その日、僕は初めて自分を知りました。

椎名蒼

赤紙編⑫

春間先生はカップに入れたココアを僕と中谷の前にそっと置いた。カップの中を覗き込むと、暖かい湯気が僕の顔にかかる。
「コーヒーだと苦いでしょう?ココアは暖かいし、飲むと安心するでしょ?寝る前に飲むと効果があるのよ。」
春間先生はいつもの笑顔で僕たちにそういった。でも、内心穏やかな気持ちではないだろう。僕と中谷が少し熱いココアを口に含むと、春間先生は僕たちに話を切り出してきた。

「赤宮くん。木村くんのお見舞いに行ってくれたんだってね。入院されてから3日経ったけど、永田くんの件については先生が警察の人と話したわ。でも本人がひどく錯乱状態で、進展が全くないようなの。」

僕は暖かいマグカップをぎゅっと握り、ややうつむきながら春間先生の話を聞いていた。中谷も僕とほぼ同じ感じに聞いていてくれていたと思う。

「木村は本当に永田を殺したんですか…?」

僕は少し顔を上げて春間先生に問った。春間先生の顔からは僕らを諭す時のあの笑顔はもう完全に消えていた。
その表情は深刻そうにあるいは悲しさと不安が入れ混じったような顔…僕はそんな先生の顔を見るのは初めてだった。

先生はその曇った表情で「うん」と頭に手を当てて返答した。「木村くんの家の庭に埋まってたのは……その…」

「先生。教えてください。僕は何があったか知りたいんです。僕が木村の家に行った時も、病院にお見舞いに行った時も僕はあいつの話を全く聞いてやれなかった。あいつが何をしてどうなっていたのか知りたいんです。」


口ごもった先生に僕は懇願した。先生はそれを聞くと涙を流したようだった。僕は驚いてしまった。先生は震える手で口を押さえた。僕は戸惑いながらもその小さく震える手を握った。


「ごめんなさいね。二人とも。本当はこういうとき担任の私がもっとしっかりしていなきゃならないのに…」


「先生…」


僕たちははかける言葉がなかった。先生が泣き崩れている様子を必死に手を握って背中をさすり、慰めることしかできなかった。



どれほどの時が過ぎただろうか。


春間先生は顔を上げて僕たちの顔を見た。「ごめん」と彼女は涙を拭い顔立ちをシャキッと変えた。


「私が聞いた事、全部言うね」

春間先生はそう僕たちに言った。






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