プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
61話 四葉・オン・ザ・ステージ
深呼吸だ。
息を吸って、息を吐く。
呼吸は音の出方や、感情の乗り方にも影響を与える。
まずは呼吸を整えて、集中を高めよう。
ふぅと肺の中を空気をゆっくりと吐き出すと、目を開く。
そこには控え室でステージ衣装に身を包んだ私の姿が、鏡に映り込んでいた。
「――それにしてもやっぱり似てるなぁ」
磨き上げられた鏡面に映る自分の姿、緩くウェーブのかかった蜂蜜色の髪にお人形みたいとよく言われる白い肌、目だけはちょっとタレ目気味ではあるが、その姿はやはり相方と瓜二つであった。
「今日の私はアリスちゃんじゃない、正真正銘の有栖院四葉です」
いつもは鏡を見るたびに劣等感を刺激されるので、なるべくみないようにしていたが、今日は落ち着いている、いやむしろ闘志が湧き上がってさえきている。
(行こう、私が私であるために、自分の心にこれ以上嘘を吐かないために)
パンパンと頬を叩いて椅子を立つ。
(アリスちゃんが紡いで、ナニィちゃんが勝ち取ってくれたチャンス、ヘカテアさんとの闘いは私が締めくくります!)
戦いへの覚悟を決めて、私は控室を出た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
会場のライトが落ちて、ステージ上にのみ照らされたスポットライトが否応にも注意を引く。
開演まではもう間もなくといったところだろう。
手元に握りしめた応援用のバトンを確かめながら心待ちにするが、それよりも前にやっておくことができた。
「さっきからそわそわしすぎだ、落ち着けよ」
俺は隣で貧乏ゆすりをしたり絶えず身体を揺らすアリスに声をかける。
横でこんな事されてたら楽しむものも楽しめない。
「だ、だってそんなこと言ったって気になるもんは気になるでしょうが!」
逆切れするようにアリスは叫ぶ。
もっともその声音は周囲への配慮からかかなり抑えられたものだったが。
「大丈夫ですよアリスさん、四葉ちゃんなら……きっとやってくれます」
だから信じましょうとナニィはアリスの手を取った。
「――ごめんなさい、取り乱したわ。そうよね、私は四葉を信じる。私が支えると決めた王様の力を信じるんだから」
「ようやく戻ったか、ふてぶてしいぐらいのがお前らしいぜ?」
「やかましいわよ愚民、座して四葉の声に聞き惚れるがいいわ」
調子が戻ったのか元の傲慢な口調になるアリスに苦笑を浮かべて、ステージに向き直る。
それからステージの上に一人の少女が現れるまでそう時間はかからなかった。
『みんなー、待ったかなー?』
蜂蜜色の髪を揺らしながら、緑色を基調とした衣装に身を包んだ四葉が元気よく登壇する。
頭に被ったちょこんと被った群青の帽子が四葉の可愛らしさを引き立てている。
『ふぅぅううう!!』
『四葉ちゅわああん!?』
『今日も可愛ゆぃいい!』
『よっつば!よっつば!』
四葉が登場すると同時に会場が割れんばかりの歓声に包まれた。
その圧倒的な熱量に思わず気圧される。
「きゃあああ!?四葉ぁああ!こっち向いてぇえ!!」
先程までの不安はどこへやら。
俺の隣でバーサーカーと化したアリスが甘ったるい声音で叫ぶ。
というかどっから声出したんだ今の?
「今日は私のコンサートに来てくれてありがとう! みんなは響渡祭、楽しかったー?」
四葉が客席に向かって話しかける。
MCというんだっただろうか?
楽しかったーとか、食べ物美味しかったーとかの返事が聞こえてくる。
「楽しんでくれてありがとう! ここには家族や恋人、仲の良い友達に一人で来てくれた人もいっぱいいると思う。私は! 色んな人達がいるこの場所で、もっとみんなと楽しい時間を一緒に過ごして欲しい! 私もみんなと一緒に楽しみたい!」
四葉がマイクを大きく降って合図を送ると、ライトの色と配置が切り替わる。
「最初から飛ばしていくよー! 幸せ☆クローバー!!」
そうして響渡祭最後のメインイベントである四葉のライブが始まった。
(なんだ、四葉の奴――全然出来るじゃねえか)
平凡な日常の中で、たまたま四葉のクローバーを見た時、特に何か理由があるわけでもないのに幸せになれる。
四葉の歌でこれだけ多くの人が歓声をあげ、幸せな気持ちを誰かと共有し合っているのだ。
――守れて、良かったな
柄でもないのに、そんな気持ちが素直に出てきた。
自分もまた、この雰囲気に影響されてるのかもしれない。
だけど、きっとこんな気持ちになるのは大好きだ。
クイクイっと、服を引かれて横を見ればナニィが微笑みながらこちらを見ていた。
言葉を交わさなくても不思議と気持ちが分かった。
とても清々しい気分だ、この今を守るために誰かと一緒に頑張れて、お互いがお互いの奮闘を称え合える。
俺もまたナニィに笑いかける。
もう少しだけ、この幸せな時間に浸りたい。
せめて四葉がくれた魔法の歌が、終わってしまう時までは――
息を吸って、息を吐く。
呼吸は音の出方や、感情の乗り方にも影響を与える。
まずは呼吸を整えて、集中を高めよう。
ふぅと肺の中を空気をゆっくりと吐き出すと、目を開く。
そこには控え室でステージ衣装に身を包んだ私の姿が、鏡に映り込んでいた。
「――それにしてもやっぱり似てるなぁ」
磨き上げられた鏡面に映る自分の姿、緩くウェーブのかかった蜂蜜色の髪にお人形みたいとよく言われる白い肌、目だけはちょっとタレ目気味ではあるが、その姿はやはり相方と瓜二つであった。
「今日の私はアリスちゃんじゃない、正真正銘の有栖院四葉です」
いつもは鏡を見るたびに劣等感を刺激されるので、なるべくみないようにしていたが、今日は落ち着いている、いやむしろ闘志が湧き上がってさえきている。
(行こう、私が私であるために、自分の心にこれ以上嘘を吐かないために)
パンパンと頬を叩いて椅子を立つ。
(アリスちゃんが紡いで、ナニィちゃんが勝ち取ってくれたチャンス、ヘカテアさんとの闘いは私が締めくくります!)
