プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
28話 冤罪
近年、痴漢の冤罪というのが多発している。満員電車の中で痴漢と間違えられた人間が無実を訴える前に電車の線路へと逃亡し、逮捕されるというのも珍しいことではなくなってきた。
男というのは悲しい生き物で、痴漢と間違われると例えやっていなくても白眼しされてしまうため、弁明をするために駅員室に行った時点で罪を認めたとかいうトンチンカンな推定有罪が確定してしまう。これはもう、男ならだれにも無関係とは言えない話なのだ。女性優先車両があるなら、男性優先車両があってもいいのに、男性は男性であるというだけで肩身の狭い思いをし、吊り革を両手で掴むなどの涙ぐましい誤認対策を講じる以外手がない。
何故、俺が冒頭からいきなりこんな話を始めたのかと聞かれれば、それにはもちろん理由があるのだが……。
「俺からの言い分は以上です。他に何か聞いておくことはありますか?」
鉄格子がはまった窓から柔らかな光が差し込んで部屋を照らす中、俺の目の前には屈強な身体をした男が煙草を手に、目つきを鋭くしてこちらを睨んでいた。
味気ない簡素なテーブルを挟んで対峙している場所は星見ヶ原分島にある警察署の取り調べ室だ。窓は開いているが、煙草の臭いが鼻について思わず咳き込む。
なんで俺が警察の御厄介になっているのかというと、俺とナニィは星見ヶ原アリーナへ行くために星見ヶ原分島へ行く定期船に乗っていた。その定期船でハプニングが起こり、海に落ちそうになっていた少女を助けたのだが、その助けたはずの少女にいちゃもんをつけられて喧嘩になり、そこを目の前に居る屈強な男――見せられた警察手帳には黒部と書かれていた――に現行犯で取り押さえられ、船が島に着き次第あえなくパトカーに放り込まれて連行されてきたという訳だ。
その後、今回の経緯を説明しているが、御覧の通り結果は芳しくなく、刑事はあからさまに胡散臭いものを見る目をしている。
「女に手をあげるような男の言葉を信用しろって言うのか?」
「信用も何も、あそこには目撃者だってたくさんいましたよね?ちゃんと話を聞いてくれれば分かるはずです!」
島に渡るための定期船だ。争っていたのは目立つ甲板だったし目撃者がいないとはとても思えない。
実際、俺がパトカーに放り込まれるまでに誤解だと言ってくれる奴はちらほらいたのだ。
目の前の刑事は聞く耳も持ってない様子だったが。
(そういやナニィは今頃何してんだ?)
不意に連れである白銀の少女を思い浮かべる。
最初、ナニィは喧嘩を狼狽しながらも見ていたが、刑事が俺を取り押さえた辺りで向こうの相方が卒倒して倒れた。ナニィがその少女の介抱に気を取られている間に俺は刑事によって船室に運ばれてしまったのだ。
その後は事件の容疑者ということもあり、ナニィとは会えなかった。ナニィがそちらに気を取られずに弁明をしてくれればパトカーに放り込まれずに済んだかもしれないと思うと歯がゆい思いもあるが……。
(まあ、ナニィが気絶して倒れている奴をほっとけるような性格じゃないことぐらいは分かっているつもりだけどな)
この件に関しては間が悪かったと諦めよう。幸い、目的地は分かっているので、そこまで行けばナニィはやたらと目立つ外見だ。合流するのは難しくはないはず。
そうなると、問題は目の前にいる男の誤解を解かなければいけないわけだが。
「女に暴力を振るったのは事実だ。俺はこの目でしかと見ている」
「貴方は家に押し入ってきた泥棒が女だったら財産全部差し出しますか? 男だ女だ以前に人として守らないといけない倫理があるんじゃないですか?」
「女に暴力を振るう奴が倫理を語る資格はない!」
バンと黒部がテーブルを叩いて、憤怒する様子に溜息が出る。先ほどからこんな感じで話がループして終わりが見えない。最初からこちらが悪いと決めにかかって話し合いをする余地がない。
「だから何度言ったら分かるんですか!俺は海に落ちそうになっていたところを助けただけで胸を触っただの、痴漢されただのはあいつの虚言というか誇張なんですよ、それとも何ですか? ライフセーバーが人工呼吸したら強姦罪でも適応されるんですか?」
