プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
56話 魔術師殺し
「ちが、違うのアリスちゃん……あたし、ここまでするつもりなんか……なくて」
ヘカテアの声が震えている。怯えを多分に含んだ声音が、ひどく私の神経を逆撫でした。
矢が四葉を貫く瞬間は怖くて見えなかった、だがきっと顔を上げればそこには矢で貫かれた四葉が倒れているはずだった。
(手当、そうだ……手当しなきゃ、もしかしたらまだ間に合うかもしれない)
半身を失ったような喪失感を無理やり抑え込んで顔を上げる。
少しでも可能性があるなら、絶対にあきらめる訳にはいかない。
「……えっ?」
しかし顔を上げた先には絶望の光景はなかった。
男が右手をかざした状態で立っている。
赤いポタポタと零れる血はその手から零れていて、左腕に気を失っているようにぐったりしている四葉を抱えていた。
右手に矢を生やした男は、掛けられたモノクルの奥で涙目を浮かべている。
「痛ってぇええええ!? 洒落にならねええぞちくしょおおお!!」
男は痛みを耐えかねたのか、絶叫を上げながらその場で姿勢を落とした。
「せいやぁああああああ!!」
そして男がここに居るということは片割れの少女もここにいるということ。
白髪の少女が長い髪をなびかせながらヘカテアへと襲い掛かる。
「アリスちゃん、本当に違うの! これは事故で、驚いて撃っちゃっただけで」
「何が、事故ですか! 弓を引いたのは貴方じゃないですか!? その言い分は通りません!!」
義憤に燃え、いつになく闘志をむき出しにするナニィ。
弓を再度番えるにはあまりに距離が近すぎるためか、ヘカテアはやむなく弓を振り回して応戦しようとするが、させじとナニィの徒手空拳がヘカテアを捉える。
「あんた達、ここから出てったはずなのに☆ なんで戻ってきてるのかな♪ かな♫」
「アリスちゃんが空に向かって魔法をたくさん撃ってくれたおかげで……迷わずここまで来れました!」
「あはっ☆ 当たりもしない魔法を撃ちまくってたのはあたしを狙ってた訳じゃなくて救難信号だったんだね♩ その発想はなかったかな♪ かな♫」
結局圧倒的優勢な立ち位置を築きながら見事に挽回されてしまった。
ヘカテアはアリスの手腕に掛け値なしの賞賛を送る。
「でもでもでも☆ まだ負けた訳じゃないよ♪ 負ける訳にいかないのはこっちもおんなじ♫」
「いくら私でも、遠距離タイプと殴り合って負けるほど柔じゃありませんよ! いざ勝負です!!」
不意打ちかつナニィの得意分野での戦い、ヘカテアはその獲物から見ても分かるように近距離で戦うタイプではなく、弓と魔法を駆使してアウトレンジから封殺する生粋の遠距離タイプであり、能力的にも心情的にも明らかに精彩を欠いていた。
「キャッ!?」
顔面を狙うナニィの拳に気を取られている間に、月弓を持っていた手を思いっきり蹴り上げられた。
ヘカテアの手から零れた月弓がカラカラと音を立てて地面を転がっていく。
「こん、の……調子に乗ってぇ☆」
しかしヘカテアも伊達に選定官をやっている訳ではない。
武器が使えないなら魔法を使えばいいと言わんばかりに、体内で魔力を練り上げる。
アリス以外のプリンセスが居ることは分かっていたし、合流されないように気を払ったつもりだったが、こうなっては仕方ない。
一度仕切り直すためにも、ここは魔法で切り抜けるより他はない。
(乱入してきた男は弓を受けてるしぃ、アリスちゃんは足を痛めてる……アリスちゃんの偽物は脅威でもなんでもないし、この目の前の牛女だけどうにか出来れば後は楽勝☆)
ヘカテアは己と対峙している少女を観察しながらそう断じる。
