プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
47話 道化師と太陽
それから数日が過ぎて、いよいよ本番の日がやってきた。
登竜門と呼ばれているこのステージにはデビュー間もない新人が貴重なチャンスとばかりにこぞって参加している。
会場にはそんな今この時に世へ羽ばたこうとする新星を見ようと多くの観客が詰め寄せていた。
「うわー、お客さんの数すごいね!?」
見渡す限り人の海。
その想像を大きく上回る人の数に気圧されてしまう。
いつもやっている箱の何倍くらいいるんだろう?
「確かにここまで人が集まってるのは見たことないわね。国民全員よりは流石にいないとは思うけど」
「へ? そりゃ確かに多いとは思うけど、比べると流石に少ないと思うよ?」
隣にいるアリスちゃんもまた珍しく驚いた表情を浮かべていて、動揺のあまりおかしなことを呟いてる。
いくら大きな箱だからといって、音楽に興味ない人はもちろん来ないし、仕事などでスケジュールの都合がつかない人だって大勢いる。
「そ、そうよね!? やだ私ったら何言ってるのかしら? さっきのは忘れてちょうだい!」
「う、うん、まあそれはいいんだけど」
むしろただの言い間違いくらい気にすることないのに、妙に挙動不審になるアリスちゃんの方が気になるくらいだし。
『二人共! そんなところで油売ってないで早く会場入りするわよ?』
その間にお母さんから催促されてしまった。
心なしか普段よりもピリピリしているように感じる。
「はーい、もう少しして行くから先に行っててー」
落ち着くには、もう少し時間が必要みたい。
お母さんは返事を聞くと忙しなく指示を出してバタバタと移動を開始していった。
「い、いよいよかぁ」
「平常心を保ちなさい。実力を出し切れば所詮駆け出しのひよっこ共よ、四葉の敵じゃないわ」
「私もそのひよっこの一人なんだけどなぁ」
だけどこれぐらい言える方がアイドルには向いているのかもしれない。
改めて気を引き締め、会場に向けて歩き出そうとした時だった。
「あれ? もしかしてそこにいるのって四葉ちゃんじゃない?」
一人の少女がこちらに手を振りながらあるいてくる。
明るいピンクの髪を二つに結んだ人懐っこそうな少女だ。
こんな可愛い子……見れば忘れるとは思えないけど。
「いやー、僕は四葉ちゃんの大ファンなんだよ。こんなところで会えるなんて感激だなー」
 外見に違わずフレンドリーな様子で話しかけてきた……アリスちゃんの方に。
「四葉ならあっちよ? 大ファンを名乗るならせいぜい見間違えないことね」
「おっと? これは恥ずかしいことしたね。こっちからだと太陽のせいで見にくかったんだ、ごめんね?」
その子の言い方が癇に障ったのか、アリスちゃんの目が見たことないぐらいに鋭くなった。
しかし少女は悪びれる様子もなく、私の顔を舐めるように見つめる。
「あ、あの私の顔に何かついてますか?」
「別にそんなんじゃないけど、ただ……近くで見れば見るほど君は僕の知り合いに似てるなあと思ってね」
「えっと、ありがとうございます?」
「ふふっ、この国では似たような顔は三人はいるなんていうけど異世界まで探せばもっと多いのかもしれないね」
突然何の話だろうと困惑する。
異世界とか電波さんなのかな?
しかしファンを名乗る少女と事を荒げる訳にもいかないので、とりあえず相槌を打っておく。
「それじゃあ応援してるよ、頑張ってね?」
少女は私の肩を叩いて、激励するとそのまま人ごみへと紛れていった。
「なんか不思議な人だったね、早く行こっか」
お母さんも随分先行してしまってるし、急いで追いかけないといけない。
それなのにアリスちゃんはさっきの少女が立ち去っていた方角を睨みつけていた。
「……悪いんだけど四葉、先に行っててくれないかしら? ちょっと用事を思い出しちゃって、すぐに戻るから」
「え、ええ!? ちょ、ちょっと待って! どうしたの突然?  アリスちゃーん!?」
そう言って突然走り出したアリスちゃんは私の声も無視して人の波へと消えていった。
「確かこっちの方だったと思うんだけど」
さっき話し掛けてきた奴を追いかけて大分外れの方まで来てしまった。
そろそろ戻らないといけないけど。
「やあ、僕のことをお探しかい?」
「やっぱりあんただったね? 選定官No.0:道化師のジャウィン」
「髪型を変えると意外と分かんないよね? 選定官No.XIX:太陽のアリスちゃん?」
ニヤニヤと人を喰った笑みを浮かべながら二つに括っていた髪の毛を解いて、トレードマークのシルクハットを被った。
「それにしてもこの選定官の名乗りってかなり気恥ずかしいよね? 世界の奴もインテリぶってるけど案外子供っぽいというかなんというか」
「……預言者に聞かれたら粛正ものね」
「おいおいよしてくれよ。彼女が冗談通じないのは君もよく知ってるだろう?」
軽口を叩きながら雑談に興じていると、不意に道化師はその軽薄な雰囲気を消してこちらを見つめる。
「単刀直入に聞くよ。こんなところでいつまで遊んでるつもりだい?」
こちらを問い詰めるその口調に、内心でついに来たかと嘆息した。
「遊んでいるつもりは、ないわ」
「あの地球人が、王の選定に役立つと?」
「違うわ。四葉は、私が支える、私が仕えると誓った……我が王よ」
