プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す

笑顔

☆7話 子供は風の子、元気な子



「あー、頭が痛い」


 いきなりの大出費に頭を悩ませる。
 これは今月買うゲームは何本か我慢せにゃいかんな。


「あ、あのごめんなさい私のせいで」


「いや、ナニィのせいじゃないから」


 恐縮する少女にぎこちなく笑いながら諭す。


 人の悪い笑みを浮かべる小太郎が全ての元凶なのだ。


「それにしてもこの服、可愛いですね」






<a href="//20351.mitemin.net/i286786/" target="_blank"><img src="//20351.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i286786/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
イラスト:笑顔一番






 小太郎が見立てた桃色のワンピースを大変気に入った様子だ。
 るんるん気分で隣を歩く少女の表情は明るい。


「ああ、可愛いな」


 こんなに嬉しそうにしてくれるならお金出した甲斐もあった。


「ですよね。向こうだとなんか露出度高いの多くて、こういう落ち着いた服もいいなあって」


「いや、服がじゃなくて似合ってるなって」


「はぇ!?」


 ナニィはポンと頬を赤らめる。


「あ、あざっしゅ」


 指をもじもじさせながらぼそぼそと呟く。
 音量が小さすぎて何を言っているか聞き取れない。


「え? なんだって?」


「こ、これからどうするんですかって聞きましたぁ!!」


 わたわたしながら大声をあげるナニィに通行人の視線が刺さると、非難の目線に恐縮するように肩を狭くしていた。


「ああそれなんだが、ナニィ。今から病院に行ってみないか?」


「病院ですか?」


「ああ、ほら昨日飲み込んだものが、何か身体に悪影響を出してないか念のため検査してもらいたくてな」


「そういうことなら行っておくべきだと思います。正直どんな影響が出てるか未知数ですし」


 俺の提案にナニィは力強く首肯した。
 雑談を交えながら人混みを分けて街通りを進む。
 そんな雑踏の中でもナニィの容姿は人目を惹くのか、チラチラと視線を感じながら歩いた。






☆  ☆  ☆  ☆  ☆  






 星見ヶ原市立病院はこの辺りで一番大きな病院である。
 GWだけあってごった返しているようだ。
 白衣を着たナースさんが忙しなく働いていた。


「へー、ここが病院って場所なんですね」


「ここでは静かにしてろよ」


「言われなくてもわかってますよ」


「ならいいけどな。受付行ってくるからお前ちょっとそこ座ってろ」


 ナニィをソファーに座らせて受付に行ってくる。


「すみません、診察お願いしたいのですが」


「はいはい、ちょっと待っててね」


 受付に座っていたナースさんは紙とペンを取り出した。


「じゃあこれの記入項目を書いて、熱を計って持ってきてください」


「分かりました。今日、人多いですね」


「ええ、やっぱりGWだからね。普段お仕事で来れないお客様も多いわ。それに人も多ければそれだけトラブルも増えるから」


「お仕事お疲れ様です。待ち時間どれくらいになりますかね?」


「そうねぇ、もしかしたら2時間くらいかかっちゃうかもしれないわ」


「そうですか。ありがとうございました」


 俺は今朝から腹痛がすることを伝え、診察をお願いして席に戻ってくる。


「2時間かぁ、待ち時間の間なにするかな」


 流石にGWは待ち時間が凶悪だ。
 とりあえず何か雑誌でもと思い、席に戻る。


「ねえねえ? お姉ちゃんって外国の人? 綺麗な髪! お人形さんみたい」


「あわわ、放してください、髪を引っ張らないでください」


 そこには幼い子供におもちゃにされているナニィが居た。
 静かにしてろっていったのに……。


「おい、ちょっと目を離した隙に何してる?」


「ムクロさん、ちょうどいいところに!」


 助けてオーラを全身から発する少女にお構いなく、少年は弄って遊ぶのに夢中になっていた。


「それでお前は誰なんだ?」


「人に名前を聞く時は自分から名乗らないとだめだよって、お母さんに習わなかったの?」


「生憎だが、俺の母親は子供なんて放っておいてやりたい放題やってる奴なんでな……まともな教育どころか説教すらしてもらったことがねえよ」


今頃なにしてんだろうな? 定期的に生活資金の仕送りが入ってるから生きてのは間違いないのだが。


「まあまあムクロさん、子供が相手なんですからここは大人になってあげましょうよ」


 未だに子供に髪を引っ張られながらもナニィが懇願してくる。
 おまえ助けてほしいのかほしくないのかどっちなんだよ。
 嫌と言いつつ実は小さな子供に構ってもらえて嬉しいんだろ。


