////////////////////////
「っていうかマスター?この食材ってどこから調達しているんだ?調達のたびにミズガルズまで行くなら、他の神に頼んでみたら楽なんじゃないか」
食べ終わり満足し、気分のいいゼウスは今まで見たこともないような優しさを見せた。満腹は神をも凌駕するのである。
「お気遣いはありがたいのですが、大丈夫ですよ。ミズガルズで生活していた頃の友達に頼み込んで、安く仕入れてもらってますし」
「まあ、大丈夫ならいいんだけどね」
カウンターにあった爪楊枝を一本摘まみ上げた。マスターは何かを思い出したように手を叩き、声を上げる。
「そうでした!今日のオムライスに使われている玉子って、以前此処で異常発生したGの玉子なんです。美味しかったですか?」
「・・・・・へ!?」
思わず口にくわえていた爪楊枝を落としてしまった。今、何て言った?Gって言ったか。
「ほら・・・・・あれだよな?・・・・・・ゴリラだよな?よく動物園とかで売ってる『ゴリラのはなくそ』とかの菓子の類のことだよな!?味にコクを出すために隠し味とか・・・・・よく聞くもんね!」
最後の方はなぜか説得しにかかっていたが、何とか最後まで言い切った。
「正真正銘のGの玉子!此処で倒し損ねたGがミズガルズでまた繁殖しているみたいですよ」
「いやだって・・・・・Gの無精卵なんて、聞いたことがない」
「あんな化け物Gを見て、まだそんなこと言えるんですか・・・・・」
・・・・・・・・・・・・。
「本当に?」
「本当に!」
マスターは笑って答える。ゼウスの顔は途端に真っ青になる。
「可笑しいでしょ!そんな料理聞いたこともないし、食べたくもないわ!」
「ええ!?だって、ある国ではカエルや蝸牛を食べると聞きますよ?美味しいそうです」
「お前のその原理でいうとダンゴムシでもバッタでも食べられることになるんだが大丈夫か!?」
「美味しいなら大丈夫じゃないんですか?」
「俺は絶対嫌だ!」
「食べられるだけでもありがたいと感謝してください」
「カフェの店主にあるまじき暴言!!」
ダメだ。息つく暇もなく話したせいで息切れがひどい。心なしかお腹が痛いような気がしてきた。食中毒起こしたらどうするんだ。
「兎に角、なぜゼウス様が怒ってらっしゃるのか分かりませんが、オムレツはやめません!絶対です!!」
マスターはそう締めくくった。
///////////////////////////////////////////////
「で、そのようなくだらないことでここに来たと」
「「何処がくだらないことですか!こっちは大真面目ですよ!!」」
「大真面目にこんなことしているのが問題なんだよ!!」
地獄。閻魔室にて。閻魔大王は巨大そろばんをカタカタとならし、眉間にしわを寄せ、大声を出す。ロキのひと騒動があってまだ一週間も過ぎていないのだ。もう本当にいい加減にしろ。断言しよう。神にロクな奴はいない。
「私は危うく殺されかけたんだぞ!黙っていられるか!」
「殺そうとなんかしていません!ちゃんと安全かどうかは調べてますから!」
正直閻魔大王にはゼウスが死のうと、白ウサギの店から食中毒が出ようと、どうでもいい。だが、これ以上、私の日常を壊されたくない。
「五月蠅い五月蠅い!どいつもこいつも私に面倒ごと持ってきやがって・・・・・」
終わることのない罵詈雑言の嵐に、流石にイライラしてきた。めんどくさいから地獄一周旅行でいいんじゃない?
「もーいい、分かった。白ウサギはGオムレツをメニュー表に事細かに表記すること。それならば料理として出すことを許可しよう。ゼウスは・・・・・嫌なら食べるな!以上!」
現在午前十一時。こうして決まった約束に一安心したのもつかの間、そういえば店をほっぽって来たことを忘れていたマスターであった。なんとも幸先の悪いスタートだ。
開店初日。白ウサギはより一層気を引き締めるため、頬を叩く。
今日は白ウサギの店、『ラグナロク』の開店初日だ。夢にまで見た自分の店。
今でも夢ではないかと疑ってしまう。
(ついに、ついにこの時が来たんだ!)
