宝石は欲望に煌めく ~素寒貧探偵の拾ったダイヤモンド~
第4話 自尊心と空腹、札束と未練
氷室正義、探偵やめるってよ。
いやいや、いやいやいやいや。
巻き込まれただけで、危うく死にかけたけど。
甦死レイズデッドとか言う化け物に出会って、だけど。
それは紛れもなく……繋がっているんだ。先輩の依頼に。
「一千万円!」
叫んでいた。これは、先輩が紹介してくれた今回の依頼の成功報酬の金額だ。
「は? ……ああ、そうか」
のどかさんは、何もなかったはずの場所から突然……紙束をまとめて出した。
え? 何……手品か何かかな?
「本来、私がここまで面倒を見てやる義理もないのだが……」
これだけあれば……十分か? サンビャクマンだ。
何か、遠くから聞いたこともない単語が飛び出した。
って、300万円? ちょっと待って。……財布に十円玉しか入ってなくて。
もやしと豆腐と玉ねぎばかり食べてきた財布事情から突然の大金?
「お前が本来、その依頼とやらをこなせた場合に手にすることが出来ただろう金額に少し色を付けた。……サンビャクマン。それだけあれば、学生時代の奨学金の返済と、滞納している家賃と、何より質のいい食事がとれるはずだ。うまいものでも食って……それで、この件を全部忘れるべきだ」
一方的に告げられた。……この件から手を引いて、普通の生活を送れ。
彼女は、そう言っている。
「こんな街で暮らす意味はない。それに、これ以上踏み込んでも何もいいことはないんだ。……どんな酷い目に遭ったのか、それだけは説明してやったが」
だけど、思うのと同時に声を張り上げていた。
「……ふざけるな」
彼女のすました顔には、全くもって驚きも何も生じていない。
「俺が何も出来ないことくらい、自分が一番よくわかってる。……だけど、だけど!」
肩をぽん、と二度も叩いてきて……彼女は諭すように告げた。
「そう。これ以上は……何もするな。知る必要もないんだ。お前は、探偵なんて名乗るクソの連中と比べて幾分マシだった。……だから、まだ引き返せる」
その言葉は、間違いなく気遣いだ。優しさとも言えるだろう。でも、余計なお世話だと思う。
ずっと、抱いてきた疑問を、ようやくここで口に出した。
「……何で、探偵を嫌うんですか」
「知ればわかる。だからこそ、知る必要がない……違うな。知らない方がいい……」
ぽん、とA4サイズくらいの書類をどこから出したのか……。彼女は机の上に置いた。
「甦死レイズデッドについてだ。お前は何故、あんなひどい目に遭ったのか。あいつ等は何者だったのか。それを分かりやすく記載したものをここに置いておく。いいか? 納得はしていないようだが……この件から手を引け。これ以上、この件に首を突っ込んでもお前はその大事な命を無為に落とす結果しか待っていない。二度目があっても、私は助けてやるつもりもない。この街を出て、第二の人生を探せ。……人生は長くあるべきだ。生き急ぐ理由なんてどこにもない」
そのまま、立ち上がり……踵を返そうとした彼女に対して。
考える前に体が勝手に動いていた。……だからなのか、彼女はそれを受け止めることさえできなかった。
心を読めたはずの彼女に、それはぶつかったのだ。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
普段なら、絶対にこんなことはしない。
物は大切に扱え、女性に手をあげるな。
ましてや、女性に物を投げつけるなんて……躾がなっていない。
だけど、我慢できなかった。確かに、何の力もなければ、取り柄もない。
自惚れとか、自己陶酔と表現されても構わないが……。
でも、忘れかけていたあの時の悔しさ。それと、後悔。
未練がましいし、大人になりきれていないとも思うけれど。
「そんなに簡単に忘れられるようなら、こんな街で探偵なんて名乗らない!」
叫んでいた。年甲斐もなく。学生ならまだしも、社会人にもなって、青春みたいな台詞。
先立つモノ=カネと言う誰が言い出したか分からないが。
