プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
57話 ナニィの勝ちだ
雑草が生え、碌に整備もされていない山道を息を上がらせながら走り続ける。
子供の頃はよくこんな山道を走りながら遊びまわったなと昔を思い出して少し懐かしい気持ちになった。
「ナニィ! 急げ、空に光線がびゅんびゅん飛んでやがる」
空を見上げれば、光の線が青空のキャンパスに引かれていく。
四葉はあれをアリスの魔法によるものだと言っていたし、その証言は実際にアリスと交戦している俺達には十分に信頼できるものだった。
「アリスさんが苦戦するほどの人なんですかね?」
「分からん、あいつ怪我してるしなぁ」
  ナニィを庇った結果、アリスは足を負傷して走ることができない状態だ。
  機動力を欠いた状態で普段通りに戦うのは至難の技だろう。
「でも、私が力になれるんでしょうか? 私の魔法なんてちょっと物忘れが激しくなるだけのものなのに」
いざ戦いを前にしてナニィは自信なさげに呟く。
だが、それも無理もないことかもしれない。
ナニィの魔法、忘却せし記憶の泉は相手の記憶を奪うというとても戦闘向きとは思えないものだ、しかもそれにその魔法を行使するためには右手で相手に触れる必要性もあることを考えると戦力不足はどうしても否めない。
「やれることやるしかねえな。実際なところお前の魔法ってどれくらいのものなら忘れさせられんの?」
右手で触れること、忘れさせる事象の重要性に応じて魔力消費量が増減することなどは聞いたことがあるがその上限については聞いたことがなかった。
「うーん、どうなんだろ? 実はあまり試したことないんですよね」
「え? ねえのかよ!? そこは確かめとくだろ普通」
自分のことだろうと思って、非難めいた視線を送る。
「だ、だってしょうがないじゃないですか!? 記憶を弄るから人に使わなきゃいけないのに、完全に忘却できちゃったら元に戻せないんですよ? 練習するにも試せないんですってば!」
ナニィの言い分を聞いて、納得する。
俺の昔の思い出も未だに思い出せない。
思い出せないなら実験台に志願してくれるやつもいなかっただろうし、自分がどれくらいのことが出来るのか知らないのも無理もないことだろう。
ナニィの性格的に、相手に無理強いするのも想像できない。
「じゃあもし消しきれなかった場合はどうなるんだ?」
小説なんかだと失敗したら自分に効果が跳ね返ったりする描写を見たことがあるが。
「エミィお姉様の話だと一時的に記憶が混濁するらしいです、でも多分すぐに戻っちゃうと思いますよ?」
「一時的に、混濁ってことは……なるほど」
「ムクロさん? どうかしたんですか?」
ナニィの話を聞いて、俺の頭の中に一つ面白いアイデアが浮かんだ。
「なあナニィ、いっこ面白いこと考えたんだけどよ。耳貸してくれねえか?」
「面白いことですか?」
いたずらをする子供のように、俺はナニィに良からぬことを吹き込んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目の前の光景をまるでスローモーションになった動画のように眺めていた。
アリスと対峙していた青髪に月を模した髪飾りをつけた少女。
その少女と戦っていたナニィがついに敵を投げ飛ばし、地面へと叩きつけた。
もろに背中から激突した少女はぐったりとその場で大の字になって転がる。
静まり返った空気、少女が起き上がる気配はない。
ナニィの勝ちだ。
そう思った瞬間、俺は血が沸騰するような興奮を覚えた。
「うぉおおおおお!! マジか、やったじゃねえかナニィ!!」
バシバシと肩を叩いて勝利を祝福する。
「え? 勝ったんですか? 私が?」
実感が湧かないのか、ナニィがポカンとした表情でそう呟く。
「そうだよ! お前の勝ちだよ! やべえ、なんだコレ? 自分の事みたいに嬉しい!」
「そ、そんなに喜ばなくても……えへへ、なんか照れちゃいます」
「最初の赤髪にはコテンパンにされるわ、ジャウィンは捕まえられないわ、アリスからは逃げ回った上に捕まってパシリにされたのが嘘みたいだ!」
「褒めてるんですか!? 貶してるんですか!? ぶん殴りますよ!!」
事実を口にしただけなのに、なぜか怒られた。理不尽な話だが、今は何故か嫌な気持ちにならなかった。
「バーカっ、褒めてるに決まってるじゃねえか。勝ったんだぜ? すげえよ! お前ももっと喜べよ! 初勝利だぜ初勝利!」
今回ばっかりは手放しで相方の健闘を褒め称えてもいいだろう。
俺の中のナニィの株がぐんぐんと急上昇していた。
「そんな……ムクロさんのおかげですよ、道中で言ってたこと、こんなに上手くいくと思いませんでした」
「ああ、黒部さん達の状態は魔法によってもたらされたのはまず間違いないだろうからな。厄介な魔法を封じられたらと思ったんだが」
俺がナニィに吹き込んだのは相手の言語能力に忘却せし記憶の泉を掛けられないか? というものだった。
