その日、僕は初めて自分を知りました。
赤紙編⑦
母がベッドの側に立ち、仁王立している。木村は、ベッドの中に潜り、外に出ることを拒んだ。
「孝文!入学早々何をしているの!ずる休みするんじゃないの」
「......」
昨日は家に帰るのが遅くなった。今朝、頭とお腹が痛いと母に訴え、仮病を使い学校を休もうかと思ったが、それはあっけなくばれてしまっていた。
しかし、昨日帰りが遅くなってしまったのは、夜遊びしていたわけでも道草をくっていたわけでもない。しかし、昨日ほど、自分が最低な人間だとは思ったこともなかったと思う。
ああ、なんて僕はバカなことをしてしまったんだ......。
そう、昨日の放課後、木村は大内に捕まり、いつものように制裁を食らっていたのだ。大内は木村の前で小さいティッシュボックスくらいの箱を取り出して木村の方へそっと差し出してた。
「何これ?」
木村は恐る恐る聞いた。あのイカれた目つきで歪んだ笑みで大内は木村をにらんんでいたからである。足が震え、硬直し、今にも逃げ出したいくらいであった。
「こん中にさあ、何入ってると思う?」
「え?」
木村は大内を取り巻くクラスメイトを見て、箱を見てまた大内を見た。
「わからない。何が入っているの?」
震えた声で尋ねた。
「そんなに怖がるなよ。俺だって人情くらいあるんだよぉ?今日は君にチャンスをあげようと思ってさ」
「チャンス?」
「うん。この中には箱いっぱいに赤紙が入っているんだ。だけど、一枚だけ白い紙が入っている。それを見事に引き当てられたらお前はもう逃がしてやるよ!」
木村はその言葉を聞いた途端目が輝いた。もしここで白い紙を引き当てることができたら大内のいじめから逃れられる!
「やるの?やらんの?」
木村は「やるよ」と言い、箱の穴に手を伸ばした。
箱の中にはかなりの枚数の紙が入っていた。この中から一枚だけ白い紙を引き当てるなんて到底不可能に近かった。しかし、引き当てることしか、彼に希望の道は残されてはいなかった。
上の部分からストレートに引くか、敢えて埋もれた中から一枚大胆に引くか、奥の紙を手探りしながら引くか。大内の性格上、ただ箱の中に紙を適当に入れたのではない。必ず当たり紙を箱の中のどの辺に配置させておくか。つまりは大内が作為的に箱のどこかに配置した紙を引き当てなければならないこととなる。裏を読んで穴のすぐ下か。それとも無作為に紙を箱に入れたか。
「早くしないとタイムオーバー」
大内はそう囁いた。
「10…9…8…」
木村は心臓をばくばくさせながら鼻でヒューヒューと荒い息をしながら一枚の紙を摘んだ。
「7…6…5…4…」
そして、木村はその紙を引き当てた。
木村の手にした紙は赤でもなくグレーでもなく、綺麗な白色を帯びていた。
大内は一瞬キョトンとした後、笑った。そして大きく拍手した。
「いや、驚いたよ。お前本当に当てるなんて」
大内自身も木村が本当に白い紙を引き当てるとは考えてもなかったらしい。木村から白い紙を取ると、大内は「じゃ、逃がしたげる」と笑顔で囁いた。
木村はその場に崩れた。大内のいじめから逃れられたのだ。この約一週間続いたいじめから解放されたのだ!