戦いへの覚悟を決めて、私は控室を出た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
会場のライトが落ちて、ステージ上にのみ照らされたスポットライトが否応にも注意を引く。
開演まではもう間もなくといったところだろう。
手元に握りしめた応援用のバトンを確かめながら心待ちにするが、それよりも前にやっておくことができた。
「さっきからそわそわしすぎだ、落ち着けよ」
俺は隣で貧乏ゆすりをしたり絶えず身体を揺らすアリスに声をかける。
横でこんな事されてたら楽しむものも楽しめない。
「だ、だってそんなこと言ったって気になるもんは気になるでしょうが!」
逆切れするようにアリスは叫ぶ。
もっともその声音は周囲への配慮からかかなり抑えられたものだったが。
「大丈夫ですよアリスさん、四葉ちゃんなら……きっとやってくれます」
だから信じましょうとナニィはアリスの手を取った。
「――ごめんなさい、取り乱したわ。そうよね、私は四葉を信じる。私が支えると決めた王様の力を信じるんだから」
「ようやく戻ったか、ふてぶてしいぐらいのがお前らしいぜ?」
「やかましいわよ愚民、座して四葉の声に聞き惚れるがいいわ」
調子が戻ったのか元の傲慢な口調になるアリスに苦笑を浮かべて、ステージに向き直る。
それからステージの上に一人の少女が現れるまでそう時間はかからなかった。
『みんなー、待ったかなー?』
蜂蜜色の髪を揺らしながら、緑色を基調とした衣装に身を包んだ四葉が元気よく登壇する。
頭に被ったちょこんと被った群青の帽子が四葉の可愛らしさを引き立てている。
『ふぅぅううう!!』
『四葉ちゅわああん!?』
『今日も可愛ゆぃいい!』
『よっつば!よっつば!』
四葉が登場すると同時に会場が割れんばかりの歓声に包まれた。
その圧倒的な熱量に思わず気圧される。
「きゃあああ!?四葉ぁああ!こっち向いてぇえ!!」
先程までの不安はどこへやら。
俺の隣でバーサーカーと化したアリスが甘ったるい声音で叫ぶ。
というかどっから声出したんだ今の?
「今日は私のコンサートに来てくれてありがとう! みんなは響渡祭、楽しかったー?」
四葉が客席に向かって話しかける。
MCというんだっただろうか?
楽しかったーとか、食べ物美味しかったーとかの返事が聞こえてくる。
「楽しんでくれてありがとう! ここには家族や恋人、仲の良い友達に一人で来てくれた人もいっぱいいると思う。私は! 色んな人達がいるこの場所で、もっとみんなと楽しい時間を一緒に過ごして欲しい! 私もみんなと一緒に楽しみたい!」
四葉がマイクを大きく降って合図を送ると、ライトの色と配置が切り替わる。
「最初から飛ばしていくよー! 幸せ☆クローバー!!」
そうして響渡祭最後のメインイベントである四葉のライブが始まった。
(なんだ、四葉の奴――全然出来るじゃねえか)
平凡な日常の中で、たまたま四葉のクローバーを見た時、特に何か理由があるわけでもないのに幸せになれる。
四葉の歌でこれだけ多くの人が歓声をあげ、幸せな気持ちを誰かと共有し合っているのだ。
――守れて、良かったな
柄でもないのに、そんな気持ちが素直に出てきた。
自分もまた、この雰囲気に影響されてるのかもしれない。
だけど、きっとこんな気持ちになるのは大好きだ。
クイクイっと、服を引かれて横を見ればナニィが微笑みながらこちらを見ていた。
言葉を交わさなくても不思議と気持ちが分かった。
とても清々しい気分だ、この今を守るために誰かと一緒に頑張れて、お互いがお互いの奮闘を称え合える。
俺もまたナニィに笑いかける。
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