生まれて初めて、お金を粗末に扱った。
札束をぶん投げる、なんてことをしでかしたのは生まれて初めてだ。
多分、最初にして最後の経験になるんじゃないだろうか。
「……お前が、何を背負っているかまでは知らないが……」
彼女は、物凄い形相で睨んできた。うわっ、怖い。
そう思っても、表情は怒りと虚勢を保とうとしていた。胸の内は見透かされていても、だ。
「その虚勢に免じて、もう何も言わないし。この金もお前には過ぎたものだろう」
でも、彼女の形相と言うより。
視線はそっちよりも……投げつけてぶつかって落ちたものの方に向いていた。
「……なかなか、できるものじゃない。プライドで腹は膨れないからな。珍しいよ、お前みたいなやつは」
彼女は、ぶつけられた札束を……拾った。どこから出したかも怪しい手品から出てきた代物だったが。
それを、どこかへしまう様子を……。
正直、滅茶苦茶未練がましい視線を注いでいたのを看破されていた。
「それと。視線は、口以上にモノを言うものだ。今日はこれでうまいものを食うといい……黙って受け取れ」
彼女は学問のススメで有名な人物の肖像画が入り銀行券を3枚ほど……事務所の床にひらひらと落とす。
札束を顔にぶつけたの、怒ってるだろうか? 収入として、300万のはずが3万円になりましたが。
「もう会うことはないと思うが、息災でな」
オンボロさを強調するように、ギギギと言う金切り声を上げながら。
ドアが開いて、そして閉じた。
ぽつんと事務所に残された一人の男がそこに立ち尽くすだけだった。
立ち尽くすだけなのも、なんだったので。
先ほど電話をくれやがった先輩に、文句の一つや二つも言いたいところでコールをする。
すると、ものの数秒にてその答えが返ってきた。
「お電話、ありがとうございます。この番号からはお繋ぎできません」
着信拒否かよ! 知らんかったわ!
と、こちらからの電話は無理らしいので、仕方なくあっちの電話を待つことにしよう。
「……で、何か用事でもあったの?」
「着信拒否って……」
「暇なアンタに付き合ってウチに何のメリットあるわけ」
水原のどかが事務所を立ち去ってから、隣の営業所から貰ったティッシュの束を返したり。
まあ、色々とやっていたら、時間は過ぎていた。そして、まあ。先輩から電話がまた来たわけで。
「依頼ですけど、進展はありました……水尾真琴たちに遭いましたけど、水尾真琴じゃなかったんです」
「……ふむふむ。なるほど。……で、日本語で話してくれる?」
「アンタは一応恩人だけど……一回直接会ってくれません? ブン殴りたいんで」
と、まあ……水原のどかから聞いた話。直接、この目で目の当たりにした甦死。
諸々を掻い摘んで話をしてみたら、褒めるなりけなすなり何かしら言うと思っていたけれど。
予想していたのとは少し違った反応が返ってきた。
「……なるほど、ね。やっと・・・、その辺のこと知ったわけだ」
「まるで、知ってたみたいな口振りだけど……」
「いや、そりゃね……知ってて当たり前じゃない? だって、ウチは情報屋・・・だし」
ごめんなさい。初めて知りました。……高等遊民ニートだと思っていました。
「でもね、アンタが言ってたことの中で初耳だったのは一つだけあった。誇ってもいいよ」
「……何のことです?」
「甦死についてだけど……顔無し、偽装の辺り。まあ、呼称は管轄って言うか、つるむ先によって言い回しがちょっと変わったり……みたいな程度のことは多少なりあったりはするけどさ。それ踏まえた上で初めて聞いた単語ね」
先輩が、本当に初めて感心したかのような口調で続けたのは、この一点だった。
「水原のどかだっけ? あの女の子から聞いたって言ってたけど、復活者リバイブって? 三段階目があるなんて初めて聞いたんだけど……」
「いや、確かに言ってましたし。一応その甦死に関する資料。レジュメって言うか、レポートって言うか。A4の普通紙に文字打ち込んだ簡単な書類くれました。実物をそっちに送ってもいいですけど……」
