神無日ーかんなにちー

アルナ

G、そして結末

深夜の神殿内を黒いそれ・・は恐ろしいスピードでカサカサと駆けていた。月の神、月読命ツクヨミの放つ月光を浴びて、体を覆うものは黒く光沢を放つ。
まさに今、史上最悪の悪魔が解き放たれた。




「きやあああァァァッッッ‼」


それはいつもの日常。いつもの神殿での出来事だった。
突然の悲鳴に飛び起きたゼウスは、無意識に自分の部屋から出ていた。すると、すぐそばには愛と美の神であるアフロディーテが息を切らし、白ウサギと話をしていた。ゼウスもその話に加わる。




「おい!一体何があったんだ。」




ここ、二階は全て男神の部屋である。女神の部屋は一階か、はたまた、別棟に部屋が作ってあるので、そもそも、女神が二階にいること事態が珍しい。
まぁ、ね。女が男の部屋に来るなんて‥‥‥ねぇ?




「いいから、は、早く行って‥‥‥。今すぐ、一階に。」


「まずは原因を教えてくれ!それならいくらでも対処できるから」


「そうです!まずは、落ち着いて下さい。それからでも」




いいじゃないですか、というはずだった白ウサギの言葉はかき消された。突然、ブチ切れたアフロディーテに首根っこを掴まれ、二階の手摺りから一階へと投げ飛ばされた。




「ええぇぇぇっッッ‼⁉」


女って分けわからないね。




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体のあちこちがテーブルやら柱やら観葉植物のサボテンやらにぶつかる。ねぇ、最後のサボテンって何?嫌がらせ?
視界に星が瞬き、白く霞んでいる(※良い子は真似しないでね!)
まぁ、そんな訳で、投げ飛ばされた一柱と一匹はアフロディーテが悲鳴を上げた原因を探すべく、あたりを見渡した。そこはいつもと何ら変わりのないいつもの一階だ。因みに、二階にアフロディーテはもういない。本当に何がしたかったの?




「あっ、あれじゃないですか?原因は。」


「あぁ、あれっぽいな。嫌だな退治するの‥‥‥。」




Gだ。Gがいた。正式名称呼ぶと何かもっと出てきそうなので怖いからやめておくけど、そこにはGがいた。
因みに、Oもいたよ。サボテンに身を任ているOの周りには、赤い液体が飛び散っていた。
Oってオーディンのことね。面倒くさいトラブルに巻き込まれるのは嫌なので、あっちは無視するけど。




「ゴキ‥‥‥Gってアースガルズでも生きられるんですね!」


「そりゃあそうだろ。なんてったって、火星でも生き残れたぐらいだし。」


「はぁ?」




さり気なく、パクリとかやめてくれません?




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という、少々ぐだぐだな感じで始まりを迎えたG退治。
思い返せば、ゼウスは神なのだ。Gごとき、手こずるような相手ではないと思っていた人も少なくないはず。(実際、ウサギもそう思ってました!)
だが、実際に現れたのは、ただのGではなかった。
体は黒く、まるで黒曜石のように光沢を持ち、頭には二本の触覚、手には身長の半分くらいの棍棒、二本足で立っている。




「あの、ゼウス様?この黒い奴、『じじょう』って五月蝿いんですけど⁉」


「いッ、一時退散‼」


「ええっ!ちょ、ちょっと待って。」




一柱と一匹は一様にその場から逃げ出そうとする。どこに、何がぶつかっても構わない。兎に角、死ぬ気で走った。だが、追いかけてくるGの足音は、決して小さくはならない。確実にその差は縮まっていた。
一柱と一匹の影にGが入り込む。


そして。


棍棒と何かがぶつかる音がした。




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棍棒とゼウス達の間に大剣が挟まれていた。棍棒と大剣は拮抗し合う。


「すーくん!」


このG達はミズガルズで生まれていたなら、間違いなく人類を滅ぼす悪魔と化したであろう。
だが、ここは神々の住むアースガルズの世界。
どの世界にも、どの神話にも、乱暴者で戦いを好む戦闘神と呼ばれる唯一神が存在する。彼らは、神話内ではトラブルの種として語られているが、基本的にその背景には何らかの原因、何かを守るためや正義のためにと行動している場合が多い。
今、ゼウスの目の前にいる神もその一人。
日本神話で人々を八岐大蛇ヤマタノオロチの危機から救った英雄―スサノオ―は、その八岐大蛇退治の際に使った三種の神器の一つ。天叢雲剣あめのむらくものつるぎを手にしていた。


Gが一歩分後ろへ後退した。拮抗していたその二つの武器は瞬時に向きを変える。棍棒の側面を天叢雲剣が撫でる。まるで演舞のような剣捌きに、進化したGでさえも対用出来ない。少しずつ、Gに綻びが出てくる。空気を切り裂く音がより一層、大きくなる。
やがて、逃げようとするGの喉元に剣の切っ先が突きつけられた。沈黙が生まれる。




「これで、お仕舞いだな。」


そこまでの一連の動き、僅か数秒のことだった。




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あの日以来、ゴキ‥‥‥G達は姿を現さなくなった。

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