待ちに待ったこの日。開店時刻が迫っている。あと、一分。・・・・・三十秒。
そして午前八時、カフェ『ラグナロク』開店開始。
同時に店内にドアベルがカランコロンと響き渡った。
「いらっしゃいませ!」
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話はそこでゼウスへと変わる。
「いらっしゃいませ!」
店内を眺めるように入ったゼウスに店主であろう人物が声をかけた。
ん?ていうかあの影は・・・・・。
「よお、白ウサギ。何、店始めたの?」
そこにいたのは白ウサギだ。服装もいつもの裸ではない。
昔ながらの給仕の服装、サロンエプロンを身に着けている。
「いらっしゃいませ、ゼウス様。そうです、念願の店、ついに開店したんです!」
「おめでとう白ウサギ!どれ、私も一つ注文しようかな」
「店では白ウサギではなくマスターと呼んで下さい」
いつもよりテンションの高い白ウサギに、思わず笑みが生まれる。
「じゃあ、マスター。メニュー表頂戴」
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「へぇー、喫茶店なのに結構メニュー多いんだな!」
「私が作れる範囲であれば、メニューにないリクエストも受け付けますよ」
定番メニューから聞いたこともない異国の料理までかなりの品数がある。
この中から選ぶだけでもかなりの時間がかかりそうだ。
「・・・・・ん?」
ゼウスはあるメニューを見つけた。
「マスター、この『マスターの今日のおすすめ』って何?」
「文字通りおすすめですね。毎日メニューが違って、出てくるまでどんなメニューか分かりません」
「面白そうだな・・・・・よし、じゃあ『マスターの今日のおすすめ』を頂こうかな」
「分かりました。少々お待ちください」
その言葉の通り、ものの数分で再び現れたマスターの手には真っ白なお皿が乗せられていた。マスターはそのお皿を静かにゼウスの目の前へと置く。
「どうぞ、召し上がれ」
マスターがにっこりと笑う。
「・・・・・おお」
ゼウスは思わず感嘆の声を上げた。目の前に置かれたのは黄金に輝くオムライスだ。紡錘形のオムライスにケチャップがかかり、その上からグリーンピースがパラパラとかかっていて、彩りも実にいい。
「どうぞ」
さらにオムライスの隣に置かれたのはコンソメスープ。匂いだけで美味しいということがわかる。先ずは、一口。ゼウスはスプーンを手に取り、ゆっくりと手前から崩していく。
「・・・・・!?」
瞬間、玉子で隠されていたケチャップの酸味を含んだ匂いがたちまちに広がった。
「美味しい!美味しいよ!このオムライス」
具は鳥の肉と細かい玉ねぎだ。見た目もさることながら、味は想像の何倍と美味しい。ゼウスはただがむしゃらに食べる。そしてものの数分で食べ尽くしてしまった。
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「っていうかマスター?この食材ってどこから調達しているんだ?調達のたびにミズガルズまで行くなら、他の神に頼んでみたら楽なんじゃないか」
食べ終わり満足し、気分のいいゼウスは今まで見たこともないような優しさを見せた。満腹は神をも凌駕するのである。
「お気遣いはありがたいのですが、大丈夫ですよ。ミズガルズで生活していた頃の友達に頼み込んで、安く仕入れてもらってますし」
「まあ、大丈夫ならいいんだけどね」
カウンターにあった爪楊枝を一本摘まみ上げた。マスターは何かを思い出したように手を叩き、声を上げる。
「そうでした!今日のオムライスに使われている玉子って、以前此処で異常発生したGの玉子なんです。美味しかったですか?」
「・・・・・へ!?」
思わず口にくわえていた爪楊枝を落としてしまった。今、何て言った?Gって言ったか。
「ほら・・・・・あれだよな?・・・・・・ゴリラだよな?よく動物園とかで売ってる『ゴリラのはなくそ』とかの菓子の類のことだよな!?味にコクを出すために隠し味とか・・・・・よく聞くもんね!」
最後の方はなぜか説得しにかかっていたが、何とか最後まで言い切った。
「正真正銘のGの玉子!此処で倒し損ねたGがミズガルズでまた繁殖しているみたいですよ」
「いやだって・・・・・Gの無精卵なんて、聞いたことがない」
「あんな化け物Gを見て、まだそんなこと言えるんですか・・・・・」
・・・・・・・・・・・・。
「本当に?」
「本当に!」
マスターは笑って答える。ゼウスの顔は途端に真っ青になる。
「可笑しいでしょ!そんな料理聞いたこともないし、食べたくもないわ!」
「ええ!?だって、ある国ではカエルや蝸牛を食べると聞きますよ?美味しいそうです」
「お前のその原理でいうとダンゴムシでもバッタでも食べられることになるんだが大丈夫か!?」
「美味しいなら大丈夫じゃないんですか?」
「俺は絶対嫌だ!」
「食べられるだけでもありがたいと感謝してください」
「カフェの店主にあるまじき暴言!!」
ダメだ。息つく暇もなく話したせいで息切れがひどい。心なしかお腹が痛いような気がしてきた。食中毒起こしたらどうするんだ。
「兎に角、なぜゼウス様が怒ってらっしゃるのか分かりませんが、オムレツはやめません!絶対です!!」
マスターはそう締めくくった。
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「で、そのようなくだらないことでここに来たと」
「「何処がくだらないことですか!こっちは大真面目ですよ!!」」
「大真面目にこんなことしているのが問題なんだよ!!」
地獄。閻魔室にて。閻魔大王は巨大そろばんをカタカタとならし、眉間にしわを寄せ、大声を出す。ロキのひと騒動があってまだ一週間も過ぎていないのだ。もう本当にいい加減にしろ。断言しよう。神にロクな奴はいない。
「私は危うく殺されかけたんだぞ!黙っていられるか!」
「殺そうとなんかしていません!ちゃんと安全かどうかは調べてますから!」
正直閻魔大王にはゼウスが死のうと、白ウサギの店から食中毒が出ようと、どうでもいい。だが、これ以上、私の日常を壊されたくない。
「五月蠅い五月蠅い!どいつもこいつも私に面倒ごと持ってきやがって・・・・・」
終わることのない罵詈雑言の嵐に、流石にイライラしてきた。めんどくさいから地獄一周旅行でいいんじゃない?
「もーいい、分かった。白ウサギはGオムレツをメニュー表に事細かに表記すること。それならば料理として出すことを許可しよう。ゼウスは・・・・・嫌なら食べるな!以上!」
現在午前十一時。こうして決まった約束に一安心したのもつかの間、そういえば店をほっぽって来たことを忘れていたマスターであった。なんとも幸先の悪いスタートだ。
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