「んー、いや。別にいいかな。まあ、そこは大して重要なそれでもないし。気が向いたらちょっと詳しく踏み込んでみていいけど、多分わかるから」
……あ、そういえば。と、思い出した。
「先輩、そういえば! 見てた……って、まるでその場で見ていたみたいな言い草で」
「うん、見てたよ。知らなかったの? 後でって……そういや言ったかな。教えてあげる」
先輩は言った。
「アンタのマグホにプリインストールされてる、カメラジャッカーってアプリあるんだけど。……それと同じ機能、こっちでも当然使えるから。……全世界、スマホとか、監視カメラとか、ドライブレコーダーとか。ネット接続されてる端末の映像データなら、リアルタイムで追えるし。少しの間なら保存されていなかった場合のログも追える。音の方も、拾おうと思えば拾えるけど映像メインかな……」
「えっと……犯罪では?」
「探偵のくせに、盗聴も盗撮もまったくしないで生きていくつもりなら……流石に図々しいって思わない? アンタの住んでる街で一番需要のあるもんでもないけど。浮気調査や素行調査で証拠集めるなら綺麗事ばっかりで全部済ませるわけ? 例えば、浮気性の夫が今後一切浮気をしません。気の迷いでした、これからは妻一筋です。もう安心してください。……妻が、その言葉だけで言って信じるつもりになると思う?」
「……ぐうの音も出ないですね」
この街での探偵は、興信所みたいに浮気調査みたいな仕事は少ない。
なくもないけど、まあ……一番は行方不明者や連絡が途切れた知人の捜索だ。
「先輩。……この街で行方不明者が多いのって……もしかして」
「馬鹿じゃないの? アンタ、ここまで自分で情報集めて、今更そんな段階のことに自信持てないわけ?」
これは、正直。……さっき、自分が身をもって体験した。
甦死に襲われたのと同じくらい衝撃を受けた。
「アンタのいる街で行方不明者がやたら多いのは、甦死に一般人食われてるからに決まってるでしょ」
先輩は呆れたような口調で、そう告げて。電話を切った……。
この街を出て、第二の人生を探せ。
余計なお世話だ、と突き返したのは浅慮だったのだろうか。
だけど……それでも。知りたかった。
水尾真琴を追うことで……何故あの子が泣きながら全てを拒絶していたのかを。
ちなみに、マグホにβ版カメラジャッカーってアプリが入っていたけれど。
有料アプリらしく、10分2万円、1時間10万円と言う利用料金の案内を見てそっ閉じした。
しかしようやく長い一日は、終わろうとしていたと。その時までは思っていたけれど。
この、全ての始まりの一日の、ある意味本当の始まりは……これからなのだと言うことに。
まだ、気付いていなかった。
夕方になった頃合い。事務所のポストに郵便物が届いた。
茶封筒で、宛先は氷室探偵事務所。コピー機の案内も、電話回線の案内も、教材、商材諸々。
興味もなければ需要もなさげな電話営業の類すら、一切来た覚えがなかったこの事務所に、だ。
「水尾真琴のことを知りたければ 事務所裏手にある 宝飾店かんざきに 午後六時に来るべし」
宝飾店かんざきは、二週間前くらいに……販売店移転のためだかでどこかへ行った覚えがある。
そんな場所に、夕方を指定して……。
あと、この手紙の作り方面白いな。……見たことがある。
テレビドラマとかでもよく見る手法。新聞見出しの文字の切り抜きで文章作ったやつ。
誘拐の身代金とか、脅迫状とかで使われるやつ。差出人の筆跡誤魔化すための手段のそれだった。
いやいや、いやいやいやいや。
巻き込まれただけで、危うく死にかけたけど。
甦死レイズデッドとか言う化け物に出会って、だけど。
それは紛れもなく……繋がっているんだ。先輩の依頼に。
「一千万円!」
叫んでいた。これは、先輩が紹介してくれた今回の依頼の成功報酬の金額だ。
「は? ……ああ、そうか」
のどかさんは、何もなかったはずの場所から突然……紙束をまとめて出した。
え? 何……手品か何かかな?