俺が連行される様をしてやったりと中指立てやがったあの女が憎い。
今度会ったら一発ぶん殴ってやる。
そう内心意気込んでいるとブーブーとスマホの着信が鳴った。
俺のものではない、取り調べを受ける際に私物は全て没収されているからだ、となると消去法的に黒部が持ち主であるということになる。黒部は舌打ちしつつも俺と電話を交互に見て、やがて吸っていたタバコを灰皿に押し付けるとスマホに耳を当てた。
「黒部だ。今、取り込み中だから後にしてくれ……何? 有栖院さんから取り次いで欲しいだと? 分かった、すぐに代わってくれ」
最初、あからさまに迷惑そうだったが、相手の名前を聞いた途端に態度が豹変した。
「どうも黒部です。いつもお世話になってます……はい、その少年でしたらうちで預かって今事情を聞いているところですが、はい、はい……え?」
虚空に向かって頭をペコペコ下げる黒部だったが、いくつか会話を挟んで間の抜けた声を出した。
「分かりました。そういう話でしたら、今からそちらに伺いますんで」
やがて通話を切ってスマホを胸にしまうと、おもむろに黒部は立ち上がった。
「喜べ、釈放だとよ」
無愛想に言い放つ黒部に俺は怪訝な顔を作る。
「なんですか突然、嬉しいですけど」
ついさきほどまでの弁明は一体何だったのか?
電話一本で事態が突然解決してしまったことに肩透かしを受けずにはいられない。
「事件の証言をしてくれる人が出た。今からその人のところまでお前を連れて行くからついてこい」
「何故? 誤解が解けたなら俺は行かないといけない場所があるんですが、連れも探さないとだし」
もちろん証言には感謝してるし、一言お礼を言いたい気もするが今は少しばかり都合が悪い。
「あんたの連れって白髪の女の子だろ。そいつもそこにいるそうだぞ」
「何だって?」
しかし黒部から返された言葉に、行く以外の選択肢はなくなった。
俺は頷いて立ち上がる。椅子がガタリと音を立てて揺れる。
「分かりました、そういうことなら俺もついて行きます」
そうして俺は黒部と共に取調室を出たのだった。
男というのは悲しい生き物で、痴漢と間違われると例えやっていなくても白眼しされてしまうため、弁明をするために駅員室に行った時点で罪を認めたとかいうトンチンカンな推定有罪が確定してしまう。これはもう、男ならだれにも無関係とは言えない話なのだ。女性優先車両があるなら、男性優先車両があってもいいのに、男性は男性であるというだけで肩身の狭い思いをし、吊り革を両手で掴むなどの涙ぐましい誤認対策を講じる以外手がない。
何故、俺が冒頭からいきなりこんな話を始めたのかと聞かれれば、それにはもちろん理由があるのだが……。
「俺からの言い分は以上です。他に何か聞いておくことはありますか?」
鉄格子がはまった窓から柔らかな光が差し込んで部屋を照らす中、俺の目の前には屈強な身体をした男が煙草を手に、目つきを鋭くしてこちらを睨んでいた。
味気ない簡素なテーブルを挟んで対峙している場所は星見ヶ原分島にある警察署の取り調べ室だ。窓は開いているが、煙草の臭いが鼻について思わず咳き込む。
なんで俺が警察の御厄介になっているのかというと、俺とナニィは星見ヶ原アリーナへ行くために星見ヶ原分島へ行く定期船に乗っていた。その定期船でハプニングが起こり、海に落ちそうになっていた少女を助けたのだが、その助けたはずの少女にいちゃもんをつけられて喧嘩になり、そこを目の前に居る屈強な男――見せられた警察手帳には黒部と書かれていた――に現行犯で取り押さえられ、船が島に着き次第あえなくパトカーに放り込まれて連行されてきたという訳だ。
その後、今回の経緯を説明しているが、御覧の通り結果は芳しくなく、刑事はあからさまに胡散臭いものを見る目をしている。
「女に手をあげるような男の言葉を信用しろって言うのか?」
「信用も何も、あそこには目撃者だってたくさんいましたよね?ちゃんと話を聞いてくれれば分かるはずです!」
島に渡るための定期船だ。争っていたのは目立つ甲板だったし目撃者がいないとはとても思えない。
実際、俺がパトカーに放り込まれるまでに誤解だと言ってくれる奴はちらほらいたのだ。
目の前の刑事は聞く耳も持ってない様子だったが。
(そういやナニィは今頃何してんだ?)
