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プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す

笑顔

15話 突撃、隣の病室! お見舞いは突然に

「まったく待ち時間大分あるんだよな。こんなに待たせるなら、予約の意味ないって」


 涙を飲んで、病院まで足を運んだ俺を待っていたのは長時間の待ち時間だった。
 何で病院の待ち時間ってこんなに長いんだ?診察時間なんて精々数分の癖に。


「また昨日みたいにかくれんぼでもして遊びますか?」


「なんだ気に入ったのか?」


「なんかこう、いつ見つかるかなー? ってドキドキしながら待つ時間も割と楽しいなって」


 頬を上気させていうナニィに苦笑する。
 純粋に遊びを楽しんでいるようだ、ナニィはワロテリアという異世界にある国の王女でこういう羽目を外せることが少なかったのだろう。
 照れ隠しなのか白銀の髪をくるくる指で弄りながら笑っていた。


「でも、かくれんぼはなしな。昨日あれから怒られてさ」


「そうなの? ちぇ、せっかくリベンジしようとかくれんぼの場所決めてたのに」


 マルが肩を落として不満を言うが、女医師の静かなる怒り顔を思い出すと首を縦に振ることはできない。
 声を荒げている訳ではなかったのに、目が鋭くなる感じに身が恐怖で震える。


「じゃあお見舞い行ってくるね。えっと、暇だったらお兄ちゃん達もこない?」


「でも、突然押しかけたら悪くないか?」


 入院しているところに赤の他人が入ってきたら、心身ともによろしくないだろうと思うので、やんわりと遠慮しようとしたがマルは俺の手を引いて歩きだした。


「もう大分良くなってるし、大丈夫だよ。それにお母さん、僕が一人で寂しい思いしてるんじゃないかって心配してるみたいだから安心させてあげたくって」


 マルは照れくさそうに頬をかきながらそう言った。
 なんだよ、泣かせるじゃねえか。


「そういうことであればこのナニィ、マルちゃんのために一肌でも二肌でも脱いであげますよ!」


 ドンと豊かな胸を叩いて引き受けるナニィ。
 その表情は妹に頼りにされて張り切っている姉のようだった。


「分かったよ、こんな感じでナニィも乗り気みたいだし、ちょうど暇だしな」


「ほんと? やったぁー! じゃあね、お母さんの病室はこっちだからついてきて」


 俺達が了承すると、マルは破顔して喜んだ。
 そうしてマルに案内された場所は3階にある個室の病室。
 掃除の行き届いた清潔な部屋に、暇つぶしに読んでいるだろう本が積まれている。
 白いカーテンが風に揺れ、備え付けのベッドには外の風景をぼんやりと眺める女性がいた。
 女性は扉が開かれたことで、窓の外に向けていた視線をこちらへ向ける。
 顔立ちはマルをうんと大人っぽくした感じだが、その穏やかな印象を抱く姿はマルとはまた異なった雰囲気を持つ女性だった……マルは外見が母親似で、性格が父親似なんだろうか?


「お母さん、お見舞いに来たよ」


「あらマル。そちらの方達は?」


「えへへ、マルの友達だよ! 紹介するね、こっちの片方だけ眼鏡かけてるお兄ちゃんがムクロ兄ちゃんで、こっちの髪が銀色で綺麗なお姉ちゃんがナニィお姉ちゃんだよ!」


 マルの紹介に合わせて、俺達は軽く会釈する。


「初めまして、神無骸かむなしむくろといいます」


「な、ナニィと申しましゅ!」


 俺は相手が病人ということもあって、出来るだけ礼儀正しくふるまったが、ナニィは緊張でガチガチになっていて声も若干上ずってる。
 しかしマルの母親はそんな様子も可愛いものとして見ているのか、嬉しそうに手を合わせて微笑んだ。


「あらあらまあまあ、マルがお友達を連れて来てくれるだなんてお母さん嬉しいわ。生意気で落ち着きのない子ですが、仲良くしてやってくださいね?」


「ちょ、お母さんってば!」


 ひどいよもうとむくれるマルの姿に病室に笑顔で包まれた。
 和やかな雰囲気のまま談笑の時間を過ごす。
 他愛のない世間話はマルと初めて会った時のことや、病院でかくれんぼをした話をする。


「それでね、お兄ちゃんってば女子トイレに隠れたお姉ちゃんを探しに行って、返り討ちにあっちゃったんだよ。気絶したお兄ちゃんをお姉ちゃんが膝枕してあげてたんだけど本当に恥ずかしくて見てられなかったなぁ」