「本来、私がここまで面倒を見てやる義理もないのだが……」
これだけあれば……十分か? サンビャクマンだ。
何か、遠くから聞いたこともない単語が飛び出した。
って、300万円? ちょっと待って。……財布に十円玉しか入ってなくて。
もやしと豆腐と玉ねぎばかり食べてきた財布事情から突然の大金?
「お前が本来、その依頼とやらをこなせた場合に手にすることが出来ただろう金額に少し色を付けた。……サンビャクマン。それだけあれば、学生時代の奨学金の返済と、滞納している家賃と、何より質のいい食事がとれるはずだ。うまいものでも食って……それで、この件を全部忘れるべきだ」
一方的に告げられた。……この件から手を引いて、普通の生活を送れ。
彼女は、そう言っている。
「こんな街で暮らす意味はない。それに、これ以上踏み込んでも何もいいことはないんだ。……どんな酷い目に遭ったのか、それだけは説明してやったが」
だけど、思うのと同時に声を張り上げていた。
「……ふざけるな」
彼女のすました顔には、全くもって驚きも何も生じていない。
「俺が何も出来ないことくらい、自分が一番よくわかってる。……だけど、だけど!」
肩をぽん、と二度も叩いてきて……彼女は諭すように告げた。
「そう。これ以上は……何もするな。知る必要もないんだ。お前は、探偵なんて名乗るクソの連中と比べて幾分マシだった。……だから、まだ引き返せる」
その言葉は、間違いなく気遣いだ。優しさとも言えるだろう。でも、余計なお世話だと思う。
ずっと、抱いてきた疑問を、ようやくここで口に出した。
「……何で、探偵を嫌うんですか」
「知ればわかる。だからこそ、知る必要がない……違うな。知らない方がいい……」
ぽん、とA4サイズくらいの書類をどこから出したのか……。彼女は机の上に置いた。
「甦死レイズデッドについてだ。お前は何故、あんなひどい目に遭ったのか。あいつ等は何者だったのか。それを分かりやすく記載したものをここに置いておく。いいか? 納得はしていないようだが……この件から手を引け。これ以上、この件に首を突っ込んでもお前はその大事な命を無為に落とす結果しか待っていない。二度目があっても、私は助けてやるつもりもない。この街を出て、第二の人生を探せ。……人生は長くあるべきだ。生き急ぐ理由なんてどこにもない」
そのまま、立ち上がり……踵を返そうとした彼女に対して。
考える前に体が勝手に動いていた。……だからなのか、彼女はそれを受け止めることさえできなかった。
心を読めたはずの彼女に、それはぶつかったのだ。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
普段なら、絶対にこんなことはしない。
物は大切に扱え、女性に手をあげるな。
ましてや、女性に物を投げつけるなんて……躾がなっていない。
だけど、我慢できなかった。確かに、何の力もなければ、取り柄もない。
自惚れとか、自己陶酔と表現されても構わないが……。
でも、忘れかけていたあの時の悔しさ。それと、後悔。
未練がましいし、大人になりきれていないとも思うけれど。
「そんなに簡単に忘れられるようなら、こんな街で探偵なんて名乗らない!」
叫んでいた。年甲斐もなく。学生ならまだしも、社会人にもなって、青春みたいな台詞。
先立つモノ=カネと言う誰が言い出したか分からないが。
生まれて初めて、お金を粗末に扱った。
札束をぶん投げる、なんてことをしでかしたのは生まれて初めてだ。
多分、最初にして最後の経験になるんじゃないだろうか。
「……お前が、何を背負っているかまでは知らないが……」
