神無日ーかんなにちー

アルナ

イタズラ

「うわッ、な、何なんだこれ。」


いつもの日常。いつもの神殿。
今回は真夜中の事だった。神殿内にある自室のベットでふと目を覚ましたゼウスは自分の体が動かない事に気が付いた。
・・・・言っておくが、『何故、ふと目を覚ましたのか』これは、言うまでもない。分かるだろう?老人はトイレが近いのだよ。
まぁ、そんなこんなで早くも金縛りかぁ、と状況を理解する。
部屋の中は薄暗くはあるが至って普通だった。金縛りの原因はストレスや疲れからきていると聞いたことがあるが本当だろうか。
確かに最近は疲れていたのかもしれない。
唯一動かせる目をグリグリと動かしながらそう考える。
そんな時だった。


「あ、あのー。すみません。」


突然、頭上で男の声が聞こえた!
視線を動かし視界の端に捉えたものは、正座をした男だった。
白装束を着ていて、年齢は三十代後半辺りだろうか。優柔不断そうな細い目に垂れた眉毛が印象的だ。
その男はエヘヘと笑いゆっくりと話し始めた。


「すみません、びっくりさせちゃいましたよね?私、あなたの枕から生まれたつくも神の魔苦羅マクラと言うものです。あの、金縛り。私がやってるんですよ。」


そんな男の話を、ゼウスは黙って聞いていた。
そして、一つ思うことがあった。


(・・・・美少女だったらなぁ。)


よりによって何でこんなおじさんなんだ! 


「いやぁ、すみません。つくも神も良い奴ばっかじゃないんですよ。『付喪神絵巻』には、捨てられた器物が腹を立てて人間を襲ったなんて話もありますし・・・・。」


くそッ、体が動かない。今すぐこいつを殴って可愛い女の子と変えたいのに!
寝室にオッサンと二人きりなんて嫌すぎる!
と、その時。
ゼウスは重要なことに気が付いた。自分が今まで何をしたかったのかを。
もう少し、具体的に説明しよう。
ゼウスは『何故、ふと目を覚ましたのか』その理由を。


(やばばばぁぁァァァァイッ‼漏れる、もう漏れるヨヨヨォォォォ!) 


必死に体を動かそうとするが、びくともしない。
口も動かせないのでこの事を魔苦羅に話すことも出来ない。
まさに、絶体絶命だった。


(落ち着け俺。大丈夫だ!お前は神様だ。こんなつくも神如き、本気を出せば・・・・。)


――――ならなかった。


(そうだ、何か違うことを考えれば、少しは気を紛らわせるかもしれない!昨日すれ違ったあの女の子ッ!何だっけあの娘?名前は確か・・・・。)


『ウンディーネ』
水の精霊・・・・である所の女の子はそう名乗っていた。
水の精霊・・・・である。


(何でッ、よりによって『水』なんだっッ⁉もっとあっとあっただろ他にぃ!あぁ、もう駄目かもしれない・・・・。)










そして数分後。
神殿全体に聞こえるようにゼウスの絶叫が響いた。
その時だけ、何故か口が動かせたのだった。










その直後の話。
また別の一室では一人の少年が腹を抱えて笑っていた。
彼の名は『ロキ』
そう、あの狡知の神、トリックスターなど、ありとあらゆる悪行の数々で知られるあのロキのことだ。
小三程の容姿のロキは、軽く十分程笑った後、まるで誰かに聞かせるように話し始めた。


「あぁ、あははははァ!まさか本当に漏らすとは思わなかった。ゼウスのじじぃにイタズラするのはやっぱおもしれェな。」


ゼウスはそれどころではなく、気付かなかったかもしれないが、おかしな点は幾つかあった。
例えば、たった一体のつくも神如きが主神であるゼウスの動きを止めることなど、たとえ小指一本でも無理なこと。
例えば、死んだわけでもないのに魔苦羅は白装束を着ていたこと。
そして、極めつけにロキは北欧神話の中でも、変身術が得意なこと。


「あのまま騙してもっとイタズラしてやろーっと!やっぱり俺の変装は一番だな。」


満面の顔のロキは次の作戦を考える。

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