不意に連れである白銀の少女を思い浮かべる。
最初、ナニィは喧嘩を狼狽しながらも見ていたが、刑事が俺を取り押さえた辺りで向こうの相方が卒倒して倒れた。ナニィがその少女の介抱に気を取られている間に俺は刑事によって船室に運ばれてしまったのだ。
その後は事件の容疑者ということもあり、ナニィとは会えなかった。ナニィがそちらに気を取られずに弁明をしてくれればパトカーに放り込まれずに済んだかもしれないと思うと歯がゆい思いもあるが……。
(まあ、ナニィが気絶して倒れている奴をほっとけるような性格じゃないことぐらいは分かっているつもりだけどな)
この件に関しては間が悪かったと諦めよう。幸い、目的地は分かっているので、そこまで行けばナニィはやたらと目立つ外見だ。合流するのは難しくはないはず。
そうなると、問題は目の前にいる男の誤解を解かなければいけないわけだが。
「女に暴力を振るったのは事実だ。俺はこの目でしかと見ている」
「貴方は家に押し入ってきた泥棒が女だったら財産全部差し出しますか? 男だ女だ以前に人として守らないといけない倫理があるんじゃないですか?」
「女に暴力を振るう奴が倫理を語る資格はない!」
バンと黒部がテーブルを叩いて、憤怒する様子に溜息が出る。先ほどからこんな感じで話がループして終わりが見えない。最初からこちらが悪いと決めにかかって話し合いをする余地がない。
「だから何度言ったら分かるんですか!俺は海に落ちそうになっていたところを助けただけで胸を触っただの、痴漢されただのはあいつの虚言というか誇張なんですよ、それとも何ですか? ライフセーバーが人工呼吸したら強姦罪でも適応されるんですか?」
俺が連行される様をしてやったりと中指立てやがったあの女が憎い。
今度会ったら一発ぶん殴ってやる。
そう内心意気込んでいるとブーブーとスマホの着信が鳴った。
俺のものではない、取り調べを受ける際に私物は全て没収されているからだ、となると消去法的に黒部が持ち主であるということになる。黒部は舌打ちしつつも俺と電話を交互に見て、やがて吸っていたタバコを灰皿に押し付けるとスマホに耳を当てた。
「黒部だ。今、取り込み中だから後にしてくれ……何? 有栖院さんから取り次いで欲しいだと? 分かった、すぐに代わってくれ」
最初、あからさまに迷惑そうだったが、相手の名前を聞いた途端に態度が豹変した。
「どうも黒部です。いつもお世話になってます……はい、その少年でしたらうちで預かって今事情を聞いているところですが、はい、はい……え?」
虚空に向かって頭をペコペコ下げる黒部だったが、いくつか会話を挟んで間の抜けた声を出した。
「分かりました。そういう話でしたら、今からそちらに伺いますんで」
やがて通話を切ってスマホを胸にしまうと、おもむろに黒部は立ち上がった。
「喜べ、釈放だとよ」
無愛想に言い放つ黒部に俺は怪訝な顔を作る。
「なんですか突然、嬉しいですけど」
ついさきほどまでの弁明は一体何だったのか?
電話一本で事態が突然解決してしまったことに肩透かしを受けずにはいられない。
「事件の証言をしてくれる人が出た。今からその人のところまでお前を連れて行くからついてこい」
「何故? 誤解が解けたなら俺は行かないといけない場所があるんですが、連れも探さないとだし」
もちろん証言には感謝してるし、一言お礼を言いたい気もするが今は少しばかり都合が悪い。
「あんたの連れって白髪の女の子だろ。そいつもそこにいるそうだぞ」
「何だって?」
しかし黒部から返された言葉に、行く以外の選択肢はなくなった。
俺は頷いて立ち上がる。椅子がガタリと音を立てて揺れる。
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