プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
38話 交換条件
「真なる女王を見定める……ですか?」
アリスの口から語られる選定官の目的。
その本末転倒とも言える闘争理由にナニィは当惑を隠せないようだった。
それもそのはず、これは女王を選抜するための試練であり、候補者は女王になるべくしのぎを削る戦いなのだ。
例外はアクシデントに見舞われた場合。
そう、ナニィのように支援者として参加したはずが、肝心のアイテムを紛失し、アイテム譲渡先の候補者と合流できずに迷子になってしまうようなことでもない限り、試練を継続する理由は本来ならないはずなのである。
当然の疑問に、アリスも顔を難し気に歪めてどう説明しようかと頭を悩ませて、自らの額をとんとんと指でつついて唸っていた。
「そうねぇ。事情は色々なんだと思うけど……例えば国の方針で台頭を好まないみたいな理由だったり、本人が自由気ままな性質で女王になりたくなかったりとかね。でも自分勝手なことに気に入らない人間を女王にさせるのも面白くないのよ」
そのあまりの身勝手な言い分に、部外者の俺でさえ唖然とする。
選定官はもともとジャウィンのような候補者が所属している集団だ。
まともな集団ではないだろうと思っていたが、予想斜め上を行っていた。
要するに自分のやりたくないことを他人に押し付けるという訳であり、そんなしょうもないことを十分な人員と時間をかけて入念に準備してるもんだから更に性質が悪い。
「……色々と思うことはあるけど、とりあえず横に置いときます。でもそれって私みたいな支援者とどう違うんですか?」
一瞬ナニィが露骨に面白くなさそうな顔をしたが、さきほどカードを裁断機に突っ込まれそうになったことを反省してか、話題を逸らして対応していた。
「まあ性質としては同じね。ただ違う点を挙げるなら支援者は自国の、ないし同盟国の候補者を支援する。つまり最初から支える候補者が決まってる訳だけど、私達選定官はほとんどが各々の趣味嗜好に沿った人間を女王にしようと画策しているのが大きな違いかしら?」
「なるほど、選定官の目的については大体分かった。それで……ジャウィンもその選定官の一員なんだよな? 他にはどんな奴が居て、全員で何人くらいいるんだ?」
道化・太陽など大アルカナに対応した呼称を名乗っているようなので恐らくは20人程度くらいだろうとアタリをつけるが、正確な人数は把握しておきたい。
「悪いけど、それは言えないわ」
しかし、所属メンバーの詳細な情報共有は、アリスによってきっぱりと拒絶された。
「え? どうしてですか? もしかしたらジャウィンが仲間を連れて大挙してやって来るかもしれないんですよ?」
「選定官の一人に、目と耳の良い奴が居てね。そいつは大の裏切り者嫌いで、私が仲間の情報を売ったなんて知れたら、それこそ選定官がこぞって潰しに来るわよ? そうなったら私達なんて瞬殺でしょうね」
「うぇっ!?」
ダース単位で襲い掛かってくる候補者に袋叩きにされる未来を幻視し、ナニィは顔を青くする。
「その割には選定官についてはべらべらとしゃべったみたいだが、大丈夫なのか?」
「カードは私が握ってるし、選定官が携わってる案件だから概要くらいなら大丈夫のはずよ、さて他に何か聞きたいことはあるかしら?」
「あ、最後に一つだけ質問あります」
「俺も一つあるな」
質問のラストオーダーに、俺とナニィがそれぞれ手を挙げる。
「じゃあ、あんたからでいいわ」
「えっと、ジャウィンも選定官だけどアリスさんも選定官なんですよね? それならアリスさんに味方してくれる人とかいらっしゃらないんですか?」
アリスからの指名でナニィが先に質問を繰り出す。
なるほど、同じ組織なら必ずしも全員がジャウィン派閥とは限らない、仲の良い選定官がいるならそいつに助力を頼むということもできるな。
