その日、僕は初めて自分を知りました。

椎名蒼

赤紙編⑩

木村が振り下ろしたナイフは僕の頬をかすめた。一瞬、なにが起こったかわからなかった。しかし、目の前を見ると、木村が倒れていた。そこには木村のおばさんが立っていた。


床にナイフが落ち、ガシャンと大きく音を立てた。




「ゔぁぁぁぁぁあああああ!!」木村は言葉にもならない声で叫んだ。その目は血走っていた。おばさんはそんな木村を見てから平手打ちした。歪んだ瞳から涙がこぼれ落ちていた。


「どうしたっていうのよ!一体なんだっていうのよ!」


「うるせぇよ....うるせぇよ!!俺の気持ちもわからないで!説教じみたことしてんじゃねーよ!!」


木村はそういうとその場に座り込んだ。おばさんは泣き崩れた。僕はなにもできなかった。あの日、あの入学式の日僕は木村を助けてやることができなかった。だから、こんなことになったんだ。僕が全部いけないんだ。僕があの時大内を止めていられたら......


『じゃあお前は木村を救うために自分は犠牲になれたとでもいうのか?』


誰?


それは、木村を救えなかったと嘆く僕に語りかけるもう1人の僕だった。そいつは僕をあざ笑うかのように見下ろして僕にそう問ってきたのだ。


『お前がもしあの時大内を止めていたらどうなっていたのか......大体予想がつくはずじゃないか?お前が赤紙の餌食になり、お前自信が苦しんでいたんだよ?』


「......」


『お前はそれを恐れていたんだろう?だからあの時大内に手も足も出なかった。友達を救えなかった』


「やめろ!聞きたくない!」


『お前が思っていることなんて偽善にしか過ぎない。いざそうなったら逃げることしかできないくせに』


「違う!違う!!」






木村......




俺は............










校庭の桜はとっくに散っていた。空席が続いた木村がやっと登校してきたのは僕が木村の家へ行った3日後だった。足がおぼつかず、顔色が非常に悪かった。


「おはよう」


僕は木村にその言葉をかけてやることができなかった。木村は席に着くと、大内が現れた。久しぶりに投稿してきた木村をニヤリと見つめると、ずかずかと近寄って行った。


「木村くん、おはよう。」


「....おはよう....」


「元気がないね?せっかく赤紙から逃れられたのにね。」


「......」


「でもねぇ、永田が行方不明になっちゃってさ、困ったことになっちゃったよ。見つかるまで暇で暇で仕方ないんだよ」


「え?」


木村はゆっくりと引き出しを開いた。教科書やプリントで埋め尽くされたその中には真っ赤に染まった紙切れがポツンと入っていた。

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