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プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す

笑顔

11話 カードに記されたルール

「んー、今日は楽しかったですね」


 ぐぐっと背伸びしながら、ナニィはそう呟いた。
 俺達はマルと病院で別れ、帰り道を歩いている。
 ナニィの銀髪に、夕焼けが反射して、赤みを帯びてきらめいた。


「俺は散々だった。ぼったくられるし、血は抜かれるし」


 キヒヒと悪魔の姿で凶悪に笑う小太郎と斬原女医の姿が、脳内イメージとして浮かんだ。
 人の弱みに付け込んで、奴らは人間じゃない、悪魔じゃ。


「でも、マルちゃんと遊んでる時のムクロさんは、結構楽しそうでしたよ?」


「ん、まあ確かに言われてみれば、悪いことばっかりでもなかったな。かくれんぼとかめちゃくちゃ久しぶりにやったし。なんていうのかな? 童心に帰った……みたいな?」


「そういうの、ちょっとうらやましいです。私は候補者プリンセスとしての訓練とか、お勉強とか、習い事とか多くさせられたりしたから、子供の頃の思い出ってそんなのばっかりなんですよね」


 おまけに、身に付きもしなかったから最悪でしたと苦笑する。


女王選抜試練プリンセスセレクションてのは、ナニィが子供の頃にはもう慣例になっていたのか?」


 そういえば俺、女王選抜試練とかいうのについて触りしか聞いてないんだよな。
 ナニィ達のいる世界を統べる支配者を決める戦いで、数多の候補者プリンセスから唯一の女王を選抜するバトルロワイアル形式の試練で、定められたルールに従って戦うんだったか。
 そのルールの中に、一人一個だけ強力なアイテムを持ち込めるというのがあって、そのアイテムを持ち運びするだけの支援要員サポーターなんていう役割を持った奴もいるらしい、ナニィも自分は支援要員サポーターとして試練に参加していると言っていた。


「概要は、今朝にさらっと説明した通りです。魔法技術・道具製造技術が発達するにつれて私達の世界で大規模な戦争を起こすと自分達の住んでいる世界まるごと木端微塵こっぱみじんにしてしまう可能性があるのではないかと危惧されるようになったのが始まりとされてます」


「つまり世界中にある国全部が核兵器持っちゃったみたいな状況になったわけか」


 最近だと、ある国が核兵器の実験を繰り返す件でニュースが持ち切りになってるのに、それが世界規模で起こった場合を想像すると身震いする。


「はい、そんな感じの認識で間違ってないです。でも、じゃあみんな仲良く友達になって生きていこう! なんて言うには私達は力を持ちすぎてましたし、多くの国の利害関係もあって、とてもまとまるようなものではなくて」


「ん?核兵器で話が通じるのか?」


 独り言のつもりだったので、この反応は意外だった。
 てっきり核兵器ってなんですか? って聞かれると思ったんだが……今朝だって、俺がナニィにぼっち姫と揶揄したときには言葉の意味が分からないみたいなことを言っていたのに。


「私を含めた候補者プリンセス達は、世界鏡を通ってこちらの世界に転移した際に、言語や常識については知識として受け取っているんです。ほら、私がムクロさんとしゃべってても、きちんと会話が成立してるでしょ?自分の認識だと、母国語をしゃべってるんですけどね」


「自動的に翻訳してくれるのか、すごいな世界鏡」


 じゃあ候補者プリンセスが一人いれば通訳者いらずってことじゃないか。


「ただあまり一般的に使われていない言語なんかは流石に翻訳しきれないみたいです」


 ナニィは話が脱線しましたと言ってコホンと咳払いする。


「複雑に分かれた国々を、まとめて舵を取る指導者は必要不可欠。そして、世界を統べるのには力が必要、でもそれを示すために拳を振り上げれば、足元もろとも消し飛びかねない。
 そこで、私達は国家間同士でやっていた戦争を、代表者を選抜して行う個人間同士の戦いに規模を縮小することに決めたんです」




「それが女王選抜試練プリンセスセレクションのはじまりか。だが、個人同士でやるならナニィ達のいる世界で争えばいいんじゃないか? なんで世界鏡なんてものを持ち出してまで他所でやる必要がある?」




 個人同士の争いにしたことで被害は最小限に留められるようになったのなら、コロシアムでもオリエンテーションでも好きにやればいいのだ。
 わざわざ他所の世界でドンパチするなんて、迷惑以外の何物でもない。


「不正の温床になってしまったんですね。優秀な人材をトップにする意味合いもある女王選抜試練プリンセスセレクションなのに、候補者プリンセスを裏で妨害する国が後を絶たず、暗殺されたと思われる事案まで出る始末で」


「それは、あちゃーって感じだな」


 それが許容されるなら、結局国の支援活動に大きく左右されてしまう。
 候補者プリンセスが無能なのに、国力の大きさで選抜試練を通してしまう可能性が残ってしまったわけだ。


