プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す
9話 忘れろ忘れろパンチ
「全然見つからねえ、マジでどこにいったんだ?」
「病院の外に出ちゃったとか?」
かくれんぼが始まってしばらく経った。
マルと一緒に人の多い病院を、隠れているナニィを探してあちこち歩き回る。
時折、すれ違うナースさんや患者さんに白髪の少女の情報を求めるが、答えは見てないの一点張りだった。
「いや、病院の外はルール違反って最初に言い含めたし、決められたルールを一方的に破るタイプじゃないだろあいつは」
言動、行動ともに結果的にやらかすことはあっても悪意をもって行動するような奴じゃないと短い付き合いではあるが確信している。
「でも、あんな目立つ髪の毛なのに誰も見てないっておかしくない?」
口を曲げながら、マルはそうぼやく。
そんな呟きに俺は首肯した。
人目を惹く容姿、反して誰にも見られない状況か。
「もしかして移動しなかったのか?」
そもそも移動しないなら誰かに見られることはない。
「ロビーから動いてないって話? でも、ロビーはもう探したし他に隠れる場所なんてなかったと思うけど?」
ロビーは診察待ちの患者さんがいる関係で病院内では一番人口密度が高い場所だ。
隠れる場所にも乏しいし、とても隠れきれるとは思えない、だが。
「一ヵ所だけまだ探してない場所があるぞ」
俺はまさかと思って未だ探していなかった場所を指差した。
ロビー近くにあるが死角になっていてロビーからは見えない。
かつ、人通りが少なく鍵のかかる扉があって立て籠もることができる場所。
そこには、赤の人型が描かれた絵が描かれている。
その名も、女子トイレ。
女性である者のみが入れる資格を持つ聖域だ。
「なるほどねー、確かに女子トイレなら男のお兄ちゃんには見つけられないね」
「ああ、ここしかない。ここしかないはずなんだが」
本能がその事実を拒否しようとする。
だって、お姫様なんだぜ?
お姫様が選んだ潜伏先が厠なんだぜ?
「流石お姫様、汚い! いろんな意味で、汚い!」
俺氏ドン引きである。
今なら少女漫画に出てくる白目ポーズだってきっと出来るだろう。
「じゃあ、僕ちょっと中見てくるね」
「は? ちょ、おま」
そんな葛藤を抱いている間に、マルが女子トイレに入って行ってしまった。
いや、まあ確かに子供なら見つかっても軽く叱責されるだけで済むか。
俺は静止する手を下ろして、他に利用者が来ないか見張ることにした。
『お姉ちゃーん、入ってるー?』
『中に誰もいませんよー』
『そっかー、ありがとうお姉ちゃん』
とことことトイレから出てきたマルはにかっと笑いながら女子トイレを指さす。
「お姉ちゃん中にいるってさ。どうする? 鬼のお兄ちゃんが見つけないとダメなんだよね」
「あー、そうだったな。しゃあない、マルちょっと誰か来ないか見張っててくれ」
俺は見張りをマルに託すと女子トイレに侵入した。
使われている個室は一個だけで、他に利用客はいない。
さっさと見つけて連れ戻そう。
「おい、そこにいるのは分かってる。とっとと出てこいゲームは終わりだ」
「はぇ!? ムクロさんなんでここにいるんですか? 女子トイレですよここ」
「んなもん、お前がさっさと出てこないからだろうが」
ガチャガチャと扉を開けようとしたが当たり前のように鍵がしまっていた。
「えっ!? 何してるんですか? 待ってください入ってこないで下さい」
「往生際が悪いぞ、お前は既に包囲されているんだからな」
詰みを告げるが、ナニィは出てくる気配を見せない。
しょうがないこれだけはやりたくなかったのだが。
「とう!」
俺は勢いをつけて女子トイレの仕切りを手がかりに懸垂の要領でよじ登った。
首だけ上に出して見つけた宣言すれば完全勝利だ。
そうして個室を覗いて、俺は固まった。
「はぇ!?」
そこには便座に腰掛けて赤面しながら俺を見上げるナニィが居た。
そう、そこまではいい。ナニィがここに隠れているのは予想通りだったのだから。
問題は、ナニィがパンツを脱いでいる状態だったことだ。
純白の可愛らしい下着が足元まで落ちている。
「あー、そのなんだ、正直……すまなかったと思っている」
いや、まさか用足しの最中だったと思わないじゃん?
