プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
35話 降伏勧告
普段、俺はあまり太陽の存在を気にしたことはない。
太陽は明るく世界を照らしてくれるが直接見ようとすれば目がやられるのはよく聞く話だ。
明るすぎるものは直視に耐えないので、ちょっと距離を開けておくぐらいがちょうどいいと俺は常々思っている。
しかし太陽が直接迫ってくることを想定する人間はこの世界のどこにもいないのではないだろうか?
「な、何でこうなるんですかぁああああ!?」
「馬鹿、いいから逃げろ! 丸焼きにされるぞ!!」
狼狽するナニィの手を引いて一目散に走り出す。
野外ステージ上にはその手に太陽を思わせる光源を纏わせるアリスがこちらを狙っていた。
「このっ、ちょこまかと! 陽炎陽炎陽炎ぁああ!!」
ピュンと短い発射音が響くとアリスの掌から飛び出した光源がつい先ほど踏みしめた大地を貫いて燃やす。
動きを止めるために足を執拗に狙ってくる光線に冷や汗を流す。
「ナニィ!」
「な、なんですかぁ!?」
「一応聞くが、お前あいつとやり合って勝てるとかないか?」
「私の魔法が何か忘れちゃったんですか? 無茶言わないで下さいよ!」
走りながらナニィに逃走ではなく、闘争という選択肢を示すがすぐに不可能という返事が返ってきた。
「ちっ、だよなぁ……」
ナニィの魔法には一つの制限があり、その右手で相手に触れる必要がある。
ステージ上から魔法で射撃してくる相手に使うためにも壇上に登らねばならず、そんなことをしている間に焼却処分にされてしまう。
まあ、仮に魔法が当てられる状況になったとしても、対象の記憶を忘却させる魔法でどうやって太刀打ちするのかは想像もつかないが……。
「くそっ、油断してた!」
手詰まりの状況に思わず毒づく。
まさか会場が候補者に襲われるのではなく、主催者側に候補者が混じっていて、そいつがこちらを先手で襲ってくるという事態を想定していなかった。
「そこだぁああ!! 陽炎」
「しまっ!?」
ついにアリスの放った魔法が俺の足を捉えた。
光線が足を貫いて、鮮血が噴き出す。
「うがぁあああ!?」
足を撃ち抜かれて、ゴロゴロと地面を転がった。
身体を土や草が汚していくが、そんなことを気にするような余裕はない。
「ムクロさんっ!」
焼ける痛みに足を抱えてうずくまり、耐える。
ナニィが逃げるのをやめてこちらに寄ってきた。
「馬鹿……お前だけでも、さっさと逃げろ」
「嫌ですっ! ムクロさんを置いて逃げられませんよぉ……」
涙目になりながら怪我を手当てしようとするナニィだったが不意にその手を止めた。
「ムクロさん、怪我がもう」
「ぐっ……ああっ、なるほど」
ナニィに促されて足を見ると、早くも怪我が青い光によって消えていこうとしていた。
負った怪我が随時勝手に治っていく様は何度見ても好きになれそうにないが、今ばかりはこの現象に感謝するしかない。
これならまた走れるか? そう考えたが退却は別の理由でもう無理そうだった。
「ナニィ、怪我隠せ」
「分かりました!」
俺がボソリと呟いた指示を理解して、消えていく怪我にハンカチを押し当てて隠す。
「ふぅ、やっと捕まえたわ。あまり苦労させないで欲しいわね」
動きを封殺したことで、勝利を確信したのだろうか?