「あの時は普段使ってる言葉なんて忘れさせられる訳ないって思いましたけど、まさかこんな使い方があるなんて今まで考えもしませんでした」
「成功しなくてもいいんだ。とにかく厄介な魔法さえ封じられるのなら、こっちは人数が多いんだから負ける訳がない」
ナニィの話を聞いて失敗しても影響がない訳ではないということを知って、今回のことを思いついたのだ。ナニィ達は魔法を使う時に、呪文のようなものをみんな唱えている。
ということは言語能力に支障が出れば結果的に魔法は使えなくなるはずだと考えたのだ。
だが、俺の助言を差し引いても今回のナニィの働きは目覚ましいものがある。
「俺たちの世界には言うは易く、行うは難しって言葉があってな」
「それってどういう意味なんですか?」
「きっちり実行したお前がすごいって意味だ。今回勝てたのはお前のおかげだってことだよ」
実際、魔法を封じた後は俺とアリスも加わって三人で抑え込むつもりだったのだ。しかし俺は四葉を守るために、アリスは放心状態で動けなかった。
魔法を潰した上で接近戦すら制し、見事に相手を倒して見せたナニィが今回のMVPなのは明白だ。
「えへへ、そっかー私が、私なんかでも、勝てるんですね」
ようやく勝利の実感が伴ってきたのか、手を握ったり開いたりして嬉しそうに微笑む。
「よくやったな、ナニィ。大手柄だぜ?」
そんなナニィの頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
いつもは嫌がるナニィだが、今回はくすぐったそうに目を細めた。
「あ、そういえばアリスちゃん達は?」
興奮が冷めない様子でナニィがそう聞いてくるので俺は二人の場所を指し示した。
「馬鹿ぁ、危ないのになんで来るのよ!?」
「ごめんね、アリスちゃんが危ないと思ったらじっとしてられなくて」
「嬉しいけどそれ以上に怖かったわよ!四葉が私の前からいなくなっちゃうんじゃないかって……怪我がなくて、本当に良かった」
そこには泣きながらお互いのパートナーの無事を安堵する二人の姿があった。
「邪魔したら悪いですね」
「ああ、俺たちはその間にこいつのカード回収しとくか。その上で念のため、拘束しとこう」
「分かりました。カードは私が抜いとくので、ムクロさんは何か縛るもの探してきてもらっていいですか?」
「あいよ、ロープか手錠か。なければ延長コードでもいけんだろ。それと黒部さんに連絡入れておくか、説明しない訳にもいかんだろ」
こうして俺たちは分担して事後処理をこなしていく。せっせと準備を進めながら、この穴だらけになったステージどうすんだろう?とそんなことを考えていた。
子供の頃はよくこんな山道を走りながら遊びまわったなと昔を思い出して少し懐かしい気持ちになった。
「ナニィ! 急げ、空に光線がびゅんびゅん飛んでやがる」
空を見上げれば、光の線が青空のキャンパスに引かれていく。
四葉はあれをアリスの魔法によるものだと言っていたし、その証言は実際にアリスと交戦している俺達には十分に信頼できるものだった。
「アリスさんが苦戦するほどの人なんですかね?」
「分からん、あいつ怪我してるしなぁ」
  ナニィを庇った結果、アリスは足を負傷して走ることができない状態だ。
  機動力を欠いた状態で普段通りに戦うのは至難の技だろう。
「でも、私が力になれるんでしょうか? 私の魔法なんてちょっと物忘れが激しくなるだけのものなのに」
いざ戦いを前にしてナニィは自信なさげに呟く。
だが、それも無理もないことかもしれない。
ナニィの魔法、忘却せし記憶の泉は相手の記憶を奪うというとても戦闘向きとは思えないものだ、しかもそれにその魔法を行使するためには右手で相手に触れる必要性もあることを考えると戦力不足はどうしても否めない。
「やれることやるしかねえな。実際なところお前の魔法ってどれくらいのものなら忘れさせられんの?」
右手で触れること、忘れさせる事象の重要性に応じて魔力消費量が増減することなどは聞いたことがあるがその上限については聞いたことがなかった。
「うーん、どうなんだろ? 実はあまり試したことないんですよね」
「え? ねえのかよ!? そこは確かめとくだろ普通」
自分のことだろうと思って、非難めいた視線を送る。
「だ、だってしょうがないじゃないですか!? 記憶を弄るから人に使わなきゃいけないのに、完全に忘却できちゃったら元に戻せないんですよ? 練習するにも試せないんですってば!」
ナニィの言い分を聞いて、納得する。
俺の昔の思い出も未だに思い出せない。
思い出せないなら実験台に志願してくれるやつもいなかっただろうし、自分がどれくらいのことが出来るのか知らないのも無理もないことだろう。
ナニィの性格的に、相手に無理強いするのも想像できない。
「じゃあもし消しきれなかった場合はどうなるんだ?」
小説なんかだと失敗したら自分に効果が跳ね返ったりする描写を見たことがあるが。
「エミィお姉様の話だと一時的に記憶が混濁するらしいです、でも多分すぐに戻っちゃうと思いますよ?」