「なので、しがらみのない場所でやる必要が出てきた訳なんです」


 まあ、それもアイテムルールなんかの導入で、完全に排除できた訳でもないんですけどねとナニィは話を続けた。


「少なくとも、異世界へ会場を移してさえしまえば直接的な手出しはできないので、陰謀の類はかなり改善はされたんじゃないかなあと思います」


 ゴソゴソと、今日買ったばかりの服のポケットからカードを取り出す。
 それは今朝見せてもらった、残り時間を記すカードだった。


「そういえばムクロさんにはまだ、私が課されてる条件って教えてませんでしたよね?」


「ああ、確かクリアしないといけない課題ミッションがあるんだっけか」


「はい、アイテムだけ渡してさっさと退場するつもりだったので、今朝は言わなかったんですけど、一日経ってもエミィ姉様が来てくれないところをみると、やっぱり探知はできなかったみたいです。なので、念のため詳しいルールなんかもムクロさんに一度みてもらっておこうと思って」


「そのカードは俺にも読めるのか?」


女王選抜試練プリンセスセレクションは一日やそこらで終わるものではありませんから、現地の人に協力を要請したり、従わせるのも女王の資質なんです。だから、そのカードもこちらの世界に住む人が読めるように加工されてるものなんですよ」


 そういうことならばと、ナニィから手渡されたカードを受け取り、目を通す。


「えー、なになに」


 お、紙に見えたけどすごい薄い電子機器みたいになってるんだな……ディスプレイにタッチして動かすようだ。
 普段、スマホを弄るようにカードの項目を読んだ。


Name ナニィ・ワロー・テール
Belong ワロテリア王国
Time 149:48
Mission 他の候補者プリンセスのカードを一枚破壊する
Rule book


 ルール1 
 最後の一人まで残った候補者プリンセスが勝者となる。


 ルール2
  候補者プリンセスには1枚のカードが配られる。
 このカードに書かれたルールは、全ての候補者プリンセスと同一の物であり、女王選抜試練プリンセスセレクションのルールはここに記されたものに依存する。


 ルール3 
 カードが損傷を受けて破損した場合、試練続行の意志を放棄したものとみなして脱落とする。


 ルール4 
 候補者プリンセスにはそれぞれ課題ミッションが与えられる。制限時間内に課題ミッション達成クリアできなかった場合には、資格なしとみなして脱落とする。


 ルール5
 制限時間が経過して課題ミッション非達成者を排出した後に、勝者が決まらなかった場合は準備期間インターバルを挟んで新たな課題ミッションを配布する。
 なお、準備期間インターバル中は候補者プリンセス候補者プリンセスに対して、直接攻撃することは出来ない。


 ルール6 
 候補者プリンセスは1つだけ強力なマジックアイテムを持ち込む権利を有する。


 ルール7 
 以上のルールに反しない限りは全て、候補者プリンセスの裁量に委ねられる。




「今朝、軽く聞いてたのと基本的には同じか」


 俺は一読すると、ナニィにカードを返却した。
 朝、話してくれた時に、ルール4の課題ミッションとルール5の準備期間インターバルについて触れなかったのは、ナニィ本人が勝ち残るつもりがなかったから意図的に省いて説明してくれたんだろう。それで、ナニィの姉が姿を現さなかったので、方針を変更したようだ。ナニィが条件を満たせずに脱落することは俺の体内に宝珠なるものが残ってしまうことを意味するからその保険ということらしい。
 とりあえずこのGW中が女王選抜試練プリンセスセレクションの最初に訪れる期限となるわけか。


「最初の一週間は別名試用期間プレモーションと呼ばれてて、この期間はどこの候補者プリンセスも自分の支援要員サポーターと合流してアイテムを受け取ったり、試練ミッションをこなしたり、他所の支援要員サポーターが持つアイテムを強奪するために動くのが定石と言われているんですけどね、あはは」


「まあ、今のお前……完全に迷子みたいになってるもんな」


「ぐさっ、それはもうこれ以上は言わないでください」


「悪い悪い、ほら元気出せって」


 図星だったのか、露骨に落ち込むナニィの背中をバシバシ叩いてやった。


「ところでずっと聞けなかったことがあるんだが……」


「はい?なんですか?」


「お前、泊まるあてとかあるの?」


「いやぁ、ほら……私ってば、さっさと宝珠だけ渡して帰る予定だったじゃないですか? 
だから何のあてもないんです、お願いです泊めて下さい!」


「え~」


「何でもします! 何でもしますから、お願いします。外は嫌なんです! いつ襲われるかもしれない場所で寝るとか、本当に無理なんで、どうかどうか」


「ぷっ、だはは、冗談だよ冗談。大体、お前がいなくなったら俺はどうするんだよ? 何の手掛かりもないまま、この得体の知れない宝珠とかいうのを狙われるのは、正直きつい」


「じゃ、じゃあ!」


「ただし、こき使うからな? お姫様だからって容赦はしねえ」


「はい! 何ができるかわかりませんが、どうぞよろしくお願いします」


こうして俺とナニィは軽口を叩きあいながら、帰宅したのだった。



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