普通に隠れてるだけだと思うじゃん?
そう言ってみればこれは不慮の事故、ここはトイレの水にでも流して穏便に。
内心そう弁明していると俺の顔面にナニィが投擲したトイレの消臭剤が直撃した。
「あいたっ!?」
ゴスっという鈍い衝撃に気を取られて俺は手を滑らせそのまま床に尻もちを着く。
痛みで尻を擦りながら立ち上がると、個室からジャーと水が流れる音が聞こえた。
きぃと古くなった立て付けの扉が軋みながら開く。
その開かれた扉の中には、満面の笑みを浮かべたナニィが立っていた。
「ムクロさん、知っていますか?」
きゅぃいんと白い光がナニィの右拳を包んでいる。
その純白の光が、今は何故か死神の鎌のように禍々しく思えた。
「よし、少し落ち着こう。話せばわかりあえる」
ナニィは俺の言葉に耳もかさずにじりじりと歩み寄る。
その様はまるで終末を告げる天使のように神々しく、空恐ろしい。
「私の魔法、忘却せし記憶の泉は私の手を覆う魔力光を触媒に相手の記憶へ干渉する魔法なんです」
だから、こんな使い方もできるんですよ?
笑顔のまま出荷される豚を見る目つきで俺を見据え、右手を大きく振りかぶった。
『忘れろ忘れろパンチ!!』
んあああというやたら間の抜けた掛け声とともに拳が打ち出される。
そのまっすぐに引き絞られた一撃は綺麗に俺の頬を捉えて突き刺さった。
効果:俺の目の前が、まっくらになった。
「病院の外に出ちゃったとか?」
かくれんぼが始まってしばらく経った。
マルと一緒に人の多い病院を、隠れているナニィを探してあちこち歩き回る。
時折、すれ違うナースさんや患者さんに白髪の少女の情報を求めるが、答えは見てないの一点張りだった。
「いや、病院の外はルール違反って最初に言い含めたし、決められたルールを一方的に破るタイプじゃないだろあいつは」
言動、行動ともに結果的にやらかすことはあっても悪意をもって行動するような奴じゃないと短い付き合いではあるが確信している。
「でも、あんな目立つ髪の毛なのに誰も見てないっておかしくない?」
口を曲げながら、マルはそうぼやく。
そんな呟きに俺は首肯した。
人目を惹く容姿、反して誰にも見られない状況か。
「もしかして移動しなかったのか?」
そもそも移動しないなら誰かに見られることはない。
「ロビーから動いてないって話? でも、ロビーはもう探したし他に隠れる場所なんてなかったと思うけど?」
ロビーは診察待ちの患者さんがいる関係で病院内では一番人口密度が高い場所だ。
隠れる場所にも乏しいし、とても隠れきれるとは思えない、だが。
「一ヵ所だけまだ探してない場所があるぞ」
俺はまさかと思って未だ探していなかった場所を指差した。
ロビー近くにあるが死角になっていてロビーからは見えない。
かつ、人通りが少なく鍵のかかる扉があって立て籠もることができる場所。
そこには、赤の人型が描かれた絵が描かれている。
その名も、女子トイレ。
女性である者のみが入れる資格を持つ聖域だ。
「なるほどねー、確かに女子トイレなら男のお兄ちゃんには見つけられないね」
「ああ、ここしかない。ここしかないはずなんだが」
本能がその事実を拒否しようとする。
だって、お姫様なんだぜ?