彼女は、物凄い形相で睨んできた。うわっ、怖い。
そう思っても、表情は怒りと虚勢を保とうとしていた。胸の内は見透かされていても、だ。
「その虚勢に免じて、もう何も言わないし。この金もお前には過ぎたものだろう」
でも、彼女の形相と言うより。
視線はそっちよりも……投げつけてぶつかって落ちたものの方に向いていた。
「……なかなか、できるものじゃない。プライドで腹は膨れないからな。珍しいよ、お前みたいなやつは」
彼女は、ぶつけられた札束を……拾った。どこから出したかも怪しい手品から出てきた代物だったが。
それを、どこかへしまう様子を……。
正直、滅茶苦茶未練がましい視線を注いでいたのを看破されていた。
「それと。視線は、口以上にモノを言うものだ。今日はこれでうまいものを食うといい……黙って受け取れ」
彼女は学問のススメで有名な人物の肖像画が入り銀行券を3枚ほど……事務所の床にひらひらと落とす。
札束を顔にぶつけたの、怒ってるだろうか? 収入として、300万のはずが3万円になりましたが。
「もう会うことはないと思うが、息災でな」
オンボロさを強調するように、ギギギと言う金切り声を上げながら。
ドアが開いて、そして閉じた。
ぽつんと事務所に残された一人の男がそこに立ち尽くすだけだった。
立ち尽くすだけなのも、なんだったので。
先ほど電話をくれやがった先輩に、文句の一つや二つも言いたいところでコールをする。
すると、ものの数秒にてその答えが返ってきた。
「お電話、ありがとうございます。この番号からはお繋ぎできません」
着信拒否かよ! 知らんかったわ!
と、こちらからの電話は無理らしいので、仕方なくあっちの電話を待つことにしよう。
「……で、何か用事でもあったの?」
「着信拒否って……」
「暇なアンタに付き合ってウチに何のメリットあるわけ」
水原のどかが事務所を立ち去ってから、隣の営業所から貰ったティッシュの束を返したり。
まあ、色々とやっていたら、時間は過ぎていた。そして、まあ。先輩から電話がまた来たわけで。
「依頼ですけど、進展はありました……水尾真琴たちに遭いましたけど、水尾真琴じゃなかったんです」
「……ふむふむ。なるほど。……で、日本語で話してくれる?」
「アンタは一応恩人だけど……一回直接会ってくれません? ブン殴りたいんで」
と、まあ……水原のどかから聞いた話。直接、この目で目の当たりにした甦死。
諸々を掻い摘んで話をしてみたら、褒めるなりけなすなり何かしら言うと思っていたけれど。
予想していたのとは少し違った反応が返ってきた。
「……なるほど、ね。やっと・・・、その辺のこと知ったわけだ」
「まるで、知ってたみたいな口振りだけど……」
「いや、そりゃね……知ってて当たり前じゃない? だって、ウチは情報屋・・・だし」
ごめんなさい。初めて知りました。……高等遊民ニートだと思っていました。
「でもね、アンタが言ってたことの中で初耳だったのは一つだけあった。誇ってもいいよ」
「……何のことです?」
「甦死についてだけど……顔無し、偽装の辺り。まあ、呼称は管轄って言うか、つるむ先によって言い回しがちょっと変わったり……みたいな程度のことは多少なりあったりはするけどさ。それ踏まえた上で初めて聞いた単語ね」
先輩が、本当に初めて感心したかのような口調で続けたのは、この一点だった。
「水原のどかだっけ? あの女の子から聞いたって言ってたけど、復活者リバイブって? 三段階目があるなんて初めて聞いたんだけど……」
「いや、確かに言ってましたし。一応その甦死に関する資料。レジュメって言うか、レポートって言うか。A4の普通紙に文字打ち込んだ簡単な書類くれました。実物をそっちに送ってもいいですけど……」
