神無日ーかんなにちー

アルナ

閻魔の日常

いつもの日常。ミズガルズの遥か奥の地獄にある建物の一室で、巨大そろばんを高速ではじき出す男がいた。その男こそが死者の生前の罪を裁く『閻魔大王』であった。
閻魔大王の左右には補佐の『司命しめい』と『司録しろく』が威圧を放ち立っている。


「次」


「はいっ」


次の瞬間、その閻魔は表情を歪めた。


「………来ちゃった!」


「来ちゃった!じゃねえよバカ野郎っ!」


閻魔大王の目の前に現れたのはロキだった。




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とある建物の一室。閻魔大王はノートを見てため息をつく。
目の前にロキの姿が。最悪である。




「えーっと、ロキ。自分が何をしたのか正直に答えろ」


ロキは素直に答える。


「夜な夜なゼウスにイタズラしてまして………。其れがとうとうばれて、ここに送られてきました。閻魔様お久しぶりです」


「判決、八大地獄一周旅行」


「御意!」


「わああーっ!、ちょちょっと待って!!」


司録と司命に両脇を抱えられ連行される。
が、そこは神の力で踏みとどまった。そして、ロキはあることに気づいた。


「あれ?そういえば補佐の方変わったんですね。初めまして」


「紹介が遅れました。一か月前からこちらの補佐に配属された司録でございます。以後お見知りおきを」


「同じく補佐の司命です」


「なんだよ………そこでコンパのノリ始めてないでさっさと行けよ。私も忙しいんだ!司録!あと残りの罪人は何人だ」


「三十五人です。閻魔様」


間髪を入れず質問に答える司録。よく見たら、司録も司命も踏ん張っているロキを片手で引っ張っていた。流石、閻魔の補佐だ。


「ほらあー、こんなに残ってる。私は残業したくないの!今日は順調だったの!もう二日徹夜なの!」


「三日です。」司命が答える。


「大体さー!他の神もちょっとしたことでこっちに任せすぎなのよ!」


「そうですよねそうですよね。さっすが閻魔様!」ロキも閻魔大王の話に相槌を打つ。


此奴まるで反省してないな、と両補佐は思う。が、口は挟まない。


「それで判決が軽いと文句言ってくるし………。私は子供の御守りではない!」


ロキの煽てに機嫌をよくした閻魔大王は声を荒立て、愚痴を言い始めた。それとも三日徹夜の後遺症か。


「しかも、なぜ私が罰を受けなければならないの!?」


この発言に関しては何のことかわからなかったが、こっそりと司録が教えてくれた。なんでも閻魔様は『人を地獄に送って責め苦を与える罪』で一日に三回、決まった時間に焼けた鉄板の上に寝かされ、口から溶けた銅を流し込まれるという罰を受けているのだとか。その罰はどの地獄の拷問よりも辛いものらしい。へー、どーでもいいなー。
だけれども、ここは好機である。


「閻魔様」


「どうした」


「俺、これから仕事あるんで帰ります!」


「おお、そうか!気をつけろよ。他の神に迷惑かけんなよ!」


「お仕事頑張ってください」


飛び去って行くロキに大きく手を振る。其れから両補佐を交互に見つめる。


「はて、何してたんだっけ?


「………………って違う!今すぐアイツを連れ戻せ!」


「「御意」」


ため息をつきながら両補佐はロキを追いかけていく。今回、ロキへの使用時間一時間。
時計を見て、悲鳴を上げる閻魔大王を見る者はいない。四日目徹夜行き決定である。




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「閻魔様、単純だから扱いやすいよな!」


ロキは飛び逃げながら、誰に話すでもなく呟く。
今回はゼウスに感謝したいと思う。何せ、閻魔様は十王の中でも、単純で扱いやすい方だ。閻魔様は機嫌さえ良くしてしまえば、後はこっちのもの。このように簡単に逃げることができる。
と、ガシィ!と肩を掴まれた。


「あなたには八大地獄一周旅行が待っていますよ?」


「煮て、圧して、叫喚して、焼かれて、刺されて、分解されて、毒や火を吐く虫や大蛇、64の目を持つ奇怪な鬼があなたを待ってます。さらに、さっきの話聞かせてもらいました。閻魔様への侮辱罪でもう一周の追加ですね」


振り向くと、補佐二人の笑顔が。


「あ、ハイ…………」


ロキはおとなしく捕まった。




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「…………あ」


奇跡的に仕事が一段落し、暫しの休憩時間のことだった。唐突に声を上げた司命に、閻魔大王は顔を上げた。


「どうした?」


「いや、気のせいかもしれないのですが………」


司命はそこで一度話を区切り______________


「ここ三日ほど、徹夜で仕事していましたが、『人を地獄に送って責め苦を与える罪』三日分、計九回分お受けしてませんよね?」


「………い、いや。受けたよ!!!」


「いや閻魔様は受けておられません!ノートに記録されていませんから!」


「司録!?お前馬鹿なの!?いちいちそんなこと記録してるのお前馬鹿なの!?どんな敏腕補佐なの!?」


ノートを指さし、抗議する司録の口を閉じさせる。だが…………。


「閻魔様。今お暇ですよね?」


何を考えたのか司命はチェーンソーをブロロと鳴らし、近寄ってくる。もういい、諦めろ自分。


「受けますよね?」


なので思わず、腑抜けた返事が出てしまった。


「あ、ハイ…………」


不覚にもロキと全く同じ返事が。











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