プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
39話 マネージャー
朝陽が輝き、爽やかな風が流れるとても穏やかな一日だった。
いつもの俺ならこんな日には木陰にでも寝そべり優雅な昼寝でも楽しんでいたに違いない。
「おーい! 機材まだっすか? こっち急いでるんスよ!」
「はい!ただいまぁあああ」
バタバタと周囲を忙しなく人が駆け巡る。
ある人は怒声を放ち、ある人は悲鳴を上げて阿鼻叫喚の渦となっていた。
日々の探検を通して鍛えられたおかげで体力にはそこそこ自信があったが、慣れない労働に俺の神経はガリガリと削られていく。
「なんで俺がこんなことせにゃならんかなぁ?」
つい先日までは観光客だったはずの俺が、こうして労働に汗水垂らして勤しむ羽目になった元凶へと思いを馳せた。
それはアリスからカードを返してもらうための交換条件として、出された祭りを敵対者から守ること。
状況的にやむなく飲み込むしかなかった俺達は、一晩屈辱に枕を濡らして翌朝に朝食を取りながら、具体的な方法をアリスと共に考えることになった。
「マネージャーだぁ?」
俺はアリスの提案に思わず声を荒げていた。
「そうよ。あんたは私の下僕となって労働という名の奉仕活動に身を捧げるのよ」
「ふざけんな。その間に敵が襲ってきたらどうすんだよ!?」
俺は普通のどこにでもいる高校生だぞ? 魔法やら不思議なアイテムやら使いこなす候補者が襲ってきたらどうするんだよ。
「ご冥福をお祈り申し上げます」
「突然、丁寧な口調になるのはやめて!? 割と本気で不安になるから!!」
高圧的な態度を取ることの多いアリスがしんみりとしゃべると誰かの通夜にでも行った気分になる。
まあこの場合仏様になってるのは俺なんだろうけど。
「ジャウィンの魔法、扇動する愚者の言霊はこういう人の多い場所で真価を発揮するわ。洗脳されたスタッフが襲い掛かってこないとも限らない。一人は近辺を探ってもらわないとおちおちリハーサルだって出来ないじゃない」
「俺が魔法で操られたらどうすんだよ!?」
ミイラ取りがミイラになってしまえば監視の意味など薄れるというものだ。
俺の言い分に、まずはそこからとでも言いたげにアリスは溜息をついた。
「ねぇ……あんたって詐欺師の言葉を信じる?」
「はぁ? 信じる訳ねえだろ」
何が悲しくて人を騙して飯を食ってる人間なんて信用しなきゃいけないのか。
「それよ。ジャウィンの魔法は他人の心を操る強力な魔法だけど、感情を媒介にする以上前知識があるやつには通用しない。だから安心して怪しい奴がいないかどうか監視なさい」
相手の手の内を知っていればジャウィンの魔法は効果が激変すると断言するアリス。
同じ選定官という仲間同士の発言とあって、その情報には信憑性が高く、俺は渋々ながらも頷くしかなかった。
「えっと私は何をすればいいんですか?」
おずおずといった様子でナニィは挙手する。
「あんたには踊ってもらうわ」
「……はぇ?」
んーっと人差し指を唇に添えて悩んだアリスは、やがてそういった。
ナニィは一瞬何を言われたのか理解できなかったようで首を傾げている。
「どん臭そうだけど、あんたって見てくれはいいもの。それに……曲がりなりにも高貴な家柄できちんと教育は受けてるんでしょ? ダンスとか歌とか」
「うーん……人並には出来ると思いますけど」
でも私、あんまり社交界には出ずに引きこもってましたからねえと自信なさげに呟く。
「それで十分よ。大切なのは四葉の傍にいること、敵が来たらあんたが身体を張って四葉を守りなさい。裏切ったら即カードは潰すからね?」
「し、心配しなくても裏切ったりなんかしませんよぉ」
ナニィはガクガクと恐怖で身体を揺らしながら首肯する。
「ククク、これでこいつのおっぱいに引き寄せられた客をカモにしてお金がっぽがっぽよ! 笑いが止まらないわ!!」
「おーい、漏れてる。本音漏れてるぞー」
指で輪っかを作りながら悪い笑みを浮かべるアリスに思わずツッコミを入れた。
良いところの生まれなのに金勘定にうるさいと呆れるべきなのか? それとも良いところの生まれだからこそ金勘定にうるさくなったのだろうと納得するべきなのかは俺には判断がつかなかった。
「俺が会場、ナニィがステージ……んで、お前はどこにいるんだ?」
「それは秘密。カードを握ってるから利用してあげるけど、私は別にあんた達を信用してる訳じゃないんだから、そこのところは忘れないでもらいたいわね」
こうして同じ釜の飯を食ってみても俺達は仲間という訳ではない。
あくまでもアリスは一定の距離を保ち続けていた。
「へいへい」
この様子では祭りが終わるまでにカードを取り戻さないとどんな無理難題を押し付けられることやらと頭を抱えた。
しかしどうやって取り戻そうか? 流石にあのカードをそこら辺に置き忘れて移動するとも考えにくい。こっそり盗んだり偽物とすり替えたりといったことは難しそうに思えた。
俺がどうやってカードを奪い返そうかと考えていると、アリスは朝食を食べ終えたのか飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いて席を立つ。
「さてっと、私はそろそろ行くわ。後のことはスタッフの信安っていう人に任せてあるから精々頑張ってね、私のために」
チュッとキスを投げて、アリスは部屋から退室していく。
「面倒なことになったなー」