そしてそれはナニィも重々承知していることだった。
「貴方の敗因は……自分の武器に弓を使ってしまったことです」
ナニィの右手が青白く発光して輝き、魔力の渦を纏う。
目の前の少女を倒すのが自分の役割だと唯一の魔法を起動させる。
「私でも分かります。貴方はアリスちゃんみたいな遠くから相手を攻撃できる魔法を持ってない、持ってたら弓なんてかさ張る上に威力も低い、取り回しも悪いもの使う訳ないです」
その上、遠くに転がって行った弓を拾う素振りさえ見せなかった。それは弓がなくてもヘカテアが戦闘続行が可能であると判断しているということ、実は近距離が得意なんてことはないのは先程の手合わせで容易に想像がつく。
「なら答えは一つです、貴方が弓なんか使って遠距離による戦いに拘ったのは……貴方が遠くからでも有効に活用できる魔法が使える、遠距離支援型のプリンセスだからですよね?」
「だから何☆ それが分かったところで止められなきゃ意味ないよねぇ♪」
魔力を練り終わったヘカテアが呪文を唱えようとする。
「その魔法を忘れさせてあげます! 忘却せし記憶の泉:魔術師殺し!!」
呪文を唱えるよりも先に、ナニィのがヘカテアの胸へ打ち込まれた。
衝撃に耐えながらヘカテアがなんとか魔法を発動させようとするが……
(っ?)
しかし肝心の魔法が使えない、いや……呪文を唱えようと口を開いても空気が漏れるだけだった。
何度も何度も繰り返し行使してきたはずの自分の力が上手く使えない違和感に襲われ、混乱してしまう。
その隙は、すぐ近くに敵がいる状態で見せるにはあまりに致命的なものになった。
「とどめです!!」
ぐわんと視界が浮かんで身体が宙に浮く。
パニックに陥り、身体が硬直したところをナニィに背負い投げられる。
(あ、あたしはアリスちゃんを王様に、ただ隣に居たかっただけなのに)
叶わなかった願いを胸に、ヘカテアは背中から大地に叩きつけられ、沈んでいった。
ヘカテアの声が震えている。怯えを多分に含んだ声音が、ひどく私の神経を逆撫でした。
矢が四葉を貫く瞬間は怖くて見えなかった、だがきっと顔を上げればそこには矢で貫かれた四葉が倒れているはずだった。
(手当、そうだ……手当しなきゃ、もしかしたらまだ間に合うかもしれない)
半身を失ったような喪失感を無理やり抑え込んで顔を上げる。
少しでも可能性があるなら、絶対にあきらめる訳にはいかない。
「……えっ?」
しかし顔を上げた先には絶望の光景はなかった。
男が右手をかざした状態で立っている。
赤いポタポタと零れる血はその手から零れていて、左腕に気を失っているようにぐったりしている四葉を抱えていた。
右手に矢を生やした男は、掛けられたモノクルの奥で涙目を浮かべている。
「痛ってぇええええ!? 洒落にならねええぞちくしょおおお!!」
男は痛みを耐えかねたのか、絶叫を上げながらその場で姿勢を落とした。
「せいやぁああああああ!!」
そして男がここに居るということは片割れの少女もここにいるということ。
白髪の少女が長い髪をなびかせながらヘカテアへと襲い掛かる。
「アリスちゃん、本当に違うの! これは事故で、驚いて撃っちゃっただけで」
「何が、事故ですか! 弓を引いたのは貴方じゃないですか!? その言い分は通りません!!」
義憤に燃え、いつになく闘志をむき出しにするナニィ。
弓を再度番えるにはあまりに距離が近すぎるためか、ヘカテアはやむなく弓を振り回して応戦しようとするが、させじとナニィの徒手空拳がヘカテアを捉える。
「あんた達、ここから出てったはずなのに☆ なんで戻ってきてるのかな♪ かな♫」
「アリスちゃんが空に向かって魔法をたくさん撃ってくれたおかげで……迷わずここまで来れました!」