ステージ上から魔法を放っていたアリスが降りてこちらに歩み寄ってきていた。
今から逃げても、この態勢からでは何かするよりも先に少女の魔法が俺達を撃ち抜くだろう。
「私のことは好きにしてくれて構いません。ムクロさんは見逃してあげてくれませんか?」
ナニィが俺をアリスから隠すように前に立ち、そう言い放つ。
「はぁ? 嫌だけど?」
「っ!? 何でですか? ムクロさんは試練とは関係ない唯の一般人なのに」
「相手が候補者か一般人かなんて私には関係ないもの。私にとって重要なのはそいつが味方か敵かどうかってことだけ」
アリスはそういってナニィの嘆願を冷たく切り捨てる。
「それに、ここにいるってことはつまり、あんたは私達の試練に首を突っ込んだんでしょ? なら無関係って訳じゃないでしょ? ここで死んでも自己責任よ」
「それが貴方達の……選定官って人のやり方なんですか? 貴方もジャウィンと一緒なんですね」
「ジャウィンですって!?」
ナニィがその人物の名を出した瞬間に、アリスがあからさまに動揺を見せた。
「今だっ!」
この瞬間を逃す訳にはいかない。
身体を起こしてアリスに飛び掛かる。
「あんた何で怪我が治って!?」
行動不能に陥ったと思っていた俺が素早く迫る。
アリスは想定してなかった事態に身体がついてこない。
俺の、地面を這って振り上げられた足がアリスの頬を蹴り飛ばした。
「がはっ!?」
「ナニィ、今だ!」
「はい! 取り押さえます!!」
態勢を崩して地面に倒れ込むアリスを拘束するべくナニィと協力して飛び掛かる。
口を切ったのか血をペッと吐き捨てるアリスは、襲い掛かる俺達を睨みつけた。
「私を、太陽を……な、めるなぁあああああ!!」
ふらふらと右手をかざして、吠える様に呪文を唱える。
『闇照らす太陽の煌めき!!」
アリスの叫び声と共に、夜の帳は太陽に包まれた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
辺り一面の光が収まるのを、目を手で覆い隠して待っていた。
アリスに襲い掛かる前に、使われた魔法のせいで身動きが取れないまま、現状も把握できてない。
「うっ、糞……何が起こった?」
未だ視力が戻り切らずチカチカする目で周囲を見渡す。
「おい、ナニィ! いるか?」
「ム、クロ……さん」
「良かった、無事だったか」
呼びかけに答えるナニィの声に安堵したのも束の間だった。
「止まりなさい。おかしな行動を取れば……分かってるわね?」
「ごめん、なさい……捕まりました、私のことはいいから、ムクロさん……逃げて」
ようやく戻り始めた視界に映るのは首に手を当てられてアリスに捕まえられているナニィの姿だった。
「しゃべらないでもらえるかしら?」
「ひっ!?」
ぐいと首を握り絞められ、悲鳴をもらすナニィ。
命を敵に握られながらも、俺を逃がそうとするナニィを見捨てて逃げることは出来ない。
「ジャウィンって言ってたわよね? あんた達に聞きたい話があるわ。場合によっては見逃してあげてもいい。だからあんた達が知ってる情報を全部吐きなさい。従わないのなら分かってるわよね?」
「……分かったよ」
俺はアリスの降伏勧告に、黙って両手をあげるしかなかった。
太陽は明るく世界を照らしてくれるが直接見ようとすれば目がやられるのはよく聞く話だ。
明るすぎるものは直視に耐えないので、ちょっと距離を開けておくぐらいがちょうどいいと俺は常々思っている。
しかし太陽が直接迫ってくることを想定する人間はこの世界のどこにもいないのではないだろうか?
「な、何でこうなるんですかぁああああ!?」
「馬鹿、いいから逃げろ! 丸焼きにされるぞ!!」
狼狽するナニィの手を引いて一目散に走り出す。
野外ステージ上にはその手に太陽を思わせる光源を纏わせるアリスがこちらを狙っていた。
「このっ、ちょこまかと! 陽炎陽炎陽炎ぁああ!!」
ピュンと短い発射音が響くとアリスの掌から飛び出した光源がつい先ほど踏みしめた大地を貫いて燃やす。
動きを止めるために足を執拗に狙ってくる光線に冷や汗を流す。
「ナニィ!」
「な、なんですかぁ!?」
「一応聞くが、お前あいつとやり合って勝てるとかないか?」
「私の魔法が何か忘れちゃったんですか? 無茶言わないで下さいよ!」
走りながらナニィに逃走ではなく、闘争という選択肢を示すがすぐに不可能という返事が返ってきた。
「ちっ、だよなぁ……」
ナニィの魔法には一つの制限があり、その右手で相手に触れる必要がある。
ステージ上から魔法で射撃してくる相手に使うためにも壇上に登らねばならず、そんなことをしている間に焼却処分にされてしまう。
まあ、仮に魔法が当てられる状況になったとしても、対象の記憶を忘却させる魔法でどうやって太刀打ちするのかは想像もつかないが……。
「くそっ、油断してた!」
手詰まりの状況に思わず毒づく。
まさか会場が候補者に襲われるのではなく、主催者側に候補者が混じっていて、そいつがこちらを先手で襲ってくるという事態を想定していなかった。
「そこだぁああ!! 陽炎」
「しまっ!?」
ついにアリスの放った魔法が俺の足を捉えた。
光線が足を貫いて、鮮血が噴き出す。
「うがぁあああ!?」
足を撃ち抜かれて、ゴロゴロと地面を転がった。
身体を土や草が汚していくが、そんなことを気にするような余裕はない。
「ムクロさんっ!」
焼ける痛みに足を抱えてうずくまり、耐える。
ナニィが逃げるのをやめてこちらに寄ってきた。
「馬鹿……お前だけでも、さっさと逃げろ」
「嫌ですっ! ムクロさんを置いて逃げられませんよぉ……」
涙目になりながら怪我を手当てしようとするナニィだったが不意にその手を止めた。
「ムクロさん、怪我がもう」
「ぐっ……ああっ、なるほど」
ナニィに促されて足を見ると、早くも怪我が青い光によって消えていこうとしていた。
負った怪我が随時勝手に治っていく様は何度見ても好きになれそうにないが、今ばかりはこの現象に感謝するしかない。
これならまた走れるか? そう考えたが退却は別の理由でもう無理そうだった。
「ナニィ、怪我隠せ」
「分かりました!」
俺がボソリと呟いた指示を理解して、消えていく怪我にハンカチを押し当てて隠す。
「ふぅ、やっと捕まえたわ。あまり苦労させないで欲しいわね」
動きを封殺したことで、勝利を確信したのだろうか?