「あー、痛いところ突いてくるわね。ちょっと理由があって私は選定官の中でも浮いてるのよね。【正義】なら助けに来てくれるだろうけど、居場所なんて知らないし連絡も取れないから……味方は居ないと思ってくれていいわ」
「……そうですか、アリスさんも大変だったんですね。誰かに疎まれる辛さとかよく分かります、だから私に出来ることがあったら教えて下さいね?」
「ん? あれ? もしかして同情されてる? 違うから! 別にそんな悲しいもんじゃないから!」
ナニィが同類を見るような生暖かい目でアリスを見つめる。
そうか、あいつぼっちだったのか。
なんか態度でかいし、むかつく奴だと思ってたけどそうか、ぼっちだったのか。
「ええい! そんなことはどうでもいいのよ! ほら、次はあんたよ」
バツの悪い話題を変えようと、矛先をこちらに向けてくる。
もうちょっとからかってやりたい気持ちもあるが、今は勘弁してやろう。
「この祭り、中止にはできないのか?」
「なん、ですって?」
「ジャウィンはこの響渡祭を狙って仕掛けて来るんだろう? 俺達は提出できる証拠なんて何も持ってなかったからどうしようもなかったけど、アリスなら黒部を通じてこの祭りが危機に晒されてることを伝えられるんじゃないか?」
「あっ!? それって名案じゃないですか? それならジャウィンも攻略対象を見失って手出し出来ません!」
もしも仮に襲い掛かって来たとしても周囲に人がいないならいくらでもやりようはある。
不特定多数の人間が留まる場所で争いになるのがまずいのだから。
「それだけは絶対に駄目! このライブを中止になんてさせないわ!」
「なんでそんなにこのお祭りにこだわるんですか? ここが戦場になったら四葉ちゃんだって危ないかもしれないんですよ?」
ナニィが四葉に言及すると、アリスは露骨に気まずそうにして顔を逸らした。
「貴方達には……関係のないことよ。それに、命に代えても四葉だけは私が守るわ」
カードをナニィに突き出すようにして威嚇する。
「私が出す条件はこの祭りを守ることよ! それが出来たなら、このカードは返してあげるわ」
アリスから出された交換条件は、非道なものではなかったけれど……それはもう酷いものだった。
アリスの口から語られる選定官の目的。
その本末転倒とも言える闘争理由にナニィは当惑を隠せないようだった。
それもそのはず、これは女王を選抜するための試練であり、候補者は女王になるべくしのぎを削る戦いなのだ。
例外はアクシデントに見舞われた場合。
そう、ナニィのように支援者として参加したはずが、肝心のアイテムを紛失し、アイテム譲渡先の候補者と合流できずに迷子になってしまうようなことでもない限り、試練を継続する理由は本来ならないはずなのである。
当然の疑問に、アリスも顔を難し気に歪めてどう説明しようかと頭を悩ませて、自らの額をとんとんと指でつついて唸っていた。
「そうねぇ。事情は色々なんだと思うけど……例えば国の方針で台頭を好まないみたいな理由だったり、本人が自由気ままな性質で女王になりたくなかったりとかね。でも自分勝手なことに気に入らない人間を女王にさせるのも面白くないのよ」
そのあまりの身勝手な言い分に、部外者の俺でさえ唖然とする。
選定官はもともとジャウィンのような候補者が所属している集団だ。
まともな集団ではないだろうと思っていたが、予想斜め上を行っていた。
要するに自分のやりたくないことを他人に押し付けるという訳であり、そんなしょうもないことを十分な人員と時間をかけて入念に準備してるもんだから更に性質が悪い。
「……色々と思うことはあるけど、とりあえず横に置いときます。でもそれって私みたいな支援者とどう違うんですか?」
一瞬ナニィが露骨に面白くなさそうな顔をしたが、さきほどカードを裁断機に突っ込まれそうになったことを反省してか、話題を逸らして対応していた。
「まあ性質としては同じね。ただ違う点を挙げるなら支援者は自国の、ないし同盟国の候補者を支援する。つまり最初から支える候補者が決まってる訳だけど、私達選定官はほとんどが各々の趣味嗜好に沿った人間を女王にしようと画策しているのが大きな違いかしら?」