お姫様が選んだ潜伏先が厠なんだぜ?
「流石お姫様、汚い! いろんな意味で、汚い!」
俺氏ドン引きである。
今なら少女漫画に出てくる白目ポーズだってきっと出来るだろう。
「じゃあ、僕ちょっと中見てくるね」
「は? ちょ、おま」
そんな葛藤を抱いている間に、マルが女子トイレに入って行ってしまった。
いや、まあ確かに子供なら見つかっても軽く叱責されるだけで済むか。
俺は静止する手を下ろして、他に利用者が来ないか見張ることにした。
『お姉ちゃーん、入ってるー?』
『中に誰もいませんよー』
『そっかー、ありがとうお姉ちゃん』
とことことトイレから出てきたマルはにかっと笑いながら女子トイレを指さす。
「お姉ちゃん中にいるってさ。どうする? 鬼のお兄ちゃんが見つけないとダメなんだよね」
「あー、そうだったな。しゃあない、マルちょっと誰か来ないか見張っててくれ」
俺は見張りをマルに託すと女子トイレに侵入した。
使われている個室は一個だけで、他に利用客はいない。
さっさと見つけて連れ戻そう。
「おい、そこにいるのは分かってる。とっとと出てこいゲームは終わりだ」
「はぇ!? ムクロさんなんでここにいるんですか? 女子トイレですよここ」
「んなもん、お前がさっさと出てこないからだろうが」
ガチャガチャと扉を開けようとしたが当たり前のように鍵がしまっていた。
「えっ!? 何してるんですか? 待ってください入ってこないで下さい」
「往生際が悪いぞ、お前は既に包囲されているんだからな」
詰みを告げるが、ナニィは出てくる気配を見せない。
しょうがないこれだけはやりたくなかったのだが。
「とう!」
俺は勢いをつけて女子トイレの仕切りを手がかりに懸垂の要領でよじ登った。
首だけ上に出して見つけた宣言すれば完全勝利だ。
そうして個室を覗いて、俺は固まった。
「はぇ!?」
そこには便座に腰掛けて赤面しながら俺を見上げるナニィが居た。
そう、そこまではいい。ナニィがここに隠れているのは予想通りだったのだから。
問題は、ナニィがパンツを脱いでいる状態だったことだ。
純白の可愛らしい下着が足元まで落ちている。
「あー、そのなんだ、正直……すまなかったと思っている」
いや、まさか用足しの最中だったと思わないじゃん?
普通に隠れてるだけだと思うじゃん?
そう言ってみればこれは不慮の事故、ここはトイレの水にでも流して穏便に。
内心そう弁明していると俺の顔面にナニィが投擲したトイレの消臭剤が直撃した。
「あいたっ!?」
ゴスっという鈍い衝撃に気を取られて俺は手を滑らせそのまま床に尻もちを着く。
痛みで尻を擦りながら立ち上がると、個室からジャーと水が流れる音が聞こえた。
きぃと古くなった立て付けの扉が軋みながら開く。
その開かれた扉の中には、満面の笑みを浮かべたナニィが立っていた。
「ムクロさん、知っていますか?」
きゅぃいんと白い光がナニィの右拳を包んでいる。
その純白の光が、今は何故か死神の鎌のように禍々しく思えた。
「よし、少し落ち着こう。話せばわかりあえる」
ナニィは俺の言葉に耳もかさずにじりじりと歩み寄る。
その様はまるで終末を告げる天使のように神々しく、空恐ろしい。
「私の魔法、忘却せし記憶の泉は私の手を覆う魔力光を触媒に相手の記憶へ干渉する魔法なんです」
だから、こんな使い方もできるんですよ?
笑顔のまま出荷される豚を見る目つきで俺を見据え、右手を大きく振りかぶった。
『忘れろ忘れろパンチ!!』
んあああというやたら間の抜けた掛け声とともに拳が打ち出される。
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