プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す

笑顔

52話 帰ったら銭湯行こうぜ

 アリス達と別れた俺はナニィを連れて周辺を探っていた。
 目的はまだ近くに潜伏してる可能性の高い敵を探すこと。 
 なので周囲を警戒しながら、人が隠れられそうな場所を重点的に探しているのだが……


「うーん、あんまり怪しい場所もありませんねぇ」


 草むらをかきわけながら熱心に痕跡を探っているナニィだったが、先の見えない状況に不安を覚え始めているようだった。


「それにどこを探せばいいのやらです」


「手がかりがある訳じゃないからなー、なんかこういう時に役立つ魔法とかないのか?」


 結局俺達は怪しいところを手当たり次第に探るしかない状況だ。
 こんなときに役に立つ魔法でもあれば解決するのだろうが。


「ふっふっふ、私にそんな器用なことが出来るとお思いですか?」


「胸張って言うことじゃないだろが」


 自己主張の激しい膨らみを揺らしながら、無駄にいい返事が返ってくる。
 まあ、アリスが探索組に入らなかったのは足の怪我もあるのだろうが、恐らくあちらにも索敵能力はないのだろう。
 確認した訳ではないが、もしも可能であるならアリスの性格から考えて自分で御礼参りに向かうのが目に見えている。


「そういえばエミィ姉様も探知系統の魔法だけは苦手だったみたいなんですよねー。何でも上手にこなせるエミィ姉様でも苦手なことってあるんだなーって思ったからよく覚えてます」


「あれ? でも確か初めて会った時だったか、お前の姉が箱に魔法でマーキングつけてたとかなんとか言ってなかったか?」


 ナニィがノックダウンから回復した際に持ち込んだ箱のことを気にしていたのを覚えてる。もっともその箱は最初の戦いの際に粉々に砕け散ってしまった訳だが。


「魔法は習得する人の才覚とか性格による向き不向きがすごい大きな差になっちゃうらしくって本当に適正のない属性はもし習得出来ても燃費が悪かったり、機能に制限がついたりするんです」


 つまり受信機を予め設定しないと何もないところからの探知はできないって訳か。
 ただ、そうなると一つの懸念が浮かんでくる。


「でもそれっていいのか?」


「え? 何がですか?」


「いや、ルールに持ち込めるアイテムは一つだけって言ってたろ。そういう受信機はセーフなのかよ?」


 ナニィが持ち込んだアイテムは今や俺の胃袋に飲み込まれてどういう状態になってるのかすらよくわからない宝珠というビー玉くらいの宝石だ。
 俺はこれを誤飲してしまったがために、怪我が一瞬で治る不思議人間となってしまった訳で、まあそのおかげで何度も命拾いしてるので文句は言えないのだが、探知に必要な術式を持ち込むなんてのはルールに抵触しないのだろうか?


「術式は術者がいないとただの紋様でしかないですからねー。それ自体が魔力を帯びてる訳ではないからアイテム扱いじゃないんですよ」


「ふーん?  てことはお前が仮にその術式に魔力を通したところで何も意味ないってことか」


「ですです、エミィ姉様が効果範囲内で魔法を起動してようやく意味があるんです。なんて言えばいいのかな? 受信機というよりは触れればなる鈴みたいな感じですかね?」


 まあ結局エミィ姉様に見つけてもらう前に壊されちゃったんですけどねと、ナニィはてへへと笑った。


「最初の頃はなんであんなドジしちゃったんだろうって思いもしましたけど、私……今はこれで良かったのかなって思ったりもしてるんです」


「そりゃ、なんでだ? あんなに姉妹と会いたがってたじゃねえか」


「あ、もちろんエミィ姉様やネミィちゃんに会いたくないとかそういうんじゃないですよ? でも、もし事前に取り決めていた通りに進んでいたのなら、私はアイテムだけどちらかに渡して早々に帰る予定だったから、それがぽしゃったおかげで今もこうして ここにいる訳でして」


「それでどうだ? こっちの世界の感想は? 面白そうなこととか楽しそうなこともたくさんあると思うぜ?」


 魔法なんてものがある世界には及ばないかもしれないが、生まれ育った場所を誰かに好きになってもらえるのなら嬉しいものだ。
 まあ外国人を迎え入れるのと、異世界人を迎え入れるのは少し感覚が違うかもしれないが。


「そうですねぇ、結構楽しいですよ? ご飯もおいしいし、特にお風呂がいいですねー、とっても気持ちいいです!」


「そりゃ良かった。そんなに気に入ったなら今回の件が終わったら銭湯に連れていってやるよ、広いから足も延ばせるしゆっくりできると思うぞ」


「おっきなお風呂!? この前の旅館よりもですか?」


 大きな愛くるしい目をパチパチと輝かせながら詰め寄ってくる。


「おう、近所の銭湯はかなりでっかいからな! 特にジェットバスっていうぶくぶく泡が出るのオススメだ。超気持ちいいぜ? 旅館にはなかったろ、そういうぶくぶくする奴」


「うわぁー、絶対ですよ? 絶対連れていってくださいよ? 約束ですからね?」


「任せとけ、約束は守るさ」


 小指を絡めて笑い合う。
 今回も病院の時と同様に何事もなく帰れればいい。
 というか宝珠とか得体のしれないものを体内に残したまま、持ち主がいなくなるとかこれからの俺の人生があまりにも不穏すぎるので勘弁願いたい。


「こっちにきて……ムクロさんやマルちゃん、四葉ちゃんに、ちょっときついとこあるけどアリスちゃんに出会えて良かったです……あの赤い髪の子とかジャウィンさんには会いたくなかったですけど」


「ま、今後も面倒臭そうなのに絡まれるだろ。今回のもきっとそんな手合いだろうしな」


「ですね、四葉ちゃんのステージを守るためにも、頑張りましょう!」


意気込み新たに探索を始めようとしたその時だ。
会場の方からピカッと一本の光が伸びていった。


「んおっ!?」


「どうしたんですか? なんか変な声出ましたけど」


「いや、なんか会場の方で何か光ったような気がしてな」


 ナニィが会場を振り帰って、首を傾げる。
 その時には先程と同じように会場は静かに佇んでいるだけだった。


「悪い、気のせいだったかも?」


 釈然としない気持ちだったが、空には青と時折浮かぶ白しかない。
 太陽の眩しさは自分が見た者とは少し違う気がする。
 見間違えのせいで、少し気恥ずかしい思いのままナニィを見やると、その視線が俺や会場ではなく別の場所を向いているのが分かった。


「ナニィ? どうかしたのか?」


「……ムクロさん、あっちの方になんか小屋みたいなのありませんか?」


 指差した方を見やると、確かにちょっと離れたところに小屋……というより物置みたいなものがある。距離があるのと、木々が邪魔してるので見落としていたようだ。


「気づかなかったな、一応見にいってみるか?」


「そうですね、あそこなら隠れるにも雨露を避けるにもちょうど良さそうな感じですし」


 そうして俺達は抜き足差し足忍び足、慎重に物置に近寄っていった。



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