「一時的に、混濁ってことは……なるほど」
「ムクロさん? どうかしたんですか?」
ナニィの話を聞いて、俺の頭の中に一つ面白いアイデアが浮かんだ。
「なあナニィ、いっこ面白いこと考えたんだけどよ。耳貸してくれねえか?」
「面白いことですか?」
いたずらをする子供のように、俺はナニィに良からぬことを吹き込んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目の前の光景をまるでスローモーションになった動画のように眺めていた。
アリスと対峙していた青髪に月を模した髪飾りをつけた少女。
その少女と戦っていたナニィがついに敵を投げ飛ばし、地面へと叩きつけた。
もろに背中から激突した少女はぐったりとその場で大の字になって転がる。
静まり返った空気、少女が起き上がる気配はない。
ナニィの勝ちだ。
そう思った瞬間、俺は血が沸騰するような興奮を覚えた。
「うぉおおおおお!! マジか、やったじゃねえかナニィ!!」
バシバシと肩を叩いて勝利を祝福する。
「え? 勝ったんですか? 私が?」
実感が湧かないのか、ナニィがポカンとした表情でそう呟く。
「そうだよ! お前の勝ちだよ! やべえ、なんだコレ? 自分の事みたいに嬉しい!」
「そ、そんなに喜ばなくても……えへへ、なんか照れちゃいます」
「最初の赤髪にはコテンパンにされるわ、ジャウィンは捕まえられないわ、アリスからは逃げ回った上に捕まってパシリにされたのが嘘みたいだ!」
「褒めてるんですか!? 貶してるんですか!? ぶん殴りますよ!!」
事実を口にしただけなのに、なぜか怒られた。理不尽な話だが、今は何故か嫌な気持ちにならなかった。
「バーカっ、褒めてるに決まってるじゃねえか。勝ったんだぜ? すげえよ! お前ももっと喜べよ! 初勝利だぜ初勝利!」
今回ばっかりは手放しで相方の健闘を褒め称えてもいいだろう。
俺の中のナニィの株がぐんぐんと急上昇していた。
「そんな……ムクロさんのおかげですよ、道中で言ってたこと、こんなに上手くいくと思いませんでした」
「ああ、黒部さん達の状態は魔法によってもたらされたのはまず間違いないだろうからな。厄介な魔法を封じられたらと思ったんだが」
俺がナニィに吹き込んだのは相手の言語能力に忘却せし記憶の泉を掛けられないか? というものだった。
「あの時は普段使ってる言葉なんて忘れさせられる訳ないって思いましたけど、まさかこんな使い方があるなんて今まで考えもしませんでした」
「成功しなくてもいいんだ。とにかく厄介な魔法さえ封じられるのなら、こっちは人数が多いんだから負ける訳がない」
ナニィの話を聞いて失敗しても影響がない訳ではないということを知って、今回のことを思いついたのだ。ナニィ達は魔法を使う時に、呪文のようなものをみんな唱えている。
ということは言語能力に支障が出れば結果的に魔法は使えなくなるはずだと考えたのだ。
だが、俺の助言を差し引いても今回のナニィの働きは目覚ましいものがある。
「俺たちの世界には言うは易く、行うは難しって言葉があってな」
「それってどういう意味なんですか?」
「きっちり実行したお前がすごいって意味だ。今回勝てたのはお前のおかげだってことだよ」
実際、魔法を封じた後は俺とアリスも加わって三人で抑え込むつもりだったのだ。しかし俺は四葉を守るために、アリスは放心状態で動けなかった。
魔法を潰した上で接近戦すら制し、見事に相手を倒して見せたナニィが今回のMVPなのは明白だ。
「えへへ、そっかー私が、私なんかでも、勝てるんですね」
ようやく勝利の実感が伴ってきたのか、手を握ったり開いたりして嬉しそうに微笑む。
「よくやったな、ナニィ。大手柄だぜ?」
そんなナニィの頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
いつもは嫌がるナニィだが、今回はくすぐったそうに目を細めた。
「あ、そういえばアリスちゃん達は?」
興奮が冷めない様子でナニィがそう聞いてくるので俺は二人の場所を指し示した。
「馬鹿ぁ、危ないのになんで来るのよ!?」
「ごめんね、アリスちゃんが危ないと思ったらじっとしてられなくて」
「嬉しいけどそれ以上に怖かったわよ!四葉が私の前からいなくなっちゃうんじゃないかって……怪我がなくて、本当に良かった」
そこには泣きながらお互いのパートナーの無事を安堵する二人の姿があった。
「邪魔したら悪いですね」
「ああ、俺たちはその間にこいつのカード回収しとくか。その上で念のため、拘束しとこう」
「分かりました。カードは私が抜いとくので、ムクロさんは何か縛るもの探してきてもらっていいですか?」
「あいよ、ロープか手錠か。なければ延長コードでもいけんだろ。それと黒部さんに連絡入れておくか、説明しない訳にもいかんだろ」
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