「んー、いや。別にいいかな。まあ、そこは大して重要なそれでもないし。気が向いたらちょっと詳しく踏み込んでみていいけど、多分わかるから」
……あ、そういえば。と、思い出した。
「先輩、そういえば! 見てた……って、まるでその場で見ていたみたいな言い草で」
「うん、見てたよ。知らなかったの? 後でって……そういや言ったかな。教えてあげる」
先輩は言った。
「アンタのマグホにプリインストールされてる、カメラジャッカーってアプリあるんだけど。……それと同じ機能、こっちでも当然使えるから。……全世界、スマホとか、監視カメラとか、ドライブレコーダーとか。ネット接続されてる端末の映像データなら、リアルタイムで追えるし。少しの間なら保存されていなかった場合のログも追える。音の方も、拾おうと思えば拾えるけど映像メインかな……」
「えっと……犯罪では?」
「探偵のくせに、盗聴も盗撮もまったくしないで生きていくつもりなら……流石に図々しいって思わない? アンタの住んでる街で一番需要のあるもんでもないけど。浮気調査や素行調査で証拠集めるなら綺麗事ばっかりで全部済ませるわけ? 例えば、浮気性の夫が今後一切浮気をしません。気の迷いでした、これからは妻一筋です。もう安心してください。……妻が、その言葉だけで言って信じるつもりになると思う?」
「……ぐうの音も出ないですね」
この街での探偵は、興信所みたいに浮気調査みたいな仕事は少ない。
なくもないけど、まあ……一番は行方不明者や連絡が途切れた知人の捜索だ。
「先輩。……この街で行方不明者が多いのって……もしかして」
「馬鹿じゃないの? アンタ、ここまで自分で情報集めて、今更そんな段階のことに自信持てないわけ?」
これは、正直。……さっき、自分が身をもって体験した。
甦死に襲われたのと同じくらい衝撃を受けた。
「アンタのいる街で行方不明者がやたら多いのは、甦死に一般人食われてるからに決まってるでしょ」
先輩は呆れたような口調で、そう告げて。電話を切った……。
この街を出て、第二の人生を探せ。
余計なお世話だ、と突き返したのは浅慮だったのだろうか。
だけど……それでも。知りたかった。
水尾真琴を追うことで……何故あの子が泣きながら全てを拒絶していたのかを。
ちなみに、マグホにβ版カメラジャッカーってアプリが入っていたけれど。
有料アプリらしく、10分2万円、1時間10万円と言う利用料金の案内を見てそっ閉じした。
しかしようやく長い一日は、終わろうとしていたと。その時までは思っていたけれど。
この、全ての始まりの一日の、ある意味本当の始まりは……これからなのだと言うことに。
まだ、気付いていなかった。
夕方になった頃合い。事務所のポストに郵便物が届いた。
茶封筒で、宛先は氷室探偵事務所。コピー機の案内も、電話回線の案内も、教材、商材諸々。
興味もなければ需要もなさげな電話営業の類すら、一切来た覚えがなかったこの事務所に、だ。
「水尾真琴のことを知りたければ 事務所裏手にある 宝飾店かんざきに 午後六時に来るべし」
宝飾店かんざきは、二週間前くらいに……販売店移転のためだかでどこかへ行った覚えがある。
そんな場所に、夕方を指定して……。
あと、この手紙の作り方面白いな。……見たことがある。
テレビドラマとかでもよく見る手法。新聞見出しの文字の切り抜きで文章作ったやつ。
誘拐の身代金とか、脅迫状とかで使われるやつ。差出人の筆跡誤魔化すための手段のそれだった。
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