訝しがる道化師に首を横に振って応える。
「ぷっ、あーははははっ!」
珍妙な生き物を鑑賞するように大爆笑する道化師の、ただその鋭い目の奥だけが妖しい光を秘めていた。
「いやー、参ったよ。アリスちゃんでも冗談言ったりするんだね。普段真面目な奴が言うと、面白さも倍増だ」
「冗談なんかじゃない、私は真剣よ!」
声音に意志を込めて訴えかけるが、その熱意に反比例するようにジャウィンから熱が抜けていくのが分かった。
「はぁー、アリスちゃん。君だって真なる王を見定めるべく、世界の口車に乗ってこんなところまでやって来たはずだ。それなのに、事もあろうに、異世界人を王だって? そんな馬鹿げたことがあるかい? いや、ないねぇ」
「王とは生き様よ!民を魅せるその在り方よ。断じて生まれ育ちじゃないわ」
「クスクス……生まれなんか関係ない、か。それはプリンセス達に対する皮肉かな?」
「血縁にあぐらかいてる馬鹿に下げる頭なんてあるかって話よ。王を気取るなら、尊敬も信頼も自分の才覚で勝ち取らなきゃ嘘ってもんでしょ」
「ふぅ、何を言っても無駄か。じゃあもしも僕が、力づくで連れ戻すと言ったなら? 君はどうするのかな、アリス・ガーネット」
「その時は太陽の全てを賭けて、道化師を討ち果たすわ」
「僕を討ち果たすと来たか。大きく出たね?」
「あら?今の私達は本国にいる時とは違って条件が課されてる。貴方の条件は何だったかしら?それともこの私に指一本触れずに完封出来るとでも言うのならその身をもって己の増長を思い知りなさい」
売り言葉に買い言葉。
二人の選定官は正面から対峙した。
「これ以上は不毛だね」
道化師が白けたように踵を返す。
黄色の紋様が走っているマントを翻った。
「後悔しても知らないよ」
捨て台詞を吐いて立ち去っていくジャウィンを、私はただ見送ることしか出来なかった。
「ごめんね、でももう決めたのよ」
道化師がいなくなってから、私もまた会場へと向かって歩き出す。
実質的に組織からの離脱を表明したのだ、今後バックアップを期待することは出来ない。
「これからは私一人の力で四葉を守らないと……」
決意を新たに、私は四葉の下へと急いだ。
登竜門と呼ばれているこのステージにはデビュー間もない新人が貴重なチャンスとばかりにこぞって参加している。
会場にはそんな今この時に世へ羽ばたこうとする新星を見ようと多くの観客が詰め寄せていた。
「うわー、お客さんの数すごいね!?」
見渡す限り人の海。
その想像を大きく上回る人の数に気圧されてしまう。
いつもやっている箱の何倍くらいいるんだろう?
「確かにここまで人が集まってるのは見たことないわね。国民全員よりは流石にいないとは思うけど」
「へ? そりゃ確かに多いとは思うけど、比べると流石に少ないと思うよ?」
隣にいるアリスちゃんもまた珍しく驚いた表情を浮かべていて、動揺のあまりおかしなことを呟いてる。
いくら大きな箱だからといって、音楽に興味ない人はもちろん来ないし、仕事などでスケジュールの都合がつかない人だって大勢いる。
「そ、そうよね!? やだ私ったら何言ってるのかしら? さっきのは忘れてちょうだい!」
「う、うん、まあそれはいいんだけど」
むしろただの言い間違いくらい気にすることないのに、妙に挙動不審になるアリスちゃんの方が気になるくらいだし。
『二人共! そんなところで油売ってないで早く会場入りするわよ?』
その間にお母さんから催促されてしまった。
心なしか普段よりもピリピリしているように感じる。
「はーい、もう少しして行くから先に行っててー」
落ち着くには、もう少し時間が必要みたい。
お母さんは返事を聞くと忙しなく指示を出してバタバタと移動を開始していった。
「い、いよいよかぁ」
「平常心を保ちなさい。実力を出し切れば所詮駆け出しのひよっこ共よ、四葉の敵じゃないわ」
「私もそのひよっこの一人なんだけどなぁ」
だけどこれぐらい言える方がアイドルには向いているのかもしれない。
改めて気を引き締め、会場に向けて歩き出そうとした時だった。
「あれ? もしかしてそこにいるのって四葉ちゃんじゃない?」
一人の少女がこちらに手を振りながらあるいてくる。
明るいピンクの髪を二つに結んだ人懐っこそうな少女だ。
こんな可愛い子……見れば忘れるとは思えないけど。
「いやー、僕は四葉ちゃんの大ファンなんだよ。こんなところで会えるなんて感激だなー」
 外見に違わずフレンドリーな様子で話しかけてきた……アリスちゃんの方に。
「四葉ならあっちよ? 大ファンを名乗るならせいぜい見間違えないことね」
「おっと? これは恥ずかしいことしたね。こっちからだと太陽のせいで見にくかったんだ、ごめんね?」
その子の言い方が癇に障ったのか、アリスちゃんの目が見たことないぐらいに鋭くなった。
しかし少女は悪びれる様子もなく、私の顔を舐めるように見つめる。
「あ、あの私の顔に何かついてますか?」
「別にそんなんじゃないけど、ただ……近くで見れば見るほど君は僕の知り合いに似てるなあと思ってね」
「えっと、ありがとうございます?」
「ふふっ、この国では似たような顔は三人はいるなんていうけど異世界まで探せばもっと多いのかもしれないね」
突然何の話だろうと困惑する。
異世界とか電波さんなのかな?