ステージ上から魔法を放っていたアリスが降りてこちらに歩み寄ってきていた。
今から逃げても、この態勢からでは何かするよりも先に少女の魔法が俺達を撃ち抜くだろう。
「私のことは好きにしてくれて構いません。ムクロさんは見逃してあげてくれませんか?」
ナニィが俺をアリスから隠すように前に立ち、そう言い放つ。
「はぁ? 嫌だけど?」
「っ!? 何でですか? ムクロさんは試練とは関係ない唯の一般人なのに」
「相手が候補者か一般人かなんて私には関係ないもの。私にとって重要なのはそいつが味方か敵かどうかってことだけ」
アリスはそういってナニィの嘆願を冷たく切り捨てる。
「それに、ここにいるってことはつまり、あんたは私達の試練に首を突っ込んだんでしょ? なら無関係って訳じゃないでしょ? ここで死んでも自己責任よ」
「それが貴方達の……選定官って人のやり方なんですか? 貴方もジャウィンと一緒なんですね」
「ジャウィンですって!?」
ナニィがその人物の名を出した瞬間に、アリスがあからさまに動揺を見せた。
「今だっ!」
この瞬間を逃す訳にはいかない。
身体を起こしてアリスに飛び掛かる。
「あんた何で怪我が治って!?」
行動不能に陥ったと思っていた俺が素早く迫る。
アリスは想定してなかった事態に身体がついてこない。
俺の、地面を這って振り上げられた足がアリスの頬を蹴り飛ばした。
「がはっ!?」
「ナニィ、今だ!」
「はい! 取り押さえます!!」
態勢を崩して地面に倒れ込むアリスを拘束するべくナニィと協力して飛び掛かる。
口を切ったのか血をペッと吐き捨てるアリスは、襲い掛かる俺達を睨みつけた。
「私を、太陽を……な、めるなぁあああああ!!」
ふらふらと右手をかざして、吠える様に呪文を唱える。
『闇照らす太陽の煌めき!!」
アリスの叫び声と共に、夜の帳は太陽に包まれた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
辺り一面の光が収まるのを、目を手で覆い隠して待っていた。
アリスに襲い掛かる前に、使われた魔法のせいで身動きが取れないまま、現状も把握できてない。
「うっ、糞……何が起こった?」
未だ視力が戻り切らずチカチカする目で周囲を見渡す。
「おい、ナニィ! いるか?」
「ム、クロ……さん」
「良かった、無事だったか」
呼びかけに答えるナニィの声に安堵したのも束の間だった。
「止まりなさい。おかしな行動を取れば……分かってるわね?」
「ごめん、なさい……捕まりました、私のことはいいから、ムクロさん……逃げて」
ようやく戻り始めた視界に映るのは首に手を当てられてアリスに捕まえられているナニィの姿だった。
「しゃべらないでもらえるかしら?」
「ひっ!?」
ぐいと首を握り絞められ、悲鳴をもらすナニィ。
命を敵に握られながらも、俺を逃がそうとするナニィを見捨てて逃げることは出来ない。
「ジャウィンって言ってたわよね? あんた達に聞きたい話があるわ。場合によっては見逃してあげてもいい。だからあんた達が知ってる情報を全部吐きなさい。従わないのなら分かってるわよね?」
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