「あはっ☆ 当たりもしない魔法を撃ちまくってたのはあたしを狙ってた訳じゃなくて救難信号だったんだね♩ その発想はなかったかな♪ かな♫」
結局圧倒的優勢な立ち位置を築きながら見事に挽回されてしまった。
ヘカテアはアリスの手腕に掛け値なしの賞賛を送る。
「でもでもでも☆ まだ負けた訳じゃないよ♪ 負ける訳にいかないのはこっちもおんなじ♫」
「いくら私でも、遠距離タイプと殴り合って負けるほど柔じゃありませんよ! いざ勝負です!!」
不意打ちかつナニィの得意分野での戦い、ヘカテアはその獲物から見ても分かるように近距離で戦うタイプではなく、弓と魔法を駆使してアウトレンジから封殺する生粋の遠距離タイプであり、能力的にも心情的にも明らかに精彩を欠いていた。
「キャッ!?」
顔面を狙うナニィの拳に気を取られている間に、月弓を持っていた手を思いっきり蹴り上げられた。
ヘカテアの手から零れた月弓がカラカラと音を立てて地面を転がっていく。
「こん、の……調子に乗ってぇ☆」
しかしヘカテアも伊達に選定官をやっている訳ではない。
武器が使えないなら魔法を使えばいいと言わんばかりに、体内で魔力を練り上げる。
アリス以外のプリンセスが居ることは分かっていたし、合流されないように気を払ったつもりだったが、こうなっては仕方ない。
一度仕切り直すためにも、ここは魔法で切り抜けるより他はない。
(乱入してきた男は弓を受けてるしぃ、アリスちゃんは足を痛めてる……アリスちゃんの偽物は脅威でもなんでもないし、この目の前の牛女だけどうにか出来れば後は楽勝☆)
ヘカテアは己と対峙している少女を観察しながらそう断じる。
そしてそれはナニィも重々承知していることだった。
「貴方の敗因は……自分の武器に弓を使ってしまったことです」
ナニィの右手が青白く発光して輝き、魔力の渦を纏う。
目の前の少女を倒すのが自分の役割だと唯一の魔法を起動させる。
「私でも分かります。貴方はアリスちゃんみたいな遠くから相手を攻撃できる魔法を持ってない、持ってたら弓なんてかさ張る上に威力も低い、取り回しも悪いもの使う訳ないです」
その上、遠くに転がって行った弓を拾う素振りさえ見せなかった。それは弓がなくてもヘカテアが戦闘続行が可能であると判断しているということ、実は近距離が得意なんてことはないのは先程の手合わせで容易に想像がつく。
「なら答えは一つです、貴方が弓なんか使って遠距離による戦いに拘ったのは……貴方が遠くからでも有効に活用できる魔法が使える、遠距離支援型のプリンセスだからですよね?」
「だから何☆ それが分かったところで止められなきゃ意味ないよねぇ♪」
魔力を練り終わったヘカテアが呪文を唱えようとする。
「その魔法を忘れさせてあげます! 忘却せし記憶の泉:魔術師殺し!!」
呪文を唱えるよりも先に、ナニィのがヘカテアの胸へ打ち込まれた。
衝撃に耐えながらヘカテアがなんとか魔法を発動させようとするが……
(っ?)
しかし肝心の魔法が使えない、いや……呪文を唱えようと口を開いても空気が漏れるだけだった。
何度も何度も繰り返し行使してきたはずの自分の力が上手く使えない違和感に襲われ、混乱してしまう。
その隙は、すぐ近くに敵がいる状態で見せるにはあまりに致命的なものになった。
「とどめです!!」
ぐわんと視界が浮かんで身体が宙に浮く。
パニックに陥り、身体が硬直したところをナニィに背負い投げられる。
(あ、あたしはアリスちゃんを王様に、ただ隣に居たかっただけなのに)
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