「……そうだったっけ?」


「あはは、もういいじゃないですかその話は。それよりも! マルちゃんのお父さんの馴れ初めの方が気になります。そのドライブデートの後はどうなったんですか?」


 時折、身に覚えのない話題がマルから上がるのだが、その度にナニィがはぐらかすように話題を変えてしまうので、真偽のほどが確かめられない。


「うふふ、主人ったらデートが終わった後にね。『今日確信した。俺の人生の助手席に座れるのはお前しかいない。前にあるグローブボックスを開けて欲しい』そう言われてね、私ったらグローブボックスってどこですか? なんて聞いちゃって、助手席の前にある小物入れのこと、グローブボックスって呼ぶのその時初めて知ったわ。それで、中を開けると婚約指輪が入ってて……」


「へぇ、お父さんって意外とろまんちすとだったんだねー。なんか恥ずかしいや」


 そうか助手席のあれってグローブボックスって言うのか、今までダッシュボードだとずっと思ってた。ちなみにこっそりスマホでググった結果、ダッシュボードはグローブボックスやハンドルなんかの上の部分。例えば人形なんかを置いたりする場所のことらしい。
 グローブボックスはセルモーターがない時代に、クランクシャフトを手で回して始動させるときに使用するための皮の手袋をしまっていた名残からそう呼ばれるそうだ……今はもう終わってしまったトリビアの泉に出せば何へえだっただろうか? あの番組子供の頃めちゃ好きだったのに終わっちゃったんだよな。
 そんな聞いててそれほど面白い話というわけでもないどこにでもありふれた話だろうに、マルの母親――しぐれさんというらしい――はにこにこ笑いながら、本当に楽しそうに話を聞く人で、途切れることもなく話が続く。
 それはとても暖かな時間だった。


「ん、ちょっとお手洗いにいってくるー」


 しばらくして、尿意を催して病院の備品であるパイプ椅子から立ち上がると、扉に手をかけた。


「ちゃんと手はハンカチで拭くんですよ。すぐにズボンの裾で拭こうとするんだから」


「わ、わかったよ。お姉ちゃん達がいる前で言わないでよもう」


 母親の叱責に、顔を真っ赤にして舌を出して今度こそトイレに向かって退室した。
 風の子が立ち去ってのち、嵐の後の静けさが病室に訪れる。


「元気な子ですね」


「一体誰に似たのか、お恥ずかしいことです」


「恥ずかしくなんてないです! マルちゃんはすごくいい子なんですよ!」


「馬鹿、本気にするんじゃねえよ」


 手を当てて、困り果てる時雨さんに対して律儀に憤慨するナニィの頭を引っ叩く。
 こういうのは社交辞令ってのがあるの!


「あら、マルから聞いてた通り本当に仲が良いんですね」


 そんな俺達のやりとりを見て、しぐれさんはころころとひとしきり笑うと、目元に浮いた涙を拭うと、どこか遠くを見る様に窓を見つめた。


「マルは、あれでも最近ずっと落ち込んでたんですよ、久しぶりに元気な顔を見れて良かった。骸さんとナニィさんのおかげですね。本当にありがとうございます」


「いえ、俺達は別に大したことしてやれてる訳でもないんで……頭なんて下げないで下さいよ」


 しぐれさんがいきなり頭を下げるものだから恐縮する。
 俺は何となく気まずくなって話題を逸らすことにした。


「それにしても落ち込んでたんですか? あの元気が一番の取り柄のやつが?」


 普段のマルからはとても想像できない。
 いつでも外を元気に走り回ってはしゃいでいる姿が、容易にイメージできるぐらい活発な奴だからだ。そんな奴が影を落とすようなことがあったのだろうか?


「私が何で、入院してるかは、マルから聞いていますか?」


「いえ、なにも」


 首を横に振ると、しぐれさんは包帯が巻かれている腕をゆっくり持ち上げた。


「一か月前、隣町で通り魔に襲われて病院へ運ばれたニュースは聞いたことありませんか?」


「それ、確か前に小太郎から……友達から聞きました」


 昨日、斎藤服店で買い物をしていたときに小太郎との世間話に出てきた……。
 一か月前のことらしいから女王選抜試練プリンセスセレクションとは無関係だと聞き流していたけど、確か隣町の出来事で近くの病院に搬送されたんだったか?
 しぐれさんは俺の話に頷くと、静かに自身の手に巻かれた白い包帯を見下ろす。


「通り魔に襲われて病院に搬送された被害者……実はそれ、私のことなんですよ」


 ポツリと呟いたしぐれさんの言葉に、俺達は息を飲んだ。



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