「面倒なことになりましたねー」
俺とナニィは呆然と呟きながら自分達の明日に不安を覚えるのだった。
いつもの俺ならこんな日には木陰にでも寝そべり優雅な昼寝でも楽しんでいたに違いない。
「おーい! 機材まだっすか? こっち急いでるんスよ!」
「はい!ただいまぁあああ」
バタバタと周囲を忙しなく人が駆け巡る。
ある人は怒声を放ち、ある人は悲鳴を上げて阿鼻叫喚の渦となっていた。
日々の探検を通して鍛えられたおかげで体力にはそこそこ自信があったが、慣れない労働に俺の神経はガリガリと削られていく。
「なんで俺がこんなことせにゃならんかなぁ?」
つい先日までは観光客だったはずの俺が、こうして労働に汗水垂らして勤しむ羽目になった元凶へと思いを馳せた。
それはアリスからカードを返してもらうための交換条件として、出された祭りを敵対者から守ること。
状況的にやむなく飲み込むしかなかった俺達は、一晩屈辱に枕を濡らして翌朝に朝食を取りながら、具体的な方法をアリスと共に考えることになった。
「マネージャーだぁ?」
俺はアリスの提案に思わず声を荒げていた。
「そうよ。あんたは私の下僕となって労働という名の奉仕活動に身を捧げるのよ」
「ふざけんな。その間に敵が襲ってきたらどうすんだよ!?」
俺は普通のどこにでもいる高校生だぞ? 魔法やら不思議なアイテムやら使いこなす候補者が襲ってきたらどうするんだよ。
「ご冥福をお祈り申し上げます」
「突然、丁寧な口調になるのはやめて!? 割と本気で不安になるから!!」
高圧的な態度を取ることの多いアリスがしんみりとしゃべると誰かの通夜にでも行った気分になる。
まあこの場合仏様になってるのは俺なんだろうけど。
「ジャウィンの魔法、扇動する愚者の言霊はこういう人の多い場所で真価を発揮するわ。洗脳されたスタッフが襲い掛かってこないとも限らない。一人は近辺を探ってもらわないとおちおちリハーサルだって出来ないじゃない」
「俺が魔法で操られたらどうすんだよ!?」
ミイラ取りがミイラになってしまえば監視の意味など薄れるというものだ。
俺の言い分に、まずはそこからとでも言いたげにアリスは溜息をついた。
「ねぇ……あんたって詐欺師の言葉を信じる?」
「はぁ? 信じる訳ねえだろ」
何が悲しくて人を騙して飯を食ってる人間なんて信用しなきゃいけないのか。
「それよ。ジャウィンの魔法は他人の心を操る強力な魔法だけど、感情を媒介にする以上前知識があるやつには通用しない。だから安心して怪しい奴がいないかどうか監視なさい」
相手の手の内を知っていればジャウィンの魔法は効果が激変すると断言するアリス。
同じ選定官という仲間同士の発言とあって、その情報には信憑性が高く、俺は渋々ながらも頷くしかなかった。
「えっと私は何をすればいいんですか?」
おずおずといった様子でナニィは挙手する。
「あんたには踊ってもらうわ」
「……はぇ?」
んーっと人差し指を唇に添えて悩んだアリスは、やがてそういった。
ナニィは一瞬何を言われたのか理解できなかったようで首を傾げている。
「どん臭そうだけど、あんたって見てくれはいいもの。それに……曲がりなりにも高貴な家柄できちんと教育は受けてるんでしょ? ダンスとか歌とか」
「うーん……人並には出来ると思いますけど」
でも私、あんまり社交界には出ずに引きこもってましたからねえと自信なさげに呟く。
「それで十分よ。大切なのは四葉の傍にいること、敵が来たらあんたが身体を張って四葉を守りなさい。裏切ったら即カードは潰すからね?」
「し、心配しなくても裏切ったりなんかしませんよぉ」
ナニィはガクガクと恐怖で身体を揺らしながら首肯する。
「ククク、これでこいつのおっぱいに引き寄せられた客をカモにしてお金がっぽがっぽよ! 笑いが止まらないわ!!」
「おーい、漏れてる。本音漏れてるぞー」
指で輪っかを作りながら悪い笑みを浮かべるアリスに思わずツッコミを入れた。
良いところの生まれなのに金勘定にうるさいと呆れるべきなのか? それとも良いところの生まれだからこそ金勘定にうるさくなったのだろうと納得するべきなのかは俺には判断がつかなかった。
「俺が会場、ナニィがステージ……んで、お前はどこにいるんだ?」
「それは秘密。カードを握ってるから利用してあげるけど、私は別にあんた達を信用してる訳じゃないんだから、そこのところは忘れないでもらいたいわね」
こうして同じ釜の飯を食ってみても俺達は仲間という訳ではない。
あくまでもアリスは一定の距離を保ち続けていた。
「へいへい」
この様子では祭りが終わるまでにカードを取り戻さないとどんな無理難題を押し付けられることやらと頭を抱えた。
しかしどうやって取り戻そうか? 流石にあのカードをそこら辺に置き忘れて移動するとも考えにくい。こっそり盗んだり偽物とすり替えたりといったことは難しそうに思えた。
俺がどうやってカードを奪い返そうかと考えていると、アリスは朝食を食べ終えたのか飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いて席を立つ。
「さてっと、私はそろそろ行くわ。後のことはスタッフの信安っていう人に任せてあるから精々頑張ってね、私のために」
チュッとキスを投げて、アリスは部屋から退室していく。
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