「なるほど、選定官の目的については大体分かった。それで……ジャウィンもその選定官の一員なんだよな? 他にはどんな奴が居て、全員で何人くらいいるんだ?」
道化・太陽など大アルカナに対応した呼称を名乗っているようなので恐らくは20人程度くらいだろうとアタリをつけるが、正確な人数は把握しておきたい。
「悪いけど、それは言えないわ」
しかし、所属メンバーの詳細な情報共有は、アリスによってきっぱりと拒絶された。
「え? どうしてですか? もしかしたらジャウィンが仲間を連れて大挙してやって来るかもしれないんですよ?」
「選定官の一人に、目と耳の良い奴が居てね。そいつは大の裏切り者嫌いで、私が仲間の情報を売ったなんて知れたら、それこそ選定官がこぞって潰しに来るわよ? そうなったら私達なんて瞬殺でしょうね」
「うぇっ!?」
ダース単位で襲い掛かってくる候補者に袋叩きにされる未来を幻視し、ナニィは顔を青くする。
「その割には選定官についてはべらべらとしゃべったみたいだが、大丈夫なのか?」
「カードは私が握ってるし、選定官が携わってる案件だから概要くらいなら大丈夫のはずよ、さて他に何か聞きたいことはあるかしら?」
「あ、最後に一つだけ質問あります」
「俺も一つあるな」
質問のラストオーダーに、俺とナニィがそれぞれ手を挙げる。
「じゃあ、あんたからでいいわ」
「えっと、ジャウィンも選定官だけどアリスさんも選定官なんですよね? それならアリスさんに味方してくれる人とかいらっしゃらないんですか?」
アリスからの指名でナニィが先に質問を繰り出す。
なるほど、同じ組織なら必ずしも全員がジャウィン派閥とは限らない、仲の良い選定官がいるならそいつに助力を頼むということもできるな。
「あー、痛いところ突いてくるわね。ちょっと理由があって私は選定官の中でも浮いてるのよね。【正義】なら助けに来てくれるだろうけど、居場所なんて知らないし連絡も取れないから……味方は居ないと思ってくれていいわ」
「……そうですか、アリスさんも大変だったんですね。誰かに疎まれる辛さとかよく分かります、だから私に出来ることがあったら教えて下さいね?」
「ん? あれ? もしかして同情されてる? 違うから! 別にそんな悲しいもんじゃないから!」
ナニィが同類を見るような生暖かい目でアリスを見つめる。
そうか、あいつぼっちだったのか。
なんか態度でかいし、むかつく奴だと思ってたけどそうか、ぼっちだったのか。
「ええい! そんなことはどうでもいいのよ! ほら、次はあんたよ」
バツの悪い話題を変えようと、矛先をこちらに向けてくる。
もうちょっとからかってやりたい気持ちもあるが、今は勘弁してやろう。
「この祭り、中止にはできないのか?」
「なん、ですって?」
「ジャウィンはこの響渡祭を狙って仕掛けて来るんだろう? 俺達は提出できる証拠なんて何も持ってなかったからどうしようもなかったけど、アリスなら黒部を通じてこの祭りが危機に晒されてることを伝えられるんじゃないか?」
「あっ!? それって名案じゃないですか? それならジャウィンも攻略対象を見失って手出し出来ません!」
もしも仮に襲い掛かって来たとしても周囲に人がいないならいくらでもやりようはある。
不特定多数の人間が留まる場所で争いになるのがまずいのだから。
「それだけは絶対に駄目! このライブを中止になんてさせないわ!」
「なんでそんなにこのお祭りにこだわるんですか? ここが戦場になったら四葉ちゃんだって危ないかもしれないんですよ?」
ナニィが四葉に言及すると、アリスは露骨に気まずそうにして顔を逸らした。
「貴方達には……関係のないことよ。それに、命に代えても四葉だけは私が守るわ」
カードをナニィに突き出すようにして威嚇する。
「私が出す条件はこの祭りを守ることよ! それが出来たなら、このカードは返してあげるわ」
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