崩れ落ちて喜びに涙する木村に大内は言った。
「じゃ、かわりに次の生贄指名して」
「えっ」
「聞こえないのかカス。次の生贄指名しやがれ。」
木村は大内にそう言われると、自分の斜め向かいにいた永田をじっと見つめた。永田は木村の視線に気づくとドキッとした顔でそれまでとは一変した顔色を露骨にあらわにした。
「や....やめろ....やめてくれぇ......木村....」
木村はこの苦しみが他人に行き渡るなら誰だってよかった。しかし、単に永田を指名したわけではない。小学校であんなに仲がよかったのに......中学に行ってもずっと親友だと誓ったのに、大内を前にして自分を見捨てた永田が許せなかった。憎かった。
そう、彼を指名する理由は......この指名を正当化できる理由はこれしかなかった。
「永田将暉」
大内は血走った目で永田を見た。汚らしくよだれを垂らし、身を震わせていた。
「永田か。お前弱虫だからいじめがいがあるな。木村ぁ、お前指名のセンスあるわぁ」
「や、やめてくれぇ......」
永田は大内に襟を掴まれるとそのままズルズルと力任せに引きづられていった。
「いやだぁぁぁああああ!!」
永田が虚しく騒いでいた。
「孝文!入学早々何をしているの!ずる休みするんじゃないの」
「......」
昨日は家に帰るのが遅くなった。今朝、頭とお腹が痛いと母に訴え、仮病を使い学校を休もうかと思ったが、それはあっけなくばれてしまっていた。
しかし、昨日帰りが遅くなってしまったのは、夜遊びしていたわけでも道草をくっていたわけでもない。しかし、昨日ほど、自分が最低な人間だとは思ったこともなかったと思う。
ああ、なんて僕はバカなことをしてしまったんだ......。
そう、昨日の放課後、木村は大内に捕まり、いつものように制裁を食らっていたのだ。大内は木村の前で小さいティッシュボックスくらいの箱を取り出して木村の方へそっと差し出してた。
「何これ?」
木村は恐る恐る聞いた。あのイカれた目つきで歪んだ笑みで大内は木村をにらんんでいたからである。足が震え、硬直し、今にも逃げ出したいくらいであった。
「こん中にさあ、何入ってると思う?」
「え?」
木村は大内を取り巻くクラスメイトを見て、箱を見てまた大内を見た。
「わからない。何が入っているの?」
震えた声で尋ねた。
「そんなに怖がるなよ。俺だって人情くらいあるんだよぉ?今日は君にチャンスをあげようと思ってさ」
「チャンス?」
「うん。この中には箱いっぱいに赤紙が入っているんだ。だけど、一枚だけ白い紙が入っている。それを見事に引き当てられたらお前はもう逃がしてやるよ!」
木村はその言葉を聞いた途端目が輝いた。もしここで白い紙を引き当てることができたら大内のいじめから逃れられる!
「やるの?やらんの?」
木村は「やるよ」と言い、箱の穴に手を伸ばした。
箱の中にはかなりの枚数の紙が入っていた。この中から一枚だけ白い紙を引き当てるなんて到底不可能に近かった。しかし、引き当てることしか、彼に希望の道は残されてはいなかった。
上の部分からストレートに引くか、敢えて埋もれた中から一枚大胆に引くか、奥の紙を手探りしながら引くか。大内の性格上、ただ箱の中に紙を適当に入れたのではない。必ず当たり紙を箱の中のどの辺に配置させておくか。つまりは大内が作為的に箱のどこかに配置した紙を引き当てなければならないこととなる。裏を読んで穴のすぐ下か。それとも無作為に紙を箱に入れたか。
「早くしないとタイムオーバー」
大内はそう囁いた。
「10…9…8…」
木村は心臓をばくばくさせながら鼻でヒューヒューと荒い息をしながら一枚の紙を摘んだ。
「7…6…5…4…」
そして、木村はその紙を引き当てた。
木村の手にした紙は赤でもなくグレーでもなく、綺麗な白色を帯びていた。
大内は一瞬キョトンとした後、笑った。そして大きく拍手した。
「いや、驚いたよ。お前本当に当てるなんて」
大内自身も木村が本当に白い紙を引き当てるとは考えてもなかったらしい。木村から白い紙を取ると、大内は「じゃ、逃がしたげる」と笑顔で囁いた。
木村はその場に崩れた。大内のいじめから逃れられたのだ。この約一週間続いたいじめから解放されたのだ!
崩れ落ちて喜びに涙する木村に大内は言った。
「じゃ、かわりに次の生贄指名して」
「えっ」
「聞こえないのかカス。次の生贄指名しやがれ。」
木村は大内にそう言われると、自分の斜め向かいにいた永田をじっと見つめた。永田は木村の視線に気づくとドキッとした顔でそれまでとは一変した顔色を露骨にあらわにした。
「や....やめろ....やめてくれぇ......木村....」
木村はこの苦しみが他人に行き渡るなら誰だってよかった。しかし、単に永田を指名したわけではない。小学校であんなに仲がよかったのに......中学に行ってもずっと親友だと誓ったのに、大内を前にして自分を見捨てた永田が許せなかった。憎かった。
そう、彼を指名する理由は......この指名を正当化できる理由はこれしかなかった。
「永田将暉」
大内は血走った目で永田を見た。汚らしくよだれを垂らし、身を震わせていた。
「永田か。お前弱虫だからいじめがいがあるな。木村ぁ、お前指名のセンスあるわぁ」
「や、やめてくれぇ......」
永田は大内に襟を掴まれるとそのままズルズルと力任せに引きづられていった。
「いやだぁぁぁああああ!!」
永田が虚しく騒いでいた。
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