しかしファンを名乗る少女と事を荒げる訳にもいかないので、とりあえず相槌を打っておく。
「それじゃあ応援してるよ、頑張ってね?」
少女は私の肩を叩いて、激励するとそのまま人ごみへと紛れていった。
「なんか不思議な人だったね、早く行こっか」
お母さんも随分先行してしまってるし、急いで追いかけないといけない。
それなのにアリスちゃんはさっきの少女が立ち去っていた方角を睨みつけていた。
「……悪いんだけど四葉、先に行っててくれないかしら? ちょっと用事を思い出しちゃって、すぐに戻るから」
「え、ええ!? ちょ、ちょっと待って! どうしたの突然?  アリスちゃーん!?」
そう言って突然走り出したアリスちゃんは私の声も無視して人の波へと消えていった。
「確かこっちの方だったと思うんだけど」
さっき話し掛けてきた奴を追いかけて大分外れの方まで来てしまった。
そろそろ戻らないといけないけど。
「やあ、僕のことをお探しかい?」
「やっぱりあんただったね? 選定官No.0:道化師のジャウィン」
「髪型を変えると意外と分かんないよね? 選定官No.XIX:太陽のアリスちゃん?」
ニヤニヤと人を喰った笑みを浮かべながら二つに括っていた髪の毛を解いて、トレードマークのシルクハットを被った。
「それにしてもこの選定官の名乗りってかなり気恥ずかしいよね? 世界の奴もインテリぶってるけど案外子供っぽいというかなんというか」
「……預言者に聞かれたら粛正ものね」
「おいおいよしてくれよ。彼女が冗談通じないのは君もよく知ってるだろう?」
軽口を叩きながら雑談に興じていると、不意に道化師はその軽薄な雰囲気を消してこちらを見つめる。
「単刀直入に聞くよ。こんなところでいつまで遊んでるつもりだい?」
こちらを問い詰めるその口調に、内心でついに来たかと嘆息した。
「遊んでいるつもりは、ないわ」
「あの地球人が、王の選定に役立つと?」
「違うわ。四葉は、私が支える、私が仕えると誓った……我が王よ」
訝しがる道化師に首を横に振って応える。
「ぷっ、あーははははっ!」
珍妙な生き物を鑑賞するように大爆笑する道化師の、ただその鋭い目の奥だけが妖しい光を秘めていた。
「いやー、参ったよ。アリスちゃんでも冗談言ったりするんだね。普段真面目な奴が言うと、面白さも倍増だ」
「冗談なんかじゃない、私は真剣よ!」
声音に意志を込めて訴えかけるが、その熱意に反比例するようにジャウィンから熱が抜けていくのが分かった。
「はぁー、アリスちゃん。君だって真なる王を見定めるべく、世界の口車に乗ってこんなところまでやって来たはずだ。それなのに、事もあろうに、異世界人を王だって? そんな馬鹿げたことがあるかい? いや、ないねぇ」
「王とは生き様よ!民を魅せるその在り方よ。断じて生まれ育ちじゃないわ」
「クスクス……生まれなんか関係ない、か。それはプリンセス達に対する皮肉かな?」
「血縁にあぐらかいてる馬鹿に下げる頭なんてあるかって話よ。王を気取るなら、尊敬も信頼も自分の才覚で勝ち取らなきゃ嘘ってもんでしょ」
「ふぅ、何を言っても無駄か。じゃあもしも僕が、力づくで連れ戻すと言ったなら? 君はどうするのかな、アリス・ガーネット」
「その時は太陽の全てを賭けて、道化師を討ち果たすわ」
「僕を討ち果たすと来たか。大きく出たね?」
「あら?今の私達は本国にいる時とは違って条件が課されてる。貴方の条件は何だったかしら?それともこの私に指一本触れずに完封出来るとでも言うのならその身をもって己の増長を思い知りなさい」
売り言葉に買い言葉。
二人の選定官は正面から対峙した。
「これ以上は不毛だね」
道化師が白けたように踵を返す。
黄色の紋様が走っているマントを翻った。
「後悔しても知らないよ」
捨て台詞を吐いて立ち去っていくジャウィンを、私はただ見送ることしか出来なかった。
「ごめんね、でももう決めたのよ」
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