「はぁ……神無だよ。俺は神無骸……これでいいか?」


「骸って変な名前だね。ボク知ってるよ。そういうのキラキラネームって言うんでしょ?」


「放っておけ、そんでお前の名前はなんて言うんだよ?」


「知らない怪しい人に名前を教えちゃだめなんだよ、知らないの?」


 このガキはいけしゃあしゃあと。


「オッケー。じゃあお前のことは坊主と呼ばせてもらおう」


「はぁ? 坊主じゃねえしふざけんな!」


「そんなこと言われてもなぁ、名前知らないし坊主としか呼びようがないよなぁ?」


 意地悪く笑って見せると子供はぐぬぬと唸り声をあげた。


「ムクロさん、この子はマルちゃんって言うんですよ」


「お姉ちゃん!?」


「マルちゃん。この人は、スケベだし、暴力は振るうし、名前もへんてこだけどとりあえず怪しい人じゃないよ……多分」


「多分ってなんだよ、そこは言い切れよ」




 あと、名前に関してはお前にだけは言われたくありません。




「ふ~ん、でもお姉ちゃん付き合う男の人は考えた方がいいよ。男の人はみんな狼だからね? どうせこのお兄ちゃんもお姉ちゃんのおっぱいが目当てで近寄ってきたに違いないよ」


「はぇ? ムクロさん、私の身体が目当てだったんですか? だからこんなに親切に」


「ちげえよ。お前も真に受けるんじゃねえ!」


 ひどい、これが噂の逆セクハラか。
 世の理不尽さに涙すると不意にマルが意地悪く笑みを浮かべた。


「じゃあ嘘か本当か試してみよっか」


 そういってナニィの背後に回ると、何を考えているのか突如ナニィの胸を揉み始めた。


「うにゃあ!? ちょ、な、なにするんですか?」


「むふっ、こうすればお兄ちゃんが狼さんかどうか分かるでしょ」


「やめ、やめぇえええ!?」


「ここか? ここがええんか? ん?」


「いい加減にしろ、エロ坊主!」


 調子に乗ってエスカレートしていくマルの頭に、拳骨を落とした。


「いってーな。何すんだよ?」


「お母さんに人の嫌がることはしてはいけませんって習わなかったのか?」


「むぅ。ちゃんと、習った」


「じゃあ次に何をすればいいかも、分かるな?」


「うん。ごめんなさい、お姉ちゃん」


 しゅんと肩を落としてマルはナニィに頭を下げる。
 思っていたよりもすんなり謝ったおかげか、ナニィから発せられる怒りもすぐに和らいだ。


「あうう、ここで怒ったら私が悪者みたいじゃないですか。許します、許しますよ」


「ほんと!? じゃあもう一回揉ませてもらっていい?」


「許すってそういう意味じゃないですからね!?」


 訂正、謝罪する気はあっても反省する気はあまりないらしい。


「それでマル、見たところ怪我をしているわけでも体調が悪いわけでもなさそうだがお前はどうしてここにいるんだ?」


 元気有り余った健康体そのものに見える。
 短く切った茶髪からはわんぱく小僧といった表現が似合った。


「ボクのお母さん、この病院に入院してるからそのお見舞い。でもお医者さんがまだしばらくは安静にしてたほうがいいんだってさ」


 遊べなくて寂しいけど仕方ないよねと、マルは肩を落としていた。


「うう、お母さんを思ってなんて健気な……お姉ちゃんで良かったらいくらでも遊んであげるからね?」


「は? ちょ、おまっ」


「ほんと? じゃあね、マルかくれんぼがいい!」


「いよーしっ! かくれんぼだね、かくれんぼかくれんぼ……ムクロさんかくれんぼって何ですか?」


「分からないくせにノリいいよなお前」


「だって、遊んで少しでも気が紛れるなら私は嬉しいって思います。ダメですか?」


「駄目ってことはねえが、いいのかよ。 こんな道草喰ってて、姉さんと妹を探さなくていいのか?」


「どーせ手掛かりもなーんもありませんしね。考えるだけ無駄ですよ、それよりも一緒に遊びましょうよ、ね?」


「ったく、しょうがねえな。言っとくが俺はかくれんぼにはうるさいぞ? その昔あまりにも隠れるのが上手いもんだから存在を忘れ去られたことさえあるぐらいだからな」


「それ、言い難いんですけどハブられてませんか?」


「お前に分かるか?いつ見つけてもらえるかなとワクワクしながら茂みに潜む気持ちが? あまりに誰も探しに来ないからいつのまにかこっちが逆に探すハメになってて、友達を見つけた時に誰も俺のことなんて気にせずTVゲームに没頭していたあの時の気持ちを」


「あはは、そもそも友達なんて一人もいなかった私にそんな気持ちが理解できる訳ないじゃないですか? 何言ってるんですかもう、ぶっ殺しますよ?」


 背中に黒いオーラを発しながら笑みを浮かべるが、目が笑っていなかった。


「分かった!俺が悪かった。鬼は俺がやるからお前はマルと一緒に隠れてろ。ルールは簡単。今から1時間、鬼である俺に見つからないこと。ただし、病院の敷地内から出ないこと後はしゃぎすぎて患者さんに迷惑かけないようにな」


「はい了解しました! ってあれ? マルちゃんはどこ行ったんですか?」


「もう隠れる場所探しに行っちまったよ」


 わーいと走り去っていった方向を見ながら指差した。
 しかし、台風みたいな奴だな。



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